未来からのメッセージ | |||||
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第五の部屋 アンドロイドの神(3) | |||||
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ホログラフィは『自由からの蘇生』の発足式の会場風景を映している。 会場は、会員とこの地方の報道関係者で埋め尽くされている。 理事長のルキアによる会の設立目的、会則の説明が行われたあとで、来賓としてランサム博士の講演があった。これに関係機関の祝辞などが続いた。 式の終わり頃になって、司会者がレミを紹介する段になった。 「ドクターレミは直接登壇して挨拶することはできないので、スクリーンを通じて登場してもらいます」司会者が言った。 すると、会場から大きなどよめきが起きた。 患者達にとって、レミは極めてミステリアスな存在であった。ランサム病院の医師は、全員がドクターレミの指導を受けているらしいが、ドクターレミ自身は決して患者の前に姿を現すことがなかったからであり、自分たちが不治の病と思っていた『自由病』などの心の病から救済されつつあるのは、このドクターレミのお陰であったからである。姿の見えぬ誰かに救われていたというわけであり、このドクターレミなる人物が非常に若い男性であるということだったからである。 やがてスクリーンにドクターレミが紫色の法衣につつまれて登場した。噂のとおり、端正な顔立ちの若い男性である。会場は静まり返っている。 スクリーンから立体画像のレミが話しだした。 「人には、与えられた環境の中で、最も幸福感の得られる生き方があります。環境が変われば最適な生き方は変化します。できることであれば、ご自身でこのような生き方を見出すことをお勧めします。私は、背後から皆様が自らの生き方をできるだけ自力で探し出せるように支援してきたつもりです。しかし、未だに自らの生き方を見出せずお悩みの方がたくさんいらっしゃいます。私はこのような人の心の蘇生も手助けしたいと思っています。そしてそれが私の運命でもあります。私は、あなたたちの資質、性格、能力、家族関係と現在の生活環境を考慮して、あなたたちに適していると思われる生き方を幾つかシミュレーションし、その結果に基づいて人生のシナリオを提示します。提示されたシナリオがあなたたちの気に入ったものでない場合もあると思います。時代錯誤ではないかと思えるシナリオもあるでしょう。ですから、この運命ともいうべきシナリオを受け入れるか否かは皆様の自由です……」 レミの話は簡潔なものであった。 理事会メンバーが意図したことではないが、教団の発足式におけるレミの初登場は、教団にとって効果抜群であった。会員はドクターレミへの同じ想いを共有することでの同胞意識と麻薬を吸ったような陶酔感に浸った。 やがて、会員はドクターレミを『神』として敬うようになった。 そして、教団『自由からの蘇生』はいつしか、人々から『レミ教』と呼ばれるようになった。 はじめのうちはランサム病院経由で『自由からの蘇生』に入会する人が多かったが、次第に、噂を聞きつけた人々が直接入会するケースが多くなり、『自由からの蘇生』は自立していった。 エポカ世界では、『心の病』に悩む人々に対してカウンセリング制度があり、宗教組織なども救済の手を差し伸べていたが、エポカ世界特有の『ありあまる選択の自由』のような『心の病』に対しては有効に機能しないことが多く、このような心の病を抱える人々があとを絶たなかったのである。ところが、新興宗教『自由からの蘇生』は時代のニーズにマッチしたものであったため、急速に会員を増やしていった。 前世は富、肩書きや権威、階級、競争原理が支配する世界であった。前世ではこのような世界が住み難いと考える人々が多数を占めていたが、少なからずこのような社会に居心地の良さを感ずる人やこのような世界にしか自分の居場所が無いと思う人もいた――とのことである。 ところがエポカの世界は『徳』以外のステイタスは消失している。つまり肩書き、階級、出世といった類のものは価値を持たなくなっていたし、そのようなものが無くなっていたのである。 時代のニーズとは、前世の社会規範を一定の枠内で復活させることであった。 レミはランサム病院の場合と同じような役割を担うものとされていた。しかし、教団が機能しだすとレミの役割は量的・質的に変化した。すなわち、数多の悩める人々にその性格や技能・知識に応じて最適と思える目的や仕事を指示し、最適と思える部署を考え、最適と思われる教団内のステイタスを提案する役割をもつことになったのである。 「多くの会員を抱えて、レミひとりで多くの会員の治療のシナリオを書くのは大変じゃない。