日々のエッセイ

  急に気温が上がり、初夏らしい陽気になりました。屋外ではマスクをはずしてもOKらしいですが、マスク生活にすっかり慣れてしまい、外すと何かが足りないような感覚。慣れって、すごいものです。

              
 初夏への扉が開く季節は、花々も美しい季節でもあります。いつもと違う道を歩いていたら、鮮やかな色の花が満開で、近付いてみると、なんだかボトルブラシのような珍しい形。

                
 なんていう名前なんだろう?と、家に戻って調べました。「ブラシのような花」と検索したら、「ブラシノキ」と出てきました。見た目そのままの名前ですね。和名は『金宝樹』で、名前のとおり縁起の良い木とのことです。 気がつけば、町のいろいろなところに、この花が咲いているのを見掛け、わりとスタンダードな花なんだと知りました。

 ガーデニングに凝っている母や姉の影響で、私も草花や木に興味が出てきました。緑の濃い6月の木々、可憐な花たちを見ると、心が癒されます。植物に関する本も、たくさん読んでみたいです。

           
 小平に植物にまつわる本を集めた素敵な本屋さんがあると聞いて、お邪魔しました。上の写真がそのお店『草舟あんとす号』です。”あんとす”とは、ギリシャ語で”花”を意味し、小川町にあるから川につきものの舟が店名になっているとか。オーナーの宮岡さんは、庭師のキャリアをお持ちの、草花のプロフェッショナル。本棚に並んだ本は、来年の朝ドラとして注目を浴びる牧野富太郎関連本だったり、ブーケが飛び出す仕掛けの図鑑だったり。どの本もオーナーさんが選びぬいた一冊で、装丁も美しいアート本のような趣。植物にそれほど関心がない人でも「この本、家に飾りたい」と思える貴重な出会いがありそうです。


             
 私が訪れた時は、店内でフランスガムさんの展覧会をやっていました。フランスガムさんのロマンティックで小粋な絵や文が好きで、何冊も本を持っていますが、最初に我が家に届いたのは、上の写真の『ノルン』。月に恋するうさぎが転生を繰り返すお話です。 草舟あんとす号のロゴデザインも、フランスガムさんの手によるものです。

             
 店内に並んだ、花の精を描いたキュートな板絵。『賛美花』という展覧会タイトルが象徴するように、花たちを尊び愛する想いに満ちていました。アネモネや芍薬やポピーの妖精たちが店内にさざめいて、しばし日常を忘れてしまいそう。
             
 天井で揺れる切り絵も、フランスガムさんの作。風がなくても微かに揺れているのは、きっと妖精たちが遊んでいるから。そんなふうに思える店内でした。

              
 お店の外観も、絵本の中のお家のよう。お隣の花屋さんや焼き菓子屋さんとともに、メルヘンの世界を体現しています。

            
 メルヘンといえば、以前書いた大人向きメルヘン集2冊が、電子書籍として配信されることになりました。『あの子を探して』のほうは、もう販売中です。ディスカヴァー・トゥエンティワンのebook選書です。アマゾンなどのサイトで、試し読みが出来ます。 校正の際に初めてKindleを使ってみたら、「電子書籍ってわりと読み易いなぁ」と感じました。その日の目の疲れ方によって、文字の大きさも変えられるし、読みたいページにポンッと飛べるし。紙の本で出た時は直せなかった箇所が、ようやく修正出来てスッキリしました。是非読んでみてください。

               
 郵便の配達が、土曜日曜に行われなくなって、ちょっと不便を感じています。働き方改革のために必要なのでしょうが、手紙離れにつながらないといいです。上の色鮮やかなイラストのお手紙は、1943年の戦時中、見知らぬウクライナの地へと駆り出された、若いパパさんドイツ兵の手紙です。当時の様子が、いきいきと伝わってきます。

               
 手紙文学の傑作と言われる『バーバラへの手紙』(岩波書店)に収められています。娘への愛情たっぷりな手紙には、会えないもどかしさや、話しておきたい物語、戦時中でも変わらずに営まれるウクライナの素朴な暮らしのことがユーモラスに書かれています。作者のレオ・メーターは、発砲しなくてはならない時に、空に向かって銃を撃ったという兵隊さんで、軍に従いながらも「誰のための戦争か?」と問いかけていたでしょう。半世紀以上経った今、同じウクライナの戦地で、この若いパパと同じ気持ちで兵役についている人たちもいるのではないかと思います。勝つことよりも、もっと大切なことを教えてくれる、平和への願いがこもった本。そして、長い年月が過ぎても決して色褪せない手紙の力が伝わってくる本です。戦争が一日でもはやく終わりますように。世界が平和でありますように。

 じめじめした梅雨のシーズン、湿気対策をして快適に過ごしましょう。

 2022年6月
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