辿るべき路-2-



『いい、眺めよねぇ…?』

「…よせっ!」





意識がほとんどなかったとはいえ、記憶には確かに残る何時かの夜の嫌なセリフが、頭の中で突然とフラッシュバックするのが堪らなく嫌で…被りを振って追い出そうとする行動を。今現在の状況を厭うたのだと感違いをしたのだろう、アリスがまた、笑った。


「ダメ、やって…、なぁ、こんなんして火村も辛いやろ?」

指先がその存在を主張する俺の下肢を撫ぜあげると、一層はっきりとその形を顕わにしてスラックスを押し上げてしまう。とたん、嬉しそうにアリスが瞳を細めてじじ、とチャックを下ろしていく。


動かせないとわかっていても、抗う様に腕に、足に、力を込めていた。
喰い込む手首足首の紐が眉を顰めたくなるほどの痛みを伝えるが、それよりも強く中心に伝わった熱い快感に、更に力を籠めてしまう。

「っ…!」


意外にも器用な指先があっという間にスラックスの前を寛げると、冷やりとした外気に晒された自身を慈しむ様にアリスが口に含んだ快感に。

蕩けそうなその、咥内の感触に。


どくりと自身が脈打つのを感じる。

「…よせ、っ、アリス!」

「はっ…ふ、んっ…」

答えの代りにアリスの湿った唇が吸いつく様に先端から意思を持った火村の雄を呑みこんで、喉の奥まで咥え込んではぬるり、と舌の上を滑らせるようにして吐きだす。吐きだしたかと思えば、舌先が先端を突く様に舐めてという否応の無い快感があっという間に先端から細い先走りをあふれさせる。

「…、ふふ、気持ち、ええ?…火村の、匂いがする」

「…、アリス…」


瞳を閉じて目を背けてしまいたいのに、視線は吸い寄せられるようにアリスから離せない。魅入られる程、淫蕩とした表情のアリスは見た事もないくらいの色気を纏って、夢中で自分の雄に舌を這わせているのだ。

添えられた手はどこまでも優しく陰部を弄り、同じ性を持つモノとして、確実に追い込むような愛撫は、避けようのない吐精感を火村に伝え、身を捩る様にして逃げようにも戒められた手足では思う様にうまくいかない。

「ぁ…、ふっ、…おっき、ぃな…。それに、綺麗や…」

自らが舐め、震える程育った雄に見惚れる様に呟くと、そっと掌に包んだまま。アリスが顔を腹へと近づけて、吸いつきながら、舐めあげながら際どい刺激を与えつつ上へ上へと伝ってくる。


「ここ、も。…うっすらやけど、腹筋?割れてんの、凄いなぁ。…んん、っ、ぁ…ここは、窪んどる」
「っ、アリ、ス…、頼む、から…!」

常ならば、どちらかといえばくすぐったい様なアリスの愛撫であっても、手の中で熱を帯びた自身を弄られていれば、それさえ官能を刺激するものにしかならない。下肢から徐々に上がってくる舌の、唇の動きに、腹の筋を撫ぜられ胸から脇へと吸われ時折、走る痛みにさえ。…嫌になる位、快感しか拾わない。

「っく、…ぁ、…リスっ!」

ゆるゆると扱かれて、きつく首筋を吸われる。

ちり、と走る痛みに、自然と眉をひそめたのだろう、それを見たアリスが少しだけ。哀しそうな色を灯して…何故だか自分が酷い感違いをしている様に気にさせられる。

「…?」

「ひむ、ら…」


紅く腫れた様な口唇が、聞きとれない言葉を呟いた…その時には。哀しみの気配がすっかり消えていて。居た堪れない様な、違和感を覚える、が―。

「っ…!」

喉元に顔を埋める様にしたアリスの髪が顔を掠め、洗いたての髪の香りが鼻腔を刺激して感じた違和を遠く霞ませてしまう。喉元へ吸いついたアリスは、そのまま唇を這わせて少し伸び始めた俺の顎へと舌を伝い、舐める様に口に含む。じゃりりり、と伸びかけた髭がアリスの歯裏に当たって独特の振動を奏でると、その振動が伝わったのか、おかしいくらいに唾液が咥内に溢れだした。

思わず。

ソレを嚥下すると、徐々に上がってくるアリスの口唇が―。

「…アリス」

名前を呼んだまま薄く開いた俺の下唇を捉え、やや戸惑う様に控えめに触れてきた。…今度は、手は軽く添えられたままだ。

それでも、合わせた口唇は離れることなく、…拒む気も無かった。おずおずと差し出された舌に応える様にして、今度は俺からアリスの咥内を蹂躙するように夢中で貪っていた。

「…っ、ふぁ…、んんっ…ひむ、らぁ…」



呼吸を求める様に上ずったアリスの言葉に、目眩がするかと思った。

「…あり、す…、アリス、…アリス」


ただ、夢中で求めた唇が下唇を甘噛みして離れていく頃、上がった息を整えるかのように蕩けた表情で見下ろすアリスは、肩にかかっていたシャツを剥ぐと、跨っていた腰を浮かせて下着まで脱ぎ去る。その、中心は張り詰めていて先端からは同じように先走りがてらてらとした光を纏っている。


