シナリオ採録「ミツバチのささやき」

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 Chapter
  1. メイン・タイトル
  2. オユエロス村に映画がやってくる
  3. 『フランケンシュタイン』上映開始
  4. フェルナンドの仕事とテレサの手紙
  5. フェルナンドの帰宅
  6. 映画上映中
  7. 怪物の話
  8. 眠らない夜
  9. 村の学校
  10. 放課後の冒険
  11. 影絵遊び
  12. キノコ採り
  13. フェルナンドの旅立ち
  14. 朝の身支度
  15. 線路にて
  16. 詩の授業
  17. 思い出
  18. ある休日
  19. イサベルのいたずら
  20. 焚き火
  21. アナの1人の夜
  22. 汽車から飛び降りた男
  23. 村はずれの小屋で
  24. 警察署
  25. 朝食の風景
  26. 誰もいない小屋
  27. アナを呼ぶ声
  28. 夜の池辺
  29. アナ、発見される
  30. ヒゲの医師ミゲル
  31. 1人だけの寝室
  32. 月夜
  33. アナの呼びかけ
  34. エンド・クレジット

登場人物の紹介

・アナ:
 アナ・トレント
・イサベル:
 イサベル・テリュリア
・フェルナンド:
 フェルナンド・フェルナン・ゴメス
・テレサ:
 テレサ・ギンベラ
・ミラグロス:
 ケティ・デ・ラ・カマラ
・ルシア先生:
 ラリ・ソルデビリャ
・医師ミゲル:
 ミゲル・ピカソ
・兵士:
 ホアン・マルガリョ
・警察署長:
 エスタニス・ゴンザレス
・フランケンンシュタイン:
 ホセ・ビリャサンテ
・巡回興行師:
 マヌエル・デ・アグスティナ
・映写技師:
 ミゲル・アグアド
メイン・タイトル
白地に子供が描いたかわいい絵があらわれる。
絵がかわる度にクレジットもかわる。
優しい音楽にのって。

養蜂箱と養蜂家(「ミツバチのささやき」)
保護頭巾をかぶった養蜂家 (フェルナンド・フェルナン・ゴメス)
手紙を書く女(テレサ・ギンベラ)
学校へ行く二人の少女(アナ・トレント、イサベル・テリェリア)
汽車(その他の出演者)
ネコ(脚本 アンヘル・フェルナンデス=サントス、ビクトル・エリセ)
ネコ(美術 アドルフォ・コフィーニョ)
たき火をとぶ少女(チーフ・プロデューサー プリミティヴォ・アルバァロ)
井戸と家(編集 パブロ・G・デル・アモ)
帽子をかぶった少年(音楽 ルイス・デ・パブロ)
きのこ(撮影 ルイス・クアドラド)
懐中時計(監督 ビクトル・エリセ)
映画「フランケンシュタイン」の一場面を描いた絵には、次の文字。
「昔むかし・・・・・・」
(これらの絵は主演のアナとイサベルが描いたものである)

田舎道
荒涼とした原野をつらぬく一本道をトラックが重そうに走ってくる。
タイトル
「1940年頃、カスティーリャのある村での事」バス、さらに走り、小さな村に入る。 村はずれに「オユエロス村」という立て札がある。

オユエロス村に映画がやってくる
村の公民館の前
公民館の脇の道から、車のクラクションと子供達の歓声が聞こえる。

子供達 「映画がきたよ!映画がきた!」

ややして、子供達に"先導"されてトラックがクラクションを鳴らしながら来る。公民館の前に止まる。

子供達 「映画だ!映画だ!」

騒ぎながら、トラックの後に集まる。トラックで来た映写技師達が、機材を運び始める。 でっぷり太った興行師が葉巻をくわえて公民館から出てくる。

興行師 「子供達、どいてくれ。(映写技師に)元気か?」

子供達、まだワイワイと群がっている。

子供 「映画の缶づめだ!」

興行師 「道をあけろ!」

子供 「何の映画?」

興行師 「(トラックの上から)すごい映画だ」

映写技師に、空のリールを手渡してやる。

子供 「恐い映画?」

興行師 「世界一、すごい映画だよ。今まで持ってきた中で、最高の傑作だ。あとは、見てのお楽しみ。 とびきり上等の映画だ。」

公民館前の広場
村のおばさんが、小さなラッパを鳴らすと、手に持った書きつけを、間のびした節をつけて読む。風が強くて読みにくそう。 村人へのお知らせだ。

おばさん 「本日、午後5時、公民館において『フランケンシュタイン』を上映します。入場料は、おとな は1ペセタ。子供は2レアル」

公民館の中
正面の壁にスクリーンがある。子供達やおとな、老人が次々に入ってくる。各々、椅子持参である。映写機は出入口に近い方に セットされている。
人々は、入口に立った興行師のさし出す木の箱に入場料を入れている。
入口で躊躇している人がいる。

興行師 「入らんのか?」

外にいる客 「面白い?」

興行師 「こんな面白い映画はないよ。」

お客、入ってくる。続々と入ってくる。

興行師 「火事を出すなよ。火鉢に注意しろ」

ほぼ満員になった所で、映写技師の一人、天井の電灯を消す。もう一人が映写機のスイッチを入れる。コートを着たまま で、ひどく寒そうだ。

『フランケンシュタイン』上映開始
映画『フランケンシュタイン』
1931年、ジェームズ・ホエール監督でつくられたモノクロ映画。スペイン語に吹き替えてある。主演はもちろん、ボリス・カーロフ。 その冒頭シーン。カーテンを背に司会者が登場。