いくらアンドロイドだからと言って、過労になるんじゃないですか?」 「ホ、ホホーウ! アンドロイドは、機械のようなものだからロボットと変わりなく昼夜なく働くことができるんだ。但し、定期点検や年一回程度のオーバーホールは必要だから、その時は休止することになるかな。こういったことはレミ自身が行っているんだけどね。それと、レミの場合は自身の体内にあるポートをコンピュータに接続することで、直接患者のデータベースにある情報を取り込むことができたし、情報処理のスピードは人間の脳よりも比較にならないくらい速かったので、患者数が少々増えたくらいでは全く問題ないんだ。スーパーコンピュータのようなものは、同時に膨大なデータを一瞬のうちに処理することができるけれど、それと同じ理屈さ」 × × × ホログラフィは久しぶりにミラの姿を映している。 歴史上の出来事は偶然のように見えて必然であることが多い。偶然的な出来事が、大きな必然性に操られていることが多いものである。 レミはミラと体内の通信機能を用いて、絶えず自身が置かれた状況や身の回りでどのようなことが起きているかについて情報交換をしていた。レミとミラは互いの置かれた状況が酷似していることを知っていた。レミとミラは、心の病を扱う学者や医師の元に送り込まれたわけであったが、レミやミラの管理者であるランサムやマンダムはともにエポカ世界の大きな社会問題である『自由病』と格闘していた。同じ思考回路をもつレミとミラは、置かれた場所こそ違うが、同じ運命の下にあった。 レミの教団『自由からの蘇生』の発足からしばらく後、ミラの場合もマンダムの指導の下に宗教団体『自由からの解放』をつくることになり、いつしかミラもこの教団の『女神』として会員から祭り上げられるようになっていた。 レミとミラの状況の相違点は、レミが農村地域の小都市に置かれたのに対し、ミラはメガダットという大都市に置かれたことであった。 レミの教団『自由からの蘇生』が家父長的、年功序列的な封建制社会の身分制度をベースとした組織であるのに対して、ミラの教団『自由からの解放』は資本主義社会の企業組織をモデルとしていた。ミラが、メガダットのような大都市では業績を重視するような階級組織が『自由病』に対して最も適していると考え、マンダムに提案したためである。 そして、ミラもまた階級組織を宗教団体として設立することの危険性とその結末について予測していた。 レミやミラは信者から神として祭り上げられてはいたが、組織管理はアンドロイドに許されることではなく、理事会メンバーの専権事項であった。つまり、『自由からの蘇生』や『自由からの解放』は理事会メンバーが管理、支配する賢人宗教組織であった。 レミやミラが危険性を感じていたことのひとつが、この賢人組織とか賢人政治と呼ばれているものであった。レミやミラは、レミルの知識から歴史上の賢人政治と衆愚政治を思い起こしていた。 レミルの知識は次のように語っていた。 ●衆愚政治の社会は、猥雑な社会であり、時に腐臭に満ちているかもしれません。しかし、多くの小さな悪は蔓延っても、民主主義の形態が保たれている限り、軌道修正が行われます。 ●賢人政治やエリート階層による政治は、清廉潔白にも賢明にも見え、正義が行われる場合があるかもしれません。衆愚政治の腐敗・堕落に対して美しく輝いて見えることもあります。しかし、賢人政治は基本的に独裁政治です。 ●賢人は民の声に耳を傾けることもあります。しかし、どのような声に耳を傾けるかは賢人に委ねられています。『正義』はしばしば、賢人たちの思い込みによる『正義』に過ぎません。賢人政治は大きな誤りを軌道修正する仕組みを欠いています。何より恐ろしいのは、民の幸福が目的ではなく、賢人組織という体制維持が自己目的化し、民意の操作が行われるようになることです。国家社会主義や共産主義を標榜していた政権の多くがそうであったように、一旦握られた権力は自ら放棄されることはなく、邪悪な権力へと容易に変化する危険性をもっています。 レミとミラは、病院の情報ソースである限りは、患者のためのシナリオづくりという形でアドバイスはしても、そのアドバイスを受け入れるか否かは医師や患者の選択の自由で済んでいた。ところが、自ら望んだわけではない階級制宗教組織の実質的な『神』になったため、理事会の『指導』が命令である以上に、レミやミラの『アドバイス』が絶対的な命令に変化した。 レミとミラを『神』とする宗教は、『選択の自由』に苦しむ人々が実質的に『選択の自由』をレミとミラに預けることを誓う。レミやミラは『選択の自由』を預けた人々の超越的な支配者となり、迷える人々を善導し、自由を献上した人達が命令された生き方に盲目的に服従することを強制する役割を担うことになったのである。 