夕暮れ 双六小屋から樅沢岳をめざす
第6波に及ぶ2年余のコロナ禍が鎮静したかに思えた今夏、小屋泊まりのアルプス登山を思い立つ。
当初は高天原温泉を目指す計画だったが、天候不順に加え“体力不足”&“日数不足”により山行途中で計画修正、樅沢岳までの軽登山に切り替えた。
早朝マイカーで自宅を出発し、新穂高の登山者用無料駐車場に留め置き、初日はわさび平小屋まで。
新穂高 登山者用駐車場 | 13:10着 | 13:40発 |
わさび平小屋 | 15:10着 |
新穂高 登山者用無料駐車場
平日とあって駐車場にはそこそこ空きがある。
巷では出発直前になってコロナ禍の第7波がやってきた。一日当たりの感染者数が過去最高を記録している。
感染防止に万全を期すところは山小屋も同様、密を避けるため宿泊者数を制限をしている。この先、予約なしには山小屋に泊まれないと、林道ゲートに注意書きが。
林道のゲート 山小屋宿泊要予約の注意書き
アルプスの峰々は厚い雲に覆われ、下り坂の天気模様。長い林道歩き、山小屋へ着く前に小雨が降り始めた。レインスーツは暑いので折り畳み傘、それでも入山初日とあって緩い林道歩きも大汗。
下山者と三々五々すれ違ううちに、わさび平小屋に到着。1泊1食の宿泊手続き、夕食は17時から。乾燥室は強力な乾燥設備らしく、濡れたTシャツもすぐに乾いた。
トイレは男女別、ウォシュレットがある。広くはないが風呂場(15:00〜20:00)もある。
小雨降る わさび平小屋
食堂の利用客は20数名。夕食のメインディッシュはイワナの塩焼き。ごちそうさまでした。
わさび平小屋の夕食
小屋の受付出入口には壁掛けのTVがあって、データ放送で3時間ごとの天気がわかる。今夜の雨も明日には天気が回復しそう。
日が暮れて小屋に投宿した年配の男性客が、予定らしき宿泊先にキャンセルの電話を入れていた。天候不順の中、体力消耗したご様子。
消灯21:00まですこし間があるので、玄関先で雨宿りしながら外の景色を眺めていた。
冷えた飲み物
冷えた果物
小屋周辺は「わさび平」の名のとおり、わさびが群生している。
清流に自生するわさび
山小屋の大部屋客室は布団1枚分の広さで間仕切りされている。コロナもイビキも隔絶、安心・快適。
ワサビ平小屋 | 4:00起床 | 6:15発 |
秩父沢手前 | 7:15着 | 7:20発 |
秩父沢 | 7:25着 | 7:35発 |
チボ岩 | 7:45着 | |
イタドリが原 | 8:10着 | 8:15発 |
シシウドが原 | 8:45着 | 8:55発 |
鏡平山荘 | 9:50着 | 10:10発 |
弓折乗越 | 11:05着 | 11:25着 |
花見平 | 11:40着 | 11:45着 |
くろゆりベンチ | 12:25着 | 12:35着 |
双六小屋 | 13:15着 | 21:00消灯 |
起床時は雨模様。朝食は毎度のアルファ米(赤飯)1袋。雨が小止みになるのを待って出発。33Lのザックに一眼レフカメラと三脚も詰めて重量は15kg、急坂に息が上がる程の歩荷ではないが、1時間も歩き続けるとスタミナ切れになる。
雪解け進む秩父沢
秩父沢の渡渉点で休憩。雪解けが進み立派な橋が架かっている。冷たい流水でのどを潤す。極楽。カロリーメイト1箱で補給食。
秩父沢に架かる橋
小池新道 シシウドが原
小池新道の登りは、途中イタドリが原とシシウドが原が休憩適地になっている。山稜へ舞い上がるガスに囲まれ、展望なし。
登り途中で後続のパーティーに追い抜かれる。これまで登りで普通に追い抜いても、追い抜かれた記憶はない。
認めたくないものだな・・・老齢ゆえの体力低下というものは
熊の踊場 鏡平まで快適な木道を行く
