Love Redmeens The World -3-






奪い去る様にして連れてこられたアリスであったが…その白猫の素晴らしい価値を腐って薄汚れた世界に住むぶた猫達は諦めた訳では無かった。あの手この手を駆使してアリスの追跡に尽力する奴らからアリスを護るために…火村は夜な夜な出掛けて行っては追跡の手を伸ばすモノたちを叩き落として…闘っていたのだという。

世界を少しでも綺麗にする為に汚れた奴らを叩き落としているのだと…口では綺麗事を言っていたとしても…それはアリスを護るために他ならない。モモが言っていた事は、紛れも無い事実、だったのだろう。



眠ったままの火村を見つめながら、それまで止まっていたままのアリスの感情が少しずつ、水滴が零れ堕ちる様に溢れだしていた。

薄汚れた世界に染まってしまわない様に、考える事を思い出す事を感じる事を止めて仕舞っていたアリスの思考が堰を切った様に流れだしてくるのをじっと火村の隣に蹲ったままで感じていた。

もともとが清らかな空気で満たされている隔離された此処で、汚れの無い温かな猫達に囲まれて遮断する必要のなくなったアリスの思考はそれまでのぼんやりした靄が嘘の様にクリアに晴れ渡っていく。勿論、一足飛びに全てを理解することは出来なかったけれど、それでも…あの夜にモモが言った言葉の意味や火村が自分に与えてくれた世界の意味はわかってきたつもりだ。

未だ目を覚まさない火村を…大切に想う皆の気持ちも。

モモが…自分を疎ましく思う理由も。


きっと…火村の事が大好きなんや、モモは。


だから、火村がアリスの為にと言ってこうして傷ついているのが許せないのだろうし、何もせず護られていたアリスの事を疎ましく思うのだろう。婆ちゃんもウリもコオも…モモは未だ子供の様なものだから気にするな、と言ってくれるけど。自分が居る事でモモが苦しむのも…自分の為に火村が傷ついてしまうのも。

それは酷く辛くて…哀しい事だった。


考える事をはじめてから…アリスはずっと火村の傍らに居た。時折、構いに来てくれるウリやコオも涙を浮かべて傍から離れようとしないアリスの姿を見てやがて誘うのをやめていた。意識の無い火村の傷を自ら清め…時には優しく舐めてその瞳が再び開かれる時をじっと待っていた。

そうして溢れだした思考の波間で漂いながら…今日もじっと傍で蹲っている。

「ひむら…」

どれくらいそうしていただろうか。鮮血を滲ませていた傷も色を滲ませなくなり、偶に苦しそうにうめいていた声も上がらなくなった頃…想いが少しでも伝わるようにと握っていた掌が…指先が、動いた様な気がしてアリスは伏せていた顔を上げた。

「…ぅ」

微かに聴こえた声に、慌てて名前を呼ぶ。

「火村!火村、聴こえる?大丈夫…?」
「…アリ、ス…?」

うっすらと瞼が開いて…握り返された掌と呼ばれた名前に、止めどない涙が頬を伝って溢れて行くのにも構わず、アリスは火村の掌を包む様に握りしめていた。

「そう、や…。アリスや、…火村!」
「な、く…なよ、アリス?俺の子猫ちゃん…」

涙を拭う

傷ついて居るのは火村の方なのに、辛いのは火村の方なのに…涙を流してしまったアリスを辛そうに眺めてじっと見つめて来る漆黒の瞳に…言いようの無い感情が溢れだしてくるのにアリスは自分の想いに気がついてしまった。

どこまでも優しい火村、オレの世界を取り戻してくれた火村!