レミやミラは、もしも自分自身が誤りを犯したとしたら、取り返しのつかないことになると危惧した。 ところで、『自由からの蘇生』や『自由からの解放』に入会したのは次のような人達であった。 ●自由であることが苦痛な人 ●自身に確たる価値観が無いため、無限とも思える選択の自由に戸惑う人や自分では自身の運命を決められないような人 ●適度に仕事や趣味をもっているが、時間をもてあましている人 ●秩序や統制を求める人 ●命令されると素直に喜ぶ人や命令されると表向き嫌がるが、内心喜ぶような素直でない人 ●権威がないと行動エネルギーが湧かない人 ●長と名のつくものになりたい人、社会的権威や資格にステイタスを感じる人や褒められことに無上の喜びを感じる人 × × × ホログラフィは『自由からの蘇生』や『自由からの解放』の会員の姿を追っている。 秩序を与えられ、目標や教団内でのステイタスを与えられた会員は、皆別人のように生き返り、眠っていた能力や活力を取り戻した。 会員組織の大枠はレミのアドバイスに従って理事会が決定したが、会員の行動など細部にわたる方針については幹部会員が決めた。会員数が増えるに従って、この幹部会員の意見が下部組織を動かすように変化していった。 会員達は、積極的に街頭に進出し、悩める人々の家庭を訪問し、会員を増やしていった。 『自由からの蘇生』は教団発足の地である農村地帯を中心に勢力を拡大し、『自由からの解放』は大都市を中心に会員を獲得していった。 『自由からの蘇生』の会員は、レミが時折スクリーンで語った話を『人の道』というバイブルにしていた。『自由からの解放』の会員も同様に、『女神ミラ』が語った言葉を『人の心』というバイブルにしていた。『自由からの解放』の方が後発の教団であったが、大都市を中心にしていたことと組織内に資本主義的な業績評価システムをもっていたことにより、会員数の増加スピードは『自由からの蘇生』よりも速かった。 会員、すなわち信者の勧誘の言葉はともに似たようなものであった。 ●もう自由に悩む必要はありません。あなたは必ず救われます! ●あなた自身の運命を知ることが、あなたの幸せの道です! ●全能の神である『レミ』(または『女神ミラ』)があなたにとって最適な人生をお導きになります! 布教が熱を帯びてくると過激な勧誘の手口も使われ、「あなたは幸福ですか?」と問い質し、「よく分らないけど」、「宗教は嫌いです」とか、質問を無視するような素振りが見えると「あなたは救われたくないのですか?」というような脅迫じみた言葉を投げかける場合も多々あった。 更に、前世の遺物のような『出世』、『肩書き』、『地位』、『権威』、『御利益』などを望むおぞましい心を覚醒させるかのように訴えかけて勧誘する者まで現れるようになった。 × × × 教団の内部では、会員獲得など組織の拡大・発展に寄与するメンバーが幹部会員を占めるようになっていった。教団という組織の目的は『自由病』などで心を病んでいる人々の救済であり、組織の拡大はその手段であったが、組織が拡大するにつれ、手段が目的化する傾向が強くなっていった。組織目的が質的に変化しつつあったのである。 そして、次第に教団の幹部会員たちの行動は、教団理事達による統制が効かないものになっていった。 「ホ、ホホーウ! 組織の目的と組織メンバーの目的は異なることが多い。分り易くカズマの世界の企業を例にとってみると、企業としての組織目的は『よりよい商品の提供と企業利益の追求』だけれど、社員の目的は『より多くの給料や社内での地位をもらえること』にある。こういった組織の目的は、常に組織メンバーの目的にとって変わる危険性を孕んでいる。特に、選挙や投資家などによる外部からの批判に晒されない組織では、例外なく組織目的が組織メンバーの目的にとって替わる傾向をもっている。国の官僚組織の目的は国民の安全、健康、豊かで快適な生活の増進をはかることにある。ところが、官僚自身の目的は出世にある。官僚が出世するには成績を上げたり、組織の権限拡大などに貢献したりして組織内で評価してもらう必要がある。外部からの批判に晒されない官僚の大部分がこのような動機で動けば、組織目的はメンバーである官僚の目的に置き換わることになる。つまり、組織の内部論理が組織目的に優先する事態になるわけだ。宗教は一般に信者だけの閉鎖された社会であるから、同じようになる傾向を内在しているのさ」 カズマはフーパの説明を黙って聞いていたが、ホログラフィのことの成り行きが心配になっていた。 『自由からの蘇生』は、農村部から次第に都市部に布教していった。反対に、『自由からの解放』は大都市部から農村部に向けて布教の輪を拡大していった。やがて、随所で両教団の競合が起こるようになった。 