舞鶴連合艦隊カレー
さて今回は、『舞鶴連合艦隊カレー』です。大きな海軍旗をバックにしたパッケージには鉛筆書き調の東郷
平八郎元帥と戦艦三笠が描かれ、ぱっと見のインパクトがなかなかいい感じ。
しかし私的には、正面の海軍旗と箱裏面の群青色とのコントラストに目を奪われます。これまでありそうで
意外となかった色彩の組み合わせというか、派手なのに嫌味さを感じさせないこの配色は、やはり海軍のイ
メージカラーというか、日本人の心の底に刷り込まれてきた何かの存在を感じさせる気がしますね。
箱裏面には、舞鶴地方総監部内にある海軍記念館が大きく紹介されています。また、京都地本の連絡先
が明記されているのは珍しいなあ。このカレーを食べて海上自衛官を志す人がどれだけいるかは不明です
が、まずは地本HPを見て、それからイベントに興味を持ったのがきっかけで・・・という流れは十分アリでしょ
う。
ちなみにこのカレー、BLACK GARLIC BEEF CURRYと銘打ってありますが、黒にんにくか・・・あれ?
なんか過去に、黒にんにく入りの自衛隊レトルトカレーを食べた事がある様な気がするなあ。昔の海軍ではよ
く使われた食材だったのかな?
他に特徴的な素材は、どんなものが・・・とパッケージ裏の原材料表記を見て行きますが、ほほう、肉は牛ス
ジか。わざわざ国産と銘打ってあるところは、安全性に関する自信の表れですね。他には黒にんにくペースト
(高知産)、おろし生姜(高知産)と商品名が舞鶴なのに何故か高知産を前面に押し出している点に、妙な違
和感を覚えます。
んんん~?ちょ、ちょっと待てよ?牛スジ(国産)?黒にんにくペースト(高知産)?おろし生姜(高知産)?デ
ジャヴなんかじゃない、以前見た事のある組み合わせです。これは確か・・・そう、伊丹駐屯地ビーフカレーと
全く同じなのでは?
仕事場に転がっていた伊丹駐屯地ビーフカレー(なんでそんなのがナチュラルにあるんだよ)と比べてみる
と、表記されている原材料の種類も順番も、全く同じです。えええええ、どういう事?確か加工食品の原材料
表記については、法律で書式が厳密に定められているはず。という事は、この2つのカレーは全く同じもの?
ちなみに双方の販売者は異なりますが、表示義務のない製造者が同じなのでしょうか?
とりあえず手元にある自衛隊海軍カレーを並べてみると、こんな感じ。他のレトルトは外箱のサイズがバラ
バラなのに、伊丹駐屯地ビーフカレーと舞鶴連合艦隊カレーだけは、外箱の幅も高さも奥行きも完全に一致
しています。
しかも中身を確認すると、レトルトの表面に印刷されたNINNIKUの書体や印刷位置まで完全に同じ。ここ
までくると流石に認めざるを得ないでしょう。この2つのカレー、外箱のデザインや商品名こそ違いますが、中
身は完全に同じもの。レトルトと外箱を製造元が準備して、販売先に合わせてパッケージの印刷を変えただ
けのシロモノであります。えええええ・・・。
だだ下がりのテンションのまま、それでも一縷の望みにすがるようにこの両者を食べ比べてみますが、うん、
食べれば食べる程全く同じカレー。たまたま方向性が一緒だったので結果的に似てしまった・・・等の言い訳
が一切通用しない位、全く同じカレー。えええええ・・・こんなのアリなの?
なんというか、その・・・怒りを通り越して悲しくなってしまいました。今やカレーと言えば海軍、海上自衛隊!
