2010年仏像シリーズ第38作



東大寺 法華堂(奈良)<執金剛神立像> 国宝

     この像は、東大寺三月堂本尊の背後にある黒塗りの厨子の中に安置され、秘仏として年に一度開扉する以外は、拝観することができない。そのため保存状態が良く、その彩色は古代彫刻中最も良く残っており、胸のへりには金箔地に唐草文様をかき、鎧や衣の至る所に美しい雲繝彩色が見られる。
 全高173.9cmの塑造で、革の鎧を着用して右手に金剛杵を構えた立像である。金剛杵は、仏の智慧が煩悩を打破する武器であることを象徴している。目を見開き、口を大きく開けて怒号しており、浮き出した血管や筋肉の表現が奈良彫刻の写実性を表わしている。
 執金剛神は金剛力士(仁王)と同じだが、金剛力士は二人の裸形姿であるのに対し、執金剛神は一人の武将姿として造形安置されるのが一般的である。
 一昨年のリーマンショック以来百年に一度の世界的経済不況に陥り、昨年は世の中が不況色一色に陥ってしまった。「派遣切り」や「就職難」が一気に進み、しかも様々な事件が相次ぎ、何とも暗い一年であった。しかしそんな世の中の経済状況もまだすぐに好転する気配は見られない。むしろ先行きに不安ばかりが渦巻いている。
 そんな世の中に活を入れ、この不景気風を一掃して欲しいという思いより本年はこの仏像を選んだ。せめて少しでも世の中に明るいニュースが満たされる一年であって欲しいものである。
 今回の作品は仏像の性格上、細かい表現は出来ないが、摺りは比較的上手く仕上がったように感じている。ただ背景も黒としたかったが、背景を黒にすると、郵便番号高速読み取り装置により絵の具が擦れ画面が汚れてしまうため、あえて背景を抜かざるを得なかったのが少し引っかかっている。またこの仏像本来に残っている彩色の表現が出来ないのはこの版画の手法上致し方がないだろう。