どこまでも蒼く、雲ひとつ無い空 -1-



面倒くさいから、そう君は言った。
いつだって、誰にだって。


その一言で終わりを告げてきたんだろう。
感情の篭らない無機質な瞳で。

冷ややかな口調で。

それなのに。


どうして君は
そんな熱い瞳でオレを見つめるの?






「ごめんな…?」
「謝られたって、そんなん許されへん!」


「そうかて、それしか今のオレには言えんから…」
「っ…!」


また。
これだっていつもの遣り取り。


泣き喚く彼女は、ただただ「あなたが悪いんや!」の一点張りで、 最後には恐ろしい形相をして悪態の限りを吐き尽くして去っていく。


オレは追いかける訳もなく、そんな彼女を目で追う事もしない。

慣れたもんや…まぁ、あまり楽しくないけどな。


楽しくも嬉しくもないけれど、だからといって哀しい訳でも無い。
どんなに罵られようとも、譲れない物があるからだ。

それを失わないためなら、どんな目にあっても構わない。


「…はぁ」


仰ぎ見た空は思いのほか遠く、蒼くて。
空高くに白く見える雲が、初夏の強い風に乗って流れていく。

あっという間に。


それでも空には白い塊が途切れる事無く流れていくのだ。

まるで、彼女達のように。


空を独占したくて必死に白い身体を拡げるのに、それでも風に飛ばされて散っていく。

強く、冷たい風に。





「アリス、口。空けたままで何突っ立ってるんだ?」
「…火村。終わったんか?」

「ああ。中間試験といっても俺の学科は論文がほとんどだからな。提出したら終わりさ」
「ふーん。英都の俊才には楽勝ってか?」


口の端に煙草を咥えて器用に笑ってみせる隣の男は、学内でも有名な美丈夫。 モデルさながらの体型に端正な顔立ちを持ち、 逞しい体躯をしている癖に学内きっての秀才とくれば黙っていてもモテル。

どこか人を寄せ付けない孤高のオーラも相まって、入学してからあっという間に有名人。


憂いを背に煙草を燻らせる姿が素敵、だの伏せ目がちでテキストを読んでいる姿が最高だのと、女子の傍を 通り過ぎるたびに火村への賞賛を耳に挟む。

もっとも、本人は何処吹く風で 気にも留めていないようだが。


ただ噂をしてはしゃいでいる女子も居ればそうでもない女子もいる。少なくとも、先ほど憤っていた彼女は違った。もとい、そんな風にして飛ばされていった彼女たちは違ったのだ。

あの手、この手を駆使して火村の隣を狙い誰しも「火村にとっての特別」になろうとする。


確かに、いい男だとは思う。 女子からしてみればステイタスを兼ねそろえた逸材なのだろう。同性から見ても嫉妬を覚えるくらいには・・・イイ男なのだ。

が、火村には男女間に限らず、世間一般論が通用しない。これはあくまでもアリスの私見だが、それでも強ち間違いではないと思う。


だから、例えタイミングよく“彼女”の位置を掴み取ったとしても、それは束の間なのだ。なぜなら決定的に分かり合えないから。


それなのに、面倒くさいから、の一言だけを喰らってさようなら、だ。


それはたぶんいつも同じ。
言葉が足りないにもほどがあるだろうに。

だから納得できない彼女たちは決まってオレに文句を言いに来る。


-仮にも付き合ってる彼女が居るのに、友達を優先するって何でなん!
-あんたが火村に何か言ってんのやろ!
-なんであんたなんかが、大切なんや!



それは、オレが聴きたい。

勿論、オレが何かを言って火村と彼女達との間を壊している筈も無い。
かえって気を使って誘いを減らしているくらいなのに…。


はじめのうちは多少なりとも彼女たちに同情して心痛めていたアリスも最近ではすっかり慣れてしまって憐れむ気にもならない。というか、そもそも…完全なるやつあたりでは無いか。相手を憂うどころか憤っていいはずだ。


アリスがとんでもない貰い火をしている事など露知らず、隣で紫煙を燻らせる男は暢気に鼻歌なんぞを歌っている。


ミステリアスだ、とか?


どこが。

他人には冷たい?


とんでもない。


こんなに世話を焼きたがる男も珍しいと思う。
おまけに自分の予定を犠牲にしてまでオレと行動していたりするんだぞ?


少し伸びた前髪がよく通った鼻梁に掛かってさらさらと揺れている。
邪魔そうや、と思って火村の顔に手を伸ばし指で払うと、 口から煙を吐き出した形で止まり、指の間に挟んだ煙草を落とした。


「っ、おい!ぼおっとして、危ないやないか!」
「…ああ」


クールで卒が無い?

どこが。


空を翔る彼女達は知らない。
火村がどんなヤツか。


そして、…火村の隣がどれ程心地よいかを。


だから、どんなに罵られ様ともこの場所を…譲ることなんて出来ないんだ。


「…なぁ、火村」
「なんだ、アリス?」

「きみ、彼女作るの、やめ」



お前、面倒くさいな、なんて言葉は聴こえなかった。


「…そうだな」



譲れない。
たとえ、勘違いであっても。
自惚れであっても。


だって、君は応えてくれるだろう?

学生時代火村×アリスでシリーズの第一話目です。はじめは読み切り短編であげていたのですが、そのまま続きモノとなりました。学生らしいじれったさと時に見せる無鉄砲さをお伝え出来ればいいなぁと思ってます。

Author by emi