映画の中の司会者 「製作者と監督からの御注意を申し上げます。この映画『フランケンシュタイン』 は、人間を創造しようとした科学者の話です。人類創造は神の御業なのを忘れた人間の話です。実に世にも異常な物語です。 人類創造の神秘にせまる。生と死の物語です」

画面をじっとみつめる子供達。

映画の中の司会者 「予め申します。怒りだす人や、恐がる人もあるでしょう。これほど衝撃的な作品 は、世界にも稀です。でも、あまり本気になさらぬように願います」
「司会者の場面」が暗転する。映写機の音が闇にひびく。その音が蜂の羽音に変わる。

フェルナンドの仕事とテレサの手紙
養蜂場
蜂にさされぬために保護マスクをかぶったフェルナンドが、養蜂箱に薬剤を散布し、点検する。ピアノとフルートの奏でる優しい 音楽。女性の声がかぶる。

テレサの心の声 「皆一緒に幸福だったあの時代は戻りません。神様が再会させて下さることを 祈っています。内戦で別れてから、毎日祈っています・・・・・・」


テレサが手紙を書いている。前のシーンのナレーションがそのまま続き、それはテレサの書いている手紙の文面だとわかる。

テレサの心の声 「この失われた村に、フェルナンドと娘達と生きながらえています。この家も、壁以外は すっかり変わりました。なかにあったものはどこに消えたのか・・・・・・ノスタルジアで言うのではなく、そんな思いさえ持つどころではないこの数年でした。身のまわりの多くのものが失われ、壊され、悲しみばかりが残っていきますが、失われたものと一緒に、 人生を本当に感じる力も消えたように思います。この手紙はあなたに届くでしょうか。外からの知らせはわずかで、混乱してます。 あなたが無事でいることを知らせて下さい。心をこめて テレサ」


駅への一本道
荒野の一本道(村と駅をつなぐ道)を自転車で行くテレサ。


汽車が来る。汽笛が鳴る。テレサも着く。駅舎のかべに自転車をたてかけると、プラットホームへ。 蒸気機関車が入ってくる。白い煙につつまれながら、テレサ、貨車に備えつけられた郵便受に 手紙を入れる。発車の鐘がなり、汽車はゆっくりと動きだす。車窓には様様な旅人にまじって 兵士達も見える。全身を眼にして彼らをみつめるテレサ。汽車、駅を出ていく。

フェルナンドの帰宅
養蜂場
オーバーのふところから懐中時計をとりだす手。時計のふたを開けるとオルゴール が鳴る。手袋のままの手が、時計をふところにしまう。手の主はフェルナンド。 20ほど並んだ養蜂箱の点検を終り、マスクと手袋をとる。たばこをつけると、歩き出す。

公民館の前
公民館から、映画の音が外まで聞えている。扉に耳をつけて聞いている男もいる。 フェルナンドが、通りかかり、「フランケンシュタイン」のポスターに気づいて立ちどまるが、また歩き出す。

アナの家の前
門構えのりっぱな家に、フェルナンド、入っていく。教会の鐘が聞こえる。門を入ると、犬が迎えに来る。

家の中
家の中は暗く、静かだ。フェルナンド、2階にあがる。

フェルナンド 「テレサ!」

返事がないので、ベランダから裏庭に出る。

フェルナンド 「テレサ!」

裏庭
フェルナンド 「ミラグロス!」

メイドのミラグロスは、にわとりに餌をやっている。

フェルナンド 「妻は!」

ミラグロス 「お出かけに」

フェルナンド 「娘達は?」

ミラグロス 「映画に」

フェルナンド 「何か食べ物は?」

ミラグロス 「はい。でも、お食事の時間にはお戻り下さらないと」

書斎
フェルナンド、犬と一緒に入ってくる。タバコをくわえたまま、オーバーをぬぐと、机の上の雑誌をとり、 めがねをかける。寒そうに手をこすりながら、養蜂箱の中の様子を見る。椅子に座って雑誌を読みだす。 犬はおとなしく、そばに寝そべる。窓の外から映画の声がきこえる。

フランケンシュタインの声 「先生、お座りを。もう少しの辛抱です。完成には時間がかかります」

博士の声 「こんな不完全な怪物は壊そう。分かってくれ、危険なんだ」

フランケンシュタインの声 「危険?」

フェルナンド、立ち上ると、窓をあけ、映画の声に聞きいる。

フランケンシュタインの声 「先生は、危険を冒した事はないんですか?未知に挑まずして、 何の研究です?雲や星の彼方を見たいと思いませんか?なぜ、樹木は育つのか?なぜ、夜が朝になるのか? こんな事を言うと気狂いといわれますが、これらの問いの一つにでも答えたいのです。永遠とは、何なのか?気狂いといわれても 、私は平気です。」

博士の声 「若い君は、成功に目がくらんだのだ。目を覚まして、現実を見なさい。 あの怪物の脳は、育つまでに時間がかかる」

フランケンシュタインの声 「あの脳は完璧です。先生の実験室にあったものですから」

博士の声 「私の実験室から盗まれたあの脳は、犯罪者の脳だ!」

映画上映中
公民館
「フランケンシュタイン」の一場面。かわいい少女と働き者の父親の会話。

メアリー 「パパ、早く帰ってね」

父親 「分った、すぐ戻るよ」

メアリー 「遊んでくれないの?」

父親 「忙しいんだ。猫ちゃんとお遊び」

メアリー 「行ってらっしゃい」

父親 「いい子にしてなさい」

画面にみいるアナとイサベル。画面では、人造人間の怪物(ボリス・カーロフ)が登場。 アナの隣の少女、手で顔を覆う。
メアリー 「(少しも恐がらず)あんた、誰?私はメアリーよ。一緒に遊ぶ?」

