日々のエッセイ
 春真っ盛りですね。今年は桜の開花も花粉の飛散も前倒しみたいなので、地域によってはもう桜を見上げたり、クシャミが止まらなかったりする方がいるかもしれませんね。

        

 恒例のBOOK展のご案内を。
 3月3日(水)〜3月27日(土)まで。午前11時〜午後5時まで。(初日は午後1時〜5時まで) 休廊日は日・月・火曜日。場所は、川越市宮下町2-20-3 『ギャラリーウシン』 川越氷川神社そばの、川沿いにある一軒家ギャラリーです。もうじき、桜並木が綺麗な絶好の季節です。
 
3月20日(土)はお休みで、替わりに3月21日(日)が特別オープンとなります。

        
 今年のBOOK展のテーマは「旅」です。コロナ禍で、思い立ってもすぐ旅行には出られない世の中、せめてご一緒に空想の旅へ出掛けませんか? 今年はギャラリーオーナーの細野敦子さんと、大学時代のクラブの先輩でイラストレーターをなさっている川畑都さんと共に、一冊の絵本を創りました。タイトルは『イマジナリージャーニー』。A5判横型サイズの可愛い絵本です。
        
 物語は、家族旅行が親の都合でキャンセルになってしまった主人公・ミモザの「頭の中の旅」で綴られます。キリンのぬいぐるみを連れて、世界へ飛び立つミモザ。パリからキンセールへ、フィジー、桂州、そしてペトラ遺跡へと旅は続きます。
 細野さんのオシャレな布コラージュと、川畑さんのポップで可愛い絵が、各場面でそれぞれの街の雰囲気を伝えてくれます。そこが見どころ。(上の写真は校正紙です)
 展覧会の会場で、是非、絵本制作過程の様子を見てくださいね。この絵本は『いしだえほん』から発売されて、アマゾンで購入が可能です。

          
 BOOK展のために、こんなトランクを作ってみました。旅、といえば、旅行鞄。この鞄を開けると・・・。

          
 中には、物語が入っています。『森の中の幻』というタイトルの短編。主人公の若い女性が、母親の大切にしている古いガイドブックに載っていた、不思議な城を探しに旅に出る話です。登場する城のモデルは、アルデンヌの森にあるエベン・エゼールの塔の家。この城は、大工さんのロベール・ガルセ氏が仕事の合間に築いた、いわゆるアウトサイダー・アートの傑作。古い童話に出てきそうな不思議なお城、今も森の中にあるのでしょうか・・・という思いから、物語が生まれました。よかったら、会場で読んでみてくださいね。

           
 上の美しい本たちは、昭和十年に刊行された『日本少国民文庫』です。文庫といっても、今の文庫本とは違い、当時はテーマを決めたシリーズの総称で、大きさは単行本サイズ。恩地孝四郎さんがデザインした色とりどりの表紙は、子どもの本というより芸術品のよう。ズラリと並べられた本たちを見る機会があり、「こういう本を買ってもらえた子は、大切にするだろうなぁ」と思いました。そういえば、上皇后様も少女の頃、このシリーズを大事にされていたとか。今も読み継がれているタイトルもあり、三年ほど前にブームになった吉野源三郎さんの『君たちはどう生きるか』も、初版はこのシリーズから出ています。本って、内容も挿絵も装丁も含めて「一つの世界」ですね。

                
 小学生の頃、担任の若くて美しい先生が、読み聞かせをしてくださった本を再読。三月の東京大空襲を描いた『猫は生きている』です。衝撃的な内容が深く心に刻まれていて、読み聞かせをしていただいた日から長い長い年月が経っているのに、細部まで覚えていました。田島征三さんの絵も、はっきりと記憶と重なります。
 闇が真昼のように染まった空襲の夜、赤ん坊を背負う母親は、幼い兄妹の手を引いて、東京の下町を逃げ惑います。その家の軒下にいた猫の親子も一緒に。タイトルの『猫は生きている』は、裏を返すと「人間は皆、死んでしまった」という意味で、物語の主人公である兄の昌男も妹の光代も、最後まで赤ん坊を守ろうとした母親も、子ども心に信じられないくらい悲惨に亡くなってしまいます。早乙女勝元さんの文章は、淡々と語られるゆえ、どうしようもなく悲しく、田島さんの絵は目に焼きつく怖さ。子どもたちにリアルに戦争を感じてもらうのには、この本がぴったりだなと思います。生き残った猫たちが、昌男の母親の亡骸を見つけて、汚れた顔や身体を舐めて清める一節と絵が、「戦争の惨たらしさ」を語っていて、これまでも、きっとこれからも忘れられないでしょう。

                
 絵本というには、文字の多い本で、各章の数字を囲む猫の姿が、緊迫する物語を少し和らげています。それにしても、木造の家々がびっしり並んで隙間もない当時の下町の様子、この絵で見ても火がまわった時の怖さを想像できます。
  読み聞かせをしてくださった担任の先生は、どんな想いでこの本を小学校高学年だった私たちにセレクトなさったのでしょう? いつもは騒がしい教室が、この時ばかりはシンと静まり、やんちゃな男の子も、おしゃべりな女の子も、じっと耳を傾け、教室が丸ごと物語世界へ入り込んだことを、ついこの間のように思い出します。
 東京大空襲があったのは、3月10日。絵本に描かれた悲劇は本当にあったのです。伝えていかなければなりませんね。

                   
 街角に、バンクシー風な絵が描かれていました。女の子が手放した風船は、よく見るとハート型。三月は、ホワイトデーがありますね。両想いになった恋人たちにとっては、まさに春の到来。

                
 良い春をお過ごしください。ポカポカした春の陽射しを浴びながら、私は窓辺で、新しい物語の構想を練ろうかな、なんて思っています。

 2021年3月

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