Step☆Up 〜1st Night〜
(担当 双極子)
ふと、目の前が真っ赤になった気がして思わず手で遮った。
「ん・・・眩し・・・」
はっと気が付くと、夕日を真っ向から浴びてベッドに寝ていた。
あれ・・・、俺何やってるんだ・・・?
たしか、今日は土曜日で。
朝っぱらからあのバカ犬に叩き起こされて、黒田へ行ったんだったよな。
そうしたら、縁側に山口がいて。
一緒に俺の部屋へ来たはずだ。
そしてふたりで古いゲームに興じたんだっけ。
それから、あいつの男の話になって。
たまりかねてあいつに触れて、そして・・・
そこまで考えて、俺はがばりと跳ね起きた。
そうだ!山口はどうしたっけ?
あれから何時間経ってるんだろう。
ずっとひとりで放って置いてしまった・・・!
「山口っ?山口!?」
「うわっ、いきなりどうした?」
すぐに足元からびっくりしたような声が聞こえてほっと安心する。
「あ、ああ・・・ごめん・・・俺。ひとりで何時間もほっぽといちゃって、ごめんな。」
「あー・・・ま、その。なんだ。・・・すまん・・・」
「良かった、帰っちまったかと思った。」
「い、いや、私のせいだし・・・////すまなかったな。」
「もういいよ。」
「あ、あのさ・・・せめてものわびに、って思ってメシ作ったんだ。
ちょっと早いけど夕メシにしないか。」
「!ありがとう。すっげぇ、嬉しい。」
「そっか!いま支度してくっから待ってろ。下ごしらえまで済んでるからすぐ出来るぞ〜。」
「ああ。」
急速に暮れて行く秋の日の夕闇の中、温かそうな明かりの下で湯気を立てている台所の山口を、
俺はくすぐったい思いで眺めていた。
山口が夕飯の支度をしてくれている間に部屋を片付けていた俺は、
ふと山口が持ってきたゲームに目を留めた。
大人気のバトルゲーム「裏道ファイターII」だ。
俺がいま持っているのはパート9だから、結構古いものだ。
このパート2は、小学校の時にねだって買ってもらえなかったものだ。
山口が「彼氏」とやらとこのゲームをやっていたとき、俺は10歳・・・
俺がランドセルを背負っていたとき、山口とそいつは男女交際などしていたのだ。
今更ながらにふたりの年の差を感じて、俺は情けなくなった。
いくら焼きもちを妬いても追いつかない。
俺とあいつの年の差を埋めることが出来たら・・・
ぼんやり考え込んでいたら、山口の声がした。
「おーい、沢田!出来たぞっ。食べようぜ!」
山口は鍋の支度をしてくれていた。
こんなものどうしたのだろう。
そう聞くと、俺が気絶している間に買いに行ったと言う。
鍋の材料だけじゃなくて鍋まで買ってきたのか(汗)。
「だってさー、お前んとこなーんにもないんだもん。
私が来た時に一緒に食えたほうがいいじゃないか。」
そう言って笑う山口に俺は胸が一杯になった。
これからも夕飯を作りにきてくれるってことなんだな。
ふたりで鍋を突きながら、今朝の客の話になった。
「ああ、あの人はなぁ。おじいさんの古い友人でね。話が長くってさぁ。
無碍にも出来ないから困ってるんだよ。」
「なんで困ることあるんだ?」
「あの人はなぜか、私に婿を世話したがっててさ。
合う度にその話されて、ちょっとうんざりしてたとこなんだ。」
「・・・・へぇ。婿、ね・・・」
思わず不機嫌な声が出るが山口は気付かない。
「・・・でいいか?」
むっとして考え込んでいたら、山口の話を聞き損ねた。
「え?何?」
「だーから。今日、泊まっていいかって聞いてんだよ。」
「はぁ?なんで??」
突然の展開に思考が停止する。
「あのじいさん、うるさくってさー。今回もまた婿の話をされるかと思うと困っちゃって。
おじいさんもわかってくれてるし、今夜は帰りたくないんだ!」
「・・・意味、わかってて言ってるんだよな?」
「へ?もちろんわかってるぞ。ちゃんとおじいさんにも断ってきたし、
着替えも持ってきたしな。あ、もしかしてここって布団がないか?」
「・・・布団はあるけど。」
「じゃあ問題ないな。一宿一飯の恩義だ。この夕飯おごるから、これで勘弁しろ。な?」
一向にかみ合ってくれない会話に、俺はため息をついた。
はぁ。この分じゃどうなることやら。
