日々のエッセイ

 雨の季節が到来しました。傘を持ったり、レインシューズに履き替えたり、外出がちょっと億劫になる季節ですが、雨に濡れた草花はイキイキとして輝きが増します。そんな風景を見に、出掛けたいですね。
           
 紫陽花が咲き始めると、6月が来たという実感がわきます。青、ピンク、白。花の色が、沈みがちな雨の風景を明るく染めています。初夏を告げる花ですが、色褪せながらも冬まで咲き続けている花を見ました。あれは狂い咲き? 冬咲きアジサイというのもあるそうですが、どう見ても普通の紫陽花。この頃は気象のせいか、季節と花の盛りが結びつかないことが増えたような?

          
 雨に似合う生き物というと、カエルがパッと浮かびます。そして、カエルが登場する物語というと、アーノルド・ローベルの名作『ふたりはともだち』(文化出版局)かな。 ガマくんとカエルくんの友情を描いた小さなお話は、どれも共感できて、心に残ります。中でも、この本に収められた「おてがみ」が好き。一度もお手紙をもらったことがなくて、悲しんでいるガマくんを喜ばせようと、カエルくんはガマくんに宛てた手紙を書き、カタツムリの郵便屋さんに渡します。その手紙が届くまで、二人は肩を並べて待っています。結局、手紙は四日も後に届くのですが、待つ時間の豊かさ、届いた瞬間の嬉しさが、こちらにも伝わります。こんなやりとりが出来る二人、いいですね。

            
 今年はいろいろなことにチャレンジしたい、と思って、フラダンスを習ったり(やってみると体幹が鍛えられ、ハードなダンスですね)、茶道を体験したり。上の写真は、茶室で表千家の作法を習った時のもの。表千家と裏千家では、作法にも細かい違いがあるそうで、部屋に入る時、どちらの足から踏み入れるかとか、お茶碗を回す時に時計回りか反対かなど、「表」と「裏」はその名の通り、真逆なことが多いのですね。よくドラマなどで、お茶を頂いた際に「結構なお点前で」と言うシーンがありますが、実際にはその言葉を使う人はいない、と先生が笑っていらっしゃいました。

              
 お茶にはお菓子が付き物。今回は、和菓子作りにも初挑戦。生地をこねて、餡を包んで、作ったのはコレ。なんだかわからないでしょうが、今年の干支の「イノシシ」のつもりなのです。ピンセットのような道具で、背中の毛並みを立ち上げていく作業がなかなか難しい。上手には出来なかったけれど、粘土遊びみたいで、楽しい体験でした。
             
 和菓子では、外郎のほんのり甘い感じが好きで、先日は外郎の本場、名古屋へ車を飛ばして行ってきました。新東名高速道路を通るのは初めてで、コンセプトのあるサービスエリアがいろいろ出来ていて、道中も楽しかったです。名古屋で見たかったのは、あまりにも有名な金のシャチホコ。名古屋城の玄関口には、金のシャチホコのレプリカが置いてあり、記念撮影が出来ます。すごく大きくてびっくり。2.5メートル以上あって、重さは1200キロを超えているそうですよ。お城の屋根を見上げただけじゃ、この大きさはわかりませんね。 シャチホコは、魚の姿で頭が虎、尾をピンと立たせ、背中に鋭いトゲを持つ、空想上の生き物。雄と雌が一対になって飾られるので、夫婦円満のご利益もあるのかな?
                
 20代の頃に、友人と名古屋に出掛けた時に、蒲郡のクラシックホテルに泊まったのを思い出して、そこにも足を伸ばしてみました。数十年ぶりに訪れたホテルですが、あまり変わっていなくて、タイムスリップしたような気分。二階のカフェでは三河湾を見渡しながらお茶が飲め、夕暮れ時だったので、神々しいくらい綺麗な風景でした。こんな変わった形のティーポットがあったので、写真にパチリ。どうやって注ぐのかな?

 今年は東海方面に行くことが多く、先日は初夏の沼津へ。目的は、私が少女の頃から好きな画家さん、牧村慶子さんの展覧会を見に。「海の音、風の声をききながら」というキャッチフレーズがついた展覧会で、外は駿河湾の海、自然光が優しく入る展示会場は、まさにその通りの雰囲気でした。
              
 牧村さんが絵をお描きになった懐かしい本がいっぱい。当時、サンリオ出版から出されていた詩集や童話は、正方形で可愛らしい体裁。本でありながら、ファンシーグッズ的な要素もありました。私も何冊か、大切にしています。

                
 牧村さんの絵による『ひみつの花園』を先日、購入して、子どもの頃、このお話が好きだったなぁと思い出しながら、読み返しています。暗い夜の場面でも、牧村さんの挿絵にはどこかに虹色の部分があって、柔らかな気持ちになれます。読み終わったら、4月のBOOK展で、五木田摩耶さんに書いて頂いたカリグラフィーの美しい蔵書票を貼ろうと思っています。特別な一冊になりそう。

              
 展覧会の会場になっていた建物は、芹沢光治良記念館の二階。この建物自体、灯台みたいな雰囲気で、素敵です。ラセン階段は、一階が暗くて、階段を上るにつれ、少しずつ、明るくなっていくように計らってあるそうです。というのも、このスペースは「海」を表していて、一階は海底、屋上が海面。階段を上る私たちは、海の上へ向かってプカプカ浮いていく感覚になります。窓は十字架の形に光が射し、とても厳か。

           
 沼津の御用邸も近くだったので、寄ってみました。ここは、大正天皇の御用邸で、ちょうど菊の御紋が付いた馬車が公開されていたので、近くで見ることが出来ました。車輪の真ん中にも、御紋があしらわれています。天皇の代替わりで、皇室ブームらしく、御用邸も賑わっていましたよ。

                
 とんびが目の前を横切って、松の木にとまった姿が、絵のようでした。ピューヒュルルという長閑な鳴き声を自然の中で聞けたのも嬉しいな。

             
 沼津港で目についたカラフルなコンテナ。水門の通路から港を見下ろした時も、この色彩が目立っていました。ポップで楽しいです。

 雨が上がれば、もう夏ですね!

 2019年6月

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