日々のエッセイ

 雨の時期が長かったし、コロナ禍で浮かれることの出来ない夏、ちょっと不完全燃焼な人もいるのでは? そうでなくとも、夏の終わりというのは、季節の変化が速くて、何かやり残したような気持ちになるものです。衣替えなど、そろそろ始めて、秋モードを整えなきゃ。

        


 先月まで行われていた『8月の見る夢』展では、「回れメリーゴーランド」という、ブタさんが主人公の物語を皆様に観て頂きました。きらびやかな移動遊園地のメリーゴーランドに憧れるブタさんが、自分も木馬になれたら・・・と願うお話。
        

 物語に合わせて、羊毛作家の松田富美子さんが、主人公の可愛らしいブタさんと、ブタさん仲間たちを創ってくださいました。味のあるブタさんのメリーゴーランドの絵は、版画家のかちさんの作品です。手前に見える小冊子は、「回れメリーゴーランド」を含めた小さな物語を集めたもので、会場になったギャラリーウシンのオーナー・細野敦子さんが制作。

        
 こちらは、豊島園のメリーゴーランド「カルーセル・エルドラド」をテーマにした絵本で、豊島園内で販売されているそうです。絵本の上にあるワッペンは、物語の中で、木馬に乗った子どもたちが首にかけているグッズ。細野さんが今回の展示用に作ったものだそうです。本の中のグッズが手に取れるなんて、楽しいアイディアですね。

        
 同じギャラリーウシンで、9月からは『絵封筒展』をやっていて、私はこれにも参加しています。上の封筒は、細野さんの作品。マスクの型紙をデザインしたものですって。一緒に送ってくださったのが、下の写真の”マスク置き”。途中で外したマスクを清潔に収納出来る便利な品。2020年は「コロナ」の年だから、マスク無しでは「今年」を語れません。時代の空気が託された絵封筒ですね。写真手前のマスクは、「くわのみ書房」さんから頂いた手作り布マスクで、夏の間ずっと愛用していました。

         
 
 絵封筒展に出した私の作品は、下の写真の「僕の家は海のそば」というタイトルを付けたもの。海の写真を撮ってきて、封筒と便箋にしました。そして、たこ糸を家の形にして貼り付けてみました。海のそばで生まれた「ある男性」の0歳から100歳までの超ショートストーリーを便箋に書いています。

       

 いつも私の物語に可愛い絵を添えてくださるイラストレーターの小野寺美樹さんが作った丸い絵封筒。はにかみ屋さんのてんとう虫が、花の妖精にプレゼントを捧げたら、逆に思いがけない贈り物が・・・。
        
 絵封筒展は下記の予定で開催されています。
 efuto展 2020年9月1日〜26日
 日と月および8日と15日が休廊。
 11時〜5時(初日は1時半から)
 ギャラリーウシン
 川越市宮下町2-20-3
(川越氷川神社すぐそば)
 049-227-3506

      

 実家へ行ったら、母がリビングの模様替え。「60年以上前の椅子なのよ」と、赤いチェアを出していました。深みのある赤色で、秋の雰囲気。60年って、すごい年月に思えますが、家具は古いデザインがまたモダンに見えることもあり、なんだか部屋の様子がすっかり変わっていました。

      
 赤い布の表紙が綺麗な本は、アンシの絵本で、ずっと探していて、やっとネットの古書店で見つけ、我が家へ。ラベルにちょっとシミがあるのも、アンティークな感じで良いです。アンシは、1873年にフランスの美しい街コルマールで生まれた絵本作家。アルザス地方の民族を、親しみやすく温かなタッチで描いた本が残されています。日本ではあまり紹介されていないアンシ、画集を手に入れるにはコルマールのアンシ美術館へ行けばいいのですが、今は旅行も出来ないご時世。ネットで出会えて嬉しいです。

          
 アンシの描く民族衣装の子どもたちが可愛い。本ばかりではなく、アンシの絵を使った食器やお菓子の缶、文具などがたくさん、アルザスのお土産として売られているようで、今もとても人気があるとか。アンシのこの絵本は、小口の部分が赤くペイントされていて、凝っています。

 表紙の「赤」が印象的な児童書を、もう一冊。岩波少年文庫の『クローディアの秘密』です。自粛の夏、家に居る時間が多かったので、普段あまり手をつけない古い本棚を整理したら、小学生の頃に買った懐かしい本たちが出てきました。なにげなくページを開くと、小学生の頃の字で「読み終わり」の日が記入されていました。なんと、本棚を整理した日とぴったり同じ! ささやかな偶然に、子どもの頃の自分のワクワク感がよみがえって、嬉しくなりました。
    
 家出をしてメトロポリタン美術館に身を寄せる姉弟のお話。作者のカニグズバーグは、化学の先生だけあって、論理的な展開と、常に冷静な会話と、ちょっとしたミステリーが、なかなか面白い本です。60年代後半に出版されているので、児童書としては古典の部類に入るのでしょうか? 子どもの頃は、美術館にお泊まりという部分に魅かれ、今は物語の語り手である老婦人の言葉に感じ入ります。心理を深く追うタイプの児童書が多い現代、クローディアたちの「行動の後に、気持ちがついてくる」ような元気さが新鮮です。

     
 飲み物をガブガブ飲んだ夏が過ぎ、残ったペットボトルたちが姿を変え、こんなオブジェになっているのを見掛けました。黄金のパンプスや、クマちゃん、よーく見ないと「ペットボトル」だってわからないくらいです。廃品利用の域を超え、楽しいアートですよね。

 スポーツの秋、アートの秋・・・コロナ対策をしながら、無理なく、少しずつ、楽しんでみましょう。

 2020年9月
 
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