西農鳥岳 道標
南アルプスで未踏の3000メートル峰、農鳥岳を目指す。山懐深い登山口までのアプローチはマイカー、奈良田をベースに白根三山を周遊するコース。
自宅を未明4時に出発し、新東名高速道路を経由する。「夏の日」三連休の初日でクルマは多い。8時ごろにはサービスエリアが混雑しはじめる。本線が渋滞になる前に新清水インターチェンジを下りる。
奈良田の広大な第2駐車場も、ほぼ満車。広河原行きの山梨交通バスは13時30分発。バス待ちの合間に昼食をとる。
奈良田 第2駐車場 連休で満車
バスは第1駐車場が始発、大勢の乗客にあふれて乗り損ねないよう、バス停まで移動する。
奈良田 第2駐車場 | 10:45着 | 11:15発 |
奈良田 第1駐車場 | 11:30着 | 11:50発 |
広河原 | 12:30着 | 13:00発 |
白根御池分岐 | 13:30着 | |
水平道 | 14:15着 | |
白根御池小屋 | 15:30着 |
バスの待合に着くと個人タクシーでやってきた2人連れの登山客に声を掛けられた。まさに渡りに船、タクシーに同乗して広河原に向かう。
第一発電所バス停のトンネルから先はマイカー規制であるが、タクシーは通行可のよう。(南アルプス山岳交通適正化協議会の)ガードマンがいて、南アルプスマイカー規制利用者協力金を(100円/一人)徴収している。
深い渓谷に沿ってつづら折りの道を辿り、広河原バスターミナルに到着。バス待ち1時間半余りを短縮できて初日の行程が早まり、気分的にはずいぶん楽になる。感謝。
広河原バスターミナル(のバックヤード)
バスターミナル周辺はバス発着時刻の合間らしく乗合タクシーも待機、登山客は少なく閑散としていた。
梅雨前線が南に下がって少し晴れ間がみえる空模様。登山口から仰ぎ見る大樺沢の上部は厚い雲に覆われている。週間天気予報どおりの曇り空、登り初日が雨でなくてよかった。
広河原 登山口の案内板
長距離ドライブに続けての登山、本日中に白根御池小屋まで標高を稼いでおきたい。
500mlペットボトル1本飲み干す頃合いで、当初の計画より早く白根御池小屋に到着。予約なしの素泊まり5300円。通信網が整備されたこの時代、山小屋の宿泊も予約が普通になったようだ。
長袖のTシャツに着替え、濡れたTシャツとハンドタオルは乾燥室に入れた。
近年建て替わってモダンな造りの白根御池小屋
小屋前の広場にテーブルとイスが数多くあり、夕暮れまで自炊してくつろぐ。屋外でコンロを使う機会がなかったため、コンロの風防は持ちあわせていない。次は用意しよう。
連休の詰め込みを覚悟した小屋泊まりだったが、部屋の定員以上にはならなかった。布団の寝具は温かく快適。
テントはざっと数えて60張以上ある。小屋泊まりを敬遠する登山者が増えたのだろうか?
