登山手帖

北アルプス 犬ヶ岳 栂海新道
昭和58年(1983年)7月30日(土) 〜 8月1日(火)

強風に乗ってガスが流れる黒岩平
黒岩平


7月30日(土) 蓮華温泉

白鳥3号の1号車は禁煙車なので、乗客は他の車両より若干少ないようだ。夏休みのウィークエンドの列車で混雑を予想していたが、始発駅ではまだ座席に余裕があった。

天気は曇がちで車窓から遠く山並みを見ることはできなかった。海岸沿いを見渡しても、あまり海水浴客の姿は目につかなかった。遠く水平線の灰色の空と接して鈍く煙っていた。

糸魚川〜平岩と乗り継いで、臨時のバス(15:54発)で蓮華温泉へ。4年前の夏に来たときより道路は舗装されていて、ずいぶんと快適になっている。

路線バスの退避所
路線バスの退避所

雲行きが怪しくなり、夕立が降る。ガスに霞んで、展望は利かない。蓮華温泉テントサイト17時19分着。すでに30余のテントが張られていて、ほぼ満員。

山小屋から少し離れているので、温泉に行くには3分ほど歩かなければならない。ひとしきり雨が降った後、20時から21時過ぎまで薬師湯、仙気湯、黄金湯と露天風呂めぐりをする。前2つは展望の良い所に有り、少し湯温は低いが、晴れれば星空を見ながら温泉気分が味わえよう。後1つは澄んだ湯で、東京の1パーティーといっしょになった。

7月31日(日) 蓮華温泉 ・・・ 白高地沢 ・・・ 朝日岳 ・・・ 黒岩平 ・・・ さわがに山 ・・・ 犬ヶ岳栂海小屋

蓮華温泉 3:25起床 5:00発
瀬戸川歩道橋 6:10着 6:20発
白高地沢 7:10着 7:35発
カモシカ原 8:40着 9:10発
白高地栂海新道分岐点 10:37着 11:03発
朝日岳 11:25着 11:35発
白高地栂海新道分岐点 11:45着 11:50発
黒岩平 13:32着 13:45発
さわがに山 15:25着 15:35発
犬ヶ岳栂海小屋 16:30着  

曇。朝日岳方面へはほぼ1番で出発した模様。兵馬ノ平への木道は坂道も含めよく整備されていた。雨で濡れていたので傾斜している坂の上では滑りやすく気をつかう。兵馬ノ平で時雨に遭う。主稜線上は層積雲の厚い雲がしっかりかぶさっており、雲の流れも速い。

瀬戸川に架かる橋
瀬戸川

瀬戸川に架かる橋は、桁の大きなものに改修され、網目の鋼床板は取り外し式になっている。

白高地沢
白高地沢

白高地沢には木製平板の渡しがあり、流失したときの用意か、五輪尾根側の河原に同じものが立てかけてあった。五輪尾根から蓮華温泉が望める。

五輪尾根
五輪尾根

カモシカ原
カモシカ原

カモシカ原には雪田の傍らに水芭蕉が咲いていた。白高地の分岐点は西向きの強風。すでにガスの中で、ここから先はセパレーツ着用。

栂海新道への分岐点
栂海新道への分岐点

朝日岳ではカメラのレンズが瞬く間に曇って処置なし。長栂山の池塘周辺は、ほとんど踏み荒らされていない。水芭蕉の群落もあった。相変わらずの強風とガスの中で、アヤメ平、黒岩平の景色を楽しむ余裕なし。

黒岩平
黒岩平

3パーティーとすれ違い、1パーティーに追いついた。黒岩山、さわがに山、犬ヶ岳の稜線は下薮、ぬかるみ、木の根で行く手を阻まれ、休憩に適した所も少なく、疲れた体にはいささかきつい。

犬ヶ岳
犬ヶ岳

栂海山荘直前の水場は獣道を下った先のガレ場の中にある。一歩また一歩と足元が崩れ落ち、まるで蟻地獄。決死行の水汲みになる。山荘はすでに満員で、必然的にテントとなる。テント3張りで小屋前の空き地は一杯。

8月1日(月) 栂海山荘 ・・・ 黄蓮山 ・・・ 白鳥山 ・・・ 風波 ・・・ 親不知

犬ヶ岳栂海山荘 3:05起床 5:15発
黄蓮山の水場 7:30着 7:55発
白鳥山の手前 10:00着 10:05発
金時坂 11:25着 11:30発
尻高山の下り 12:35着 12:50発
風波 14:30着 14:40発
親不知 14:45着  

西よりの風強く、雨。ガスで展望全くなし。相変わらずの薮尾根と、前日の疲れで行程がはかどらない。1時間ほど歩いたところで、アイサワ谷側へ下る沢筋を縦走路と見誤り、15分ほど気づかずに下ってしまう。登り返すと、後続の1パーティーも同じように迷い込んで来るところだった。40分ほどタイム・ロス。

黄蓮山の水場は縦走路のすぐ近くにある。栂海山荘近くの水場標識では小屋からここまで下り1時間とあったが、1時間40分はかかる。水は豊富。菊石山の山頂は狭い。2人パーティーを追い抜く。

やっとの思いで白鳥山到着。展望は樹林で遮られ、山頂を示すものは路傍の三角点だけ。ここから先は縦走路が明瞭で、歩きやすくなる。雨はやむ気配なく、道には水が流れ、樹林の幹の表面は滑滝のように水が流れ落ちている。ザックの中も着ているものも、すっかり濡れてしまう。

金時坂
金時坂   悪天候の中、暗い樹林の山道をひたすら下る

シキ割は沢筋に沿って道が続いているので迷いやすい所。テントが1張りあった。3張りくらい張れそうである。坂田峠に石仏が一つ。尻高山の下りで送電線を越えて山腹を巻きながら北へ向かう道に迷い込む。25分のタイム・ロス。

二本松峠近くには松の老木がいくつかある。入道山には大きな標識があるが展望はない。水でふやけた足にまめができて、最後の下りは辛かった。風波はトンネル工事現場があり、また栂海新道の入口を示す大きな標識もあった。

栂海新道の入口
風波の栂海新道の入口

ここから5分ほど大きなトラックも行き交う道路をとぼとぼ歩き、親不知観光ホテル前のバス停で本日の行程を終了する。2日で20時間歩き、目の前の海岸へ降り立つ元気なし。

頚城バスが夏季シーズン中(7/20〜8/22)1日2便市振と糸魚川を往復している。15:49の市振行きのバスで市振駅まで。10分の乗車。この天気で観光客はもちろん他の下山者もなく、一人乗客である。

市振駅で荷物の整理。ゴアテックスのカメラ袋がかろうじて浸水を免れたが、他は水濡れ全滅。着衣も着干し。帰りの電車内で、濡れて破れそうになった紙幣を財布から取り出し、窓ガラスに貼り付けて乾かす。分厚い登山手帖も水没したように濡れた。

帰宅までザックの革底からとめどなくしみ出てくる水が、長時間の雨水責めを物語っていた。

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