コンクリート船武智丸

2018.03.04


       さて呉江田島ツアー2日目。車中泊地となった道の駅たけはらを早朝に出発し、今は漁港の防波堤になって
      いる海軍のコンクリート船武智丸を見に行きます。防波堤になった海軍艦艇と言えば、3年前に福岡県まで見
      に行った駆逐艦柳を思い出しますが、そもそもコンクリート船ってなんなんだろう・・・と思いつつ、人気の
      少ない国道185号線を西に走ります。
       0745、呉市の安浦漁港に到着。養殖カキがとても美味しい安浦漁港ですが、おっ!いきなり見えてきま
      したよコンクリート船武智丸。この道は何度も通っていましたが、こんなところに戦争遺跡があったとは全然
      気づかなかったなあ。
       まずは忘れないうちに漁港内のカキ屋さんでお土産に1kg購入し、さっそく武智丸を見に行きます。日に
      よっては閉まっている事もあるらしい防波堤前のフェンスですが、幸運な事に今朝は扉が開いていました。よ
      かったよかった。

       戦時中の鉄不足から鉄筋コンクリ製の輸送船として建造された武智丸ですが、コンクリ船というのがどうに
      もピンとこない
せいか、廃船を防波堤に使ったというよりも船の形をした防波堤を作った様に見えてしまう
      が面白いなあ。舷側に沿って手すりのついた頑丈そうな通路が作られていて、足元はよさそうです。
       ちなみにこの武智丸、排水量は2300㌧もあります。終戦までに3隻建造されたらしく、それぞれ呉、横
      須賀、佐世保鎮守府に配備されたとの事。当時はコンクリート製の船など聞いた事もないと信頼性を疑われた
      そうですが、心配された漏水も揺れも少なく、何よりコンクリ製の船体は磁気を帯びにくい為金属反応式の機
      雷に触雷しにくい
という大きなメリットがあり、輸送任務で南方まで航海する等の活躍を見せたとの事。

       戦後はこうして防波堤として役割を全うしている武智丸ですが、縦に2隻つないであるうち陸側にあるのが
      第一武智丸、海側にあるのが第二武智丸だそうです。
       まずは第一武智丸ですが、一段低い中央甲板部は満潮時に水没してしまうらしく、真っ青な海藻で覆われた
      状態。幸い今は干潮らしく、いいタイミングで見に来ることが出来ました。
       全長64m、全幅10mの武智丸。想像よりもかなり大きいなあ。もっと小さい船かと思っていました。船
      体中央部の甲板には大きな開口部があり、この中に燃料や様々な補給物資を積み込んで輸送任務にあたってい
      たんですね。

       船首と船尾には、中央甲板から内部に通じる入口が2ヶ所ずつありました。劣化が進んで内部の鉄筋が露出
      していますが、厚さは40cmぐらいあって相当頑丈そうです。
       船尾同士をくっつける形で海底に固定された2隻の武智丸ですが、木製の甲板はとうに無くなり、通路上か
      らは密に入り組んだ鉄筋コンクリ構造物がよく見えます。赤錆びた長さ5cm程のボルトが沢山突き出ていま
      すが、これで甲板の木材を固定していたんですね。

       船尾甲板部中央は長方形の開口部になっていますが、おそらくここからエンジンを入れ、上にフタをする形
      で艦橋を載せていたんでしょう。
       第一武智丸の艦尾から、第二武智丸の艦尾に乗り移ります。陸につながっている方の第一武智丸もそうでし
      たが、若干左下がりに傾斜した状態で海底に固定されているので、平衡感覚が狂ってなんか変な感じだなあ。
      これは最初からあえてこの角度で沈底させたのか、水平をとるのに失敗したのか、それとも長い年月のうちに
      自然に傾いてしまったのか。

