喫茶伴天連
2018.03.03
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呉江田島遠征一日目、江田島の海上自衛隊第一術科学校の見学を終えた後は、呉を経由して東広島市へ移動
します。東広島駅近くのゴルフ場の中を抜けていく道に入り、ホテルの廃墟を右手に眺めながら坂道を上って
行くと、あ、あれが喫茶伴天連の駐車場入り口ですね!怪しげな黒い円柱が道路際に無造作に立ててあります
が、これを見て喫茶店だと思う人は何人いるんだろう・・・。
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広い駐車場には先客のものと思しき車が一台。出来れば誰もいない方が撮影しやすいのですが、日曜の昼で
は仕方ないか。カメラのバッテリーを確認し、意を決して店への接近を試みます。
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建物の前には巨大な岩と樹木、あとやけに頭でっかち常夜灯が。もとはちゃんとした日本庭園だったと思わ
れますが、ガス灯や立小便禁止の看板、あと何故かマネキンの生首がぶっ刺さった杭なんかがあり、いきなり
困惑させられます。
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いくつも並べて繋がれた手水鉢からはちょろちょろと涼し気な音が響いてきますが、その水が流れ込むのは
三途の川。ご丁寧にも手すり付きの石橋がかけ渡してあり、安全かつ無料であの世に行けるインフラが整って
いるのが今風ですね。景観論争とかなかったのかなあ。六文銭が必要だったのも、昔の話になってしまった様
です。
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先程からかこんかこんと鳴っている鹿威しの方を見ると、注ぎ口が変なポーズで立小便をする白いおっさん
になっていました。ああ、なんか石川県のハニベ岩窟院を思い出すなあ、このテイスト。
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さらに梵字が書かれた卒塔婆や仏像軍団が続き、その先にあったのは鎖と髑髏のウェルカム看板。篝籠の中
にはイノシシのものっぽい頭蓋骨がありますし、聞きしに勝る訳の分からなさ。
足元に散らばるイノシシの足跡に追い立てられる様に店の玄関口に向かいますが、そこにあったのは骨格標
本に黒い蛇、あと信楽焼のタヌキの置物。隣にはおっぱいまる出しの仏様がいて首をかしげていますが、最近
ここに連れてこられた仏様でしょうか。この微妙な距離感、そしていかにも帰りたそうな表情・・・親の都合
で転校を余儀なくさせれらたものの、いつまでたってもクラスに全然馴染めていない子供みたいな雰囲気がと
ても気掛かりです。
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手作り感満点の渡り廊下の先が喫茶店の入り口の様ですが、ここの足元が不安定なので要注意。周囲の異様
な雰囲気を警戒しつつ進まざるを得ないので、どうしても足元がおろそかになってしまいます。
その渡り廊下を進んだ先にある店の玄関ですが、真っ暗な中に変なものが沢山置いてありますよ。でかい醤
油樽(味噌樽?)の上にあるのは、白骨化した髑髏と腕。そして頭上にはサビサビのアスファルトカッターが
吊るしてあり、このロープのついた棒を使って鐘のように突くという事か・・・って、なんで棒に生首が刺さ
ってるんだ(笑)。
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そしてようやく表れた真っ黒な扉。太い骨になっている取手をつかんでぐいと開けると、内部は赤青紫の照
明に彩られた極めて悪趣味なお化け屋敷的空間になっていました。
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とにかく足元が危ういのが気になりますが、上の方に視線を感じたのでフラッシュ撮影を試みると、うわあ
あああ、やけに濃い顔の腕無しマネキンが、三角頭巾をかぶってじっと私を見下ろしています!
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なんかえらい所に来てしまったぞ・・・と暗い中呆然と立ち竦んでいると、先客が帰るらしくどやどやと脇
を通り過ぎて行きました。図らずもお客さんは私一人になったみたいです。
「いらっしゃい!」
と迎えてくれたのは、私とほぼ同年代の男性。あれ?確か妖しげな雰囲気のお爺さんがやってたんじゃなか
ったっけ?もしかして息子さんかな?
