日々のエッセイ

 11月はいつも足早に通り過ぎていく月ですが、今年は色づいた木の葉や、澄んだ空に目をとめて、深まりゆく秋を楽しみたいです。というのも、今年は暑すぎた夏から、いきなり寒くなり、あっという間に冬になってしまいそうだから。まだ厚いコートのいらない身軽なうちに、あちこち歩いてみたくなりますね。
 とはいえ、夏からの接触性皮膚炎をまだ引きずっている私は、顔に水以外のものをつけられないので、紫外線の少ない雨の日や夜間を狙って外へ出ていて、ポカポカの小春日和を満喫出来ていませんが。

      
 そんな雨の日、久しぶりに東横線に乗りました。コロナ禍で人込みを嫌って、車で出掛けることが多かったので、東横線は本当に何年ぶりかの乗車。こんなふうにラッピング・トレインになっているのですね。カラフルな装いのSDGsトレインで、車内の広告もすべて関連あるもの。SDGsの取り組みについて小さな子でもわかるように、可愛い絵や色を使い、絵本風に説明されています。今は、小学校でもSDGsを学ぶようなので、この電車に乗り込んだ子どもたちは、もっと詳しく知っていて、パパやママに教えてあげているかも?

       
 学芸大学駅を降りて、商店街のはずれを歩いていると、素敵な本屋さんが! 静かな場所にある、年季の入った建物をリノベーションしたお店です。シンプルな造りが良い感じ。商店街には、個性派のケーキ屋さんも雑貨屋さんも花屋さんもあるけれど、何と言っても”こだわりを感じる本屋さん”に出会うと嬉しくなります。BOOK AND SONSという店名の、古本屋さんのようです。

        
 デザインに関連した世界の本がいっぱい。装丁も美しい本ばかり。奥はギャラリーになっていて、階段を上がると二階も続きのギャラリー、三階ではセール本の販売をやっていました。

         
 豆本にはつい、目がいってしまいます。アジア圏の美術書も多くて、なかなか見つからなかった本も、ここでなら探せるかも。
          
 店内で売っていたインクのネーミングが可愛く、寒い雨の日でも気持ちがほっこり。茶色いインクの名前は、「とろり」。オムレツにナイフを入れた時の、とろり感からきている名前だとか。青いインクは晴天を思わせる「からり」。赤いインクには、好きな人を前にしたほっぺたのような「ぽっ」という名前がついています。私は「とろり」が欲しいなぁ。

 続いては、小さな小さな本屋さんの魅力もご紹介。浅草橋の人形屋さんで開かれていた展示を見に行った時に、こんな本屋さんを会場で見つけました。
           
 どれも、てのひらに乗るサイズの小さな本が集まった本棚です。北海道で活動なさっているキコキコ商會さんの豆本たち。可愛いイラストに彩られた物語が、各国語に訳されて並んでいました。大きな本屋さんに負けないくらい、”本の楽しさ”が詰まっていますね。

 本屋さんめぐりで刺激を受け、私も”秋の豆本”を創ってみました。タイトルは、そのものズバリで『Autumn』。
               
 どんなストーリーかというと・・・、秋の実りを探して、ケーキ作りに励む姉妹。一番上のお姉さんは、毎年、リンゴを集めてアップルパイを作り、村人にふるまって喜ばれています。
               
 二番目のお姉さんは、栗を拾って、モンブランを作っています。二人とも一生懸命。
               
 でも、今年から初めてケーキ作りに参加した末娘だけは、食べられないイチョウの葉を集めてばかり。「そんなものは材料にならないわよ」と、お姉さんたちに呆れられる末娘ですが、お構いなし。だって、末娘にはお姉さんたちとは違う目的があるからです。それは・・・。というようなお話です。お伽話って、末娘がいつも破天荒ですよね。
              
 出来た本は、文香の箱へ入れて、東欧のボタン(赤い樹木デザイン)も添えて、完成しました。夏の豆本、秋の豆本、と続けて作ったので、今度は冬の豆本を作ってみよう。アイディアを考えるのが楽しいです。

            
 さきほど、浅草橋の人形屋さんへ出掛けたと書きましたけれど、目的の展示は、こちらの『昭和レトロ』展。昭和時代に愛されていたポーズ人形やぬいぐるみがたくさん展示されている中、”昭和のリビング”を再現したコーナーがあって、若い女の子たちが「かっわいい❤」と写真を撮っていました。タックをたくさん寄せたデコラティブなクッション、色違いの物がかつて実家にもあったなぁ、と思い出しました。和室を改造した洋室。暖かいムードです。
            
 こちらは同じスペースに飾られていた昭和時代の人形の家。テレビや電話、オルガンなどの姿に、ノスタルジーを感じますね。

 夜が長くなっていく秋から冬。夜の散歩でふと見上げると、お月さまが綺麗に光っている日があります。お月さまって、じっと見ていると自分だけに光を注いでくれるような、なんだか一対一の関係に思えてきませんか? でも本当は、全世界の人たちが、たった一つの同じ月を見上げているのですよね。知らない国の知らない人たちがみんな、お月さまの優しい光に励まされたり慰められたりしているんだと思うと、不思議な気分になってきます。
               
 お月さまが語り掛けてくれるお話を、アンデルセンが書いています。この『絵のない絵本』はいろいろな出版社から、いろいろな形で本が出されていますが、私が持っているのはかなり昔の、サンリオギフト文庫のもの。味戸ケイコさんの挿絵が幻想的です。
                 
 お月さまが見た一夜一夜のお話が集まった本で、子どもの頃に好きだったのは、大切なお人形を木の上に放り投げられてしまった女の子の物語。枝に引っ掛かったままのお人形を夜の庭で見守り続ける女の子の心細さや口惜しさや、最後には納得(?)してしまう気持ちの揺れが、共感出来たのでしょう。
 お月さまはこの秋も、世界中でささやかな、でも子どもたちにとってはドラマティックな出来事をたくさん見続けているのでしょうね。

 今夜は、窓のカーテンを開けて寝ようかな? お月さまがよく見えるように。

  2022年11月
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