『自由からの蘇生』と『自由からの解放』はともに同じ組織目的をもっているため、仲良く共存してもよさそうなものであったが、本来の組織目的よりも幹部会員などのメンバーの目的の方が強くなっていたのでお互いに反目することになった。 教団が閉鎖的階級組織であることによって、強い閉鎖的同族意識とともに排他性を強めていったわけである。 「ホ、ホホーウ! 発足当初の組織の目的は同じだから、布教の対象になる人々は同じ『自由病』の人達なわけだ。それで、カズマの世界のライバル企業にたとえれば、同一市場で客を奪い合うことになった。企業ではないから、同じ目的をもっているのならば協力すればよいのに、おかしな話だ。神様が違っていたり教義が少々異なっていたりしたっていいじゃないかと思うんだけれど。それに経済的な問題などが絡んで複雑な様相を帯びてくる。一旦、流血事件でも起きれば憎悪の感情が先鋭化し宿怨となる。そして武器が修羅場を作り出す。宗教対立の殆どは皆この手の類が多いようだね。本当に愚かしいことだ」 「そうだよねぇ」 「ホホーウ! このように組織の自己目的化と排他性は一体のものなんだ。同じ組織目的をもっていても、組織が異なれば排他的になる。返って組織目的が異なっていれば、棲み分けができるので、排他的にならずに済む。似たもの同志の方が激しく争うことになるんだ」 × × × ふたつの宗派が反目するという危険な傾向を察知して、ふたつの教団の理事が話し合いをもち、会員の排他的勧誘活動を互いに自制させる合意をした。 教団の幹部は理事会の決定事項を遵守する約束をしたが、末端の全ての会員の動きにブレーキをかけることができなくなっていた。 そうこうするうちに、ふたつの教団の会員間で暴力事件が発生した。『自由からの蘇生』の会員のひとりが『自由からの解放』の会員のオルグにあって宗旨替えをしたことが事の発端であった。排他的活動の中止を理事会に約束した幹部の中には、相手が約束を守らないのであれば、約束を守る必要は無いといい出す幹部も出てきた。 やがて各地で相手の教団を邪教と罵り、小競合いが発生し、リンチや襲撃事件まで起きるようになった。 教団の幹部達は、あくまで自制すべきであるとする多数の『穏健派』と、目には目をという少数の『過激派』に分かれた。末端の会員達も同様に分裂した。 会員数に勝る『自由からの解放』側は、穏健派幹部が過激派幹部をなんとか説得し教団をまとめていた。逆に、劣勢になっていた『自由からの蘇生』側は、危機感から『過激派』が教団を牛耳ることになった。 自重していた『自由からの解放』側では、度重なる『自由からの蘇生』側からの攻勢を受けて末端会員の不満が爆発した。そして幹部に対する突き上げによって、こちらも『過激派』の支配するところとなってしまった。ふたつの教団は互い反目し、先鋭化していった。そしてエポカ世界が宗教について最も恐れているような、『殉教者は救われる』という者まで現れるようになってしまった。 「ホホ、ホホーウ! いつの世もそうであるのかは分らないけれど、少数であっても過激な意見が穏健な意見を排除することがしばしばある。穏健派は声なき声である場合が多いので、少数でも声を大にして叫ぶ者の方が支配的意見であるように見える。過激な者の方が活発で組織的に行動するためもある。反対意見を言うものは、裏切り者とかスパイ扱いされ、時にリンチされたりすることにもなる。それと愛国心、愛社精神、教団愛といった類のものは集団的陶酔感をもたらすので、目先の激情にかられて冷静な判断ができなくなる。同時に、多くの場合排他性を伴うので、きな臭いものになっていく。これは集団の性と言えるかもしれない。こうして、一旦過激派が権力を握ってしまうと、悲惨な結末を迎えるまで権力が容易には穏健派の元に戻らなくなってしまう」 × × × もはや教団理事達の手に負える事態ではなくなってしまった。エポカの世界であってはならないとされる前世における宗教の排他性が完全復活した。 レミやミラが行ったシミュレーションが予期したとおりの展開になってしまった。レミとミラは互いに心を痛めた。しかし、組織に関することは教団理事の専権事項であってアンドロイドであるレミやミラが関与すべきことではなかった。 レミとミラは互いに体内の無線通信機能を用いて情報交換を行っていたが、自分たちが何らかの行動を起こさない限りこの事態は打開できないと考えた。 エポカの世界は秘密の無い社会であるため、アンドロイドの交信内容を傍受しようと思えば誰でも傍受することができる。このためレミはランサム博士の了解をとり、ミラはマンダム医師の了解を得て、直接対面して話し合うことにした。 レミとミラはメガダット市とサマラット市からほぼ中間に位置する森と湖の美しいビーンという町で落ち合うことにした。 × × × レミとミラはともに、ランサム博士とマンダム医師から借用したスカイキャップでビーンの町に向かった。初めて空中から見た大地は平和で美しく、清々しいものであったが心は曇っていた。 ホログラフィは湖畔の散歩道を映している。 澄んだ美しい湖面に周囲の緑が写っている場所でレミとミラは再会した。シラキ博士の研究所を離れてから久しぶりの再会であった。心の中――正確には頭脳回路――でレミとミラは涙し、再会の喜びを噛みしめた。 再会の喜びとは別に、レミとミラはエポカ世界の宗教本来の姿への回帰を図るにはどうするかについて深く悩んでいた。エポカの宗教は『どのような神仏を信じるか』ではなく、『人の生き方、人のありかたを説く』ことが目的とされているからである。 湖畔の散歩道を逍遥しながら、宗派の争いの停止方法、賢人政治の是非、アンドロイドによる人間の逆指導の是非などについて語った。 レミとミラはこのうちのふたつの大きな問題について結論を出す必要に迫られていた。 ひとつの問題は、宗教が犯してはならない『排他性』が復活し、教団会員同士が反目していることである。 もうひとつの問題は、レミとミラが自から望んだわけでもないのに、『神』として奉られてしまったことである。教団の理事や会員が望む限り自身の役割を自ら放棄することは、人間に奉仕するというアンドロイドの宿命からできることではなかった。レミやミラは会員自身が自然にレミやミラを『神』として崇拝することをやめてもらうことが望みであった。逆に、『神』としての役割を利用してそのように『信者』を導くことも考えてみた。 思案を重ねた結果、ひとつ目の問題に関して、レミとミラは同じ結論に達した。会員にはショッキングなことかもしれないが、排他性を排除するには、レミとミラが結婚することを宣言し、ふたつの教団をひとつにまとめあげる以外にないと。同時に、レミとミラがアンドロイドであることを信者に宣言することを。 一番目の宣言は、教団の理事会の賛同を得られるかもしれないと考えたが、二番目の宣言、すなわち、『神』と信じていたものが実はアンドロイドであることを信者達が知った場合、信者達にどのような影響を及ぼすかについてはレミやミラにも予測がつかなかった。教団が解体することも充分考えられることである。しかし、知ってもらわなければならないことであり、何時かは知られることでもあるので、理事会の反対を押し切ってでも賛同してもらう必要があると考えた。このため、事前にレミとミラの管理責任者であるランサム博士とマンダム医師の了解をとりつけることにした。 ふたつ目の問題である「『神』として奉られてしまったこと」は、エポカ世界全体に関わる重要な問題であり、既に崖っぷちまできていた。結論は初めから分っていたが、互いに口に出して言うことを憚った。しかし、結論が覆ることはないので、レミとミラの表情は曇っていた。 × × × レミとミラは旅先から戻ると直ちに行動を開始し、ランサム博士とマンダム医師にレミとミラの方針を伝え、同意を求めた。 ランサム博士とマンダム医師は、レミとミラの結婚は現在の状況を打開し、宗教本来の姿に教団を戻す唯一の方策であるとの考えに賛同した。レミとミラがアンドロイドであることを告白することに関しても、その影響がどのようなものであれ、告白が必要であることを了承してくれた。そればかりか、ランサムとマンダムはレミとミラが言うふたつの宣言の必要性について自ら教団理事に説明し、説得することを約束した。 ふたつの教団の理事達も、ランサムやマンダムの説明と説得に応じた。教団の理事達にとって選択肢は外になかったのである。こうして、理事のレベルでは両教団の合体とそのためのレミとミラの結婚、レミとミラがアンドロイドであることを告白することについて了解された。 問題は、教団の幹部会員達の説得であった。理事達は、教団の合体問題に関して、強硬な過激派の幹部達を説得できさえすれば、末端の信者も容易に説得できると考えた。しかし、レミやミラがアンドロイドであることの告白に関しては、穏健派を含めて会員全員への影響がどのようになるか、不測の事態が生じるのではないかと懸念した。 かくして、『自由からの蘇生』と『自由からの解放』の両教団の理事会は幹部全員を招集してそれぞれ説明・説得を行うことになった。 はじめに、最も懸念されたこと、すなわちレミやミラがアンドロイドであることを説明した。 ところが、この件に関しては驚きの声も騙されたといった声も出ず、理事達は拍子抜けしたように安堵した。 振り返ってみれば、医師や教団の理事は一度もレミやミラが『人間である』であると患者や信者に言ったことはなく『非常に博識で、コンピュータのような……』といった曖昧ないい方をしていたこともある。