それよりも、店内の様子が圧巻でした。真っ暗な室内のあらゆるところから色んなものがぶら下がっていて、
毒々しい照明がそれらをぼんやりと浮かび上がらせています。何かの骨、髑髏、置物、ちんちん、生首、人形、
ちんちん、ランプ、剥製、ちんちん、ちんちん・・・。それらが血の色の照明に染まり、あの世ってのはこん
な感じなのかなあ・・・と、地獄に下見に来た様な気分にさせられます。
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入るなり絶句したままの私に、
「ま、どうぞどうぞ、こちらにお座りください」
とメニューを出してくれる男性。ああそうだ、ここは喫茶店なんだっけ。あまりのインパクトの強烈さにす
っかり忘れていました。しかしこれだけ異様な雰囲気に満ちた喫茶店なのに、メニューブックだけがやけに普
通というのが笑ってしまいます。中身もごく正統派の喫茶店メニューですし。
えーと、何にしようかな。玄関から入って5分もかからないうちに口の中がカラカラに乾いてしまったので、
冷たいものが欲しいなあ。よしこれ、レモンスカッシュください。
「はい、少しお待ちくださいね」
と言い残して店の奥に消えていく男性。店内に一人取り残され、途端に心細くなる私。
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しかしなんというか、想像を絶する空間です。こういう演出をするバーなんかはある事はありますが、どう
したって内装として飾り付けました感が見え見えになるのに対し、ここは根本的なレベルが違うというか、放
っておいたら有機的に増殖していつの間にかこうなったというか、一つ一つの物体が全て建物と血管や神経で
繋がっている感じ。巨大な生物の内臓の中にいるような気すらしてきます。
ややあって出てきたレモンスカッシュですが、お洒落なグラスに入っているのがこれまた拍子抜け。異様す
ぎるものと普通すぎるものの極端なコントラストに、頭がくらくらしそう・・・。
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ちなみにカウンター内にいた男性は、店主さんの息子さんでした。先代店主さんは2年半前に亡くなったそ
うです。そうか、間に合わなかったのか。お会いしてみたかったなあ。生前先代の店主さんから『この店を潰
すな』と言われた今の2代目店主さんは、店を継ぐ事を決意。そんなこんなで今年で創業56年になるとの事。
そして暗闇に目が慣れる頃に、店主さんが店内に溢れかえるヘビだのカエルだのトカゲだのサルだのについ
て一つずつ説明してくれました。なんとこれらは全部本物の剥製だそうです。
「こっちはうちで飼ってたアヒルなんですけど、野犬に襲われたので皮剥いで剥製にしたんです」
また、サルとウサギの剥製を繋げた異様な一品もあり、
「ウサギも剥製にしようと思ったんですけど、たまたま家の裏にサルの頭が落ちていたもので、それも剥製
にしてくっつけたんですよ」
との事。そうか、たまたま家の裏にサルの頭が落ちてたのか・・・広島は恐ろしいところだ・・・。
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ちなみにレモンスカッシュが予想外に美味しかったので驚いてしまいましたが、ちゃんと生レモンを絞って
炭酸水で割り、甘さも調節して作っているとの事。店内の雰囲気があまりにあまりだったので、失礼ですがこ
んなちゃんとしたレモンスカッシュが出てくるとは思いませんでした。
そんな会話で盛り上がる中、店主さんは様々ないたずらを私に仕掛けてくるのでその度に失禁しそうになり
ましたが(ネタバレになるので何があったのかは内緒)、私があと少し気が弱ければ床がえらい事になってい
たでしょう。店主さんは私の我慢強いちんちんに感謝すべき。
その後も話が弾みますが、もう引っかからないぞと身構える私に対して店主さんは
「下界の人は疑り深いなあ(笑)」
じゃあここは天上界なのか。どう見ても地獄の釜の底にしか見えませんが・・・。
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それにしても、こうして赤黒い洞窟の様な店内で店主さんと話をしていると、難破船を飲み込んだ巨大クジ
ラの中で、先に飲み込まれた人が廃材で作り上げたバーの店内にいる様な気分になってきます。昔そんな話を
読んだ気がしますが、なんだったっけ。ピノキオかな?
