「ゴルフの最大の欠点は面白すぎることである」との格言を、何かの本で見た記憶がある。自分にとっても、この言葉ほど身につまされるものはない。「面白過ぎるゴルフ」に取り付かれたがために、ここ10数年に渉って、休日のほとんど総てをゴルフのために費やして、他の事に使う時間を作れない。海外出張が多い生活のなかでも年間80数回コースに出てきたので、日本滞在時に、休日に体をゆっくり休めた記憶が無い。そのために、他の趣味が全く手付かずになってしまった。ゴルフを始めるまで熱中した「海釣り」も、ここ20年近く全くやっていないし、「盆栽いじり」も中途半端となり手入れも行き届かない。海外出張時にも、偶の休日があってもゴルフに出掛けてしまい、観光などした記憶がない。何処の国に行っても、仕事場と近隣の都市それにゴルフ場しか知らない。それほどまでに面白いゴルフとは何物であろうか。
ゴルフを始めたのは、丁度19年前の1980年、40歳の誕生日を迎えた直後であり、決して一般のゴルファーより早いわけではない。むしろ遅いほうであろう。それより10年余前に、ゴルフ道具一式は買いこんでいたのだ。周りの友人に強引に誘われて、一人娘の誕生祝金として会社から支給された金の全額をつぎ込んで、ミズノ製品を買いこんだ記憶がある。当時は、毎週末に泊りがけの海釣り(船釣りも磯釣りも)に出かけており、ゴルフに当てる時間など皆目なかった。買い込んだ道具も10年余り日の目を見ることなく、倉庫の片隅で埃を被ったまま放置されていた。当時、ゴルフに気持ちが向かなかったのは、もう二つの理由があったように思う。一つは、常日頃の生活で全く「マナー」に無頓着な先輩ゴルファー諸氏<無礼な表現で申し訳ありません!>が、ゴルフの話になると「マナー」を連発し、会社内ではしかるべき責任ある人が平日ゴルフに出かけては翌日仕事中にゴルフ談義に花を咲かせる、という情景を目の当たりして、どうしても馴染めないものを感じていたことである。二つ目の理由は、最初の道具を買い込んだ数ヶ月後に重症の椎間板ヘルニアを患い長い間苦しんだことである。ヘルニアが多少癒えた後も時折再発し、ゴルフは一生出来ないものという軽い不安あるいは思い込みがあった様に思う。
「それが、どうして今では?」という話である。
当時(に限らないが)海釣りでの事故が頻発し、母と妻(共に今は故人となってしまった)に、口すっぱく「海釣りは危ない。ゴルフは波に浚われることもなく、溺れることもない。安全な遊びだ。頼むから釣りは止めてゴルフにしてくれ」と、ゴルフへの転向を薦められたことと、釣り帰りの睡魔のために車の運転に些かの不安を持ち始めていた時期が偶然に一致したため、ということにしておきたい。さらに、ある雑誌で「椎間板ヘルニアの患者がコルセットを着けてまでゴルフをしていること、しかもゴルフはゆっくりと歩くから腰に良くヘルニアのリハビリ効果がある」との記事を目にしたことである。これがゴルフに対する不安感を一掃してくれた。ところで、釣りとゴルフをほどほどに、どちらも楽しむことは出来ないか?。否である。小生の性格から、あり得ない話である。何でも始めると熱中してしまうので、貴重な休みを分散して中途半端に何にでも手を出すということはあり得ないだろうと、一気に釣り道具を処分し新規にゴルフ道具を買い換えて、方向転換をはかってしまった。
練習場に通い始めた当初、先輩ゴルファーに数回同行してもらい、クラブの振り方を教えてもらったが、後はひたすら我流で練習に励み条件反射の反復・強化に努めたのが、ゴルフとの付き合い初めであった。その後は、うしろを振り帰る事も無くこの道をまっしぐらに突っ走り、気がつけば魔力に取り付かれて逃げ道のない囲いの中に入り込んでいた。
多くの初級ゴルファーの例に漏れず、初めてのコースお目見えは、利根川沿いの河川敷コースであった。先輩ゴルファー(実体は部内の若手)3人に伴われて、朝霧の中でチーグランドに立ったが、第一打は大きなスライスでいきなり川へ飛び込み、同伴諸氏を大いに喜ばせた。しかし、この一打がそれまでの緊張を一気に解きほぐしてくれた。後は先輩諸氏に対して遅れを執ることも無く、何とか着いて行けたと記憶している。特に、河川敷特有の小さい砲台グリーン廻りで、先輩諸氏が行ったり来りを繰り返しているところを、何故か苦も無くグリーン オンを先にやってのけた事が大いに自信となり、其の日のゴルフを楽しむことが出来た。18ホールのグロスは4人揃ってほぼ同じ(120余)であったと思う。
この初プレイはその後の小生のゴルフ道に大いに貢献した。既に2−3年の経験を積んでいるはずの先輩ゴルファー諸氏(あくまでも同日の同伴者に限定)と言えども、こんなものかと言う安心感を与えてくれた呉れたので、その後臆することなくゴルフの道に入り込めたと思う。
この日の同伴者には、
・ゴルフは上手くなくてもそれなりに楽しめるもんだ。
・少々やっても簡単に上手くなるもんでもなさそうだ。
・本来故人競技であり自分なりの力でやればよい
という事を教えられた。その点で諸氏には大いに感謝しなければなるまい。
これが小生の幸運なゴルフ道入門であったように思う。
<1999年05月記>
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