焼めし・いかの煮もの

2015.10.24


       という訳で石川富山新潟遠征の初日、午前中に予定していたコスモアイル羽咋の見学を大満足で終了し、
      昼食の為に富山県へと移動。北陸自動車道立山ICから一般道に降りて、1133に日本海食堂に到着です。
       さて、本日のお目当ては焼きめし。いやー、いいですね。チャーハンでななく、焼めしという言葉の響き。最
      近めっきり聞かなくなりましたが、今時っぽくなくて非常にイカスというか、ここ日本海食堂の雰囲気にぴった
      りであります。あともう一品は・・・よし、黒板の本日のお勧めにある、イカの煮もの行ってみましょう。
       おばちゃんに力強く注文を伝え、いつもの席へ。天井の扇風機は止まっていますが、開け放した窓から涼
      しい風が入り、とても快適
。私の後からは次々とお客さんがやってきて、開店早々に注文を聞いたり飲み物
      を出したり一品もののおかずを温めたり出てきた料理を運んだりと、おばちゃん忙しそうだなあ
       しばらくすると、おお、来ました来ました、焼めしイカの煮もの!お腹も減っていますしすぐに食べたいと
      ころですが、まずは撮影しないと。

       撮影した画像を手早く確認し、さてまずはチャーハ・・・いや焼めしから頂きます。こんもりと盛られた焼めし
      の頂上に立っているのは、一つまみの紅ショウガ。麓のベースキャンプには福神漬が控えていますが、トッピ
      ングが二つとも赤系統なんですね。本来紅ショウガの代わりにグリーンピースがいて然るべきだと思うのです
      が、これはちょっと意外
       焼めし自体は大ぶりのお玉で盛られていますが、その自重で全体にクレヴァスが発生し、あえなく崩落しか
      かっている
ところが何とも悩ましい風情。パッと見は完璧に決めていながらも、あえて一か所だけ崩して隙を
      見せる
事により、食べる側を巧みに誘っている感じがたまりません。シーツにくるまった峰不二子にパンツを
      脱ぎながらダイブするルパン三世の気分
ですね。
       はやる心を落ち着かせつつ、ステンレスのスプーンに丁寧に巻かれた紙ナプキンを外します。ああ、こうし
      てスプーンに紙ナプキンを巻いて出す店も、少なくなりましたねえ。昔の国鉄時代の食堂車を思い出してしま
      います。

       まずは一口・・・うおっ、熱っ!ハイカロリーな業務用コンロで轟々と熱した中華鍋から、今まさに盛りつけた
      ばかりの非常に攻撃的な熱さです。お店で食べる焼めしで、ここまであからさまに熱いのは久しぶりな気がす
      るなあ。
       全体の淡い色合いから、塩胡椒ベースの味つけを予想していましたが、意外としっかりした醤油味というか
      甘辛いタレ味
を感じます。これは自家製チャーシューの煮汁を使っているんでしょうか。
       入っている具はキレイに散らばったタマゴ白ネギニンジンコーン、そしてコロコロの角切りチャーシュー。
      
強火でカリッと焼かれた甘辛しっとりチャーシューが香ばしく炒められたタマゴと組んで、全体の中で強い存在
      感
を放っています。いやこれ、ほんと美味しい焼めしだなあ。
       炒め加減はむっちりムレムレで、もはや色気すら感じるレベル。ひたすらパラリズムを追求する現代のチャ
      ーハンとは一線を画した印象
です。それにしてもこの、全然冷めない熱々さはなんなんでしょう。途中で考え
      込んだりメモをとりながら食べているのですが、冷めるどころか焼めしそのものがマグマの如く熱を発し続け
      ているような感じ
です。

       これは恐らく焼めし用に一度冷ましたご飯ではなく、ジャーで保温した熱々のご飯を使っているんでしょう。
      炊きたてご飯のしっとりむちむち感ガンガンに熱した中華鍋の熱さ、そこに多めに垂らされた炒め油、そし
      てやや甘めに仕上げられた自家製チャーシューの濃厚なタレ味・・・うぬぬ、これはクセになる味であります。
       さらに熱い油を浴びた事でカロチンの吸収力を一気に上げたニンジン、加熱により独特の香味を放つ白ネ
      ギ
、焦げ目から焼きトウモロコシ屋台の香りを漂わせるコーン。全ての要素が油脂、チャーシューの
      辛ダレ
によって融合しているこの感じ・・・。
       海も大陸もなく、全域が活発な火山活動を行っていた原初の地球の混沌を、この一皿で表現しきった様で
      すね。そんな焼めしに飲まれてしまいそうな恐怖を覚え、慌てて意識をスープへと移動します。
       ほほう、焼めしについてくるスープにしては、随分と濃い色合いですね。ここ富山はブラックラーメンで有名
      な土地なので、もしかしてその流れをくんだスープなのでしょうか?しかしこれはブラックというよりも、北陸地
      方特有の甘味の強い濃口醤油の色合いに見えますが・・・。まずは一口すすってみます。

