登山手帖

北アルプス 剣岳・立山〜笠ヶ岳
昭和56年(1981年)8月13日(木) 〜 8月21日(金)

朝日に映える剣岳
剣岳


8月13日(木) 欅平・・・ 祖母谷温泉

欅平 15:27着 16:18発
祖母谷温泉 16:45着  

昨年の夏、ひどい靴ずれのため祖母谷温泉で頓挫した北アルプス大縦走の続きをする。大阪〜敦賀間は満員、次第に乗客の数は減ってくるが、富山で再び満員になる。

欅平
欅平

気がかりだった黒部峡谷鉄道もすんなり乗り込め、まずは順調なスタート。祖母谷温泉では、すでに多数のテントが張られていた。雪解けが半月ほど遅いらしいが、この谷間にもあちらこちらに残雪があった。20時ごろ露天風呂に入る。湯加減はなかなかよろしい。

祖母谷温泉のテントサイト
祖母谷温泉のテントサイト

天気は思わしくないが、月は何とか見える。入山初日のザックの重量は25.5kg(水含まず)。中身は大半が食料。20:50就寝

8月14日(金) 祖母谷温泉 ・・・ 欅平 ・・・ 阿曽原 ・・・ 仙人湯小屋

祖母谷温泉 4:00起床 6:00発
欅平 6:37着 6:45発
水平道の手前 7:17着 7:38発
トンネル 8:40着 8:50発
志合谷 9:00着 9:0発
三段の滝見 10:05着 10:46発
阿曽原 11:42着 12:08発
阿曽原峠 12:48着 13:10発
登り途中 14:15着 14:33発
仙人湯小屋サイト 14:55着  

一時満天星空だったが、雲がかかってくる。天気はよく、欅平へ行く道から毛勝三山の稜線が朝日を受けて明瞭に見える。欅平の駅はまだ閉じたままで、昨日の賑やかさはない。

急登を大汗でがんばる。水平道はほとんど登り下りがない。黒部川の峡谷を垣間見ながら、快適な歩行が続く。人がすれ違うことができる程度の道幅で、ほとんど絶壁のような山腹の山襞に沿って続いている。

トンネルを穿った岩場には、断崖を巻く歩道の跡が残っていて興味深い。

黒部渓谷と断崖の歩道跡

黒部渓谷と断崖の歩道跡

水平道

水平道


隋道
断崖横に穿ったトンネル

志合谷にはトンネルがあり、その中に道が続いている。大きな雪渓を横切ることはできない。トンネルは長くて狭い。ヘッドランプはザックの奥底ですぐ出せなかったので、他の人が追いつくのを待って、そのすぐ後をついて行くことにした。全くの暗闇で、途中谷の底にあたる箇所は地下水が雨のように出てくる。数分間かかって、やっと出口。

大太鼓と呼ばれる断崖絶壁をコの字に削って道がつけられているところは頭上も注意がいる。オリオ谷は堰堤にトンネルがあってその中を行く。なかなか見事な三段の滝があり、そこで休憩。

阿曽原に到着。かなり疲れて気分的にはここで泊りだが、次の日が大変なので元気を奮い起こし出発。水平道からすれ違う人の数も次第に増えてくる。雲が低く垂れこみ展望がなくなる。

やっとの思いで仙人湯小屋に到着。テントサイトはヘリポートらしい。小屋の少し下ったところに天然記念物のヒカリゴケがあった。日暮れ20時に小屋前の露天風呂に入る。暗くてわからなかったが先客数人の中に女性一人が混浴中だった。夜空に星が少し見える。21:00就寝。

8月15日(土) 仙人湯 ・・・ 池ノ平 ・・・ 真砂沢 ・・・ 剣沢別山平

仙人湯 4:00起床 6:28発
池ノ平の手前 8:00着 8:40発
三ノ窓雪渓出合の手前 9:47着 10:40発
真砂沢ロッジ 12:05着 12:35発
剣沢 13:37着 14:00発
剣沢別山平サイト 15:27着  

快晴。夕べまでに両手足かなりブヨに刺された。足のまめは化膿していない。消毒は確かに効いている。朝から優雅に露天風呂に入っている人もいる。広いヘリポートにテントは結局一張りだった。

仙人湯のテントサイト
仙人湯のテントサイト  背後に天狗の大下りと唐松岳

小屋泊まりの人はほとんどが下山。登山道を少し行くとすぐ雪渓に入る。残雪が多くて、仙人山の稜線に出るまで雪の上を歩く。快適そのもの。下山する多くの人とすれ違う。

仙人谷の雪渓

仙人谷の雪渓  白馬岳(奥)