木道が見えると鏡平まであとわずか、大きな登りを終えた安堵感。鏡池の休憩広場はガスに囲まれ展望なし。
鏡平山荘前で休憩。少し風があって肌寒い。カロリーメイト1箱で補給食。間食に携行したアーモンドチョコ1袋は、往路の車中で融けて無残な形になっていた。
鏡平山荘 登山客まばら
鏡平から登り、雪田が残る弓折中段で小休止。道沿いにチングルマなど高山植物が現れ始め、20年前の残雪期にエスケープした山稜の巻き道を登りきると、弓折岳分岐に到着。
ガスに囲まれ展望なし。晴れる気配もない。あとは双六小屋まで緩いアップ・ダウンを残すのみ。高山植物の写真を撮りながら、のんびり進む。
弓折岳分岐 あとは稜線漫歩
最初のお花畑は花見平。大きな雪田の中に道が続き、残雪踏みしめる足裏感覚はアルプス夏山感満点。高山植物も開花の見ごろ。
シナノキンバイ
コイワカガミ
花見平のお花畑
ヨツバシオガマ
コバイケイソウ
ミヤマダイモンジソウ
ハイマツの稜線に沿ってシャクナゲが数多く咲いている。花房をハイマツの茂みに潜めつつ、なかなかあでやか。
ハクサンシャクナゲ
アオノツガザクラ
コガネギク
ヤマハハコ
くろゆりベンチも展望なし。ベンチ付近にクロユリはなかったが、双六池付近のお花畑に数多く咲いていた。
クルマユリ
クロユリ
トリカブト
オヤマソバ
谷間から吹き上がるガスの切れ間に双六小屋が姿を見せる。本日の行程もあと少し。
小池新道1100m登行に、水分補給は2L(アクエリアス1.5Lと秩父沢の冷水)。この日ほとんど陽射しなく、多量の汗を流さずに済んだ。
双六小屋に続く道
チングルマ
双六池のお花畑
小屋に到着し、1泊1食の宿泊手続き。食事は17:00、消灯は21:00。 外のベンチでザックの整理。ジャケットを上に羽織ってTシャツは着干し。空いたペットボトルはアクエリアスとBCAAの粉末を入れ小屋の飲料水で満たす。
昼下がりの双六小屋前は、行き交う登山客で(混雑するほどもなく)賑わっている。
本日のお宿 双六小屋
小屋の軽食サービスが繁盛している様子。外壁に掲げたメニューが人を惹きつけている。雄大な景色を眺めつつ空腹を満たせば、なんて贅沢。
双六軽食
この日の夕食に目を見張る。素泊まり自炊に勝る(?)品数の献立。ごちそうさまでした。
夕食のメインディッシュは天ぷら盛り合わせ
相部屋の客室は間仕切り2段ベッドルーム。コロナ禍で密を避ける生活様式は、『山小屋=雑魚寝』を一掃した様子。
贅沢なベッドルーム
この山小屋にも談話室にTVがあり、BSデータ放送で3時間ごとの天気予報がわかる。降り始めた雨は翌朝まで残る空模様。テント泊を予定した登山客が小屋泊まりを申し込んでいる。客室に空きがあれば予約なしでもOKらしい。
明日は雲ノ平を経由し高天原温泉まで。明後日はそこから往路を引き返し新穂高まで下山する強行軍。
無ぅ〜理ぃ〜
20〜30代の自分に(無茶)できても、60代の自分に(無理)できないことはある。“日本で一番遠い温泉”に逸って、計画の段階でそれに気づけなかったことが情けない。
そんなことを鬱々と考えているうちに消灯。
双六小屋 | 4:00起床 | |
樅沢岳(1回目往復) | 10:20着 | 10:25発 |
樅沢岳(2回目往復) | 14:40着 | 15:15発 |
樅沢岳(3回目往復) | 19:13着 | 19:46発 |
双六小屋 | 21:00消灯 |
夜明けから雨が続き、何組かの登山客は天気予報をみて出発を見合わせている。
計画変更、高天原温泉行きは取り止める。
それで本日の宿泊は?と、双六小屋にもう一泊申し込んでみる。予約なしダメなら下山して麓で宿を探すのみ・・・と、空室状況照会待ちの間に談話室で朝食(アルファ米)。やや間があって宿泊OKが出た。ありがたや。
