『ほら!見て〜!綺麗やろ?』
『まぁまぁアリス…、貴方が綺麗にしたんでしょう?よかったわね、綺麗ね』
一面が白い世界に、座って本を読んでいる女性がその瞳を柔らかく細めて見つめてくれている。どこまでも優しい眼差しに包まれて…小さなアリスは嬉しそうに笑って言った。
『うん!』
嬉しいのね、綺麗になった事が。まばゆいばかりの白に包まれたアリスが笑っているのに…汚れて仕舞う、全てのモノが…いつか浄化されて幸せな色に包まれていけばいいのにね…。そう言って少しだけ哀しそうに微笑む彼女を見てアリスは少しだけ不思議に思った。
『大丈夫やで?やって…アリスがおるから!』
そうね…、アリス。早く早く、誰かに見つかる前に大きくなりなさい、そうして…貴方が大切に想える誰かと結ばれて…世界を…世界の色を…貴方の色に………。
誰か…と。
そして…世界は色を変える。
「…んっ」
差し込んでくる光の筋にアリスは重たく閉じようとするまぶたを少しだけ持ち上げてそっと辺りを窺い見た。温かさを纏ったまま、眠っていたらしい。その眠りの中で…懐かしい夢を見ていた気がするのに、その夢を追いかけていきたいのに水が引いていく様に遠ざかっていく。その片鱗を、攫もうと思って…手を、伸ばして…ふと、自分が誰かに包まれる様にして眠っていたのだと知った。
「…あ、れ?」
「アリス、…起きた?」
「え…?」
クリアになっていく視界の中で、思いもしない近い位置から声が聴こえて顔をあげると、幸せそうに微笑む火村がいた。温かく包まれる様に安心したのは、その腕に胸に抱かれる様にして眠っていたから…抱きしめたまま、背中に腕が回されたまま。
「ひむらぁ…?」
「ああ、おはようアリス。よく…眠っていたな」
あったかい…。
寝起きの頭と躰に包まれる様な温かさがとても心地よくて無意識にアリスは鼻先を火村にすりつけるようにして呟くと、うっとりと瞳を閉じて…小さく、身じろぎをした。
あ、れ…?
その瞬間、躰に感じた大きな違和感に慌てて瞳を開けると急にフラッシュバックする熱に、ドクンドクンと胸が飛び跳ねて仕舞う。
熱い躰に艶を刷いた火村の瞳、痺れるような甘い声と強さを持った綺麗な指先。
「…あ、」
「どうした?ああ…、躰が変?」
もじもじと腰のあたりを気にするアリスを見てそのあまりある可愛さに抱きしめていた腕に力が籠ってしまった。ほんのりと頬を染めて…乱れていた夜に纏っていた色香とはまた違った、初々しい様な恥じらう姿に堪らない愛おしさを覚え、全てを気取らないアリスの自然な艶に、それをさせているのが他でもない自分なのだという強烈な感情に溺れて仕舞いそうになる。
「…うん」
消え入りそうなか細い声で、それでもきちんと返事を返すアリスを強く抱きしめてじっと見つめてくる大きな瞳に魅入った。
その瞳には、綺麗な円を描く…輪が見える。キラキラと光りを閉じ込めた彩光が織りなす光の輪だ。此処へ来たばかりの頃、火村が外してやった首輪よりも輝く…瞳のリング。
やっぱりな。アリスにはコレの方が似合う。
声に為らない声で呟くと火村は指を瞳の淵に添わせて撫ぜる。嫌がる様子も見せずされるがままになっているアリスの自分に対する全幅の信頼も、その瞳の中に映るのが自分だけである光景も。
何物にも代えがたい、大切なモノ。
「ひむら?」
じっと黙ったままの火村を訝しげに呼ぶアリスには、同じように瞳にリングを映した彼の瞳が一杯に映っていた。
綺麗…やなぁ…。輪っかが浮かんで見えるなんて…知らんかった。

Author by Ayuko&emi