岩壁

ロッククライミングの殿堂


稜線上に出るとまず剣の八峰の威容が目に入る。写真で見るより迫力がある。振り返ると、以前踏破した後立山の峰々が朝日にシルエットのようになって霞んでいる。

八ツ峰
八ツ峰

仙人池の展望(唐松岳・五竜岳・鹿島槍ヶ岳)
仙人池より 唐松岳・五竜岳・鹿島槍ヶ岳

仙人山を巻くようにして池ノ平へ向かい、北股の雪渓を下ることにする。下る人は少なく、登る人もあまりいない。下流で雪渓が切れているが、例年より多い残雪に応急的な巻き道がつけられている。枝や笹竹につかまらないと歩けない。

ニ股の出合からしばらくは河原歩きだが、残雪が現れ始めると道は不明瞭になってくる。スノーブリッジも渡ったが、ここには巻き道があった。真砂沢ロッジのサイト地は厚い残雪に覆われている。

真砂沢のテントサイト
日当たりのよい真砂沢のテントサイト  遠くに唐松岳

剣沢のクレバス

深く切れ落ちるクレバス

剣沢雪渓を辿る

剣沢雪渓を辿る


剣沢は登り下りの人の他に横に派生する雪渓に入っている人も多く見られた。

剣沢のテントサイト
剣沢のテントサイトから 夕照の剣岳

剣沢別山平の剣沢小屋、野営場管理所周辺は広大なサイト場。給水施設はいたるところにあり、テントの団地になっている。19:45就寝

8月16日(日) 剣沢別山平 ・・・ 剣岳(往復)

剣沢別山平サイト 4:15起床 5:55発
剣岳 8:00着 8:25発
剣沢別山平サイト 10:00着  

未明3時ごろからサイト周辺が少しずつ騒がしくなって、早い朝を迎える。味噌おじやの朝食をかき込んで、カメラとキャンデー十数個を持って剣岳へピストンに行く。調子よく、前剣まで1時間くらい。前剣の斜面に雷鳥がいた。

剣岳
前剣から 剣岳

剣岳までもうすぐと思っていたが、かなり急な岩場で、順番待ちのようにゆっくりペースになっていく。避難小屋周辺が特に険峻で、鎖に全く頼らず登るのは難しいと感じた。

タテバイ・ヨコバイ
程よいスリル感の岩稜伝い タテバイ ヨコバイ

鎖場

鎖場

剣岳の展望(立山)

剣岳の山頂から 立山


剣岳の山頂は案外広くて、人で一杯だった。展望は申し分なく、富士山まで見渡せた。こんな快晴の日も珍しい。

剣岳の展望(針ノ木岳)
針ノ木岳

剣岳の展望(白馬岳)
白馬岳

剣岳の展望(鹿島槍ヶ岳・爺ヶ岳)
鹿島槍ヶ岳        爺ヶ岳

サイトに帰着する頃は剣岳にも雲がかかるようになった。サイト地一帯に緑色の小さな甲虫が大発生し所かまわず飛び回っていた。今日は移動せず、のんびり過ごす。落ち着いてみると気づかぬ間に右首筋をダニに喰われていた。午後になると剣沢にもガスが巻き始める。昨日と比べるとテントの数はかなり減った。20:15就寝

8月17日(月) 剣沢別山平 ・・・ 大汝峰 ・・・ 一ノ越 ・・・ 獅子岳 ・・・ 五色ヶ原 ・・・ 越中沢岳

剣沢別山平サイト 4:12起床 6:20発
別山の手前 7:11着 7:20発
大汝峰 8:40着 9:13発
雄山 9:25着 10:05発
一ノ越 10:37着 10:50発
獅子岳 12:16着 12:35発
五色ヶ原 14:00着 14:30発
鳶山 15:15着 15:20発
越中沢岳・幕営 16:20着  

昨日と比べてテント内の結露は少なかった。朝から雲が湧き始めているが、天気はよい。

大汝峰の展望(穂高連峰)
大汝峰から 穂高連峰

大汝峰の展望(剣岳)
大汝峰から 剣岳

立山連峰を縦走する人の中には、観光客に近いような格好の人もいる。室堂の地獄谷から風にのって硫黄の臭いがする。大汝峰から黒四ダムが見える。雄山は神社の敷地のようで三角点よりはるかに高いところに参拝料を払って入る頂上がある。