少女、怪物の手をとって水辺に。

メアリー 「お花、あげようか?」

アナ、口を開けて画面に見いる。怪物、花を手にほほえむ。二人、水辺に坐る。 メアリー、花を摘み、怪物にあげる。

メアリー 「あんたに一つ、私に一つ」

怪物、もらった花をメアリーの手に返す。

メアリー 「お船みたいね。浮ぶでしょう」

怪物と少女、花を水面に投げる。怪物、ほほえむ。

村の道
テレサが、公民館の前を自転車で通りすぎ、家に戻る。

公民館の中
映画はクライマックスに入ってくる。殺されたメアリーを抱えた父親が、通りを進み、 人々が心配そうに見ている場面。客席では、顔を手で覆ってしまう少女もいる。アナとイサベル、 画面に見入っている。

アナ 「(画面から目をはなさずに、隣にいるイサベルの耳もとで)イサベル、 なぜ、殺したの?(イサベルが答えないので)なぜ、殺したの?」

イサベル 「(画面を見たまま)あとで教えたげる」

怪物の話
夕暮れ
「フランケンシュタイン!」などと叫びながら、家に駆けこんでいくアナとイサベル。


前シーンと同じまま、夜になり、家の2階の窓には明かりがついている。

アナの声 「聖なる十字架の名において、神よ、我らを悪より救いたまえ」

窓の明かり、いっせいに消える。

アナの声 「父と子と精霊の御名において、アーメン」

アナ達の寝室
闇の中。

アナ 「(オフ)マッチを、どこへ隠したの?」

イサベル 「(オフ)ひきだしの中の」

姉妹のベッドの間にあるひきだしの上のろうそくに、アナが火をつける。ひきだしの上には、 聖画と、猿のぬいぐるみ。

アナ 「(ひそひそ声で)イサベル」

イサベル 「(目をとじたまま)何?」

二人は、ずっとひそひそ声で話す。

アナ 「さっきのお話してよ」

イサベル 「何?」

アナ 「映画の・・・・・・」

イサベル 「今はダメ、明日ね」

アナ 「お約束したじゃない。なぜ、怪物はあの子を殺したの?なぜ、怪物も殺されたの?」

イサベルは、目を閉じたまま。

アナ 「知らないのね。ウソツキ」

イサベル 「(しかたなく目を開け)怪物もあの子も、殺されてないのよ」

アナ 「なぜ、分るの?なぜ、死んでないと分るの?」

イサベル 「映画の中のできごとは、全部ウソだから。私、あの怪物が生きてるのを見たもの」

アナ 「どこで?」

イサベル 「村はずれに隠れて住んでるの。他の人には見えないのよ、夜に出歩くから」

アナ 「お化けなの?」

イサベル 「精霊なのよ」

アナ 「先生が話してたのと同じ?」

イサベル 「そうよ。でも、精霊は身体を持ってないの。だから、殺されないの」

アナ 「映画では、身体があったわ。腕も、足も、何もかもあったわ」

イサベル 「あれは、出歩く時の変装なのよ」

アナ 「夜しか出歩かないのに、どうやって話したの?」

イサベル 「だから、精霊だって言ったでしょ。お友達になれば、いつでもお話できるのよ。 目を閉じて、彼を呼ぶの。"私はアナです""私はアナです"って」

部屋の外で、足音がする。二人、その音に口をつぐむ。

眠らない夜
書斎
足音の主はフェルナンドだった。机の前を口笛で「カミニート」のメロディを吹きながら、行ったり来たりしている。 突然、机の上のコーヒー沸かしがふきこぼれる。フェルナンド、あわてて、ふたを開け、匂いを嗅ぐ。わかし過ぎて しまったようだ。安楽椅子に坐ると、イヤフォンをつけ、鉱石ラジオ(注1)を聞く。時々、つまみを調節しながら真剣な表情で聞いている。 ランプの火でタバコに火をつけると、机の前に坐る。ノートを開き、めがねをかけ、万年筆を持つ。しばし考えてからノートに 書き始める。

フェルナンドの声 「・・・・・・このガラス製のミツバチの巣箱では、蜂の動きが、時計の歯車のようによく見える。巣の中での蜂たちの活動は、絶え間なく、神秘的だ(注2)」

養蜂箱の中。奥のフェルナンドの顔がぼんやり透けてみえる。

フェルナンドの声 「乳母役の蜂は、蜂児房で狂ったように働き・・・・・・」

働き蜂のアップ。

フェルナンドの声 「他の働き蜂は、生きた梯子のようだ」

六角形の房室がぎっしり並んだ巣のそこここに働き蜂がいる。働き蜂のアップ。

フェルナンドの声 「女王蜂は、らせん飛行。間断なく様々に動き回る蜂の群れの、報われる事のない苛酷な努力。熱気で圧倒しそうな往来」

眠っているイサベルとアナ。

フェルナンドの声 「房室の外に出れば、眠りはない。幼虫を待つのは労働のみ。唯一の休息たる死も、 この巣から遠く離れねば得られない」

アナ達の様子を見に来たフェルナンド。アナとイサベルの顔をてらしていたのは彼が手にしたランプだった。

フェルナンドの声 「この様子を見た人は驚き、ふと目をそらした」

再び、養蜂箱とその奥に透けてみえるフェルナンドの顔。
フェルナンドの声 「その目には悲しみと恐怖があった」

フェルナンド、ノートに書きつけた文章の最後の数行をペンで消す。めがねをとり、眼をこする。

書斎 夜明け
書斎の窓に、朝の最初の光が入る。金網でできたラセン形の筒状の養蜂器。フェルナンドは机にうつぶして 眠っている。机の上には、飲みかけのコーヒーカップと折り紙の小鳥など。

