旭湯
2016.05.15
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さて新潟遠征二日目。今回のメインである新発田駐屯地創立記念行事の後は新潟市内に移動して、西区にあ
る超レトロステキ銭湯『旭湯』に向かいます。JR越後線内野駅からほど近い場所にある旭湯ですが、付近に
コインパーキングが全く見つからず。路駐するのも憚られたので、あらかじめチェックしておいた3kmほど
離れた場所にある駐車場に車を預けます。
ここから内野までは駅ふたつ。歩いて往復するのは構いませんが、風呂の後に汗をかくのはイヤだなあ。電
車での往復は時間のロスと言えばロスですが、初めての街をのんびり歩いたり、しんと静まり返った人気のな
い駅の雰囲気に浸ったり、自分で扉を開かないといけない車両に驚いたり・・・こういう旅先での一見して無
駄と思える時間が、後になって振り返ると結構印象に残ったりするんですよね。
という訳で、戻ってきました内野駅。周囲には期待出来そうなホルモン焼き屋や寿司割烹があり、ひと風呂
浴びた後に飲むビールがたまらなく美味しそう。今日はこのあとホテル公楽園まで車移動なのでそれは叶いま
せんが、久しぶりにそんな旅もしてみたいものだ・・・。
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内野四つ角の交差点を右折し、すぐに見えて来たのが旭湯の看板!おおお、とうとう来てしまいましたよ、
大阪から(笑)。表通りから路地へと折れると、奥の方にある木造の古い建物の壁に『旭』『湯』という力強
い看板もありました。正直もう潰れてるんじゃないか・・・と心配でしたが、簡単に外せる看板が残っている
という事は、まだまだ健在な模様。
それにしても、この表通りからの隠れっぷりは凄いなあ。わざと人目につかない様に建てたみたいで、個人
的にその捻じくれ加減に共感してしまいます(笑)。まるでパパの理不尽なシゴキに耐える飛雄馬を、物陰か
ら半泣きで見守る明子姉ちゃんみたいな佇まい。表通りから5m入っただけの路地に、こんな秘境銭湯が潜ん
でいたとは・・・世の中まだまだ捨てたもんじゃありません。
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入口の屋根にはこれまた古いエアコンの室外機が、護衛艦の衛星通信アンテナの如く聳え立っています。そ
してその背後には、矢尻型のサビサビ看板が。微かに『旭』の文字が読めるので、反対側には『湯』があるは
ず。それにしてもこんな路地裏の見えないところに、わざわざ看板を出す意味があるのかなあ。
あ、もしかしてこの旭湯の前は元は駐車場か何かの空間で、あとからそこに住宅を建てたんでしょうか?で
も、家業である銭湯をわざわざ隠すように?訳がわからない・・・。
とは言え、こんなところにある銭湯に入りに来るのは、最初からそこに旭湯がある事を知ってるご近所さん
ばかりなんだろうなあ。なら表通りから見えづらくしたところで、大した問題もないのかも。しかしそれは即
ち一見さんや余所者を想定していないというか、常連さんばかりのお店に入り込む気まずい空気が予想されま
す。まあ、私は平気で入っちゃいますけどね(笑)。
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その個性的すぎる佇まいに感服していると、旭湯を表通りから隠している住宅から一人の女性が出て来まし
た。
「あ、いらっしゃいませ」
やはりこの住宅は、旭湯の経営者のご自宅みたいですね。ここを先途と女性を捕まえて、色々とお話を伺っ
てみます。大阪から入りに来たと告げると驚かれていましたが、こういった古い銭湯が全国から消えている現
状を嘆くと、
「やっぱり後継者問題なんでしょうねえ、どこも・・・」
と、寂しげに微笑んでおられました。
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旭湯の玄関は古臭いながらもなかなか洒落た作りで、拍子木に切った木材をモザイク模様に重ねた壁、落ち
着いた群青色の壁タイル、ペプシコーラの古臭いベンチ、営業日告知の小さな黒板など、実に味わい深い。古
い木材と湿ったホコリの匂いがたまりません。
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足元には小さなくみ上げポンプがありました。井戸水を沸かしているのかな。越後山脈の雪溶け水が岩盤に
染み込み、何十年もの自然濾過を経てここに湧きだしているのか。きっと美味しい水なんだろうなあ。
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程良く暗い玄関の、向かって右側が男湯です。アルミサッシの引き戸を開けると女湯との境目に番台があり、
おばあちゃんが座っていました。まずは建物内の雰囲気に驚いた様子を見せ(いや、本気で感動しましたが)、
古い銭湯が好きであちこち訪ね歩いている事、ここをネットで見つけて大阪から来た事、出来れば室内を撮影
させてほしい事を告げると、おばあちゃんは
「んん~、なんかよく分からないけど、別にいいよ~」
との事。ありがとうございます。
入ってすぐ右手、番台の真横には靴箱がありますが、鍵の木札を入れる部分が一段ごとに左右互い違いにな
っていて、ちょっと可愛らしいなあ。いや、これはハイカラというべきか。
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室内正面奥が浴室で、脱衣所の左右にはベンチとソファーが並んでいます。ガムテによる補修跡がいい味出
してます。
外から差し込んでくる柔らかな陽射し。少し開いたままの窓からは、路地を吹き抜ける涼しい風が流れ込ん