立山の山頂記念撮影
立山 北アルプス3000mの頂稜

一ノ越から観光客が多数上がってきて、それにあわせて何度もお払いがある。遠くからでも小太鼓の音が聞こえる。お神酒も出る。下りが大混雑。一ノ越も人だかり。室堂から続々と観光客が上がってくる。雄山神社は超満員に違いないと思いながら、人気のない浄土山へ向かう。

立山の展望(龍王岳・五色ヶ原)
立山から 龍王岳 五色ヶ原

ゆっくり歩いて五色ヶ原へ。サイト地には既にテントが3張りあった。湿地性の土地で幕営適地はそれほど多くない。トイレはよく清掃されているが、サイト地はゴミが散乱していた。高原のお花畑に囲まれたテントサイトを想像していただけに、幻滅。

時間も体力も余裕はないが、次のサイト地を目指し先へ進む。陽が西に傾き夕刻迫る頃、越中沢岳に到着。

越中沢岳の展望(五色ヶ原)
越中沢岳から 鳶山五色ヶ原

一人幕営
時間切れで幕営

残雪の湧水とサイトに適した平坦地がいくつかあったので、今日はここで幕営する。20:20就寝

8月18日(火) 越中沢岳 ・・・ スゴ乗越 ・・・ 薬師岳 ・・・ 太郎兵衛平

越中沢岳 4:52起床 6:18発
スゴの頭 7:09着 7:20発
スゴ小屋 8:25着 8:37発
間山 9:32着 9:54発
北薬師岳 11:10着 11:28発
薬師岳 12:03着 12:40発
太郎兵衛平 13:55着  

寝過ごす。きれいな朝焼け。

早暁のテントサイトの展望(鹿島槍・爺・針ノ木岳)
朝焼け  鹿島槍・爺・針ノ木岳

高曇で悪天候の兆し。一晩中ガスに巻かれたせいか、テントの中は所々水溜りができるほど濡れていた。展望はよいが、次第に雲が広がる。

薬師岳
薬師岳

スゴの頭、スゴ乗越へは距離は短いものの岩がごろごろした歩きにくい道で、時間がかかる。スゴ小屋前のサイト地はあまり広くない。給水施設がある。間山の旧サイト地は明るくてなかなかよさそうな所である。薬師岳の登りは緩やか。風がやや強く、肌寒くなってきた。

間山の展望(水晶岳・雲ノ平・黒部川の源流)
間山から 水晶岳 雲ノ平 黒部川の源流

すれ違う人が多い。北薬師岳で風を避けて休む。薬師岳の頂上でも同様。薬師岳の周囲だけ雲がかかっていない。剣、五龍、鹿島槍から烏帽子、唐沢、赤牛岳、雲ノ平などが見える。あとは雲の中。

薬師岳の展望(越中沢岳)
薬師岳から 越中沢岳

薬師の下りにかかると頂上からガスに巻かれ始める。太郎兵衛平のサイト地はけっこう広い。給水施設も立派。16時半ごろ小雨。19:50就寝

8月19日(水) 太郎兵衛平・・・ 薬師沢 ・・・ 雲ノ平 ・・・ 三俣山荘サイト

太郎兵衛平 4:15起床 7:05発
薬師沢小屋 9:20着 9:36発
雲ノ平山荘 12:20着 12:35発
三俣山荘サイト 14:55着  

雨。テントの撤収に手間取る。稜線を避け、雲ノ平経由で三俣へ行く。薬師沢目指し下り始めると雲の下に出て視界が広がる。大きな沢の渡渉点は蛇篭で堰きが作られているので、渡るのが容易。

雨に霞む針葉樹と笹の小径
雨に霞む針葉樹と笹の小径

薬師沢小屋に到着。雨上がりを待つかのように人が休憩している。吊り橋を渡ると、しばらく急登。登山道は雨水が滝のように流れる。再び雲の中に入り、登り勾配が緩くなって、雲ノ平の領域。

ガスで景色が眺められないのが残念。雲ノ平山荘になかなか着かないと感じたほど広いところだ。風を避けて山荘横で休むが、やはり肌寒い。テントサイトに数張りテントがあった。祖父岳の山腹を巻くように下り始める頃、陽が差しはじめる。

祖父岳の雪田から雲間の鷲羽乗越
祖父岳の雪田から雲間の鷲羽乗越

雲の下に出て三俣山荘が見えるところで、喉の渇き覚え水を飲む。三俣山荘サイト地に到着。すっかり濡れたテントを張り、シュラフを干す。満天星空。20:25就寝

三俣山荘のテントサイト
三俣山荘のテントサイト  大天井岳(正面奥)