両親の寝室
廊下に足音がしたので、テレサ、目を覚ますが、ドアが開く前に、目を閉じて眠っているふりをする。 遠くで踏切りの警報器の鳴る音。ややして、汽車が通過する音。テレサ、目を開け、また閉じる。フェルナンド、入ってきて 服を脱ぎ、ベッドに入る。

注1)当時、共和国側のスペイン独立ピレネー放送局がロンドンやプラハから送ってくる 放送をスペイン国内の人々は聴取していた。

注2)メーテルリンク著「蜜蜂の世界」の一節。

村の学校
村の学校の朝
白や空色や様々な色のおしきせを着た少女達が、次々に学校の入口に吸いこまれていく。2階の窓には国旗が掲げられる。

子供達の声 「(歌う)2たす2は4/4たす2は6」

教室
少女ばかり、3、40人が並んでいる。小学校だが全校一クラスである。イサベルとアナもいる。

子供達 「(歌う)6たす2は8/8たす8は16/16たす8は24/24たす8は32/聖なる御霊にお祈りを」

ルシア先生、教室の中をまわり、教壇へ。

ルシア先生 「よろしい。では机の上をかたずけて」

ルシア先生は、中年の少し太り気味の威勢のよさそうな人だ。先生の言葉に、生徒はノートなどを片づけるが、 おしゃべりも始める。イサベルは机の上でエンピツをころがしている。彼女より3列ほど前の席にいるアナは、 他をむいて話してるとなりの子の背中をそっとたたいて、前を向かせる。

先生 「静かに!静かに!」

黒い布のかかったものを抱えている。

先生 「静かに。ドン・ホセが怒るわよ」

黒い布をとると、板でできた簡単な人体解剖模型のドン・ホセ。先生は、生徒の間に行き、ドン・ホセにむかって

先生 「おはよう、ドン・ホセ」

生徒 「(声を合わせ)おはよう、ドン・ホセ」

先生 「かわいそうなドン・ホセ!誰がこんなことを?」

生徒 「(いっせいに)先生がやったのよ!」

先生 「ドン・ホセに足りないものは?」

マリア・カルメン 「心臓です」

先生 「つけてあげて」

マリア・カルメン、前に出て、教壇の上にあるいくつかの臓器の模型から心臓をえらび、ドン・ホセの胸のあたりのくぎにかける。

先生 「マリア・カルメン、心臓の働きは?」

マリア・カルメン 「(すこし考えてから)呼吸します」

皆、笑ったり、ざわめく。

先生 「そうかしら?笑った人達、呼吸するのは何?」

生徒達 「肺!」

先生 「どれかしら?」

マリア・カルメン、臓器を見るが、胃を選びかける。

生徒達 「ちがうー!」

マリア・カルメン、やっと肺をみつけ、ドン・ホセにつける。

先生 「(オフ)よろしい。では、胃の働きは?」

生徒達 「食べ物を貯えます」

先生 「(オフ)つけてあげて」

マリア・カルメン、胃をつける。

先生 「よろしい。(ドン・ホセに手をかけ)いいですか。ドン・ホセは歩けるし、呼吸もできるし、 食事もできます。でも、まだ足りないものがあるわね。とても大切なもの」

生徒達 「(口々に)骨!耳!」

先生 「アナ。今日はおとなしいわね。ドン・ホセに足りないのは?」

アナ、すぐ答えがでない。

イサベル 「(後から小声で)目」

先生 「イサベル、静かに。あなたにはきいてないわ(アナを促すように見る)」

アナ 「目です」

先生 「よろしい。ではつけてあげて」

用意した踏み台にのって目をつける。

先生 「(オフ)ドン・ホセは、目も見えます」

放課後の冒険
荒野 昼
風が強く吹いている。学校帰りのアナとイサベルが来る。あたりはみわたす限りの荒野。遠くに家畜小屋風の家と 井戸。

イサベル 「あの井戸のある家」

アナ 「あそこに?」

イサベル 「行ってみる?」

アナ 「行くわ」

二人、家をめざして駆けだす。(注3

井戸のある一軒家
家のそばまで来た二人。まだ風は強い。イサベル、アナに何かを耳うちすると一人で井戸の方へ駆けていく。 アナはじっと待っている。風の音。イサベル、井戸をのぞきこんでから、一軒家の一方の入口から入り、 少ししてもう一方から出てくる。そのまま、アナと一緒に走り去る。やがて、アナだけ戻ってくる。 アナ、決心して、井戸に近づく。赤い通学カバンを揺らせながら。 井戸の中に向かって叫ぶ。石を投げてみる。何も起こらない。そっと家の中をのぞく。暗くて何もない。壁があるだけだ。 外には相変わらず風が吹き渡っている。帰ろうとして歩きだすと、足跡が一つ。 そっと自分の足を重ねてみると、2倍以上もある。足跡と家と回りを見回す。誰もいない。

