*****渡辺みゆきの記録*****



『私は必死で考えました。
3年という短い時間を生きるか。
一生を嘘の愛の中で彼と共に暮らすか。
それとも・・・・死か。


悩んで悩んで、それでも解らなかった。


けど・・・・・・、彼が信じられない事を言ってくれたんです』



3月14日晴れ



彼が私を浜辺まで連れていってくれました。
窓越しからとは違って、海の音がよく聞こえて海の匂いもしました。
何度も何度も同じ事を繰り返す、波。
いえ・・・・同じじゃないのかもしれない。
その一つ一つが生命をもっていて、一生に一度だけ浜辺に
やってくるのかもしれない。

だから、何度見ても波は美しいのかもしれない・・・。
一瞬だから。



彼は私を真剣な瞳で見つめました。
いつもとは違った表情・・・・。とても緊張した面持ち。

「みゆき。手術の事、悩んでいるんだろう?
手術の成功率は30%だって聞いたよな?」

彼は黒い人が言っていたように何も知らないようでした。
例え私の手術が成功したとしても、3年しか生きられないという事実を・・。
だけど、黒い人のやり方は正しかったのかもしれない。
彼は優しすぎるから、きっとこの事を知ってしまったら
反対するに決まっているもの。


「みゆき・・・・」
思いつめたように私を真っ直ぐと見つめます。



そして、彼はこう言いました。



「結婚してくれないか?」



彼の信じられない言葉に、私は彼の言っている言葉がしばらく理解
できませんでした。
今、何て言ったの?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・結婚?
どうして?だって彼は私の事を。
「みゆきが手術をしてもしなくても、どちらだって言うつもりだった。
君と結婚がしたい。
いや・・・・これは最初に言うべきだった事なのかもしれない。
俺達が卒業して別れ別れになる前に・・・」

彼は泣いてしまいそうな瞳で必死に言います。
「これは、責任とか罪滅ぼしとかそんなんじゃないんだ。
ずっと好きだった。事故にあう前もあとも、今もこの先も・・ずっと・・・・」



彼は・・・・・。
彼は私と同じだったの?
私と同じように、何も言えないで別れてしまった事に後悔していたの?
信じられない。だって、ずっと後悔されていると思っていた。
私と出会った事に。
出会ってこんな事になってしまった事を、むしろ憎んでいるのかと
思っていた。
だって、そうでしょう??
私、動けないんだよ?
彼に重たい重たい責任を押し付けているんだよ?



それでも、彼は私を愛してくれるの?



彼は最後に、恥ずかしそうにこう問い掛けました。



「たとえ、この先の未来がどうなっていたとしても・・・・・
俺はみゆきの傍にいてもいいか?」



「・・・・・・」


波の音が小さく聞こえました。



・・・遠くの方に波がある感じ。
頭の中がスッキリとした不思議な感じで、ふわふわして
嬉しくて嬉しくて涙が出そうで叫びたくて、どうしようもない感じ。

ああ・・・・・そうだ。
そうなんだ・・・・・・・・・・。
生きるって、こういう事なんだ。


こんなにも素晴らしい事だったんだ。














私は、ゆっくりと一度だけ目を瞑りました。



「いいよ」って・・・・・・・・。

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