辿るべき路-1-



背中を向けた。


お前に悟られるまいと見えない振りをして…
背中を向けた、筈だったのに。


あの時、手を―。

お前の手を、取らないで居れば…。



俺たちは、ずっと変わらずに。

…傍に。


居られたのだろうか。









ぬらり、と。

確かな熱を孕んだ瞳で俺を見上げたアリスが、湿り気を帯びた舌を差し出す。
紅く熟れたその舌が、指先を拭う様にして舐めるのに、身震いするほど敏感になった躰は、自分の意志とは関係ないところで悦んで…小さく跳ねる。

忌々しい、とすら思う。
それなのに、迫りくる感覚に…。

背筋を這いあがる快感に。


息が、あがる。


「っ…、アリ、ス」

ゆっくりと、舌先は指の間から先までを舐めあげていく。


ああ、わざとなのだ。

ゆっくり、ゆっくり。

這わされた舌が、熱い。

その紅く熟れた口唇に吸い込まれて熱い咥内で蠢く舌に絡みとられては吐きだされる、堪らない感触に下腹の底からじわじわと込み上がってくる熱いものを感じて否応なく首を振った。

「っは、…ふふ、綺麗な指、や…」

んっ、と添わせた口唇が熱い吐息と共に意味を持たない言葉を吐きだして、ゆらり。

揺らめいた明りが妖しく光るアリスの瞳に反射して消えていく。うっとりとさえしたアリスの口元からは、濡れた唾液が彩りとなって一層の淫猥さを助長して。


「ええかっこ、…堪んないなぁ、火村?」

馬乗りになったアリスの視線から逃れようと顔をそむけるものの、細く長い紐で括られた手足がピンと張った紐を引き攣った様につっぱるだけで動かせない躰は、僅かに横にずれ、ほんの少しだけ腰を浮き上がらせるだけだ。
その些細な抵抗を見て、見た事も無い表情を浮かべ薄く緩くアリスが笑う。

「だめや…、火村。にげられへん」
「アリス、なんで…だ?」


見慣れた室内。


アリスの寝室。

手足を伸ばしてゆったり眠れる様にとアリスが選んだダブルベッドに仰向けに横たえられた俺の上に跨るアリスは、その薄い胸に申し訳程度にシャツを羽織り、その隙間から零れる肌蹴た胸から目が離せない俺の着衣を少しずつ剥ぐように奪っていく。

震える指先は冷たく、素肌に触れる度、思わず身を竦めていた。あっという間に着ていたシャツはボタンを外され、まるで優しく撫ぜる様にしてアリスの冷たい掌が胸を這っている。

「…男らしい、肌やなぁ。でも、やっぱり鎖骨のとこは、へこむんや…」
「っ!」

うっとりと、滔滔とさえした瞳でなぞるように指を走らせるアリスは、俺の疑問に答えることなくどこまでも静かに躰を探る。盛り上がった胸からすうっと指が這わされ、窪んだ鎖骨のあたりで止まると、艶やかに微笑んだアリスが身を屈め、舌を。

差し出して舐める。

「っふ…」

ざらりとした舌が鎖骨から首筋まで、伝う様に上がって。

そっと、掌が首筋から耳元へと添わされて、アリスの柔らかい髪が顔に掛かって鼻腔をくすぐる。少し上ずった様なアリスの吐息さえ、いかようにも出来ない火村をただ、ただ―

煽る。


「っ…、アリス!」

耳元で吐息を伝えていたアリスが、そのまま。耳朶を甘噛みするように口に含んだ時、おもわず声をあげていた。



なんだ、なんでだ。…これじゃ、まるで―。


「ひむら…、お願いやから。…黙って」

「アリ…、ぅっ…!」


開きかけた抗議の声は、最後まで発せられる事はなかった。紅いアリスの口唇が、開いた俺の口を呆れるくらい柔らかく塞いだから。

「んっ…」

決して巧みな口付けでは無い。

それでも。


熱に浮かされたようにねちゃり、と粘着質の音をたてて、蹂躙するアリスの舌が咥内を掻き回し、咄嗟に顔を背けようとするが、いつの間にか耳元をまさぐっていた掌で顎をがっちりとホールドされて動くことさえままならない。せめて口を閉じてしまおうとするが、隙間に入ったアリスの指がそれを許さずに、絡め取られる舌の動きに押し出そうとする自身の舌が、まるで愛撫を追いかける様にして蠢くだけで、閉まらない口元からは混ざり合った唾液が溢れだした。

「…ふっ、ぁ…」

存外、強い力で顎を抑えられていたせいで、顎から耳まで、じんとした痺れが走る頃、名残惜しそうにしてアリスが顔を離すと、糸を引く様に差し出されたままのアリスの紅い舌から唾液が伝って光を反射している。その濡れた唇に、不覚にも。


…ぞくり、とした。


「ふふ、ダメな男やなぁ。火村、感じてんの?」
「なっ…!」

擦り合わせる様にアリスが腰を振ると、腰の下で、重く鈍い快感が下肢を走る。悪戯そうに瞳を細めてアリスが再度腰を揺らめかせると、確実な熱を帯びた自身がまた、硬さを増してその存在を主張した。

「や…、めろ!」

「…ふぅん?そんなん、言ってもええの?火村」

思わず口を吐いて出た言葉に、はっとしてアリスを見やると、張り付いた様な微笑みを口の端に乗せたままでゆっくりと腰をずらして躰を下肢へと移動させていく。

その意図を。


はっきりとアリスの瞳に感じて、恐れにも似た感覚が火村の背中を駆け抜けていった。


「…、アリス!」



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Author by emi