日々のエッセイ

 暑くもなく、かといって寒すぎもせず、良い気候になりました。秋は、外にも出掛けやすいし、家の中の用事をこなすのも、ぐんとラクになりますね。夜に、落ち着いて読書も出来るし。最近読んだ本は、村上春樹の『猫を棄てる』です。読み終わった後、私にとって幼い頃の「忘れられない場面」って何だろう?なんて考えてしまいました。
   
   
    
 秋の夜長、相変わらずハマっている豆本作りを進めています。今回は、ピンク色の甘い本。『小さな愛のお話』と、タイトルをつけました。愛って、どんな形なの? という問いかけに、答えあぐね、最後には主人公なりの愛の形を見つけるストーリーです。大人のメルヘン。豆本作りは、まだまだ続きそう。

 秋は小さな旅にもうってつけな季節。東京も、GoToトラベルキャンペーンが始まりますね。先日は、少し遠出をして、以前から行きたかった『深沢小さな美術館』へ行ってきました。あきる野市の緑いっぱいな場所にある美術館では、かつてNHKで放映された人形劇『プリンプリン物語』のキャラクターたちに出会えます。

        

 気品のあるプリンセス・プリンプリン。箱舟に乗せられ、見知らぬ国の漁師に育てられたプリンセスが、祖国と両親を探しに、仲間たちと世界中を旅するお話。1979年から82年まで放映され、子どもたちに愛されていました。番組を見ていたわけではないけれど、プリンプリンの名前は知っていました。この人形の製作者が、造形作家の友永詔三さんで、ここは友永さん手作りの個人美術館なのです。

     

 近くに金比羅山もあるし、何かの雑誌で「山深い場所」と書いてあったのを思い出し、「車で大丈夫かしら?」と思いつつ、ゆるやかな坂道へ。目的地までは、木彫りの人形ZiZiたちが案内してくれます。道のあちこちにいるZiZiを追っていくうち、ますます山の中へ。道が狭いところもあるので、運転はヒヤヒヤでしたが、着いてみると「来て良かった!」と思わずにはいられません。

    

 扉も窓枠も、すべて友永さんの手作り、
緑の木々に扉の赤が、よく映えます。いっぱい写真を撮りたくなる風景。ここにも、ZiZiたちがいます。

   
 入り口のベルも可愛い。誰かの別荘に遊びに来たみたいな雰囲気です。靴をぬいで中に入ると、

    
 不思議な空間。和紙のオブジェ、スラリとした人形たち、手彩色の版画・・・。たくさんの人形たちと、ひとつひとつ向き合ってみると、それぞれのささやきが聞こえてきそう。そんな神聖な感じの空間です。

       
 室内はもちろん、外のテラスも圧巻! さまざまな魚が気持ち良さそうに泳いでいます。鯉なんて1メートルはあるんじゃないかと思うほど立派。こんなに大きな鯉、見たことがありません。友永さんのお人形が鯉の背に乗って、泳いできそう・・・。水族館のように、側面から鑑賞出来る池なので、魚と一体感が持てます。 この美術館、現在も手直しをしつつ、成長を続けているそうです。楽しかった!

        
 先月初めに、豊島区の図書館に勤めている友人から、「豊島区の電子図書の貸し出しランキング」で、『ゆめぐるま』が1位になっているよ、と知らせてもらい、嬉しかったです。児童書に限らず、すべてのジャンルの中で1位なんて、光栄です。今の子どもたちが、スマホやタブレットで気軽に読書を楽しんでくれているのかなと思うと、時代は確実にデジタル化しているなぁと感じます。私自身は、やっぱり紙派ですが。

          
 子どもの頃に読んだ本で、秋のイメージが強かったのは『チップス先生、さようなら』(ジェイムズ・ヒルトン)です。イギリスのパブリック・スクールの老教師が、亡くなる直前に暖炉の前で学園での日々を回想する物語。新訳が出ているので、そちらを再読。子どもの頃に印象深かったシーン、大人になった今も、同じところで感銘を受けました。たとえば、チップス先生が妻のキャサリンに出会うシーン。爆撃を受ける中で、平然とラテン語の授業を続けるシーン。最後の小さな訪問者がやって来るシーン。学校という場所は、いつの時代も、どの国でも似たような出来事が起こっているんだなぁ、と改めて感じ、チップス先生のようなユーモラスで温かい愛すべき教師の存在は、誰の記憶にもあるのではないかと思えました。新訳になって、先生の口癖「あーム」が「うぅむ」に変わったのは、ちょっと寂しい気がしますが、読み易くなって新しい読者も増えることでしょう。先生は八十代半ば。人生百年時代の今なら、チップス先生もまだカクシャクとしていたかもしれませんね。
          
 秋は、色にたとえるなら、茶色かな。頼んだカフェのメニューも茶色で、キノコのカードまで付いていて、秋の風情。これからどんどん深まっていく秋の様子を、ゆったり眺めたいですね。

 2020年10月
 
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