Step☆Up 〜2nd daytime〜
(担当 響子)
最近の私は…ヘン。
沢田の腕の中にいるとなんだか
『もっと触って欲しい…もっと触りたい』ってキモチが
むくむく起こってくるんだ。
優しいキスに心が和む。
深いキスに心が震える。
抱き締められると、全身が…ゾクゾクッとなる。
体の奥の奥、自分でもどこから湧き上がるのかわからない不思議な…衝動みたいなものが、
沢田の腕の中にいると溢れそうになるんだ。
なんでそんなわけのわかんないヘンな気持ちになるのか
検討もつかなくて。
自分でセーブ出来ない初めてのことに戸惑って凹んでたら
こういうことには滅法勘のいい藤山先生に捕まったんだ。
・:*:・゜'★,。・:*:・゜'☆
行きつけの喫茶店に入って、
周りに生徒や知り合いがいないのを確認して、ホッとして椅子に深く腰掛けた。
当然のようにタバコを取り出して慣れた手付きで火をつける藤山先生を
上目遣いで見ていたら
「で?どうしたの?」
くいっと顎をしゃくって、いつものように洗いざらい白状するように促された。
そう言われても自分でもよくわかんないことをどうやって…って困って、
アイスコーヒーのストローをねじねじしながら
「どうって…///なんだか最近、へンなんです。」
って、ともかく話し始めたのも束の間、
あれよあれよっちゅー間に…一切合財///…聞き出された。
聞いてる間、藤山先生が何度も顔を思いきり顰めたり緩めたり、
妙な顔してたから
「やっぱり…これってなんか…ヘンな病気なんですかねぇ…。」
って聞いた途端、これ以上ないってな程デッカイ鼻息を一つ吐かれた。
(京さんみたいなオヤジからでも、あんなすごい勢いの鼻息は聞いたことはねぇ。)
その上、さもバカにした顔でせせら笑いながら
「はぁ〜ぁん?
体がムズムズして、ヘン?病気、ですってぇ?
なーーーーにバカなこと言ってんの。
原因は一つよ。
それはね…『沢田クンに抱いて欲しい』って
アンタの体が訴えてんのよ。」
そう言われた。
突然の爆弾発言に度肝を抜かれつつ、
でもやっぱりそんなとんでもねぇ誤解は何としても解かなきゃ、と
必死になって否定した。
「やっ…///// やややっ…そんなこたぁ、ない、ない、ないですっ!/////」
真っ赤になってドモリながらブンブン横に首を振る私に、
わざとタバコの煙をふいっと飛ばした藤山先生は、
さも呆れたと言わんばかりの顔で
「なーにが、ない、よ。
あの子の腕の中にいると安心するんでしょ?
そこから出たくないなぁって思うんでしょっ?!」
って、言った。
「はぁ……まぁ…そう…ですかねぇ…///」
「沢田クンの体温とか、息遣いとか感じた時…ゾクッとしない?」
「すっ…///…する…か…な…?/////」
「頬っぺとか、肩とか触られた時
『もっと…』って思うわよね?!」
「なっ///、なんですか、その断言(汗)!!!」
「だぁーーーっ!(怒)いちいち赤くなるなぁっっっ!
邪魔くさいコねっ!!!
思うか思わないか、キリキリしゃんと返事せんかぁぁぁっ!」
「は、はいっ!思いますっ!!!」
思わず直立不動で返事しちまった。
「ふー。よーし!
じゃ、沢田クンがそこでもうちょっと進もうとしても
『ヤメテ』なんて言うアンタのお願いやら拳やらに負けてやめてくれた時、
心の中でちょっぴりでも『やめちゃうのか…』って思わない?
言っとくけど、この期に及んで誤魔化そうったって、
許さないわよ!!!」
もしかしてこの人は志麻姐さんじゃなかろうか、と思う程の迫力に
観念して白状した。
「お、おもっ…/////…思う時…あります…/////…。」
「でしょうっ!!!
それはねっ!
ココロはまるっきりガキだけど、オトナなアンタのカラダの叫びよっ!
『抱いて〜!
早くオンナにして!!
沢田クンのモノになりたいっ!!!』ってね。
鈍感でネンネのアンタが、その声に気付いてないだけよ!!!」
「叫び、って…!///、いや、いや、いやぁ/////そっ、そんなはしたないこと/////…
叫んでないですけどっ!」
「だーかーらー!!!
それはアンタが気付いてない深層心理だって言っとろーがっ!」
「し、深層…ですかぁ。」
「そうよ!
いつまでもそうやってカラダの声を聞いてやんなきゃ
ある日突然欲求不満で反乱を起こすかもよ?」
「反乱ーっ!?…って、どんなことですか?(汗)」
「そうねぇ、例えば沢田クンと話してる途中で突然
抱き付いて押し倒したりだとか。」
「えぇー!?(滝汗)」
「何の前触れもなしに、沢田クンの前で脱ぎだしたりとか!」
「ノォーッ!!!(ムンクの叫びのポーズ)」
「さらに、○▽□○▽□○▽□なことまで!!!」
「イヤーーーーーーっ///!!!!!!!」
「それがイヤなら…とっととヤっておしまい!