       おお、これは確かに甘味を強調した醤油味。ブラックとはまた違った、北陸ならではの味わいですね。しか
      しこれ、ラーメンのスープにしてはやや酸味が強い気がするなあ。ここ日本海食堂で出している醤油ラーメン
      のスープ
をベースにして、焼めし用に酸味を加えたんでしょうか。
       しかしこのスッキリした酸味が、甘辛タレ味の焼めしによく合っています。この爽やかな酸味がなければ、焼
      めしとスープによる甘辛味の応酬に舌が飽きてしまったでしょう。浮かんでいる白ネギは焼めしに入っていた
      それとはまた違って、生ならではの爽やかな香りシャリシャリした食感を残していて、薬味としての役割を十
      分に全うしています。
       そしてこのスープの中にほんのりと感じられる昆布の風味は、蝦夷地から日本海を通過して瀬戸内海へと
      入って行った、江戸時代の北前船の伝統の名残でしょうか。そう、先人達が命を賭して切り拓いた上方への
      コンブロード
の中継点に、今俺がいるんだ・・・。連綿と築き上げられた歴史の中にいる自分を、一杯のスー
      プに教えられた気がします。

       おっと、冷めないうちにイカの煮ものも頂かねば。皿の中にはひと口大に切った小イカ、そして二つ割りに
      なった小芋
が、濃厚な色合いの出汁を浴びて鎮座しています。そのイカを一切れ口に運ぶと、おお、これもま
      た実にホッとする北陸甘辛醤油味
。そして口の中いっぱいに広がるイカの風味潮風の香り
       小さいながらもぶあついイカは、もっちりと滑らかに煮上げられています。一方ゲソの小さな吸盤部はプチ
      プチと小気味いい食感
で、好対照な個性を誇っている様。
       それにしてもこの、きっちりとイカの歯応えを残しつつしっかりと味をしみ込ませたこの煮方、一見して地味
      ですが絶妙の仕上げ具合ですね。煮込む程に強くなる味の浸みと、刻一刻と変わるイカの身の固さのバラ
      ンスをとるのは、慣れた料理人でも至難の業ですが、これは丁度いい煮上がりの一歩手前で火から下げて、
      あとは余熱に任せながら一晩寝かせて味を浸みこませた結果と見ましたが、どうでしょう。

       またこの、イカの旨味をしっかりと受け止める甘味の強い煮汁がたまりません。ううう、これはマナーを放棄
      して白ご飯にかけて食べたい!
くそっ、焼めしと組み合わせたのは判断ミスだったのでしょうか。この煮汁を
      堪能する為に、今からご飯を一膳追加するか?
いや、40を越えた私にとって、これ以上の糖質によるカロリ
      ー摂取は赤信号・・・

       という訳で、イカの煮汁&白ご飯というエルドラド的組み合わせは泣く泣く断念。これはまたいつの日か、日
      本海食堂の全メニューを制覇した後に、これまでの足跡をしみじみ振り返りながら頂くとしましょう。
       いやあ、今回も大満足でしたね、日本海食堂。おばちゃんの忙しさが一段落したタイミングを見計らい、会
      計を済ませます。焼めし700円、イカの煮もの400円、締めて1100円の悦楽でありました。

       店を出る頃には、お客さんの数は20名を越えていました。土曜日のお昼とあってか、建築業っぽい人や
      の人、これから遊びに出る家族連れ、ちょっとお昼は外で・・・というご近所さん等、客層は様々。そして
      の中に混ざり込んだ異物の様な私
       今回で7回目となった日本海食堂ですが、長くこの地に根を下ろして生活しないと、この店に本当の意味で
      馴染む事は難しいでしょう。ただ、今の自分の異物感は、なぜか奇妙な心地よさも伴っています。そう、俺は
      異物のままでいい。旅人のままでいい・・・

       さて、この後は新潟県へと移動。燕市にあるレトロ銭湯と、そして・・・あのホテル公楽園に宿泊です!しかし
      あのスープは謎だったなあ。二日後の帰路にもう一度日本海食堂に寄る予定なので、醤油ラーメンを試して
      みるか・・・と考えながら、新潟県に向けて車を走らせました。




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