注3)バックに流れる曲は童謡 Vamos a contarmentiras(さあ嘘の話をしましょう)。

影絵遊び
アナ達の寝室 夜
ひきだしの上にろうそく。ろうそくの光で、壁に手の影絵がうつっている。

イサベル 「(オフ・両手で鳥をつくって動かしながら)ママがあんたを探してた。どこにいるのって。学校に 残ってるって言っといたわ。井戸に行った?」

アナ 「(オフ・両手で犬をつくり動かして)うん」

壁には、天使の絵がかかっている。

イサベル 「(オフ)あの人、いた?」

アナ 「(オフ)いない」

イサベル 「(オフ)やっぱりね」

二人はまだ、影絵をしているが、突然、廊下に足音がする。

イサベル 「(オフ)パパが来る。パパが来る」

ろうそくの火を吹き消す。

キノコ採り
雑木林
フェルナンドとイサベル、アナ、林の中を行く。

アナ 「(地面に坐りこみ)パパ、ここにある」

フェルナンドとイサベルも坐りこみ、そのキノコをとり、また歩きだす。

イサベル 「(地面に坐り)ここにもある」

アナがやってきて坐る。

フェルナンド 「(オフ)今、いくよ」

アナ 「毒キノコ」

イサベル 「ぜったい、いいキノコよ。触っちゃダメ。(父に)いいキノコ?」

フェルナンド 「見てみよう(と調べる)いいキノコだ」

イサベル 「(アナに)でしょう?」

フェルナンド 「名前を知ってるか?」

イサベル 「ホコリダケ」

アナ 「ハエトリダケ」

フェルナンド 「ハエトリダケは毒だよ。(すでに取ったキノコをカゴからとりだし) よくごらん」

アナとイサベル 「(同時に)タマゴダケ!」

フェルナンド 「そうだ。色が茶色だし、ふちが波うってる」

イサベル 「毒キノコとった事ないの?」

フェルナンド 「ない。なぜか分るか?」

三人、歩き出す。

フェルナンド 「お祖父さんに教えられた。毒かどうか分らない時はとらない事って。 まちがって毒キノコを食べたら、キノコもお前の命も、何もかもおしまいだ。分った?」

父の両脇を歩く二人に娘は、声をあわせて「はい!」と返事をする。

フェルナンド 「お祖父さんは、食べるより探す方が好きだった。一日中でも疲れなかった。 あの山をごらん(前方を指さし、立ちどまる)。お祖父さんは、キノコの園と呼んでた。なぜだか分るか?」

アナ 「なぜ?」

フェルナンド 「最高のキノコがとれる」

イサベル 「行かないの?」

フェルナンド 「遠いんだ。お前達は小さいから、ムリだよ。いずれな。でも約束しよう。ママには内緒だよ (と人さし指を口にあてる)」

キノコの山
山頂あたりが雲にかくれた。なだらかな山。

キノコ
大きなキノコのアップ。

フェルナンド 「(めがねをかけ)これをごらん。本物の悪魔だ」

父の話を真剣に聞いている姉妹。

アナ 「いい匂い・・・・・・」

フェルナンド 「生えたては匂いにだまされるが、育つと変る。しっかり見てごらん。 カサの色をごらん。裏側は黒いだろ。覚えておくんだよ。一番危険なキノコだ。猛毒で、食べたら、必ず死ぬ」