       第二武智丸も概ね同じ構造ですが、こちらは船尾から中央甲板に降りて行く事が出来ました。実際に甲板部
      に降りた武智丸ですが、思ったよりもがっしりした感じですね。これなら結構な予算をかけて解体処分にする
      よりも、こうして防波堤として再利用する方が合理的です。
       ただ、最初から防波堤として作られた訳ではないので、甲板のあちこちにある穴ぼこには要注意。一応ふた
      はしてありますが、かなりさび付いているので当てにしない方がいいでしょう。

       中央甲板にあいた開口部をのぞき込むと、内部の船倉は意外と浅いなあ。船底のキールが文字通り竜骨みた
      いです。
       それでは船尾側の甲板下部に入ってみましょう。足元にはコンクリ片や砂利、カキ殻の欠片が散乱していま
      すが、あとは枯れた雑草が少しある程度で思ったよりもきれいな状態。構造材の間から差し込む朝の陽光が、
      まるで石造りの神殿の中にいる様な雰囲気です。

       鉄筋コンクリ製の柱のお陰で今一つ船の中にいる気になりませんが、下に向けて絞り込まれた内壁丸窓
      やっぱり船の構造ですね。足元に木くずの類が全く見られないところから察するに、木造甲板は最初から取り
      外した状態で防波堤にしたのでしょう。
       船尾末端の床だけがぐずぐずに湿って泥状になっていますが、これは海水が入り込んだのではなく雨水が溜
      まったものかな。

       再び中央甲板へ。こちらは満潮時も水没しないせいかカキ養殖業者の物置になっているらしく、大量のホタ
      テの貝殻
が山積みになっていて、壊れたベルトコンベアーの残骸も放置してありました。

       船首の甲板下に入ってみますが、こちらは天井部までコンクリ打ちされていて、流石に圧迫感があります。
      舳先には周囲を鉄で補強された孔があり、ここは錨鎖庫兼物置として使われていた模様。舳先と天井の一部が
      黒くなっていますが、これは塗装の名残かな?それとも中で焚火でもしたのでしょうか。

       船首の甲板上には色々取り付けた跡が残っていますが、恐らく巻揚機ボラード等があったと思われます。
       船首の先には長さ10m程の防波堤が延長されていて、そこまで階段で降りて行けました。コンクリ製の武
      智丸ですが、さすがに船首部は分厚い鉄板で補強してあります。往時は塗装が施されていたと思われますが、
      今は赤茶色の錆にまみれています。

       最後は再び陸に戻り、反対側に突き出た第一武智丸の船首を見に行きます。海に落っこちそうなぎりぎりの
      場所ですが、厚さ15mm程の鉄板で補強された船首先端部がよく見えました。こころなしか船首の甲板が第
      二武智丸よりも広い気がしましたが、これは上をまたいだ通路がないせいか。よく見ると錨鎖孔の基部にある
      コンクリ台座
の形状が、海側にある第二武智丸のものと少し違いますね。どういう意味があるんだろう。

       最後は対岸に移動して、武智丸の全容を撮影。完全逆光な上に角度が微妙なので、ちょっとわかりづらいな
      あ。午後からの方が撮影しやすいかもしれません。

       いやはや、なかなか興味深い物件でしたよ、コンクリ船武智丸。今も現役の防波堤として台風や災害から漁
      港を守っている
せいか、その佇まいからもの悲しさは全く感じられず、むしろ第二の職場でも周囲から頼りに
      されているカッコいいベテラン爺さん
の様な佇まいを感じました。
       物言わぬまま、記憶とともに自然の中に帰っていく山中の戦争遺跡もいいですが、こういう幸せな引退後
      あっていいよなあ。果たして私の人生のラストはどっちになるのか・・・いやその前に、さっき買ったカキで
      美味しいカキフライ
を楽しまなくちゃな!確か冷蔵庫に頂き物の高いビールが残ってたはず・・・ニヤニヤ顔
      でそんな事を考えつつ、安浦漁港を後にしました。




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