王の花嫁 -epi-




婚礼の後。

国中をあげての祝宴が続いたが、心身ともに限界であったアリスを慮って早々に退席していた。

主役ではあるがそれを見咎める者などいない。

腕の中にはアリスを抱えてめずらしく満足げな顔で部屋へ戻る火村を誰が諌められようか。


用意された部屋は簡素ながらも上質な装いで、一眼見るなりアリスはすっかり気に入ってしまった。


そんなアリスの姿に火村も安堵する。

とりあえずここでの生活を送るにあたり、この部屋にいることが多くなるだろう。


嫁いだばかりのアリスにとってこの城は見知らぬ人間ばかりで勝手も違うまさに異郷の地だ。

いくら火村の傍にいるとはいえ、それなりに多忙を極める王の身なればそうそう一緒にも居てやれない。


そんな時、心安く過ごせる場所があるのはアリスにとっても火村にとっても良いことだからだ。


「困ったことがあればいつでも言うといい。アリスの希望に添えるよう皆に申し伝えておくから」

興味津津と言った様子で部屋を見て回るアリスに声を掛けると 少しはにかんだ笑顔で「ありがとう」と返ってきた。


少し、痩せたかもしれないな。


幾らか線の細くなったアリスを見て火村は憂う。

やはり心苦しい思いをさせたのだ。


だが―。




「これからは…寂しい思いなどさせたくないからな。
人に頼みにくいことがあれば 遠慮せず俺に言えよ、アリス」

引寄せたアリスを抱きしめそう耳元に囁いた。





そうして暫しの間甘いひと時を送った二人は、宵の深けた空を見上げ身を寄せ合っていた。


「母上も父上も知っとったんか…」
「ああ。書簡を届けた際に小耳に入れておいた。勿論、オレが王であることも後継者を作らないといった訳も。直接来た理由については…まあ、嫁に迎える以上どんな姫かを確かめたくてな」

「ふ〜ん」
「お?なんだ。納得して無いみたいじゃないか、アリス?」

くるくると火村の指がアリスの髪を弄っている。

「そんなら何も言わんと帰ってしまわなくてもよかったんやないの?」
「ん?まあ、それは…、あれだ。お前の母上と約束していたからな。婚礼の儀が終わるまでは身分を明かさないと。母君はどうやら切れ者らしいしな、約束を反故にするのはあまり得策では無いなと思ったんだ。それに…」

「それに…?」
「正式に妻として迎えるまでは手を出さないとも、な」

少々ばつが悪そうに応える火村がなんだか微笑ましくも好ましい。

「…出したやないか」
「それは、アリスが…」

後ろから抱きしめている火村の顔を振り返り見て目で諌める。

「オレが、なんやて?」
「…アリスが、あまりにも色っぽくて、つい」



「はあ?」
「わかってるさ、苦しむのはアリスなんだ、とわかっていてもあの肢体を目の当たりにしたら誰だって止められないだろ?ほとんど本能だけで行動してたな、いや凄まじいまでの色気だった」


臆せずにのたまう火村は冗談を言っている気配すらない。

あまつさえ、きいていたアリスの方が赤面してしまうくらいに歯が浮くセリフをぶつぶつと繰り返している。

やっぱり、気障だ。
それにしても―。



「なあ、火村はなんでおれなんかがよかったん?」
「ん?」


「その、ほら。火村なら別にオレなんかやなくても…」

もじもじと目線を泳がせながら言いにくそうに聴いてくるアリスが、なんともかわいくて抱きしめている腕に力を入れる。

「いや、アリスがよかったよ。たぶん」
「はあ?たぶんってなんや…」


むう、と軽く頬を膨らませたアリスに微笑みながら口づけをする。

「たぶん、初めて会ったときから心を奪われていたんだろうな」
「なっ…」


「でなけりゃ、わざわざ助けたりしねぇよ。アリス」


抱きしめられて包まれて。
合わせた肌がなんと愛しい。


窓から見える景色は、夜の帳に隠されて見えない。
それでも、此処から見える空は同じだ。


何時か見た夜の空と同じ。



此処は、知らない処。


それでも、火村。

君が居るから、君が守ってくれるなら。
私は私で居られる。




長丁場、お付き合い下さりありがとうございました。

Author by emi