まずはこの週末がチャンスよっ!
アンタから迫れ、なんて到底無理なことは言わないわ。
ただ、沢田クンがその気になれるよう隙を見せてやんのよ。
そうしてめでたく迫られたら…
拒まない!逃げない!!殴らないっ!!!
それだけを覚えておいて…
行って(やって、だったかも…)来ーーーーーいっ!!!」
ビシッ、と出口を指差されて、すごすご帰って来たんだっけ…。
・:*:・゜'★,。・:*:・゜'☆・:
それが、金曜日の放課後のことだった。
それからはもうずっと『突然まっ裸になる』自分の姿、ってのを思い浮かべては
頭が真っ白になりそうだった。
いくらなんでも、そんなの…やだ!!!(泣)
そんなことになる位なら、どんなに恥ずかしくってもちゃんと意識のある時に
……するほうがずっといいっ。
でも、いざ決心しても、今まで逃げまくってたのに
今更どうやって?って考えると、どうしたらいいのかわかんなくて。
ちゃんと意思表示って言うか、「いいよ」って言えれば
それで済むんだろうとは思うけど、まさかそんなこと私から言えるはずもないし。
こーなったら、藤山先生のアドバイスに従って
何とかいいムードに持って行って沢田がその気になったら
絶対拒まないことにしようっ!!!と決めた。
一晩中
「こう来たら…、こう」とか、「ここで…こうやって///、こう?」なんて、
まるで組み手のシミュレーションみたいにイメージトレーニングしてて
気付いたらすっかり外は明るくなってて。
鏡を見たら、寝不足で目は充血してるのに妙にギンギンで。
なんだかまるで、ソンナことばっか考えてるガキみたいだ///って思うと
家の連中に顔を見せるのも恥ずかしくて
おじいちゃんのお客が来て、皆が慌しくしてるのを幸い、
縁側で顔のほてりを冷まそうとしているところに、富士を連れて沢田が来たんだ。
もう心の中はびっくり仰天、なんてもんじゃなかったけど必死で平静を装った。
富士の紐を受け取る時に…少し触れた指先から電流が走ったような気がした。
落ち着け!私。
この電流で『突然脱ぎだす』なんて深層心理にスイッチが入ったら大変だ(汗)。
頭の中で、マッ裸の私に縁側で抱きつかれて固まる沢田、を想像して
必死でスイッチが起動しないように抵抗した。
おじいさんの知り合いが来てる、って言った途端
帰ろうとした沢田の気配を察して慌てて引き止めた。
どうやって沢田の部屋に行こう、って考えてたからすごいチャンスじゃねぇか。
なんとかこの週末の間にスイッチの元を解決しとかなきゃ
これから毎日おちおち過ごせやしない。
ここは、一発!女は度胸だ!!ってな。
至上最速じゃないか、ってな位、頭の回転を早くして、
沢田と一緒にアイツの部屋に帰る口実を思いついた。
『そうだ!お前んちゲームあったよな?』
首尾よく沢田のオッケーを貰って、アイツん家に行くことにしたけど
心の中はもうバクバクだった。
部屋にゲームソフトを取りに行ったついでに、
以前こっそり買っておいた、着けた事もない可愛い薄いピンク色の下着に着替えて、
ついでに泊まりの用意もした。
(って言っても、もう一式買っておいたレースの下着だけだけど…。
ね、念の為な///!)
京さんに言ったら騒ぐだろうからテツをこっそり呼んで
「お客さんが来てる間、他所で泊まるから。
心配すんな。」
って言ったら、テツは、その『お客さん』が私に縁談を持ってきてること、
私が逃げ回ってることを先刻承知だから
「わかりやした!」
って親指をぐいっと立てて、気持ちいい返事をくれた。
でも、いざ沢田の部屋に来てみても、どうしたらいいのかわかんなくて。
とりあえずベッドに寝転ぶか!と横になっても
普段が普段だから、沢田はまさか私が誘ってるなんて思いもしないみたいで、
内心ガクッ、となった。
とりあえずゲームでもして、夕方になったら
もしかしたら沢田がなんかの拍子にその気になってくれたりしねぇかなー、なんて
ささやかな期待をしてゲームに興じてたら///思いがけない展開で…そーいう雰囲気になった。
その前に、思わずいつものくせで一発喰らわせて気絶させちまったことは
ご愛嬌、ってことで(汗)。
『今夜泊めて』って言ったことで、『風呂に入る』って言ったことで…
私の覚悟は伝わるかな。
それとも、本当にそれだけのつもりだと思われて、
沢田のその気がなくなってたらどうしよう、なんて風呂に浸りながら考えてたら、
完全にのぼせちまって。
「こうなったら、あたって砕けろだ!」
なんて内心の掛け声と共に上がった私を迎えてくれた沢田の深いキスと
「今夜は寝かさないからな…」って言葉に、
「よぉし!」なんて気持ちと、「ひゃー、どうしよう!」なんて気持ちで
何も答えられなかった。