8月20日(木) 三俣山荘サイト ・・・ 三俣蓮華岳 ・・・ 双六小屋 ・・・ 笠小屋

三俣山荘サイト 4:00起床 5:55発
三俣蓮華岳 6:38着 6:54発
双六小屋 8:28着 8:57発
鏡平分岐 10:00着 10:15発
2628付近 11:13着 11:39発
笠新道の分岐 12:51着 13:15発
笠小屋 13:49着 14:10発
笠ヶ岳 14:32着 14:40発
笠小屋サイト 14:52着  

快晴。サイト地から槍ヶ岳と北鎌尾根が間近に見える。双六小屋へは山腹の巻き道があるが、山稜通しに行く。三俣蓮華の山頂から大展望。遠く加賀白山も見える。剣岳、立山が霞んで見える。常念岳の向こう側は朝日に輝く雲海。西鎌尾根は滝雲が流れている。

三俣蓮華岳の展望(雲ノ平)
三俣蓮華岳山頂から雲ノ平

三俣蓮華岳の展望(槍・穂高連峰)
槍ヶ岳と西鎌尾根にかかる滝雲

双六岳まで山稜漫歩。笠ヶ岳も近くに見える。

笠ヶ岳
笠ヶ岳へ続く稜線

三俣蓮華岳の展望(大天井岳・常念岳)
大天井岳 常念岳

双六小屋の横に給水施設。人影が少なく閑散としている。大ノマ乗越への巻き道は廃道になっていた。気温は高くないが、日差しが強くやや暑さを感じる。すれ違う人もあまりなく、笠ヶ岳へ行く人はほとんど見かけない。

笠ヶ岳への山稜は思ったより長い。雪田のある所には、剣沢で大発生していたのと同じ緑色の小さな甲虫がいた。飛び回っては所かまわずとまりに来る。秩父平はお花畑になっている。抜戸岳は巻き道を通る。槍ヶ岳、穂高岳の展望台の稜線から下は新穂高温泉も見える。

笠ヶ岳のサイト地に着く頃、雲が広がり間もなく展望がなくなる。笠ヶ岳にピストン。ガスで何も見えないが、ここまで踏破してきたことに感無量。

水場は雪田の末端から湧水。18時半ごろ夕立。大雨でテントサイトが洪水。テントの中が濁流になり、大慌てで側溝を掘る。Tシャツを雑巾代わりにして排水作業、19時過ぎまでパニック状態。20:00就寝

8月21日(金) 笠小屋 ・・・ 杓子平 ・・・ 笠新道 ・・・ 新穂高温泉

笠小屋サイト 4:05起床 5:58発
杓子平のはずれ 7:02着 7:11発
新穂高温泉 9:30着  

風強し。曇。槍ヶ岳の肩から御来光。遠く剣岳も見える。

笠ヶ岳の肩の展望(薬師岳・剣岳・立山)
笠ヶ岳の肩から薬師岳(左) 剣岳・立山(右)

10:30発のバスに間に合わせるため下山を急ぐ。笠ヶ岳のピストンは昨日行ったので割愛。杓子平は圏谷のよう。お花畑と雷鳥の親子連れも。穴毛谷から新穂高温泉が直接見通せるが、一般登山者は笠新道を通る。杓子平のはずれから最後の展望。ここから下の林道まで1000m余り一気に下降する。

笠ヶ岳
雲がかかる笠ヶ岳

新穂高温泉を俯瞰
新穂高温泉を俯瞰  間近に見えるのに、かなり遠い

急斜面の山腹に登山道がほぼ水平にジグザグにつけられているので、歩けど歩けどなかなか下った感じがしない。この笠新道は登路に使うとかなりハード。それでも下る途中で何人かの登山者とすれ違った。

休まずやっとの思いで林道に出る。時間があまりないのでそのまま新穂高温泉へ。バスの切符を買ってすぐアルペン浴場へ。7日分の疲れを洗い流すと、すぐバスの出発時刻になった。

バスは最近になって新型の観光バスを導入したもの。同乗する添乗員が観光案内までしてくれる。この添乗員の話がなかなか面白い。この路線は3度目なのに話を聞くだけで車窓の景色も違ったものに見えてくる。高山で2時間の暇ができたので昼食と土産もの周りをする。急行の改札が15分前。既に長い待ち行列ができていた。

昨年の夏山で靴擦れに懲りて靴下の選択に留意した。特に薄い靴下は要注意。バンソウコウは1日3枚くらい用意しないとすぐ足りなくなる。また、ブヨに刺されたときのかゆみ止めの薬も必要になってくる。かゆみが2〜3日続くから蚊の比ではない。

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