寝る時のことを思って俺は気が重くなった。
それから他愛もない話をして夕食を片付け、その後でもう一戦やる、
と言うのでまたやって(ちなみにまた俺が勝った)、何事もなく夜が更けていった。
しかし、山口が寝しなに風呂を浴びたいと言い出した時、
俺の理性の糸がぷつんと切れた。
勝手に人の家の風呂をたて、さっさと支度をしている山口を、
ぐいっと引き寄せて腕の中に入れる。
「沢田・・・?どうした?」
そのまま口を塞ぐ。
「山口っ、俺・・・!」
「んんっ、ど、どうしたんだ、突然?」
細い身体を折れよとばかりに抱きしめて、赤い可愛い唇にちゅっと吸い付く。
小さな舌を吸い出して、俺の舌で思うさま舐り、
口の中に差し込んでゆっくりと隅々まで味わう。
今までにないって位、深い口付けを繰り返しているうち、俺はもう堪らなくなってきた。
今朝の夢の続きだ。
「山口、俺のもんになって・・・」
熱くなってきた腰を華奢な身体に擦り付けて。
薄い背中を強く抱きしめる。
後頭部に手をやって、仰け反る山口の口の中を、思う存分蹂躙する。
俺の身体の一部が、変化していることの意味を、山口はわかっているだろうか。
ふたりの息が弾んでくる。
「沢田・・・」
小さな声を聞いて俺はやっと山口を放した。
「山口。男の部屋に泊まるって意味、考えて・・・」
熱い息とともに山口の耳元で囁くと、山口はびくっとして俺から離れた。
戸惑う山口の瞳に、わずかな怯えを認めた俺は、山口を腕から解放した。
「風呂、入ってくる・・・」
山口はそそくさと風呂場へと入っていった。
「はぁ・・・」
夕飯を済ましゲームをしている辺りまでは、山口がその気にならないのなら
我慢しようと思っていた。
だけど、もうだめだ。
今夜は寝かさない。
そう決意すると、俺は箪笥の引き出しをあける。
実は、しばらく前からこう言う時の必需品を備えてあるのだ。
いつでも大丈夫なように、常に持ち歩いていたりもする。
ベッドのヘッドボードの小物入れに、ソレを一つ、入れておく。
いや、二つ・・・考えた末、俺は三つ用意して、
落ち着きなく山口が風呂から出てくるのを待っていた。
・・・・
我ながらそんな姿が滑稽で、情けなくなってくる。
こう言う時って、皆どうしているんだろう?
・・・・
それにしても時間が経つのが遅いな。
俺が待ちきれないせいで時間が経つのが遅いのかと思ったが、それにしても山口は遅い。
時計を見ると、一時間以上も経っている。
流石に心配になって立ち上がったとき、ばたんと風呂場の戸が開く音がした。
ほっとして洗面所の前まで行ってみると、やけに上気した顔の山口が出てきた。
茹で蛸のように真っ赤になってふらふらしている。
濡れた髪が色っぽくて、また熱がゾワリと沸き上がる。
捕まえてもう一度、深く口付けして囁いた。
「今夜は寝かさないからな・・・」
山口はびくっとして固まったようだったが、気遣う余裕もなく、
俺は風呂場へと向かった。
走り出さないようにするだけで精一杯だ。
そそくさと、しかしいつもよりは念入りに入浴を済ませて、急いで部屋へ戻る。
「山口。」
山口は、ドライヤーを握ったままベッドにこてんともたれてぐっすり眠りこんでいた。
入浴前に刺激しすぎたせいで、長風呂をしてしまい逆上せてしまったらしかった。
こいつなりに緊張していたんだろう。
白いうなじが色っぽくてぞくぞくしたが、理性を総動員して衝動に蓋をする。
そっと抱き上げてベッドに降ろし、明かりを消すと隣にそっと滑り込む。
額にそっとキスをして、頬にも、唇にもキスをして。
どうしても我慢出来なくなって、白い鎖骨にも唇を落として、それでやっと諦めた。
小さな肩を引き寄せて、布団をきちんとかけると、俺は山口の寝顔を見つめた。
ゆっくりと上下する肩、微かな寝息、柔らかな頬の産毛・・・
ドキドキしてしまってきっと寝付けないだろうと思っていたのだが、
普段は決して感じることのない布団の中の温もりと、規則正しい寝息のせいで
いつしか俺もぐっすりと眠り込んでいた。
>>続く
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