それと高天原山荘の宿泊キャンセル。双六小屋に公衆電話(衛星電話)があるが、相手先(山小屋の事務局)が話中らしく通話がつながらないまま即電話が切れる(先に投入した100円玉×3は戻らない)。相手が出ないまま電話代をぼったくられては、たまらない。
auケータイは双六小屋周辺は圏外なので、雨が止むのを待って樅沢岳まで40分ほど登り、山頂から電話をかけた(アンテナほぼフル表示)。当日キャンセル、電話を受ける側は迷惑な話だろう。ごめんなさい。
山頂はガスにまかれ霧雨模様。さっさと退散する。
双六小屋の戻り、談話室で書棚にある山岳雑誌を読んで日中の時間を過ごす。興味のあった記事は、登山に必要な摂取カロリー(消費カロリー)。5(メッツ)×体重(kg)×行動時間(時)とか(うろ覚え)。準備したカロリーメイトとアルファ米だけでは足りないね。以前ロードバイクで初ロングライドしたとき、ハンガーノックを起こして“郊外で遭難”しかけた苦い経験が脳裏をよぎる。
午後、天気予報どおり少し晴れ間が見えたので、もう一度樅沢岳の山頂を目指す。
樅沢岳の登り(2 回目)
雲間に餓鬼岳から燕岳の山陵が遠望できる。
南寄りの風に乗って流れる雲が樅沢岳の山頂を覆っている。
しばらく待っていたが雲が切れる気配はない。晴れなくては槍・穂高連峰も眺められない。西鎌尾根から登山者が一人やってきた。展望なしの山行が続いたと、残念なご様子。
樅沢岳頂上
2度目の山頂も展望なし。高山植物の写真を撮って山を下りる。
シコタンソウ
ゴゼンタチバナ
ミヤマゼンコ
ミヤマダイコンソウ
下るほどに展望が開けてくるのが、せめてもの救い。しばらく立ち留まって景色を眺める。
双六岳から三俣蓮華岳の稜線
夕食(2巡め17:30)後、散歩に小屋の外に出ると空は快晴。
双六岳は夕陽の陰。丸山と三俣蓮華岳の稜線が淡く陰る。日没間近の様子。
夕暮れ 丸山 三俣蓮華岳
笠ヶ岳を望む稜線が夕陽に映え、風が凪いだ谷間に雲が沈んでいる。日暮れの静寂。
暮れなずむ双六池畔の幕営地
鷲場岳には薄雲がかかり、山頂がのぞいている。
薄雲まとう 鷲羽岳
夕陽に照らされた尾根に樅沢岳へ向かう人の姿が見える。今なら槍・穂高連峰の眺望も期待大。すぐさま部屋に戻り、サブザックに撮影道具一式を詰めこみ、三脚を手に樅沢岳山頂に向け出発。
日没までに間に合うかと、落日の陰と競争するように急ぎ登る。
双六岳の稜線に落ちる夕陽
息を切らして辿り着いた山頂には既に10数名の登山者、夕陽に映える槍・穂高連峰が目に飛び込んできた。
夕陽に映える槍・穂高連峰
茜に染まる雲海の彼方に乗鞍岳。その陰に御嶽山。焼岳が雲海から山頂をのぞかせている。
雲海に浮かぶ乗鞍岳
笠ヶ岳へ連なる稜線は陰影淡く夕陽に照らされている。その西側も雲海が広がり、双六岳の肩越しに加賀白山を望見する。
笠ヶ岳
三俣蓮華岳と鷲場岳の間に雲ノ平の祖父岳、さらに遠く薬師岳が遠望できる。
薬師岳 遠望
今日一番の眺め 樅沢岳 山頂
星空撮影(星景写真)が今回初の課題。明るいうちに、PENTAXデジタル一眼レフカメラの“飛び道具”アストロトレーサーをセットして、日没を待つ。山頂の人たちは槍・穂高連峰の残照を見届けて下って行った。
取り急ぎ星空撮影の準備にかかるが・・・
陽が落ちると急に肌寒くなってきた。防寒着を残してきたのは失敗。長袖Tシャツにジャケット1枚羽織るだけでは、この寒さに耐え難い。おまけに、カメラを向けた槍・穂高連峰の空に薄く靄がかかってきた。
残照 夕闇迫る
このまま凍えたくない一心で撮影中止を決め、即刻下山する。日が暮れても星が見えるまでは薄明り。ヘッドライトなしでも往路の山道を(都合三度)覚えている。