フェルナンド、立ちあがると、そのキノコを靴で踏みつぶす。

フェルナンドの旅立ち
家 早朝
玄関から、フェルナンドが出てくる。ネクタイをしめ、コートを着ている。 何か忘れものをしたらしい。

テレサ 「(2階の窓から)フェルナンド。(帽子を投げる)」

フェルナンド 「(帽子を受けとり)行ってくる」

門を出ると、旅行かばんなどを積んだ荷車風の馬車が待っている。

御者 「おはようございます」

フェルナンド 「おはよう」

御者 「遅れますよ」

朝日の中、荒野の一本道を馬車が走っていく。ギターとフルートの調べ。

朝の身支度
アナ達の寝室 朝
アナとイサベル、二つのベッドをとんだり、枕を投げあって、ふざけている。

別の部屋
ミラグロス、机の上をふいていたが、奥の部屋から騒がしい声がきこえるので、近くにあったほうきを手に、走っていく。

ミラグロス 「何ごとよ!いったい、何の騒ぎ!」

アナ達の寝室
姉妹は、まだキャーキャーと遊んでいる。ほうきを持ったミラグロス、入ってくる。

ミラグロス 「何て事でしょ!」

イサベル 「この子よ!嘘つくの!」

ミラグロス 「学校へ行く支度をなさい!」

鏡の前
鏡の前の洗面器に水をはり、アナとイサベルが、ヒゲそりの真似をしている。

イサベル 「ブラシをぬらして」

アナ、ブラシをぬらす。

イサベル 「顔中なでて」

アナ、自分の顔をブラシでなでる。

イサベル 「(笑いながら)石けんをつけて」

アナ、石けんを顔につける。

アナ 「これで、おヒゲがとれるのね」

二人、笑いながら

イサベル 「仕上げにオーデコロンをつけて」
アナの顔にコロンを吹きつける。

別の部屋
テレサ、アナの髪の毛を整えている。

アナ 「ママ、精霊って何だか知ってる?」

母は、すぐには答えない。

アナ 「わたしは知ってるの」

テレサ 「精霊は、精霊よ」

アナ 「いいもの?悪いもの?」

テレサ 「いい子にはいいし、悪い子には悪いもの。お前はいい子ね?(とアナを抱きしめ)ママにキスして」

アナ、母にキスする。母、アナを抱きしめる。アナ、嬉しそうに笑う。

家の中
アナとイサベル、スキップをしながら、いくつかの部屋を通って、玄関を出ていく。

線路にて
鉄道
イサベル、線路に耳をつけている。アナは遠くを見ていたが、同じように線路に耳をつける。

イサベル 「来るわ」

やがて、汽車の姿が見えてくる。イサベルは、線路わきの草はらに行くが、 アナは汽車の方を見て、魅せられたように動かない。

イサベル 「アナ!」

アナ、我にかえって、姉のそばへ。

学校の前
二人仲よく、学校に入っていく姉妹。

詩の授業
教室
少女が教科書の詩を朗読。

生徒 「(読む)もはや、怒りも軽蔑もない/変化の恐怖もない/渇きがあるのみ/あまりの渇きで死にそうだ/命の流れよ、どこに進む?/清らかな大気がほしい/暗い深みには何がある?/何を震え、何を黙る?/私に見えるのは、盲者が陽の下で見るものだ/二度と起きあがれぬ奈落に落ちる(注4)」

井戸のある一軒家
アナ、ひとりでいる。井戸のふちに通学かばんを置くと、井戸の囲りをまわり、風の音を聞く。大きなものの背丈でも測るように、 宙で手を測る。家かげから、イサベルが様子をうかがっている。

注4)19世紀のカスティーリャ地方出身の女流詩人ロサリア・デ・カストロの詩。

思い出
アルバム
黒猫のアップ(この家の飼い猫ミシヘルだ)傷んで少し調子の狂ったピアノの音。アルバムの写真。
「十代の母テレサ」
「十代のテレサとボーイフレンド」
アルバムを見ているのはアナだ。
「若い父フェルナンドとウナムーノ教授(注5)」
「まだ若い父と母」
「若い母」
アルバムを見ているアナ、にっこりする。

アナ 「(母の写真に書かれた文字を読む)人・間・ぎ・ら・い・さんへ・・・・・・」

別の部屋
ピアノをひいていたのはテレサだ。ひとりで、立ったまま、片手で思い出すように弾く。やがて、弾くのをやめ、ふたをして、部屋を出ていく。

注5)ミゲル・デ・ウナムーノ(1864-1936)スペインの思想家、哲学者、作家。1898年、 帝政スペインの崩壊を機に民族的伝統の再発見を提唱した。"98年世代"とよばれる一派の一人である。サラマンカ大学の 総長もつとめたが、一時追放され、その後、復帰した。写真でフェルナンドの左側にいるのは、内戦時代民衆に愛読された、 特殊なアフォリズムとユーモア小説の作家ラモン・ゴメス・デ・ラ・セルナである。

ある休日
駅への一本道
自転車で行くテレサ。

書斎
アナが、養蜂箱をのぞきこんでいる。金網のラセン状の方では、中の蜂に息をふきかけてみる。

アナ達の部屋
ドアのすきまから、黒猫ミシヘルが入ってくる。イサベルがベッドの上でウトウトしていたが、目を覚まし、ベッドの下に入った猫を 小声で呼ぶ。

イサベル 「ミシヘル・・・・・・どうしたの?」

黒猫を抱きあげ、撫でたり、頬ずりしたりする。猫、満足そうにのどを鳴らす。イサベル、猫の首に両手をかけ、 ゆっくりと絞めつける。猫、うなり声をあげ、イサベルの手から逃げる。イサベル、右の中指をひっかかれ、 血がにじむ。たんすの上から小さな鏡をとる。
鏡の中に、指の血を唇にぬり、その血をなめて、じっとみつめるイサベルの顔。

書斎の絵
"羽根ペンを持ち、考えている聖者、彼がむかう机のすみにはドクロ"という絵。 フェルナンドの机の背後にある絵のアップ。

書斎
大きな聖者の絵の前で、父のタイプライターをうっているアナ。家のどこかで、鋭い悲鳴がする。 アナ、それに気づき、タイプをうつのを止めると、書斎を出ていく。

別の部屋
静まりかえり、音一つしない。

アナ 「(家の中をみてまわりながら)イサベル!(と叫ぶ)」

イサベルのいたずら
アナ達の寝室
アナが入ってくる。ロッキングチェアがひとりで揺れている。窓の前にイサベルがうつぶせに倒れている。 そばには割れた植木ばちとこぼれた土。

アナ 「(イサベルのそばに坐り)イサベル。起きてよ。ウソなんでしょ」

イサベル、動かない。アナ、イサベルをあおむけにし、腕をもちあげるが、手をはなすと、そのままだらりとしてしまう。 外に、犬の吠える声。アナ、窓から外を見る。窓を閉める。

アナ 「(イサベルに)大丈夫よ。あの人はもう行ったわ」

アナ、姉をゆするが、動かないので、胸に耳をおしつけてみる。外の犬はまだ激しく吠えている。

アナ 「(姉の髪をなでながら)何があったのか、話して」

イサベルはまだ動かない。少したって、アナ、戻ってくるが、姉がそのままなので、部屋を出て行く。

裏庭
アナが、外に出る。

アナ 「ミラグロス!」

だが、返事はない。

アナ達の部屋の前
アナ、部屋のドアに耳をつけて様子をうかがってから、そっと中に入る。

アナ達の部屋
イサベルの姿は消えている。イサベルが倒れていたあたりに、夕日がさしこんでいる。 木の葉も何枚かおちている。窓が開いている。アナ、窓から外をみつめる。部屋の一角に人影。 でも、アナは気づかない。窓を閉める。背後から、大きな手袋がアナの顔を覆う。 アナ、悲鳴をあげてふりはらうと、うしろには、父のオーバーを着て手袋をつけたイサベルが、楽しそうに笑っている。

