*****渡辺みゆきの記録*****



『そう。
私はあの時、とても大きな事故にあいました。
大型トラックを運転していた男性が、突然の心臓発作。
運転主を失った車は、彼へと一直線に飛び込んできました。

私は、彼を守る事ができました。

自分の幸福と引き換えに・・・。』



***2月6日雨***


あの衝撃的な日から数日後。私は目を覚ましました。
一番最初に映った景色は白い天井でした。
微かに薬品の匂いがして、点滴も見えます。
どうやら、ここは病院みたいです。
私は、なぜここにいるのかも何も解らなくて一生懸命記憶を辿りました。
・・・そうだ!
あの黒い手紙が届いて、彼を守ろうと思って走って、そうしたら彼がいて彼を守って・・・、彼は悲しい顔をしていた。

「みゆき!! 目が覚めたのか!!!」
思いもしなかった声が、私の元へと近寄りました。
「ああ、よかった・・・。神よ、ありがとう・・・」
正樹でした。
でも、私の知っている彼とは違って、とても悲しい瞳をしていました。普段、神様なんか信じないのに、彼は手を結び心から感謝しているようでした。
彼の表情は悲しみと苦痛を表し、涙が絶えず零れ落ちています。
「・・・・・」
彼のその表情を見て、私は思い出しました。
ああそうだった・・・。私は彼を守ろうとして、何かに押し潰されたんだ。
あんまりに一瞬だったから、それは何だったのか覚えていないけど、きっと車か何かにぶつかったのかもしれない・・・。
でも、その割には体はどこも痛くなく、どこも怪我はしていないようです。
「・・・・っ」
私は正樹に大丈夫だと言おうと正樹の名前を呼びました。
何かがおかしかったです。
「・・・・・・・・・・・・・っ」
もう一度、正樹と呼んでみました。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」



話せない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?



おかしい・・・。声が出ないというかそういう問題じゃなくて、口自体が動かない感じでした。・・・口ってどうやって動かしたんだっけ?

私は・・・・やっと、自分の体の異変に気がつきました。


正樹の方を向こうとしました。
正樹に触れてみようとしました。
正樹の元へ駆け寄ろうとしました。
正樹に笑いかけようとしました・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

でも・・・・・・・・何も動きませんでした。

私は訳もわからず、唯一動いた目で正樹に視線を向けると、彼は私の言いたい事が解ったように突然崩れ落ちました。
彼は私の手を握り締めます。けど、感覚はありませんでした。
「みゆき!!!! 本当に・・・本当に、何から話せばいいんだろう・・・・・・・・・。なぜ、どうして俺なんか守ったんだよ。俺はどうやって償えばいいんだよ・・・。俺はどうすればいいんだ? どうやって謝ればいいんだ? どうすればおまえに許してもらえるんだ?」

「みゆき・・・・・みゆき。許してくれ」















私は、酷い事故による後遺症によって、
体全身に障害が残りました。
運動神経のすべてが麻痺し、私の動きは永遠に失われました。











「・・・・・・」
酷い絶望感と、どうする事もできない真っ黒な気持ち。
溢れ出る涙のせいで、彼の姿がぼやけてみえました。
「みゆき・・・・・、ああ・・・・、泣かないでくれ。俺は・・・・俺は・・・・・・・」

その時、彼はこう言ったんです。




「一生、君の傍にいると誓うよ・・・・・・・・・・・」

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