ドライヤーで髪を乾かしていくら待っても、
いつもならとっくに上がってくるはずの沢田がなかなか出てこなくって。
緊張のピークにともかく落ち着こうと目を閉じたら…
どうやらのぼせてたせいで、緊張の糸が切れたみたいで不覚にもそのまま眠っちまったらしい。
翌朝、沢田の匂いに包まれて目が覚めて、キスされてるのに気付いた時、
もしかしたら、ちゃんと…出来たのかな///、って思った。
でも、体のどこを確認しても(意識だけで)、いつもと変わったところはなくて。
(つ、つまり…あの///…ところが痛いとか…さ。)
こりゃぁ、なんにもしないで寝ちまったか!ってガッカリした。
いや、意識のない間に…ってのも、なんだけどさ。
あんだけ決心してたのにさ、振り出しかよ!って…//。
でも沢田の手が私の胸に触れた瞬間、胸の鼓動が早くなって
もうその音が聞こえるんじゃないかと思った。
どうしよう、寝たふりしてた方が…いい?それとも…って。
頭の中で考えようとしたけど、全然考えられなくて。
だけど服を少しめくられて外気にさらされた肌が粟立った瞬間、思わず
「さ・・わだ・・・・・」って、呼んじまった。
「やめて」ってつもりじゃなかったのに。
とっさに離れた沢田の手が寂しかったのに。
「ごめん・・・・・・」なんて言わせるつもりないのに。
でも、沢田が見当違いの…ヤキモチを焼いてくれてるのに気付いた時
心が愛しさでいっぱいになった。
だから。
精一杯の言葉で、沢田に伝えたんだ。
私には沢田だけ、ってさ。
私の言葉を聞いて目を見開いた沢田が嬉しそうな顔で
もう一度改めて私を抱き締めてくれた時、
「あぁ、やっと…」って思った。正直になれた、ってさ。
お互いの気持ちも確認出来たことだし、後はもうこのまま…ってな雰囲気になった瞬間、
野暮の骨頂とも言うべき携帯のベルの音が部屋に鳴り響いた。
「………」
「………」
お互い、臨戦態勢!なポーズでしばらく、相手の顔と携帯を見比べてたけど
いくら待っても鳴り止まない音に根負けしたように
沢田が一つ深いため息をついて
「………なんか、かなりしつこく鳴ってるから…出れば?」って言った。
「…やっ///…別にいい…と思う…、んだけど…///」
「でも、なんか『出るまで掛け続けるぜ!』な勢いだけど。」
「そのうち切れるだろ!……と思う…///」
「じゃ……///…いい?」
「ん…///」
改めて、私に覆いかぶさって来た沢田だったけど、
更に大きくなったコール音に、根負けしたように、横にゴロン、と寝転がった。
「とりあえず…待ってるから、出ろ。」
「う、うん!」
待ってる、って言う言葉に希望を見出して、慌てて胸元なんかを直しながら
携帯に出た私の耳に飛び込んで来たのは
「お嬢ーーーっ!
大変ですぜ!!!」って言う京さんの声だった。
あぁ、今この声は聞きたくなかったなぁ…なんて思いつつ、沢田に口パクで
『京さん』って伝えたら
「…こっちまでおっさんの声が聞こえてるっつーの…」
って機嫌悪そうに呟いて、ボスン!と枕に頭を埋めた。
そうだよなぁ、いざ!って時に、相手の親代わりの人間の声なんか聞くと
気力も萎えるよな…。申し訳ない、と思いをこめつつ、
すっかり枕の一部になった赤い髪に目をやってた私に
「お嬢!聞いてるんスか?!」って声が届いた。
「はいはい。聞いてるよ。
だからなにっ?!」
私の声も超機嫌悪いのは、仕方ないだろう。
普段なら、私の様子に敏感な京さんだけどよっぽど慌ててるらしく、取り合わずに続けた。
「えらいこってす!
客人が…っ!!!お嬢の婿をっ!!!」
「へ?」
「だからっすね。
鶏河のダンナが、お嬢の婿にって言って
あのヨシキを家に連れて来たんですって!!」
「ヨシキ?
えぇーっ、なんでアイツを?」
「いや、なんかどっかで知り合ってすっかりその漢気を見込んだそうで。
他でもないウチのお嬢と…そのぉ…むかーし…付き合ってたことがあるってぇ話を聞き出して、
こりゃいい!ってことでトントン拍子に勝手に手配しやがっ…されたようです。
さっきいきなり玄関先にあのヨシキの野郎が現れた時にゃー、びっくりしやしたぜ!
追い返そうとした途端、座敷から、あの鶏河のじーさんが
『おぉ、おぉ、待ってたぞい。』なんて出迎えやがって!!!」
「だ、だ、だって!
アイツとはもう何年も会ってねぇし!!!」
「ともかく、お嬢!!!帰って来ておくんなせぇ!!
今、どこです?
すぐにお迎えにあがりやすから!!!」
「今どこって!(汗)
いや、自分で帰る!帰るからっ!!
迎えはいらねえ!!!」
「そうっすか? んじゃ、待ってるんで…。」
電話を切った私は、緊張の糸がぶっ飛んで思わずその場に座り込んだ。