と言われるまでになり、横須賀や佐世保等で催される海軍カレーコンテストには、多くの人達が押し寄せる様
になりました。また、数々の出来事をきっかけにして自衛隊そのものへの理解と認識が改まるようになり、全
国各地の基地駐屯地のイベントにも沢山の人達がやってくる様になり、お土産として様々なカレー、グッズ類
が販売される様になりました。
それ自体はとても嬉しく、当HPでも私が参加したイベントの様子や、海軍自衛隊カレーの試食レポをたび
たび紹介しているのですが、せっかくいろんな事がうまく回り始めているこの時期に、なんて不誠実な真似を
してくれたんだ・・・というのが、私の偽らざる本音であります。
売店では全国各地の地域色を生かした海軍自衛隊レトルトカレーが飛ぶように売れ、さらなる新商品が求
められ、それまで知られなかった各地の特産物や海軍自衛隊に関連した歴史が再発見される、新商品美味
しい、俺嬉しい、HPを見てくれている人もニコニコ・・・そんな流れの全てに、唾を吐きかけられた気がします。
もちろんこれは自衛隊側に落ち度があった訳ではなく、また海軍自衛隊カレーに限った事ではありません。
人が集まり大きなお金が動く様になると、売れさえすればいい、中身は問わない・・・という負の側面が表れる
のは、どの分野も同じでしょう。
しかし、いくら楽しいイベントで気が大きくなっているとは言え、レトルトカレーひとつ500円なりというのは、
家計を預かるお母さんや外で働いて収入を得て来るお父さんにとって、なかなか笑えない金額です。それでも
子供が欲しがれば、やっぱり買ってしまうでしょう。そんなところでこんな真似をしてくれるなよ・・・。
という訳で、今回は試食レポは無し!詳しい内容に興味がある方は伊丹駐屯地ビーフカレーのレポを参考
にして下さい。中身は全く一緒ですので。
それにしても、これまで食べ散らかしてきた試食レポの中でも最低のレポになってしまったのは、極めて残
念です。ただ、この点だけは決して誤解のない様にお願いしたいのですが、カレー自体はとても美味しかった
のです。焦げ茶色の獰猛そうな見た目に負けない位の旨味の分厚さがあり、隠し味としての黒にんにくも有
効。強い旨味全体を引き締めている心地よい酸味も印象的。そう、このカレーは、何も悪くない・・・。
むしろオリジナルな存在だと信じていた自分が、実は見知らぬ誰かのクローンであった・・・と知ってしまった
舞鶴連合艦隊カレーくんの心境を慮ると、それを暴いてしまった私も罪悪感で胸が痛みます。お前は何も悪
くない・・・と、抱きしめてやりたい気分です。
ほんと、今回は流石にメゲました。今後もこんな事があるのかと思うと、お豆腐メンタルな私はなんかもう嫌
になってしまうのですが、逆にこんな状況だからこそ、本物は本物としてきちんと区別し、評価せねばならない
でしょう。
あと、これは食べた後に気がついて慄然としてしまったのですが、これと似た様な事が少し前にもあった筈。
そう、『呉海軍亭肉じゃがカレー』と『舞鶴軍港館肉じゃがカレー』の中身が同じだった事に気がついた時です。
でもあの時は不思議と、今回の様な怒りやガッカリ感はなかったなあ。むしろこれはネタになる!と、笑ってし
まった覚えすらあります。
じゃあ今回、何でこんなに頭に来てしまったんだろう。他人の些細な事が許せなくなる、失われていく思考の
柔軟性、小さくなる一方の人間としての器・・・。認めたくはありませんが、これっていわゆる老化・・・ってやつ
ですよねえ・・・。
そうか、俺は歳をとると丸くなるのではなく、どんどん気難しくなるタイプなのか・・・。うわあ、これは地味にシ
ョックだなあ。人生の折り返し地点をとうに過ぎ、レトルトカレーの神様(居るのかどうか知りませんが)から、
「お前はこの先こうやって人に疎んじられ、気難しいジジイとして生きて行くんだよばーか」
と、あまり明るくない未来を突きつけられた気分です。大言壮語や奇手奇策の類を嫌い、普段から淡々とし
た人柄であったと言われている東郷元帥も、時にはレトルトカレーを前にして自らのあり方に思い悩み、呻吟
したりしたのでしょうか。いや、ないな・・・。
今回で30回目となった、海軍自衛隊レトルトカレーの試食レポ。ささやかながらもまずは一つの節目を迎え
た訳ですが、これからも本物を探し続ける旅は続くでしょう。しかしそれは同時に、自らの内面世界と向き合
わざるを得ない孤独な作業でもあるのです。
難事件を解決した後に必ず襲い掛かってくる、何とも言えない虚無感に苛まれる金田一耕助の様な気分を
味わいつつ、試食を終えました。
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