「…火村、ちょっと、待っててなぁ…、んっ」

「な、何を…!」

予め用意してあったのだろうか、手元にはいつの間にかチューブの様なモノが握られていて、ソレを少し指に取りだしたアリスはほんのりと上気した肌の奥、猛った己の後ろ側へと腕を回して…。





「は…、ぁ…ん、んっ…」


薄く開かれた唇から悩ましげな吐息が漏れ、俺の屹立を慰める動きを止めない掌と、一方で自身の後ろへ回された手が、共に粘着質の淫らな音を上げてせわしなく動いている。閉じ切らない瞼から僅かに見える色彩の淡い瞳の奥が妖しく煌めいている様に見えて…あまりに壮絶で淫蕩とした恥態から目を、逸らせないでいた。

全身を浸食していく様な感覚に、熱が集まって屹立を一層刺激していくのに、どうしても、魅入ってしまう。

「ふぁ…、ぁ、は…ん、あ、あっ…」

開いたままの唇が少し渇いたのだろうか、苦しそうにも見えるアリスは湿らす様に舌先を出して口唇を舐める。視覚的にも、直接的にも与えられる快感が大きすぎて、もはや火村の限界は近かった。


「…、アリ、スっ!も、やめ、ろっ…!」

ああ、頼むから…。


縋る想いで見上げるアリスは、ぐちゃり、と音をさせて腕を離すと、一息つく様に掌を俺の腹の上に乗せ呼吸を整えている。解放を直前に控えていた自身は、離れて行ったアリスの掌の感覚に焦れた様に浅ましく動き、思わず揺れた腰に、苦々しい思いがぐぐっと腹の底から込み上がってくる。

「なん、だ…、なんだよ!…やめろ、アリス!もう、いいだろ…?」

「ええわけ、ないやん。火村、こんなにして…、辛いやろ?ほら、達ったらええねん、何も考えんと…。躰は正直や…」


こうして、彼女とも…。

小さく聴こえたアリスの声に。

朦朧とし始めた意識の中で、せりあがってくるような苦い思いがこみ上げる。

そうだ。これじゃ、まるで、あの時と同じ。同じ、状況ではないか。


一体、なんのつもりなんだ!

上気した肌に、艶やかな微笑みをのせたアリスは、先ほど伝ったままの唾液が残る火村の口元へ指を添わせると、そのまま顎のラインをなぞり、胸を伝い、緩やかに締まった腹筋を撫ぜ、そして…


「んっ…、ぁ…、ひむらぁ…。コレ、ちょうだい?…気持ち、ええのやろ?」

「…、っ、アリス…?なに、言って…」



そうやろ?という呟きは、手淫とは比べ物にならない衝撃の快感によって掻き消されていた。




「あ…、あああっ…!ひむ、っ…!」
「っく…」

後ろ手に俺の屹立へと手を添えたアリスが、先ほど自分で解していたのであろう後腔へあてがうと滑りを使って一気に腰を下ろしたから。それは未知なる感覚にも似た、比類のしようが無い快感。

少しだけ引き攣る様なアリスの内奥からの締め付けも、徐々に慣れ、蕩ける様な感触と、吸いつく襞と、飲みこんでしまおうとする中の蠢きに堪らず、奥歯を噛み締めて堪える。

「っぐ、…ス、アリス!」

「あっ、やぁ、…んっ!ああ、ひむ、らぁ…」

受け入れているアリスとて慣れない刺激にただ、堪えるだけしか出来ないようで、なにかを必死に堪える様に顔をゆがめて、それでも浅く呼吸を繰り返すことで何とか堪えぬくと腰を揺らめかせ始める。

「んっ、あ…、ほら、…ん、きも、ちええ…やろ?」


緩やかな律動は、締め付ける様な内奥との蠢きと相まってどうしようもない位、堪らない快感で火村を包みこみ、やがて挿入の際に萎えてしまっていたアリスの屹立が再び頭を擡げ始めた頃、全身を浸食した快感に突き動かされる様にして無意識に火村の腰は刺激を求め、アリスの薄い腰を突き上げる様にして動いていた。



「ヒぁっ…、や、あっ…、ひ、むらっ…!あっ…」

蕩ける様な表情も。舌足らずに呼ばれる名前も。堪え切れないと言った様に蠢く蕾も。

全てを呑みこんでしまいそうな、内襞も。


そして、…。

「…アリス」

つ、と溢れたアリスの涙に。


「んっ…、あ…ぁ、あっん…、っ…!」
「…っ、…リス!」


自由にならない両手に、歯がゆい思いすら感じた。その背を。
…抱き締めて、やれないことに。

「ヒァっ…、あ、ああっ…!」
「っく…!」


ぐっと、ひと際深く高く、穿つようにして腰をあげ堪らない快感に俺が熱を吐きだすのと、同じように震える足を突っ張る様にして腰を揺らめかせたアリスが吐精するのが同時だった。

ふる、と震えて涙にぬれた顔でじっと見つめるアリスが見える。どこか儚げにそれでも、心配そうに見つめるアリスが、何故だかとても―…?


「…ほら、な?誰やって、同じ、や…。俺かて達けるん、やも、の…、誰だ、って…」




そうして、堪らずに吐きだした慾に塗れたまま。哀しみに満ちたアリスの声はうわんうわんと遠く、まるで知らないところで意識に刻まれていた。…おそらく、先ほど盛られていたのだろう、薬の効果で、その声を追いかける様に俺は意識を緩やかな世界へと手放していた。


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Author by emi