小屋のロビーに天気予報を流す壁掛けテレビがある。明日昼ごろから夜半にかけて低気圧が本州を通過する模様。早めに次の宿泊地に着こう。
白根御池小屋 | 2:45起床 | 5:00発 |
二俣分岐 | 6:20着 | 6:50発 |
北岳肩ノ小屋 | 8:00着 |
未明にすこし雨音を聞く。
消灯時間中でも廊下と便所には照明が残る(ので、ヘッドランプは要らない)。
周りの動きに目が覚めたので、混みあう前に支度する。暗がりの中、小屋の前で自炊。小屋の朝食は5時以降なので、早発ちする人は弁当を注文して朝食を済ませている。
出発準備を整えて、外が明るくなるまで部屋に戻り二度寝。
ヘッドランプが不要になった頃合いに小屋を出発する。早発ちではないが、テントの様子を見るに大多数の中では先行となる。
鳳凰三山
天気の変わり目らしく、鳳凰三山の頂をかすめるように雲が流れ行く。
草すべりは柵が張り巡らされ植生保護されている。いく種類もの高山植物が開花の見頃。
草すべり大樺沢二俣分岐
いつものコンパクトデジタルカメラで撮影した後、デジタル一眼レフカメラをザックから取り出す。4年前に購入し、アルプス登山に行けないまま、ほぼお蔵入り状態だったもの。数多くの操作ボタン、既に使い方を忘れている。
本日のヒヤリ・ハット
デジイチの取扱いに気を取られる
コンデジをザックに仕舞い忘れる
周囲を確認せず、そのまま出発する
次にカメラを使おうとして忘れたことに気づく
小太郎山分岐の休憩で気づき、二俣分岐へ大急ぎで取りに戻ったところ、幸いにも、分岐の道標にカメラが掛けてあった。親切な人に感謝。
ムカゴトラノオ
タカネグンナイフウロ
アオノツガザクラ
テガタチドリ
タカネヤハズハハコ
コイワカガミ
ウラジロナナカマド
タカネツメクサ
主稜線から先はガスの中、西の風が強い。ヤッケを着込む。小太郎山への往復は取り止め。
富士山や甲斐駒ケ岳が雲間から姿を現すが、カメラを構えるまで待ってはくれない。ガスに巻かれ眺望のないときは、よく足元の高山植物にカメラを向ける。
コケモモ
ハハコヨモギ
シコタンソウ
風に揺れるヨツバシオガマ
吹きさらしの稜線上にも、風を避けるよう岩陰にひっそりと咲いている。
風雨にしおれ見栄えはいまひとつでも、記録写真にと撮っておく。
オヤマノエンドウ
ミヤマミミナグサ
肩ノ小屋近く、稜線西側のテントサイトは折からの強風。撤収の最中か、ポールの入ったテントが帆のように風に煽られている。
8時、肩ノ小屋に到着。受付で宿泊手続きを済ませ、(火の気のない)ストーブの前で休憩モードに入る。
ストーブを囲んで軽食をとっている休憩客の他は宿泊客が皆出払って、小屋の中は閑散としている。
ここにも壁掛けテレビがあって、データ放送の天気予報を流している。明日は西から晴れ間が広がりそう。
素泊まりで本館横の3号館に案内された。コンロは屋外の自炊場で。コンロ棚台が手狭、軒先吹き抜け、座席なし。このお天気では辛いものがある。
北岳肩ノ小屋
テントサイト周辺にも、そこかしこに高山植物が咲きそろう。散策がてら水場へ行こうとしたが、すぐ雨が降り始めたのでやめる。
イワベンケイ
ハクサンイチゲ
早く到着した2人連れと、テント泊パーティーから小屋に移った1人の宿泊客と、ひねもす山登り談義。淹れたてのコーヒーを頂く。感謝。
昼食はアルファ米。満腹になって夕食は摂らず。翌朝の分もアルファ米で白飯の作り置き。水を注ぐだけで手間いらず。
北岳肩ノ小屋(3号館) 夏山シーズンらしい混み方
風雨の中、昼ごろから次々と泊り客が到着し、夕刻までにほぼ満室となる。
標高3000メートルの山小屋で、高山病気味か?安静に居て軽く頭痛を覚える。
北岳肩ノ小屋 | 3:15起床 | 5:00発 |
北岳 | 6:00着 | 6:25発 |
中白根山 | 7:40着 | 7:45発 |
間ノ岳 | 8:40着 | 9:00発 |
農鳥小屋 | 9:40着 | 9:45発 |
西農鳥岳 道標 | 10:30着 | 10:45発 |
農鳥岳 | 11:20着 | 11:50発 |
大門沢下降分岐点 | 12:15着 | |
水場 | 14:25着 | |