とにかく凄いですねを連発する私に対して店主さんは
「いえいえ、うちは普通の喫茶店ですから(笑)。目指せコメダ珈琲!でやってます(笑)」
広島のコメダ珈琲ってこんなんなのか・・・大阪のと随分違うんだな・・・。
「でもね、最初はここ、こんな感じじゃなかったんですよ。物も半分ぐらいしかなかったですし。途中から
喫茶店やろうって、こうなったんです。結局のところ時代に流されたんですね・・・」
いやいやいや、そんな時代の流れはなかったと思います。っていうか、モノも半分はあったのか・・・。ま
た、見れば見るほどあちこちからぶら下がっている骨、剥製、ちんちんの類は殆ど本物なので、日々の手入れ
も大変だとか。
「骨ってのは結局ただのカルシウムなので、定期的にクリアーかけないとすぐ傷むんですよ。作り物だった
らそんな事しなくていいんですけどねえ(笑)」
また店内の明るさはこれがMAXらしく、この暗がりの中で掃除したり手入れするのは大変そうだなあ。
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これは私の大好きな富山県の日本海食堂でも感じた事ですが、この喫茶店の建物が先代店主さんの頭蓋骨そ
のもので、店内に溢れかえる怪しいブツは先代店主さんの脳そのもの。まるで自分がミクロ以下の大きさにな
って、人の脳みその中で遊んでいる気分です。先代店主さんの脳内を泳ぐ様に歩き回り、撮影し、その記憶の
欠片に触れてみる・・・。
「あ、じゃあ僕は脳の中の墓守りみたいなもんですね」
と店主さん。それにしてもこの店内、気の弱い人や子供は一発でトラウマになりますね(笑)と話している
と、過去には途中から泣き出してしまった女性や、入り口から中に入れなかった人もいたとの事。
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「私は親父のせいで小さい頃からこれが普通でしたから、気を使っちゃいますねえ(笑)」
と店主さん。普通・・・普通ってなんだ・・・。
その後は悪い意味で真面目になっている今の日本を二人で憂いたりして意気投合していると、次のお客さん
が入ってきました。さて、私はそろそろお暇しましょうか。
・・・とその前に、S.A.Sへのレポート掲載許可を貰わねば。毎回この時は緊張しますね。ダメと言われ
たらそれまでですが、ここを訪れた記録は是非とも形にして残したいですし。
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ただ、ネットではかなりネタっぽく取り上げられているお店です。先代の店主さんから引き継いだという経
緯もありますし、その辺の取り上げられ方をどう感じているのか、ちょっと探りを入れてみましょう。
「そうですね、あんまり気にはしてないんですけど、夜一人で枕を濡らす事もあるんです。『マスター死ね
ばいいのに』って酷い・・・(泣)」
うーん、これだけ色々やって泣かされて帰った子なら、それぐらい書いても仕方ない気が・・・(笑)。こ
こでおずおずとレポート掲載についてお願いしてみると、
「ええ、全然かまいませんよ(笑)」
との事。あああああ有難うございます!一応メインは自衛隊イベントレポートなんですけど・・・と言うと、
「あ、自衛隊の人も結構来てくれますよ。米軍の人とかも」
うーん、潜水艦乗り組みの人なら、この空間は馴染めるかもしれないなあ。そういえば映画『レッドオクト
ーバーを追え!』で出てきたロシアの潜水艦の指令室にそっくりですね、この店内。アドレスを書いたウェブ
名刺を渡し、また来ます!と言うと
「股だけでなく上半身も来てくださいね!」
下半身だけで来たら手際よく捕獲されて、あっという間に剥製にされそうだなあ、俺のちんちん・・・。
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いやあ、ほんと強烈でしたよ喫茶伴天連。ものすごい満足度でした。ただひとつだけ腑に落ちなかったのが、
戦争遺跡や古い銭湯、こういった超アンダーグラウンドなお店を訪れた時にいつも感じる切なさ、もの悲しさ
の様なものが、この喫茶伴天連からは感じられなかった事。
正直頭がどうかしてるとしか思えない店内でしたが、不思議とホッとするというか、安心感みたいなものが
あったんですよね。あんな店だったのに。
店主さんの明るい人柄か?いや、そんなちょっとイイ話みたいな理由ではない気がする・・・と車を運転し
ながら考えていたのですが、これはきっとアレですね。古くて強烈で貴重なものが、失われる事なく次に受け
継がれた安堵感。これに尽きると思います。
古い銭湯は需要の減少と燃料費の高騰、施設の老朽化、そして後継者不足に悩まされ、戦争遺跡の多くは整
備される事もなく山の中に飲み込まれ、このまま消えゆく運命にあります。
そんな中、先代の残したこの奇天烈極まる喫茶店をそのまま残して行こうという二代目店主さんの心意気。
そうか、ここは大丈夫なんだ・・・という安堵感が、滅びゆくものに付きまとう悲哀を感じさせなかったんで
しょう。それが安堵感にはほど遠いお店だったというのが、いい意味で凄い皮肉ではありますが・・・(笑)。
大阪からはそうそう通える距離ではありませんが、呉や江田島に来る時はまた訪れたい喫茶伴天連でありま
した。
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その後は伴天連からほど近いところにあるかんぽの宿竹原にて温泉につかり、道の駅たけはらに移動。久し
ぶりの車中泊を満喫します。明日は安浦港で防波堤になっている海軍のコンクリート船武智丸を見学し、大和
ミュージアムへ。午後からは呉地方総監部の敷地内にて行われる海軍地下作戦室の一般公開に参加です!お楽
しみはまだまだ続くよ!とほくそ笑みつつ、バーボンの酔いのままに寝袋にくるまりました。
呉江田島ツアー一日目、江田島海軍兵学校に戻る
呉江田島ツアー二日目、コンクリート船武智丸に続く
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