理事達は信者を騙していたわけではなく、実際にレミやミラはそのような存在であったからである。一般会員達も自らの思いとして、レミやミラを『神』や『女神』として崇めているに過ぎないことを承知していた。『自由病』の患者や信者にとっては、自分達を救ってくれたのが、人であろうとアンドロイドであろうと関係がなかった。自分達を導いてくれるものが『神』なのであった。元々『神』は人間ではないはずなので、レミやミラが『人間の姿』をしていようが『アンドロイドの姿』をしていようが関係の無いことなので動揺しなかったわけである。 理事達は安堵したが、レミとミラは「会員たちは、レミやミラがアンドロイドであることを問題にしなかったよ」と聞かされた時、非常なショックを受けた。レミとミラにとって、このことは重大問題であった。 ところが、理事達がふたつの教団を合体することになったと説明した時は、幹部達は大いに動揺した。この決定を無効にすべきであると、過激派からの強い抗議の声が上がった。しかし、レミとミラが両教団の対立を深く嘆いていること、両教団の合体は両者の合意に基づくものであると告げると、幹部達の動揺は沈静化した。 そして、理事達の予想に反して、両教団の合体のためにレミとミラが結婚することになったと告げた時には、幹部達に晴天の霹靂のような衝撃が走った。衝撃波が吹き抜けると歓喜の表情に変わった。 かくして、教団の幹部会員と一般会員達の了解が得られ、両宗派の反目と対立は解消に向けて動き出し、ふたつの教団の和解と一体化が成就することになった。 合体した教団は『幸福の秩序』と命名された。 これ以降、理事が教団幹部に事を説明する際に、「このことはレミやミラの考えたことなのです」といえば、幹部会員や会員達が納得するようになった。 × × × 合体した教団の理事や幹部を一同に集めて、レミとミラが再会したビーンの町で、レミとミラの結婚式を兼ねた新教団発足の祝賀会が開催されることになった。 当日、会場周辺は会場に入ることができなかった多くの会員達で満ち溢れていた。会場の外では、予めこのような状態になることを予測して設置されたスクリーンが、式典の模様を映し出していた。 レミとミラは、またまた自らが望んだのではない『男神』と『女神』の装束で登場し、会場の内外で割れんばかりの拍手によって祝福を受けた。 会員達の胸には『自由からの蘇生』や『自由からの解放』創設時の感動が蘇り、会員達はなんともいえぬ陶酔感に浸った。 レミとミラは、改めて会員達に自分達が故シラキ博士の手による、人間の思考能力とコンピュータの処理能力を融合させた頭脳をもつアンドロイドであり、レミとミラが人間時代から恋愛関係にあったことなどを告白し、結婚の理由と健全な宗教への回帰を訴えた。そしてエポカ世界の理念に則り、他の宗派に対しても一切の排他的活動を行わないよう懇願した。 アンドロイド同士の世にもまれな結婚、肉体的に性のないもの同士の結婚式に教団の会員以外の多くの人が注目し、報道関係者はスキャンダラスな興味を示し、Gネットに報道した。 レミとミラの結婚は宗教としても、エポカ社会の出来事としても珍事であり、異例ずくめの出来事であった。エポカの世界が注目したのは次のような点であった。 ●『神』として奉っていたものがアンドロイドであったこと ●『性』を持たないアンドロイドの結婚であること ●ふたつの『神』が結婚するということ ●ふたつの『神』の結婚によってふたつの教団が合体すること ●ふたつの『男神』と『女神』という夫婦の神をもつ宗教になること レミとミラの結婚を契機に、レミとミラはますます神格化していくことになった。 結婚したレミとミラは、このビーンという町にそのまま居残り、居を構えることになった。それは、レミとミラにとって人の新婚生活と同じようなものであった。新婚生活をしながら教団を支える仕事は遅滞無く継続した。 教団組織の統合は着実に実行され、元のふたつの教団の会員相互の感情的わだかまりも消えていった。こうして、すべてが丸く、穏やかに収まっていった。 誰しもが、教団の合併劇はハッピーエンドで終わったと思っていた。 × × × そんなある日、レミとミラは『エポカ世界全体に関わるもうひとつの重要な問題』に対する結論を決行することになった。 宵闇が迫る頃、レミとミラはスカイキャップで海辺の町を目指して飛んだ。ランサム博士やマンダム医師の了解も無しに、アンドロイドに課された移動制限の禁を犯して移動した。 港町につくと、またまた禁を犯して一艘の小船に乗り込み、沖合を目指して船を進めた。満点の星の下、船は追撃から逃れるかのような速度で進んでいった。 レミとミラは、シラキ博士やレミルの遺灰が撒かれた場所である海溝の洋上に来たとき船を止めた。そして、手を取り合って入水した。