焚き火
たき火
アナ達の家の裏の空地に、おきなたき火がたかれている。子供達が、その火のまわりでとびはねている。

子供達 「やけどしないで!」

子供達 「イサベル、気をつけて!」

アナは、家の屋上から、じっと見つめているが、やがて下におりていく。子供達、火の上を飛びこえる。 アナも降りてきてたが、遊びには加わらず、そばで見ている。イサベルが火を飛ぶ時だけ、ストップモーション。

村の道 夜
テレサが、自転車で家に帰って行く。

空地 夜
アナ、小さくなったたき火を一人でみつめている。他の子供達は帰ってしまったようだ。ミラグロスが来る。

ミラグロス 「どうしたのです?いらっしゃい」

アナ、まだ火を見ている。

ミラグロス 「帰りましょ。お父様がお帰りよ。一緒に帰りましょう」

アナ、立ちあがり、ミラグロスと一緒に歩きだす。

アナの1人の夜
アナ達の部屋 夜
月の光が、さしこんでいる。アナは靴のひもを結んでいる。イサベルは寝ている。アナ、靴をはくとベッドから降り、 寝巻のまま、マントを抱え、姉の様子をうかがってから、そっとドアをあけて、出て行く。

裏庭
裏庭から、外に出るアナ。月に雲がかかりかけている。アナが目を閉じると、汽車の走る音−。

走る汽車
前シーンで、アナが聞いた汽車の音は、この汽車。荒野を貫いて走る汽車から、一人の男が身をのりだし、突然、とびおりる。 草むらにころがった男、立ちあがる。足にけがをしたらしい。足をひきずりながら、あたりを窺う。遠くに見える、あの井戸のある 一軒家にむかう。

アナ達の部屋 朝
アナ、帰ってくる。時計が7時をうつ。アナ、靴をぬぐとベッドにもぐりこむ。

イサベル 「(目を覚まし)どこ行ってたの?」

アナ、答えない。

イサベル 「(起きあがり)アナ、どこへ行ってたの?」

アナ、姉に背をむけ、眼をつぶる。ベッドの中で眼をつぶったアナの顔が、若い髭づらの男の顔にオーバーラップ。

汽車から飛び降りた男
井戸のある一軒家
髭づらの男、壁ぎわに横になり、眠っている。アナが入ってくる。男は、その物音に驚き、銃をかまえる。 が、壁ぎわからのぞいているのが少女と知り、銃をおろす。アナ、男の前に来て、通学かばんからリンゴを出すと、 男に差しだす。

アナ 「あげる」

男、リンゴを食べる。

村はずれの小屋で
井戸のある一軒家の前
荷物をかかえたアナが行く。鳥の声。

一軒家の中
アナが抱えてきたのは、父のオーバーと、大きなパンの固まりと、ハチミツだった。 男にオーバーを渡すと、男の靴ひもを結ぼうとする。男はさっそくオーバーを着こみ、色々、ポケット などをさぐると、懐中時計がでてくる。ふたを開けると、オルゴールが鳴る。アナ、それをみつめる。 男は、時計を手にのせ、もう一方の手で拭う。時計が消える。アナ、ほほえむ。男もほほえむ。 アナ、男の靴ひもを結ぶ。

一軒家の前 昼
一軒家をふり返りながら帰っていくアナ。

一軒家の前 夜
アナが帰った時と同じ構図。ただ、時が経ち、夜のとばりが降りた。突然、一軒家に機関銃の音が響き、 あちこちに閃光が走る。

警察署
村の警察 朝
フェルナンドが来る。

警察署長室
シャツ姿の署長が、髭をあたっている。ドアにノックの音。

署長 「入れ!」

部下 「(入ってきて)来ました」

署長 「今、行く」

部下、出ていく。机の上に、フェルナンドの懐中時計がある。署長、時計を手にとり、ネジをまく。何かを考え続けながら、 タオルで顔をふく。

村の通り
警察署長らとフェルナンド、公民館に向う。村人達、あいさつをする。

公民館の中
映画用スクリーンの前に、左足にしか靴下をはいてない男の遺体があり、毛布がかけてある。 署長が毛布をあげて、遺体の顔をフェルナンドにみせる。フェルナンド、確かめてから首を振る。 フェルナンド、オーバーと懐中時計をうけとる。

朝食の風景
アナの家 食堂
アナ達一家、テーブルにむかっている。ミラグロスが、フェルナンドのカップにコーヒーを入れる。フェルナンド、 タバコに火をつける。テレサ、コーヒーに砂糖を入れる。イサベル、大きな自分のカップにフーフー息をふきかけて、 さましている。アナ、イサベルと目くばせしながら、やはり大きなカップでミルクを飲む。イサベル、アナの目くばせに笑おうとして、 むせる。フェルナンド、懐中時計をとり出して、ネジをまく。ふたを開けてオルゴールを鳴らし、アナをじっとみつめる。 アナ、ドキッとする。この間、誰も一言も話さない。

