(中編よりの続き)
|
部屋に戻ったアルベルトはベッドに横たわり、天井を見つめていた。 |
ひとり、胸の内で自問自答を繰り返す。 |
− 何故、俺は負けたんだ? − |
男とか女とか、それは関係なかった。 |
イタリアーノ2人がかりでジャッポネーゼに負けたことも、 |
もうどうでも良くなっていた。 |
でも、アルベルトは自分の実力には確固たる自信があった。 |
前回の引き分けは「負けなかったのだから」と理由を見つけて消化した。 |
だが、今回は違う。「負け」を受け入れねばならない。 |
イタリアでも常にライバル争いでは勝ち続けてきた。 |
|
ふと何気なく寝返りを打ったアルベルトの目に1枚の写真が映った。 |
写真には3人の人物が並んで写っていた。 |
アルベルト、それにエレーナ、そして年配の男性・・。 |
『コーチ・・・・』 |
その写真を見ているうちに、アルベルトは一つの言葉を思い出していた。 |
《ル・クリオ、ジョカトーレが成長していく上で最大の敵はなんだと思う?》 |
|
アルベルトがまだ、インテルのアッリエヴィ(16歳以下のチーム)にいる頃。 |
ピッチの上でのアルベルトの気の強さは有名だった。 |
それはとりもなおさず、彼の過剰なまでの自信から来るものだった。 |
普段の彼とはまるで別人のようにさえ感じられた。 |
当然、アルビトゥロ(審判)やチームメートとの衝突も多かった。 |
時にはアッレナトーレ(監督)にまで食って掛かることさえ、あったくらいである。 |
|
ある時、アルベルトは度重なる傲慢ぶりにフロントから謹慎を命ぜられた。 |
− 何故、俺が処罰を受けなければいけない? − |
− 悪いのは俺のプレーについて来れないアイツらじゃないか! − |
|
アルベルトはそんな苛立ちを抱えながら、近所のグラウンドに来ていた。 |
ピッチでは、サッカー始めたばかりのエレーナが無心にボールを追っていた。 |
『ル・クリオ、ちょっと良いか?』 |
不意に掛けられた声に振り向くと、そこにはコーチが立っていた。 |
『またアッレナトーレともめたらしいな。懲りないヤツだ』 |
『俺、チームを辞めます。もううんざりだ!』 |
アルベルトは、吐き捨てるように言った。 |
『そうか』 |
コーチは否定も肯定もせず、ただじっとエレーナの動きを目で追っている。 |
『ル・クリオ、ジョカトーレが成長していく上で最大の敵はなんだと思う?』 |
『何ですか、急に?!』 |
アルベルトはコーチの口から出た突然の問いに困惑した。 |
『何だと思う?』 |
『俺は、・・周りのレベルの低さ、今のチームがそうだと思います』 |
謹慎を命ぜられた苦々しさを思い出しながら、アルベルトはそう答えた。 |
|
『違うな。最大の敵は己の中にある慢心、驕り高ぶったこころだよ』 |
コーチの言葉はアルベルトの心を揺さぶった。 |
『例えば、あの子のプレーを見てどう思う?』 |
『エレーナ?どうもこうも無いですよ。下手も良いトコだ』 |
『そうか、しかしあの子はこれからもっと上手くなるはずだ。もしかしたら |
ディレッタンティまで行けるかもしれないぞ。だが、今のキミはダメだ。 |
そのままではセリエAのピッチに立つことは無いだろうな・・』 |
このときの衝撃は計り知れない。 |
『周りのレベルが低かったらなぜその選手を活かすプレーをしないんだ? |
そうすることで相手の呼吸を読み、息のあったプレーを学べるのに?? |
キミの持ち味は想像力溢れるゲームメイクではなかったのかな?』 |
忘れていた・・。サッカーは個人技だけでは勝てないスポーツだということを。 |
そのために中盤の自分のプレーが重要なことを・・。 |
『あの子を見なさい。実にひたむきにボールを追っている。あの子の中には |
慢心などかけらもない。今のキミは慢心の塊ではないのか??』 |
|
アルベルトは思い出していた。 |
あの時のコーチの言葉を。 |
あれから本当の意味でチームに打ち解け、チームプレーを学んだことを。 |
そして、その時の自分をまた忘れてしまっていた自分に気がついた。 |
− どうして俺はあの時、ゆかりのの手を取らなかったんだ! − |
自分はもう、勝負をする前から既に負けていたんだ。 |
|
《慢心は成長の最大の敵》 |
|
− 明日、ゆかりのとピッポに謝ろう。そこからまた始めるんだ! − |
そう誓ったアルベルトの顔には、いつもの笑顔が戻っていた。 |
(完) |
(最初に戻る)
あとがき
最近まったく更新してない、ぐーたら@作者です。
これはですね、実は数年前に書いた物なんです。
その頃、ウェブでPBM形式のPRGを遊んでまして。
メールで自分の行動選択を送ると、行動結果が
メールで返ってきて、また次の行動を送るという物です。
自分のキャラクタ(アルベルト)はサッカー部所属でした。
で、サッカー部のメーリングリストなんかありまして、
この文章はその中での読み物として書いた物です。
当時メーリングリストに参加していた方が
もしもこれを読んでいたら、すいません。
元の文章の雰囲気などを損ないたくないため、
キャラクター名や、設定など当時の物をそのまま
使用させていただいています。ご了承下さい。
なお、この作品はあくまでフィクションです。
Update 2003/05/25
2003 Masato HIGA / HIGA Planning.