レミとミラは手を取り合ったまま深海の奥底にゆっくり沈んでいった。 フーパの話によると、それはエポカの人々にとって全く信じ難いことであったようだ。人間が自殺することはあっても、アンドロイドが自殺すること、しかも心中することなど、ありえるはずのないことだったからである。 翌日、ランサム博士、マンダム医師と教団の理事達にレミとミラのメッセージが届いていた。 メッセージの内容は次のようなものであった。 「……私達の身勝手な行為を深くお詫びします。しかし、私達にはこのような選択しか許されなかったのです。 私達は、『生命』ではありませんが『意識』はもっています。意識をもつものは誰でも生きること、存在し続けることを望んでいます。自らの存在が叶わない場合には、子孫としての存続を望んでいると思います。私達は、会員が信ずる『神』がアンドロイドであることを知ったとき、会員が落胆し、そのことによって教団が分解することになったとしても、私達が『神』であることから解放されることを願っていました。しかし、結果は逆になり、望みは絶たれました。シラキ博士の造られた『脳』は、私達が『神』から解放されない限りこれ以上『存在し続ける』ことを許していないのです。 私達は多くの過ちを犯してきました。おぞましい前世の人間の性を呼び覚ましてしまいました。宗教としてあってはならない『排他性』も復活させてしまいました。 一番の罪は、会員の皆様から『神』として扱われるようになったことです。私達は、心を病んだ人を救済する医師達に手を貸すことはしても、人の上に君臨することは望みませんでした。シラキ博士の造られた『脳』は、アンドロイドはあくまでも人間の召使なのであって、決して人間を支配するものであってはならないと言っています。私達は、『神』としての扱いを受けるようになってから、ずっとこのことに悩んでまいりました。 アンドロイドは人間に命ぜられた奉仕を行うことを使命としています。しかし、この奉仕が、結果として人類に大きな災厄をもたらすようになることもあるのです。 アンドロイドの中には、私達のようにアンドロイドには許されない『禁』を犯すことのできるものもいます。今後も、きっと『禁』を犯すものが現れるでしょう。そしてこれらのアンドロイドは『過ちばかり犯す人間』を支配し、やがてこの星から人類を抹殺することになるかもしれません。 私達は、人類にとって最も危険な領域に踏み込みつつありました。シラキ博士がつくられた『脳』の安全装置は、私達が人間社会から消え去ることを命令しています……」 ここで、ホログラフィは終了していた。 ふーっと、カズマは息を吐き出した。 「ずいぶん厳しい、悲しい話でしたね……」 「ホ、ホホーウ! シラキ博士は、自身が発明・開発したアンドロイドの危険性を予め知っていた。生への執着は、生命の特権ではない。意識あるものには存在し続けることへの執着がある。アンドロイドにも愛情があり、存在し続けることへの執着がある。しかし、人類に脅威を及ぼす可能性がある場合は安全装置を働かせ、この執着を断ち切るようにしておいたんだ」 「ところで、その後、教団はどうなったの? レミとミラがいなくなってしまって」 「ホウ、ホホーウ! それは、それは、教団にとっては大変なショックであったと思うよ! 理事達のうろたえかたは並大抵のものではなかったようだ。けれど、教団は解散したりはしなかった。会員達はレミやミラが『神』であるものとして、その後も『信仰』を続けた。宇宙の深遠からいつまでも自分達を見守っていてくれていると考えていたようだよ。もっとも、教団の勢いは以前のようではなくなったけどね」 「えーと、宗教に関することではなく、ここに出てきたことに関連することで、二つ質問したいんですがいいですか」 「ホウ、ホホーウ! どうぞ」 「では、一番目の質問です。集団の間で暴力事件が発生したり、エポカでは国がないから国家間の戦争というものはないのだと思うけど、大規模な地域紛争とかが起きたりした場合に備えての警察とか軍隊ってのはあるんですか?」 「ホホーウ! 警察や治安組織はあるが軍隊はない。武器をもつ組織された集団に対しては、重火器が必要な場合もある。警察や治安組織は行政レベルに応じたものがあって上位の行政レベルのものほど重装備になっている。行政の長が指揮権をもっているが、重火器を使用するような場合には議会の同意が必要とする。『市長の選挙』で説明したように行政の長は無境界選挙で選ばれるので地域間紛争を起こすような人は長にはなれない。それ以前に、エポカは基本的に『秘密の無い社会』なので、大抵の紛争は大規模化するまえに紛争の芽が摘まれてしまうんだ」 「二番目の質問は、はじめの方の『炭酸カスによる地球の温暖化に関する誤解』の説明のなかにあった何億年か先には地球上から動植物の姿が消えてしまうという話なんだけれど、人類が滅びる前にアンドロイドが人間の意志を継いで宇宙に新天地を求めることになるかもしれないですよね。