*****渡辺みゆきの最後の言葉*****
ここまで私の話を聞いてくれてありがとう。 見ての通り、私の手術は成功しました。 目が覚めた時の彼の顔ったら、今まで見た事もないくらい嬉しそうに笑っていたんですよ。大声で泣いて、黒い人に何度も何度もありがとうって言って。 気のせいかな? 黒い人は少し困っていたような気がするな? 黒い人と会ったのは、それが最後でした。 あれから何日かして、もう一度あの黒い部屋に入ってみたんだけど、そこには何にも物が置かれていなくて、壁も黒くなくて、黒い人もいませんでした。 結局・・・ あの人は誰だったんだろう? なぜ私達の前に現れたのだろう? きっと二度と会う事はないと思う、いえ、会ってはいけない人・・・。 あれから一年。 私達に様々な変化が訪れました。 まずは私の体が治った事。 歩きたい時に歩き、笑いたい時には大声を出して笑う、それに海で泳ぐ事だって出来るし、大きなあくびだってできる。 それから、私達が結婚した事。 小さな教会で誰よりも幸せな結婚式を挙げました。 新婚旅行もちゃんと行ったんですよ。 それに、ちゃんと料理だって洗濯だってやって、主婦みたいな事をしてます。 それと・・・・・・・・・。 私達の間に子供が授かりました。双子の男の子と女の子で名前は由里と智也って言うんです。自分の子供がこんなにも可愛いなんて思いもしなかった。抱き上げたその瞬間から、指先から足の先まで暖かい気持ちで溢れそうで、どうしようもなく嬉しい感覚でした。 誰よりも守ってあげたい存在。誰よりも生きていてほしい存在。 ずっと・・・ずっと、傍にいてあげたい存在。 だけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 だけど、私には後2年しか時間がないんです。黒い人は私が生きるすべてのエネルギーを3年の中に押し込むんだって言っていました。だから私は3年しか生きる事ができない。 そして、あっという間に1年が過ぎ去ってしまいました。 この事はまだ彼には話していない。 いえ話せない、話せる訳がない! だって、彼を裏切った事になってしまうから。 いえ、もう裏切っているんだ・・・。 もう避ける事のできない運命なのだから。 私は、彼と二人の子供を残してもうすぐ死んでしまう・・・。 ごめんなさい。ごめんなさい。 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 お願い、私を許してください。 私を憎んでしまわないで、私を卑怯だって呼ばないで。 それでも、それでも私は私でありたかったの。 私の本当の言葉を残したかったの。 何か、私が生きた証を残したかったの。 愛する愛する、彼。 愛する愛する、子。 ねえ? これを読んでいるあなた達は今どうしているの? お友達はたくさんできた? パパのお手伝いはちゃんとしている? 学校は楽しい? 家族で喧嘩してない? 悩み事はちゃんとパパに相談してる? たくさん・・・たくさん幸せになってる? ・・・寂しいって思ってる? 私がいない事を少しでも悲しいって思ってくれてる? 知りたい。知りたいの・・・。 今の私にはあなた達の未来が見えない。 こんなに悔しい事は今までにあったかしら? どうして私の瞳にはあなた達の未来が見えないの? こんなにも願っているのに。 こんなにも強く思っているのに。 それくらい・・・それくらいいいじゃない・・・・・・・・・・・。 ・・・・ねえ、私を忘れないで。 あなた達の隣にいるはずだった、私の存在を忘れないで。 未来のあなた達の心のどこかに私がいれば きっと私は大丈夫だから。 忘れないで・・・。 最後に。 私の大切な人。 いつか、またどこかで会いましょう・・・・・・・・。 ******渡辺みゆきより、愛するあなた達へ********** |