*****渡辺みゆきの記録*****



**2月30日雨**


彼と暮らし始めて半月が経ちました。
今日は、今まですっかり忘れていた事を思い出しました。

それは黒い手紙の事です。
今まで色々な事がありすぎて全然考えるのを忘れていたけど、あの手紙はいったいなんだったんだろう? どうして、正樹があの日あの時間で事故にあうって解っていたんだろう? そもそも誰が何のために?

考えれば考えるほど疑問が浮かんできます。
そして考えるほど恐ろしくなってきます。
私はすぐ傍で本を読んでいた正樹をチラリを見ました。
それに気づいた正樹は私の方を見ます。
「どうした? みゆき」
心配そうな正樹の表情が見えました。
私はゆっくりと、瞬きを二回しました。
「何でもないよ・・・」って。
すると彼は安心したように、また本を読み始めます。

そんな彼の表情を見ていたら、少しだけ気分が安らぎました。

考えてみれば、今更あの手紙の事を考えたって何にも変わらない。
黒い手紙の事を彼に教える手段もないし、教えたからって何か変わるとは思えない・・・・・・。

あの手紙の事はもう考えないようにしよう・・・・。


**3月10日晴れ**


彼と暮らし始めて、もうすぐ一ヶ月近くになります。
相変わらず部屋には楽しい音楽が流れ、彼は毎日のように笑顔でした。

そんな彼が今日だけは何か考えこんでいました。
とても真剣に、苦悩しているようにも見えました。
どうしたんだろう? って思って私が彼を見つめていると、彼がそれに気づきました。
「ああ、起きていたんだね? ごめんよ、気づかなくて」
彼がいつもの笑顔に戻りました。
「ちょっと、仕事で色々あってね。それで少し考えていたんだよ」
明らかに彼は嘘をついているようでした。
何か・・・もっと大きな事で悩んでいるように見えました。
「・・・・・」
彼は笑顔のまま、私の髪をゆっくりとなぜます。
「まだ一ヶ月しか経っていないのに、髪の毛がのびたみたいだな・・・。切ろうか・・・、それとも、君は長い髪の毛が似合っているから、このままにしたほうがいいかな?」
彼はそう言いながら、どこか悲しげに私の髪の毛を見つめていました。
「一ヶ月か・・・。一ヶ月しか経っていないのに、もうみゆきとはずっと一緒にいるみたいだ」

そして、私を見つめます。

「みゆき・・・・・・・・・・、もし・・・・もし、君が・・・・・・・」

彼は私の髪の毛を離しました。
そして何か決意のような眼差しを見せ、やがて笑いました。


「やっぱり、髪の毛はこのまま伸ばしたほうがいいな」

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