誰もいない小屋
井戸のある一軒家
マントを着たアナが、一方の入口から入り、もう一方から出てくる。井戸に近づく。家にも井戸にも誰もいない。再び、家に入る。

一軒家の中
髭づらの男が坐っていたあたりに血の跡。アナ、そっと指でさわってみる。フェルナンドが入口に立っている。アナ、 驚いて、外に出る。

一軒家の前
フェルナンド 「(厳しく)来なさい!」

アナ、逃げだす。父が呼んでもふりむかず、走っていってしまう。

アナを呼ぶ声
アナの家
屋上から、アナの名を呼ぶテレサ。答えるのは鳥の鳴き声ばかり。

井戸のある一軒家の近く
最初にイサベルとアナが行ったあたり。荒野にむかって、アナを呼ぶイサベル。

夜の森
村人達が、アナをさがしている。犬も加わっている。

夜の森
赤い通学かばんを持ち、マントを着たアナが、ひとりで歩いている。夜霧にぬれたキノコ。アナ、そっとさわる。

アナの家の居間
暖炉の火が、あかあかと燃えている。書いたばかりの手紙を読みかえすテレサ。それを封筒に入れる。 宛て名を読み返してから、暖炉の火の中にそっと置く。封筒には切手も貼ってある。じっとみつめるテレサ。 ゆっくり燃えていく手紙。

夜の池辺
夜の森
夜の鳥が鳴いている。せせらぎの音も聞こえる。アナ、水辺に坐る。水面にアナの顔がうつるが、やがてそれが、 フランケンシュタインの顔になる。アナの背後に足音がせまる。アナがふりむくと、フランケンシュタインが立っている。 でも、そんなに大きくない。ちょうど父親くらいだ。それになんだか悲しげでもある。が、アナは目をみはる。 フランケンシュタイン、ぎこちない足どりで近づき、アナの前に坐る(あの映画と同じように)。そっとアナの肩に手を かけようとする。アナ、震えだし、目を閉じる。

アナ、発見される
翌朝
荒野のまん中に、くずれかけた城壁跡。犬が走っていく。城壁の裏に、アナが倒れている。フェルナンドと村人達、 駈けより、口々にアナに呼びかける。

ヒゲの医師ミゲル
アナの家 ピアノのある部屋
髭の医師ミゲルが、テーブルにつくと、書類を書きはじめる。テレサが来る。

テレサ 「具合は?」

ミゲル 「まだ弱っている」

テレサ 「眠らないし、食べないし、口もきかないの。光を嫌がるし、私達を見ても分からないみたい。 まるで私達が存在しないみたい」

ミゲル、書類を書き終り、立ちあがり、聴診器をはずす。

ミゲル 「テレサ。アナは、まだ子供なんだ。ひどい衝撃を受けてはいるが、時が経てばなおる」

テレサ 「本当?」

ミゲル 「少しずつ忘れていくよ。大切なのは、あの子は生きてるって事だ・・・・・・アナは生きてる」

時計の音。医師、聴診器をかばんに入れる。ミラグロスがやってくる。

ミラグロス 「(声をひそめ)眠りましたわ!」

ミゲル 「この処方箋の薬を飲ませて(ミラグロスに紙を渡す)」

ミラグロス 「すぐに薬局で買って参ります」

ミラグロス、出て行く。

ミゲル 「(テレサに)消化のよい物から食べさせて。あっさりしたスープとか、落とし卵とか。 そして、君も休みなさい」

ミゲル 「(歩きながら)君もアナと同じくらい疲れている。何かあったら、すぐに駈けつけるよ」

テレサと一緒に部屋を出て行く。

1人だけの寝室
アナ達の部屋
アナ、ベッドに寝ている。となりのイサベルのベッドは木の台だけになっている。(他の部屋に移したのだろう) イサベルが入ってきて、窓を開ける。光がさしこむ。外の人の声も聞こえる。イサベル、台だけの自分のベッドに坐り、 そっとアナにを呼んでみる。アナは背をむけて眠っている。イサベル、ベッドをそっとまわって、アナの顔の方に行き、 そっとシーツをめくって、アナの寝顔をのぞく。

月夜

月に雲がかかっている。フェルナンドの書斎の窓に明りがつく。部屋を行ったりきたりする人影がみえる。

フェルナンドの声 「このガラス製のミツバチの巣箱では、蜂の動きが、時計の歯車のようによく見える。巣の中での蜂たちの活動は、絶え間なく、神秘的だ」

イサベルの寝室
フェルナンドの声 「(続く)乳母役の蜂は、蜂児房で狂ったように働き、他の働き蜂は・・・・・・」

心配そうなイサベル。窓に映った木の影が揺れている。犬が激しく吠える。イサベル、ふとんのはしを頭の上まで ひっぱりあげる。

書斎
書きものの途中で眠ってしまったフェルナンドに、テレサが優しくオーバーをかける。ノートを閉じ、めがねもはずしてあげる。 そっと肩に手をおく。ランプの火を消す。

アナの呼びかけ
アナの寝室
半分水の入ったコップ。小さな手がコップを持つ。アナだ。一生懸命に水を飲む。寝室は暗く、静まりかえっている。 アナ、コップを置くとベッドから降り、窓に近づく。月明かりの窓を開ける。犬の吠える声。アナ、小さなベランダに出る。

イサベルの声 「お友達になれば、いつでもお話ができる・・・・・・目を閉じて、呼びかけるの。 私はアナです・・・・・・私はアナよ」

アナ、目を閉じ、また開ける。汽車が通りすぎる音。月明かりに佇むアナ。

エンド・クレジット
FIN

エンド・クレジット
タイトル・クレジットと同じ優しい調べにのって、クレジットが流れる。

CINE VIVANT発行『ミツバチのささやき』パンフレットより


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