Love Redmeens The World -6-






あたしは「アイツ」が嫌いだった。

未だここに来る前からずっと。火村はいつだってヒーローだったのに、誰よりも強く優しく気高いあたしのヒーローだったのに、全ては「アイツ」の為だったなんて…知らなかった。

ウリもコオも…婆ちゃんだって皆ソレを望んでいるみたいだった。

世界で唯一の白猫、美しい「アリス」


全ては「アリス」の為に。


そんなヤツ、大っきらいだ。



「明日の夜、オークションにアリスが出る。豚どもからアリスを救いだす、絶好のチャンスだ」

何それ。

いつも何処か飄々とさえみえる態度でいる筈の火村が嬉しそうに見えるなんて。凄く嫌。だって、アリスの事を考えて…嬉しく思うなんて。そんな火村は嫌だった。

うまくいかなければいいのに。

そう思って待っていたけれど。帰ってきた火村は「アリス」を連れてきてしまった。

白い猫。見た事も無いほど、美しく輝く穢れ無き「アリス」

ばっかみたい。ただの猫。そりゃ、ちょっと他の猫よりも綺麗だけど…まるで人形みたいなんだもの。いつだって不思議そうに首を傾げて可愛子ぶって…何にも感じてないみたいで。

あたしがどんなに嫌そうな顔してみても、ちっとも気にしてない様に見えた。

「アイツ、アホなん?ぼやーとして何も知らんふりして…あたし、嫌やな」

ちょっと綺麗やからってちやほやされて…苛々する。

でも…。婆ちゃんは哀しそうに笑って言うんだ。

「あの子かて望んでいる事やないでしょう?辛くて哀しい事に押しつぶされてしまわないように…自分で自分を護っているんや。…あたしらはただ待ってあげる事しか出来んやろ」


そんなん、知らん。


あたしの想いとは別にあたしの世界は変わる。

火村は夜、出掛け続けてちっとも会えなくなった。ウリとコオはいっしょに出かける事があってもあたしは連れて行ってもらえなかった。…あたしはここを護って居てくれ、そう言われてたから。だから、アイツが居たけれど…火村が言うからここに居た。

夜ごと火村は憔悴していくようだった。このまま、帰って来ないんじゃないかと不安に思う位…いつだってぼろぼろになって…。

その夜が来た。


いつもと違ってた。アイツもうすぼんやりと感じてたかもしれない。珍しくあたしに近づいて来ようとしたからあたしも驚いて逃げた。…ちょっと哀しそうな顔、してたのは…気になったけど。でも。

あたしだっていつもと違う皆のぴりぴりした雰囲気に…あてられてたから。

気が付かない振りした。



傷ついて瀕死の火村を見て、それでも感情さえ湧かないアイツが堪らなく嫌で、我慢も限界だった。溜まった鬱憤をぶちまける様に…叫んでいた。

*

それからずっとアイツは火村の傍にいる。決して感情が滲む事の無かった瞳には溢れそうな涙を湛えて、苦しそうに辛そうに顔を曇らせて必死で火村を看てる。それはあたしの知らない、アイツだ。

あたしは初めて仕事に連れて行ってもらえた。初めて…外の世界に出たんだ。

そこは…想像すらしなかった薄汚れた世界。


「残っているのは小さな鼠だけだから」

そう言ってウリもコオも余裕すら見せるのに、あたしは…必死だった。

知らないのは…あたしだったんだ。



アイツは…アリスは、ずっとこの世界に囚われて居たのに。






「モモ〜!」

間延びしたのんきな声に呼ばれてあたしは庭へと向かう。

「…なんやの、アリス」
「あ、モモ!コレコレ!!」




…あの日。世界は変わった。全てが綺麗になった。
曇って淀んでいた空は…見上げるのが気持ちいいほど蒼く澄んで晴れ渡っている。

『ごめんな、モモ。キミの気持ちも知らんと…』

火村の怪我が治って…アリスもまた、全てを取り戻した。感情や考え。そうしてモモに告げた。

『…ええよ、あたしかて悪かったし。…ゴメン』
『でも、…モモは火村が…!』

感情が戻ったとおもったら、今度は呆れるくらい情が深くなったらしい。あんまりにも辛そうに言うから…思わず笑っちゃうくらい。胸のつかえがとれた。

『この家はあたしの家族や。婆ちゃんがいて…ウリコオって兄弟が居て…火村がいる。お父さんみたいなもんや。そこにあんたがきて…戸惑ってたんや。堪忍、してな』

しおらしく言ったあたしに驚いたんだろうか。アリスはおっきな目をさらに大きくして…そして、首を少し傾げると、ほっとしたように笑った。何がおかしいんだか。






呼ばれた先。庭の真ん中にしゃがみこんだアリス。
嬉しそうに笑って指差した先に…小さな青い花が咲いてた。

「…オオイヌノフグリやね」
「オオいぬ?小さい花やのに…大きな犬なんて変わってるなぁ」

膝を抱えて座るアリスの背は小さくて丸い。優しいフォルムをもった背を尻尾で突いた。

「おかしいのはアンタやろ」
「え〜、なんでぇ?」


振り向いたアリスは笑ってる。ソレを見てあたしも笑った。








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>ということで、本編で放りっぱなしになっていたモモの心情含め全7話、お楽しみいただけましたでしょうか。光陽の拙い文章に素晴らしいイラストを描き下ろして下さった鮎子様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。お付き合い下さり有難うございます。このパラレルアリスには、猫耳に尻尾という最強の武器を携えていつまでも幸せで居て欲しいと思います。御拝読ありがとうございました。(7枚のイラスト全てとPRO一話、ERO後半は鮎子様の作品です。鮎子さまファンの皆様、ご堪能下さいね)
Author by Ayuko&emi