大門沢小屋 | 14:45着 |
未明、周囲の動きで目が覚める。夜空は薄雲と星の瞬き、強風、急速に天候が回復しつつある様子。
寝床に戻りアルファ米で腹ごしらえ。二度寝して、外が明るくなった頃合いに起床。
小屋前の広場は人垣。雲海の彼方が茜色。物陰に風を避けて御来光を待つ。
日が昇り空の明るさが増すと、遠くは北アルプスまで広く景色が見渡せるようになる。雲海に浮かぶ富士山の姿が秀逸。
梅雨明け早暁 甲斐駒ケ岳(左) 八ヶ岳(右奥)
鳳凰三山 御来光
(マウスオンでロールオーバー)
朝を迎える富士山
(マウスオンでロールオーバー)
北岳肩ノ小屋 朝焼けの北岳
期待薄だった週間(梅雨空)予報から一転、天空晴れ渡る朝。この山旅のハイライト、白根三山縦走に出発。心弾む。
山頂に向かう途中にも高山植物が多数開花。岩の踏み跡を見つめ続け登っていた若かりし頃と、北岳の印象は大分違う。
北岳のお花畑 キタダケソウには出逢えず
ミヤマダイコンソウ
キバナシャクナゲ
両俣の分岐
北岳は二度目の登頂。すばらしい展望。望遠鏡を持ってくればよかった。
北岳山頂
甲斐駒ケ岳(左) 八ヶ岳(右奥)
中央アルプス(奥) 乗鞍岳(奥) 仙丈ケ岳
北岳山頂
風が和らいだ北岳山頂で半時間、多くの登山客と共に広大な景色を満喫する。もう少し長く居たいが、先が長いので早々に発つ。
雲海に浮かぶ富士山
コイワカガミ
ミヤマオダマキ
シナノキンバイ ハクサンイチゲ
コツガザクラ
北岳山荘を過ぎ、中白根山で休憩。このあたり人が少ない。
中白根山から間ノ岳
間ノ岳の西の稜線に隆起する三峰岳。標高の測量がそれ程精密でなかった昔は、小さなコブ山も3000メートル峰の一つに数えられていた。
威風堂々の剣岳でさえ3000メートルに満たないのに…とは、当時のワンゲルクラブ員の述懐。
三峰岳 間ノ岳から下ると稜線上のコブ
間ノ岳の山頂は三峰岳からの登山者も合流して賑やか。登山ツアーが2組ほど居て、行先は同じ大門沢のよう。
間近に塩見岳、遠く荒川三山と赤石岳まで見渡せる。ワンゲルの夏合宿を思い出し、時を忘れそうになる。
北岳山頂では圏外だったauケータイも、間ノ岳山頂では辛うじて電波が届く。自宅の妻(と息子たち)あてに登頂メールを送る。
間ノ岳山頂 道標
だだっ広い間ノ岳山頂 農鳥へ続く道沿いのケルン
山頂下りから近くに見えて着くまでに時間がかかる農鳥小屋。続く農鳥岳へ最後の登り、夏山の陽ざし、重ね着した長袖Tシャツを脱ぐ。
農鳥岳の登山路に先行する多くの人影を見る。連休の最終日、この時間の動きなら麓の奈良田までだろうか。
農鳥岳
ハクサンシャクナゲ
西農鳥岳の道標で休憩。目前に農鳥岳。40年前、熊ノ平のテントサイトから農鳥岳を見上げ、いつかは山頂に…と積年の思いが叶えられる。感慨無量。
白根南嶺の東の空は雲が湧き上がり、富士山は姿を隠す。
西農鳥岳 道標
(マウスオンでロールオーバー:熊ノ平)
農鳥岳へ続く稜線
三国平 仙丈ケ岳 間ノ岳 北岳
白根南嶺 悪沢岳 赤石岳 塩見岳
間ノ岳 北岳
農鳥岳ここより下り。南アルプスの山並みの見納め。たっぷり休憩する。贅沢に、とっておきのパイン黄桃の缶詰を開ける。
農鳥岳山頂
山頂への途中で追い抜き、少し遅れて着いた若い2人連れに大門沢への下り道を尋ねられる。スマホの地図案内では分かりにくいとか。
えぇっ!地図持ってないって! (これが今風の登山?)
…1枚余分に地図持ってるので進呈します。ここから3時間で大門沢小屋。
ええぇっ!!奈良田まで下るって!! (クルマで本日中に帰るらしい)
…大門沢小屋からさらに3時間で奈良田。いまお昼12時。晴れてても谷間の日暮れは早いので注意してね。
(この2人は午後4時に大門沢小屋を“少し遅いね”って、通過しました。無事帰還を祈ります。)
チングルマ
大門沢下降点からの下りで単独行の1人とすれ違い、1人に追い抜かれ、先行する単独行の3人と抜きつ抜かれつ、大門沢小屋を目指す。
長丁場の下り、無理せず1時間ごとに休みを入れる。一般的なコースとはいえ落差も路面も脚には厳しい。両足の親指に大きなマメができた。
大門沢下降分岐点
キノコ (キイロチチタケ?)
