日々のエッセイ

 5月で思い出すのは、西参道のすぐそばに住んでいた子どもの頃のこと。5月1日になると、その大通りをたくさんの大人たちが、色とりどりの旗やプラカードを掲げ、シュプレヒコール。甲州街道へ向かって行進していく姿を見たものです。あれは「メーデー」で、新宿の公園へみんなが集まっていく様子だったのですが、子ども心には何だかお祭りみたいな活気があり、ワクワクしました。いつも晴れていて、カーディガンを脱ぐ”初夏のはじまり”の日だった記憶がずっと残っています。

       
 家の近くに「なんで、こんなところに?」と思える竹林があります。すごく広い竹林で、そこだけ別世界といった感じでしたが、ここ数年で半分くらいが住宅地として整備されてしまいました。それでも“林”と呼べるくらいの竹が生えていて、清々しい景色です。春先になると、地面からタケノコが顔をのぞかせます。採る人もいないのか、今ごろになると、人間の背丈よりも育った黒いタケノコが、林の間にポツンポツンと見えて、神秘的。ここを通る時はいつも、『かぐや姫』の物語が頭に浮かびます。
 
         
 こんな小さなタケノコが、ひと月も経つと立派な竹になるそうですね。成長の速さにびっくりです。皮に覆われた真っ黒なタケノコが、自然に皮を落として、つややかな緑の竹に変わっていくプロセスも、昆虫類の脱皮みたいでその瞬間を見守ってみたい気がします。

        
 商店街の店先に、それぞれオリジナルの「のれん」を飾る『のれんアート展』がありました。見慣れた商店街も、色とりどりののれんが掛かると、いつもと違った雰囲気で華やかです。カフェにも、文房具屋さんにも、果物屋さんにも・・・、そのお店の「趣味」がわかる一枚が掛かっていました。ブティックの軒先にあった「のれん」は、しっとりした風景画でした。

       
 駐車場にいつも置いてある、可愛い車ちゃん。どなたの車なのか、果たして本当に乗れるのかわかりませんが、見るだけで楽しくなる車です。長い付けまつげ、ニッコリ笑った口。ダッシュボードには芝が敷いてあって。めいっぱいオシャレした姿がなんともチャーミング。もし人間に化けたなら、十代後半の、恋の話が大好きなアクティブ少女になるのでは?なんて想像してしまいます。ドライブに誘いたくなるような女の子。

       
 可愛いといえば、こんな可愛いおまんじゅうを姪が買ってきてくれました。ミケ猫や白猫もいて、食べちゃうのが可哀そうになってくるくらい、あどけない表情です。猫好きな人へのお土産にも喜ばれそう。

       
 インターホンにスズメ、と思ったら、ちょこんと等身大の置物が乗っているお家がありました。遠くから見ると本物みたい。やって来た人が笑顔になりそうな計らいです。

          

 木々の緑や花が輝き、生命感あふれる季節に読みたくなる本を本屋さんで見つけました。『ロサリンドの庭』(あすなろ書房)は、花の香りが伝わってきそうな美しい絵物語。屋根裏部屋の壁紙から女の子が飛び出してくる、というシチュエーションもファンタジーの王道ですね。 作者のエルサ・ベスコフは『リーサの庭のはなまつり』など、草花を登場人物にした優れた作品が日本でも知られているスウェーデンの絵本作家です。この本では、絵はご自身ではなく、植垣歩子さんが描かれています。北欧の子どもたちの姿、お部屋の様子が素朴で可愛らしく、エルサの物語にぴったりな絵。
 植垣歩子さんとは『ポケットの中のお話』(朱鳥社)でご一緒して、その時も一話ごとに素敵な絵をつけて下さり、連載中は「どんな絵になるのかな?」と楽しみだったのを思い出します。

          
  『静かなネグレクト』(愛育社)のジャケットを担当して下さった写真家の金城真喜子さんから頂いた花のリースは、青みがかった都会的な色合いで、初夏のドアを美しく彩ってくれます。優雅なお花の写真で知られる金城さんは、フラワーデザインのプロでもあり、お写真の雰囲気に通じるアレンジメントを制作なさっていて、HPで拝見するとどれも素敵です。ドアを開けるたび、花の香りが心に満ちて、幸せな気分になります。

           
 5月になっても、うちの近所では鯉のぼりを見なくなったなぁ、とキョロキョロしながら歩いていたら、保育園の庭に大きな手作り鯉のぼりが飾られていました。色画用紙で作ったらしき鯉のぼり、隣のマンションに負けないくらい高く泳いでいて、これだけの大作、先生や小さな子どもたちで作るのは大変だっただろうなぁと想像します。市販の鯉のぼりとは違うポップなウロコの魚たちを眺めていると、こちらも童心に返ってウキウキ。

 光も風もさわやかな5月、良い日々になりますように!

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