日々のエッセイ

 梅雨を通り越して、真夏が来たような7月です。いつもなら雨の風景を眺め「鬱陶しいなぁ。はやく夏が来ればいいのに」なんて思うけれど、そんなことを考える間もなく、ギラギラの陽射し。UV対策をしなくちゃと、帽子や日傘を用意しました。

         
 以前、愛育社から紙の本として出版された『あの子を探して』が、今度はディスカヴァー・トゥエンティワンの電子書籍になり、配信されています。アマゾンなどのサイトでは冒頭の物語「天井桟敷のあの席で」の試し読みが出来ますので、是非読んでみてください。八つの短編からなる物語集で、特に思い出深い作品は「藍色の夏」です。姪たちがまだ小学生だった頃、夏休みの自由研究のために、我が家の近くにあった藍染工房を訪ね、その時の印象をアレンジしました。実際にハンカチを染めさせてもらい、糊付けされたトンボ模様の真っ白な布が、藍染めの甕をくぐった瞬間、見事に色を変えていく様に感動したものです。夏らしい物語ですので、今の季節に読んで頂けるとぴったりかも。

          
 『静かなネグレクト』も、同じシリーズで電子化されます。紙の本のほうでは、写真家・金城真喜子さんの物語性あふれるコンストラクテッドフォトに表紙を飾って頂きました。上の写真が、その表紙です。隣に置いてある小さな古い冊子は、ジャン・バレットが描いたドイツ製の月めくりカレンダー。『静かなネグレクト』の中の、「気球に乗って」という物語に、結婚式の絵が出てくるのですが、そのイメージはこのカレンダーから生まれました。

           
 昔、すごく気に入って、カレンダーの年を過ぎても、大切にとってありました。ジャン・バレットの絵は、今ではほとんど見る機会がないのですが、影響を受けています。「気球に乗って」というタイトルそのままの、気球に乗った新郎新婦の絵も描かれていて、見ているだけでシュールな物語が浮かんできます。

 『静かなネグレクト』の中で、一番気に入っているのは「階段の果ての恋人」という短編です。というのも、そこに出てくる”いずみ町の祖父の家”というのは、実際に杉並の和泉町にあった祖父の、和洋折衷な感じの家がモデルだからです。二階に続く、トンネルのような内階段や、そこを開けるための鍵の印象も、子どもの頃におじいちゃんの家で感じた空気を描いています。中に出てくる”シンデレラごっこ”も、従妹たちと楽しんだ大好きな遊びでした。
 物語ってフィクションでも、どこかに”いつか見た風景”が混じるものですね。この本は特に。
 ご興味ある方は、読んでみてくださいね。

            
 こちらは豆本『展覧会の絵』です。表紙の着ぐるみネズミちゃんは、小野寺美樹さんの作品。ある展覧会の会場で、ネズミと名乗る男の子に出会った青年が、見果てぬ夢を思い出し・・・自分が何を望んでいたのかに気づく小さな物語です。てのひらに乗るサイズの本は、昨年の『ウエディング・リング』に続いて2冊目です。

       
 初夏はラベンダーの季節。二十代半ばの頃、友人と富良野のラベンダーを見に行ったなぁと思い出したのが去年のこと。またラベンダーを見たいと思ったのですが、去年は時期を逃して、見られませんでした。今年は是非、と近場の花畑を探しました。佐倉に有名なラベンダー畑があると聞き、行ってみるとーーー。北海道かと思ってしまうほど広大な場所で、薄紫の可憐な花たちを思う存分、眺めることが出来ました。ラベンダーの妖精たちが戯れるオブジェがメルヘンです。

            
 ラベンダーと一口に言っても、早咲きや遅咲き、丈の長いもの短いもの、いろいろな種類があるのですね。ほっそりしたフォルム、風にさやさや揺れる様子が涼し気です。

             
 ラベンダーの香りは、気持ちをリラックスさせて、睡眠を促すので、以前はよくアロマを買って、枕に一滴垂らしていましたっけ。ラベンダーの香りと聞くと、筒井康隆さんのSF小説『時をかける少女』を思い起こす人も多いでしょう。ドラマや映画、アニメにもなって、原作も読み継がれていますね。あれは「ラベンダーの香り」が重要なアイテムでした。

             
 花は盛りで、たくさんの蜂が集まってきていました。ラベンダーから採れるハチミツは希少で、のどごしにほんのり花の香りがするそうです。私は食べたことがないけれど。

              
 人気のラベンダーアイスは食べました。色がとっても爽やか。それほど香りは強くないけれど、確かにラベンダー。甘過ぎず、美味しかったです。この暑さで、見る間に溶けていくので、大急ぎで食べました。

               
 畑には、ラベンダーだけじゃなく、色とりどりの花が咲いて、色とりどりの蝶が飛び交い、自然が生み出す鮮やかなカラーを堪能しました。

                 
 家に帰ってからは、ラベンダーのハーブティーを飲んで、ひと息。今日はラベンダー色のブラウスを着て行って、何から何までラベンダー尽くしの一日になりました。

              
 夏のひととき、本の中だけでも、ひんやりした空気を味わいたいなと思い、読んだのが『魔女の帰郷』(melancolia storytelling)です。情熱的な赤い箱に入っていて、中を開けると翳った森と、その上に広がる蒼い空の表紙。なんとなくマグリットに通じる感覚。

              
 表紙と同じ写真が、中のページにもありました。佇む少女。普段は都会で”魔女”であることを隠して働き、たまの休日に故郷の森に帰ってきては、木々や花や水や小鳥たちと”生”を語らい、力を補充するのでしょうか。静謐で意思の強い詩が記されたページの後に、厚手のトレーシングペーパーに刷られた幻想的な写真が続きます。半透明の紙を透かして読む詩の数々が、涼風を呼びます。

             
 魔女の都会での仕事ぶりは、素晴らしく優秀なのでしょう。「魔法みたいだね」と言われ、その度に心の中で『それは私の努力なのに』と切なくなる・・・そういうことが書かれた詩が素敵だなと思いました。森の中の暗い部屋、暑さとは無縁の空間、すぐそばにいそうな風情の少女。夏の夜に彼女の暮らしを想像してみると、ひととき”こことは違う場所”に連れて行ってもらえるかもしれません。

                 
 最近気に入っているグッズは、この幼い子の靴をかたどった小物入れ。蔵前の籐製品を扱うお店で買って、パソコンの横に置き、USBなど小さな物を入れています。とても涼しげだし、便利です。大人のハイヒール・バージョンもあって、こちらは母にプレゼントしました。こんなふうに飾ってくれていました。

                  
 暑さに負けず、元気に楽しく過ごしましょう!

 2022年7月
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