沢筋に近いところまで下ると、NTT docomoの通話可能標識があった。深い山に囲まれて電波が届く不思議。
大門沢コース下り最初の水場 冷えた水でリフレッシュ
クルマユリ
あまり汗は出なかったが、長時間の行程でペットボトルのスポーツ飲料2本を飲み干した。
大門沢小屋到着、やっとの思い。途中で追い抜かれた人がここでビール休憩、さらに奈良田へ下って行った。単独行の3人も到着、幕営。
小屋泊まりの団体客は10名ほど。少し遅れて小屋へ電話連絡を入れながら到着。
連休最後で泊り客の少ない大門沢小屋
明日は下山。食糧はかなり残った。即席ラーメン3個の湯沸しくらいでガスカートリッジも1個で足りた。前日同様、アルファ米で白飯の作り置きをする。
大門沢小屋 | 4:00起床 | 5:10発 |
林道 登山口 | 7:05着 | 7:15発 |
奈良田 第2駐車場 | 8:00着 | 8:15発 |
奈良田 第1駐車場 | 8:20着 | 12:15発 |
今日もお天気。アルファ米で腹ごしらえして、明るくなってから出発。
大門沢小屋
急ぐ用もないので、渡渉点に架けられた丸木橋を写真に撮る。
急流の沢筋、豪雨の洪水に遭って丸木橋が流されるのも想像に難くない。
(流木が絡まる)丸木橋 (1)
(整った横桟の)丸木橋 (2)
小屋から30分ほど下ると沢筋から少し離れて緩斜面の山腹に入る。
見通しのよい明るい原生林、苔生す岩、落ち葉が敷き詰められた道。昨日に比べて歩きやすい。
緩斜面の山腹に休憩適地が広がる
見通しのよい明るい原生林
苔生す岩
手つかずの自然に浸りながらまったり歩いていると、突然“鵯越の逆落とし”ふうの下り道に遭う(転げ落ちそうで、写真が撮れなかった)。ゆるい道ばかりが続く訳でない。
(2連の・丸木だけの)丸木橋 (3)
(ロープガイドのない)丸木橋 (4)
自然の造形で面白いものを目にした。
木に寄りかかる(?)巨岩
傾き倒れかけた巨岩を立ち木が支えているように見える。誰かが戯れに、傾斜した巨岩の下に木切れが立てかけてある。“屁の突っ張り”に見えてさらに面白い。
丸木橋のない渡渉点 靴を濡らさず渡れるか?
南アルプスの奥深い山を長々と下り、不意に人工物に出合うと人里に近づいたと感じる。
目の前に架かっているのは、少し斜めになった・錆色の踏み抜きそうに薄っぺらなデッキプレートの・頼りなげな吊り橋。
橋に付属する欄干は、ワイヤー2本。足を滑らすと間から落ちそうでコワイ。
滑ると落ちそうなスリル満点の吊り橋
大きな砂防堰堤でせき止められた広大な河原に出る。山道もあとわずか。
山深い渓谷に大きな砂防堰堤 広大な河原
砂防堰堤のすぐ近く、渓谷を渡る最後の吊り橋。山旅のフィナーレ。あとは林道を淡々と下るだけ。
吊り橋 (森山橋) その先に林道
マイカー規制の起点となるトンネル、第一発電所バス停に着く。奈良田行きのバスは1時間後。あとわずか、当然歩く。
第一発電所バス停 トンネルより先マイカー規制
奈良田第2駐車場に帰着。連休後で、駐車するクルマはわずか。第1駐車場へ移動し、自宅の妻(と息子たち)あてに無事下山メールを送る。
9時の開店を待って、奈良田の里温泉「女帝の湯」に入る。源泉かけ流しのヌルヌル絶品泉質、山間僻地の贅沢を満喫する。
休憩室を利用、ほとんど一人貸切状態。昼食は「ほうとう」、栄養が体に染み亘る。涼しい風が入る和室の部屋に寝ころび、12時まで休憩する。極楽。
昨日の下りで顔なじみになった単独行の3人も前後して入ってくる。仄聞するに大門沢小屋のテントサイトで、食糧に引き寄せられたか、ネズミに襲撃されたテントがあったそう。
午後のドライブ4時間で、本日の宿泊地KKR沼津はまゆうに到着。温泉あがりに缶ビールで一人祝杯。ほろ酔い、心地よい。