考えて感じるという事の素晴らしさを思い出させてくれた火村の事を…。


好きなのだと、思う。







意識が戻ってからというもの、片時も傍を離れようとしないアリスに少し驚いた様子の火村だったがアリスの瞳の中に宿った確かな意思の気配を感じたのか、嬉しそうに笑うと「待ってたよ」と言って優しくその背を抱きしめてくれた。

「…待ってたん?オレが考えられる様になるのを?」
「ああ、そうだ。お前がお前自身の意思で何かを思う事を、ずっと待ってたんだ」

火村が意識を取り戻してからは代わりにウリとコオとモモが出掛ける様になっていた。『ブタ達は俺が全て片づけて来たからな、残りはネズミよりも少弱なカスだけだ。潰すのは訳ねぇ筈だ』そう言ってにやりと笑う火村の身の回りを世話するためにアリスはずっと彼の傍に居たのだ。何故か婆ちゃんすら忙しそうにしていた為でもある。

ゆっくりと休息を取った事も幸いしたのだろう、すっかり傷も良くなり持ち前の不敵さを取り戻していた火村に抱えられる様にして膝の上に座るアリスの、柔らかく吸いつく様な毛並みに掌を這わせながら囁く火村の声にうっとりとしながら…アリスはこの上ない幸せを感じていた。

「…なぁ、なんで火村はそうまでしてオレを護ってくれるん?」

アリスが白猫だからとその美を求めて群がる汚れた猫達がアリスに命令するのとは違う、アリスが自由に考えて物を感じられるようにと愛を注いでくれる火村が、どうしてソレをするのかという事は…溢れて来る思考の中にも見いだせないままだった。

アリスは火村に何も与えていないのに…火村はアリスに全てを与えてくれる。

その意味が…どうしても分からなかったのだ。

不思議そうに問うアリスににやり、と笑いかける火村は腕の中にアリスを抱いたまま強い腕でもってアリスの体勢を入れ替え向き合う形で抱き留めると…その不敵な笑いの内に艶を滲ませた声色で…アリスに囁いたのだ。

「何故って…アリスは俺の子猫ちゃんだからだ」

「俺、君のペットなん?」
「違うよ、アリス。教えてあげよう。俺とお前のことを。お前の舌に、直接」
「し、た?」
「そう。…さあ、舌を出してごらん」


命令されるのとは違う、優しくそれでいて抗い難い艶めいた声で促されるままアリスはおずおずと舌を差し出して火村を見つめていた。差し出される前に一瞬、躊躇したのだろう、舌を唇ではさむ込む様にして舐めるその仕草は、濡れた様に唇を湿らせてぬらりと蠢く紅い舌先を酷く淫猥に彩るもので…無意識にソレをやってのけたアリスに目眩さえ感じる。

「…イイ子だ、アリス…」
「…んっ、…ぁ、…ふぅ…んっ」

舌を差し出したまま、近づいてくる火村の瞳に魅入られたアリスは差し出した舌を優しく甘噛みされた瞬間、脳内にまで走る痺れに目の前に星が堕ちて来る様な感覚を覚えて…思わず開いた口唇の隙間から合わされた柔らかい滑りを感じて無意識に火村の逞しい胸に縋りついていた。

「…んっ、くぅ…ん、ぁ……」

くちゃり、と湿った音がアリスのピンと張った耳に届く頃、舌を絡め取られ歯茎を撫ぜられる様に繰り返される執拗な愛撫に…呼吸すら奪われて脳内から湧き出した甘い痺れが全身から力を奪ってしまっていた。

「ふぁ…、あ、…むらぁ…?」

そっと唇を解放した火村は濡れて溢れだした唾液が伝うアリスの艶めいた口元が、舌足らずに自分の名前を呼びうっとりとした視線を向けて来るのに思わずほくそ笑んで仕舞う。

「…ああ、アリス…。なんて美しい俺の子猫ちゃんなんだ」

その、不敵さと淫猥さを纏った火村の艶やかな微笑みに…アリスの全身を言いようの無い感覚が支配していく。なぜだろうか。それは未知の感覚であるのに…堪らなくソレを求める衝動に似た感情がアリスの躰の芯から溢れだして仕方ないのだ。


その淫らな視線に焼き尽くされてしまいたい。

もっと、強く、もっと…深く。
それは…本能が突き動かす、抗いがたい―欲望の渦。

「…、も、っとぉ…」

気がついた時には、うっとりとした声で…火村に強請ってしまっていた。




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Author by Ayuko&emi