*****渡辺みゆきの記録*****



『運命って本当に不思議ですよね。
皮肉にも、私達は共に同じ時間を歩む存在になってしまった。
彼は重すぎる罪を少しでも償うために・・・。
そして私は、愛する彼の傍に・・・。


これは後に解った事なのだけど、
私の婚約者は、一度病院に訪れてから
二度と現れる事はなかったそうです・・・。』



***2月15日曇***


不思議なほど広い空間。
大きな白いベットに、白いカーテン。
綺麗な花にたくさんの人形、外の景色は海だった・・・。
彼は私のために家を買い、たくさんの物を買ってくれました。私が少しでも暇をしないように、色々な音楽が流れたくさんの綺麗な物が置かれていて、綺麗なドレスを着せてくれた。

彼は私の目の前ではいつも笑顔でした。
色んな本を読んで聞かせてくれて、私を褒めてくれた。
けど・・・、時折彼の瞳が曇るのに・・・、私は気づいていました。

「みゆき、覚えているかい?まだ小さかった頃、よく二人で海に遊びにいったよな。まだ夏のなりかけなのに、海で遊んで二人で風邪ひいちゃってさ・・・。あの頃の俺達は何もかも一緒だったよな。好きな物も嫌いな物も」
「あの頃が一番楽しかった・・・・。子供の頃は早く大人になりたいって、何度も思った・・・・。けど、実際大人なんて面倒な事ばかり、勉強して働いて、毎日同じ事ばかり繰り返して・・・知らないうちに遊ぶ事ができなくなってしまった」

「何で、人間って、大人になっちゃうんだろうな・・・・・・」
彼はそう、呟くように言いました。

私も同じ事を何度も思いました。型にはめられたような大人が大嫌いで、でも結局自分も同じ道を歩んでしまう。そんな自分も大嫌いだった。
・・・ある意味、私はその型にはめられた人生から抜け出しています。
それは、とても幸福とは言えないけど・・・。
けど、私の目の前には彼がいます。

彼は、きっとこの人生を望んではない。
深い深い罪の意識から生まれた運命。
だけど・・・・・・・・私は、私の心は不思議と落ち着いていました。
彼を恨んだり、怒ったりする気持ちなんか少しも浮かばなかった。

なぜって?





それは、たとえ束縛と言われても。
私は彼を永遠に手に入れたのだから・・・・・。


**2月25日雨**


彼と暮らし始めて、もう10日ほど経ちました。
今日は、彼が私に絵本を聞かせてくれました。昔から正樹は本を読むのが上手で、何度聞いても聞き飽きないくらい綺麗な優しい声で読んでくれます。
目を瞑ると、まるで自分が絵本の中にいるかのように、少しだけ・・・自分が自由になった気がします。

「眩しくないかい?」
「お腹はすいていないかい?」

彼は読んでいる途中でも、私の事を何度も優しく気遣ってくれます。
その度に私は瞬きを一度し、大丈夫だよって教えます。
駄目な時は瞬きを二回。
それが、彼との唯一の会話です。

その度に彼は微笑みます。

私は彼と一緒にいる間だけ、本当に幸せになれます。
一人でいる時はとても絶望的な気分になったりする。
けど、彼といると。
このままでいい・・・・・。

何て思ってしまう事もあります。


我がままを言えば、
彼が心から私の傍にいたいと願ってくれれば、
私は他に何も望みません・・・。

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