薄暗くなった山間に、山小屋とテントの明かりが見えるとほっとする。双六岳にも夕景色を眺めた人がいたらしく、夜道をヘッドライトが下ってくる。
薄暮の下り道
凍えるほどの寒さはなくなったので、小屋の前でもう一度、星空撮影の支度に取り掛かる。薄暮の空が暗く沈み、次第に星々が瞬き始める。南の空にカメラを向け撮影を試みるも、何故かシャッターが切れない。原因は?(オート・フォーカスで撮影したまま、マニュアル・フォーカスに切り替えるのを失念していました)
もたつくうちにレンズ(フィルター)も曇ってきて、結局、星空撮影できず仕舞い。残念。
双六小屋 この日は満天の星
この日は満天の星。光害から遠くこの夜空の暗さは、星空観察に好適この上ない。しばらく星空に見入った後部屋に戻り、21:00消灯まで残されたわずかな時間で急ぎザックのパッキングを済ませ、眠りについた。
双六小屋 | 5:00起床 | 6:00発 |
弓折分岐 | 7:00着 | 7:10発 |
鏡平 | 7:40着 | 7:50発 |
シシウドが原 | 8:20着 | 8:30発 |
秩父沢 | 9:15着 | 9:30発 |
林道奥丸山分岐 | 10:05着 | 10:10発 |
わさび平小屋 | 10:25着 | 10:35発 |
新穂高 登山者用駐車場 | 11:50着 | 12:20発 |
いつもは周りの動きに目が覚めるところ、寝過ごしてしまった。アルファ米でさっさと朝食を済ませ出発。朝から晴天・登山日和、小屋を発つ頃には靴棚がほとんど空になっていた。
昨夕、サンダルで小屋の周りを散歩した折に左足首を軽く捻挫したところが、下り道でまだ痛む。難儀。
好天早朝、宿泊客が発った双六小屋
弓折分岐までの稜線歩きは展望よし。足元の高山植物から目線は遠く山並みに向く。
槍ヶ岳 西尾根に湧き立つ雲
くろゆりベンチを過ぎるころから、すれ違う登山者が多くなる。
くろゆりベンチ 加賀白山 遠望
展望の稜線歩き
陽あたりのよい尾根筋のチングルマは、この時期早咲きして実になっている株が多い印象。
朝露に濡れるチングルマ(実)
鏡平へ下る尾根筋を俯瞰する。登り途中、弓折中段で小休止した自分の体力が透けて見える。
鏡平俯瞰
広い池の畔に立つ鏡平山荘。木道の橋が架かる前、登山道はどこにあったのかと、ふと思う。
鏡平山荘
鏡池で写真休憩。雲が沸き上がる前、高層雲の空をバックに槍・穂高連峰のシルエットが映える。昨日の夕陽に照らされた槍・穂高連峰は、ここでも見えた?(奥丸山の稜線近くまで雲海が迫っていました)
鏡池 槍・穂高連峰の眺め
小池新道シシウドが原から焼岳と乗鞍岳を遠望する。左俣谷に架かる林道分岐の橋が間近に見えるが、案外と遠い。
日曜日とあって多くの登山者とすれ違う。
シシウドが原 焼岳、乗鞍岳を望む
秩父沢で補給食休憩。よく整備された石畳の道を下り、林道に降り立つ。林道分岐の橋のたもとに自転車が2台駐輪。
岩が敷き詰められた道
途中、わさび平小屋前で最後の休憩をとって林道をのんびり歩き、出発地の駐車場に帰着。
満車の駐車場に帰着 日差しが暑い
下山後のロングドライブは疲労運転の惧れがあるので、休息を兼ね麓で一泊する慣わし。
栃尾温泉の荒神の湯(露天風呂)に寄り、本日は平湯温泉で宿泊、翌日高山観光に寄り、無事帰宅。
以下、反省。
“日本で一番遠い温泉”を20〜30代の頃の感覚で行程を組むのは無謀な試みだった。
当日キャンセルした高天原山荘は、帰宅翌日山小屋の事務局へ電話連絡し、請求を待たずキャンセルポリシーに従って指定の銀行口座へ宿泊キャンセル料を振込んだ。これは勉強代。次は年相応に無理のない計画立案に心がけよう。