できます。そして飲み物が入った冷蔵ケース、無造作に貼られた指名手配犯ポスター。天井からは古臭い蛍光
灯がぶら下がり、もはや古き良きという言葉しか思い浮かばない極上銭湯そのもの。あああ、当りだ、これは
文句なしの大当り銭湯・・・。
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脱衣所の真ん中には、なぜかストーブがありました。当然火は入ってませんが、年間稼働率の高さは大阪の
比ではなく、どうせ数ヵ月後にはまた使うんだから出しっ放しでいいや、という事でしょう。
浴室には先客がいる様で、さすがに撮影は無理。まあ、先客が帰るタイミングで無人になる事を期待しまし
ょう。
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という訳でさっさと全裸になって浴室へGO。ちなみにこの旭湯、脱いだ衣服は籐で編んだ丸籠に入れるシ
ステムらしく、荷物置きの棚はありません。お陰で脱衣所が広々と開放的な雰囲気なのも、採光の良さを際立
たせている感じ。
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浴室正面奥には畳2枚ほどの浴槽があり、向かって左側に5つ、右側に3つのカランが配置されています。
右側に面した窓は非常に大きい作りで、水色と白を基調としたペンキ塗りもあいまって清潔感が抜群。手入れ
の行きとどいていないボロっちさは微塵も感じられません。
まずは大きな窓に魅かれる様に右側の洗い場に場所を定めて、石鹸で体を洗い流します。もう夕方が近い時
間ですが、降り注ぐ陽光のお陰で真昼間から風呂に入る醍醐味を満喫できるのが素晴らしい(笑)。
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その一方で、ぎりぎりまで窓の広さを追求した所為か、本来顔の高さにあるべき鏡がかなり低い位置にある
為、体を洗っていると鏡に映る自分の象さんとまともにコンニチワする羽目になるのがなんともはや。うーん、
これは正直ちょっと微妙・・・。明るさをとるか象さんをとるか。いや、この場合は明るさをとった結果象さ
んもついてきたパターンになるのかな。新潟ではこういうのが流行っているんだろうか・・・。きっと馴れた
地元の人は左側のカランを使い、右側はあくまでも混んだ時に使うんだろうなあ。
「お湯はすごく熱いから、気をつけてね」
とおばあちゃんが言っていた通り、確かに熱い湯です。私は江戸っ子ではないのであまり熱い湯は苦手です
が、この熱さが体の中の疲労物質を焼却処分してくれる様で、これはこれで悪くないですね。そもそも日本有
数の豪雪地帯である新潟県、いくら5月とは言え風呂がぬるくては話にならないのでしょう。
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先客が出て行き、男湯にいるのは私一人だけ。よし撮影のチャンス!と思いましたが、入れ替わる様にして
もう一人のお客さんがやってきました。まあ、これだけ湯気がたっているとレンズが曇って、どのみちまとも
な撮影は無理か。一人でも多くのお客さんが来て、この銭湯の経営が成り立つ事を喜ぶべきでしょう。
一旦あがって体を冷まし、もう一度湯船へ。古びてはいますがとても清潔な浴室、爽やかな新潟の初夏、深
く静かな旭湯のひととき・・・いやあ、ここまで来た甲斐がありました。大満足の大当り銭湯です。
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脱衣所に戻ると、開けた窓から入り込んでくる路地裏の風が心地いいなあ。旭湯にとっては今が一番いい季
節なのかもしれません。とは言え、雪に閉ざされた冬場、吹雪の中を耐え忍びつつ転がり込んだ旭湯の温かさ
にも触れてみたい気がします。もっともそんな時期に新潟まで車で来る自信はありませんが(笑)。
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最後は番台のおばあちゃんに、当HPへのレポ掲載許可をお願いします。毎回この瞬間は緊張しますが、こ
んなにも素晴らしい銭湯を訪れた足跡は、ぜひ自分のHP上に残したいですし。
でも、そういうのを嫌がる人も当然います。悪意のない記事とは言え、自分の手の届かないところで自分の
店があれこれ取り上げられるのは、必ずしもいい事ばかりではないでしょう。気難しいタイプの人ではなさそ
うですが、断られたら仕方ないな・・・と覚悟していましたが、
「んん~?まーいいんじゃない~(笑)?」
うーん、よく考えてみればおばあちゃん、パソコンとかネットとか全然興味ない世代か。結果的におおらか
なお年寄りの無関心につけ込んだみたいな形になってしまいましたが、筋は通したし、まあいいか・・・。
なんだかんだで1時間以上満喫してしまいましたよ旭湯。象さんと対面せざるを得ない鏡の位置だけがちょ
っとアレでしたが、旭湯の素晴らしさの前ではある意味それも御愛嬌(笑)。ここに入る為だけに新潟までや
ってくる価値のある、惚れ惚れするような極上銭湯でありました。
呉の神原湯がとうに廃業し、福知山の櫻湯も果たして残っているのかどうか。大阪からはるか離れた新潟に、
貴重なともしびを見つけた気分。次に来る機会があるかは分かりませんが、しぶとく生き残って欲しいですね、
旭湯・・・。
さて、この後は燕三条へ移動。ホテル公楽園に宿泊です。しかし日本海食堂→新発田駐屯地→旭湯→ホテル
公楽園とは。今回の新潟遠征はいつもにも増して強烈だなあ・・・と呟きながら、車を走らせました。
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