日々のエッセイ

 冬空を窓辺で見上げるピノキオが、春待ち顔をしています。
        

 2月は一年で一番寒い月。今年はいつもと違い、節分が2月2日。春が一日早く来ます。コロナ禍が終息して、本当の春が一日でも早く来るといいなと思います。2月って、イベントの多い1月と、春爛漫な3月に挟まれて、なんとなくひっそり。日数も少ないから、あっという間に過ぎていく月という気がしますが、私にとっては誕生月なので、気持ちも新たにスタートしたいです。
         
 
 ご近所のレモンの木に、実がなっていました。冬の景色に灯りを点すような黄色い実。レモンって、夏のイメージがあるけれど、実際に実がつくのは寒い時期なんですね。
         
 レモン牛乳というのを、お土産に頂き、飲みました。ほんとにレモンの味がする、なんとも言えない不思議な甘い牛乳です。栃木ではよく知られる飲料だそうで、歴史も古く、戦後すぐに誕生したのだとか。甘いものが少なかった時代に、子どもたちの「特別なドリンク」として喜ばれた牛乳。本当のレモン果汁を使うと、牛乳が酸で固まってしまうので、実は無果汁。それでも、グラスに注ぐとレモン色で、さわやかな味。お家時間が楽しくなる、変り種ドリンクです。
            

 寒い冬はあったかい部屋で、マンガを楽しむ人も多いでしょう。緊急事態宣言が出る前、豊島区にある『トキワ荘マンガミュージアム』へ行きました。
          
 マンガ界の巨匠・手塚治虫や赤塚不二夫が若い頃に暮らした木造アパート。区が再現して無料で公開しています。
           
 建物だけじゃなく、敷地の門や公衆トイレの壁にも注目を。「吹き出し」がデザインされていて、建物の中に入る前から、マンガの世界に誘われます。

          
 マンガは好きじゃない、という人も、この建物に入れば、昭和時代中期の庶民の生活を知るリアルな展示に夢中になることでしょう。四畳半の部屋には、インクを乾かすためか原稿が散らばっていたり。共同炊事場には、古い形のお釜や保温ジャーが並んでいたり。当時を知る人には懐かしく、知らない人には新鮮に映るのでは?

           
 住人の中で唯一の女性漫画家は、水野英子さん。『ファイヤー!』などで革新的な少女漫画を創りあげた水野さんの部屋には、こんなポスターが貼ってあり、すっきり整頓されていました。居心地が良さそう。

            
 建物の外には、レトロな電話ボックスもあります。当時の漫画家たちが、編集者とやりとりした電話だそう。メールの無い時代、この電話を通して「名作」の案が語られたのかもしれません。

           
 今月読んだ本は『メルヘンの知恵』(岩波新書)。アンデルセンの『はだかの王様』や、グリムの『チビの仕立て屋』など、よく知られた四編のメルヘンについて、宮田光雄さんが語っています。宮田さんは御年九十三才、法学部のご出身で、客観的な視点、易しい言葉が親しみやすい。メルヘンの中に、人生の意味を見出そうとする試みが、大人読者としては面白いです。
 立派な人にしか見ることの出来ない衣装と騙されて、裸のままパレードに繰り出す王様。その王様に対して「はだかだよ!」とズバリ指摘する無邪気な子ども。真実の声の小気味よさが印象深い『はだかの王様』を扱った一章では、王様の苦悩、機織りたちトリックスターの必要性を説き、現代人の心の解放へと話をつなげていきます。
 四章の『死神の名づけ親』(グリム)は、なんだか今の時代にぴったりな内容。メメント・モリを意識することは、時間を空費しない、つまりより良く生きるということだ、という宮田さんの言葉に共感します。コロナ禍時代にちょっぴりダラダラ過ごしてしまう自分に、喝を入れられた感じ。
 メルヘンに限らず、良書には「知恵」が詰まっていますね。

          
 2月14日はバレンタインデー。チョコレートで愛を伝える日です。チョコレートじゃないけれど、食べていた苺の中に「ハート型」を発見。気持ちがポワンとあたたかくなりました。

 さて、まだ少し先ですが、来月(3月)は、恒例のBOOK展がギャラリーウシンで行われます。オーナーの細野敦子さんや、イラストレーターの川畑都さんと作った「旅の絵本」が出来る予定です。サンプルを見せて頂いたのですが、コラージュやイラストがとても可愛くて、自分でも欲しくなる絵本に仕上がりそうです。
 また、同じ3月には、以前このHPで紹介した短編集『ゆめみ荘のふしぎなお客』(愛育出版)も刊行される予定で、こちらは小野寺美樹さんのイラスト。ペンションが舞台で、自由に旅行も出来ないこの時期、お宿に泊まった気分になって頂けたらと思います。

 それでは、寒い2月も元気に過ごしましょう!

 2021年2月
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