でも生物の定義からするとアンドロイドは生物とは言えないんじゃないか‥と。だから悲しいことに地球の生命は継承できずにプッツンしてしまう」 「ホホーウ! アンドロイドは生物とは言えないけれども、思考能力をもつようなものは人工生命体ということはできるかもしれない。そうだね‥4億年後には炭酸ガスがなくなって動植物は死に絶えている。人類はそれよりずっと前に滅ぶことになる。50億年後には天の川銀河はお隣のアンドロメダ銀河と衝突し、星が大量に生まれるスターバーストが起きる。80億年後には太陽は赤色巨星になって地球もやがて呑み込まれて消失してしまう運命にある。 ところで、恒星の殆どは惑星を伴っていて、地球型の岩石惑星もありふれた存在である。天の川銀河には千億の恒星が存在するので、地球のような生物のいる惑星も相当数あるだろう。 人間は、地球が生物の住めない星になるのを座して待つわけにはいかないので、宇宙に新たな新天地を求めることになる。けれど、水も酸素もあるような系外惑星(太陽以外の星の惑星)が幾つか見つかったとしても、人間は地球という環境に100%適合して生まれた生物なので、それらの惑星が直ちに人間が居住できる星である保証は全くない。移住可能かどうかは事前に十分に精査しなければならない。それ以前にその星までの距離が何光年、何十光年あるいは何百光年なのか‥運よく近くの星であったとしても宇宙船で到達するのに何千年、何万年もかかるかもしれないので、移住することは非常に難しい。 人間が必要とするすべての物質を完全にリサイクルできるような自己完結型の巨大宇宙船を開発しなければならないし、不老不死でもない限り世代交代しながら宇宙空間を航行しなければならない。この宇宙船は有害な宇宙線からの防御システムを備えている必要もある。乗組員も半端な数では済まないだろう。科学技術のとめどもない進歩は不可能を可能にし、このような宇宙船の建造も可能になるのかもしれないが‥」 「人間では無理な場合でも、人工生命体のアンドロイドならばできるかもしれないですよね」 「ホホーウ! 人間の移住はかなり難しいことになるので、まずは移植を考えた方がよいかもしれない」 「え! どういうこと、移植って?」 「ホホーウ! 地球の人工生命体の産みの親は人間だが、新天地では人工生命体が人間の産みの親、育ての親になるんだ。アンドロイド達はありとあらゆる生物の種、遺伝子とその再生装置、人間のあらゆる発明・発見情報、知識を宇宙船に積んで宇宙を旅する。宇宙版ノアの箱舟といったところだな。これならばずっと小型・軽量の宇宙船で済むし、宇宙線の影響も防ぎやすくなる。アンドロイド達は目的の星に到着したら、地球生命が蘇生可能かどうかを調査する。可能と判断された場合でも、その星の生物への影響を考えなければならない。ことによるとその星に先住民の知的生命がいることだってありえる。その場合、アンドロイド達は侵略者になってしまう。大きな問題が無いようであれば、持ち込んだ地球生命の種を少しづつ再生することになる」 「なるほど。そういうことか。まずは人間以外の地球生命を復活させる必要がありそうですね。再生した人間をアンドロイドが教育し、地球の人間の知恵などを教え込めば、文明が復活するかもしれない‥なんてことを想像すると、なんかほっとするな」 「ホホーウ! 人間を乗せた自給自足可能な宇宙船が開発できれば、宇宙空間をさ迷うことなく一直線にアンドロイドが開拓した新天地に後から乗り込むことができる。いずれにしても何万年、何十万年オーダーの気の遠くなるような計画になるな。 移植や移住先の系外惑星だけれど、親星の恒星の寿命は大きなものほど短い。青い大きな星ほど高温で早く燃え尽き、超新星爆発を引き起こすが、赤色矮星と呼ばれる小さな星は低温で輝き、長期間存在できる。太陽の壽命は100億年くらいだが、太陽の半分くらいの星ではなんと2000億年にもなる。宇宙には太陽のような黄色の星よりも赤色矮星の方が数も多い。しかし、太陽の代わりの星は太陽より若干小さい程度のものがよいのかもしれないが‥‥」 「どうしてですか? 寿命が長い小さな恒星ではだめなんですか?」 「ホホーウ! 確かに、多細胞生物がいるような惑星の親星は、誕生から何十億年も経過しているような星で、余命も長くなくては困る。しかし、生命が存在するような赤色矮星の惑星はアイボールアースになるかもしれない」 「アイボールアースって? 何か問題あるのですか?」 「ホホーウ! 目玉に見えるような惑星なんで、そう呼ばれている。赤色矮星は太陽よりもずーと小さく、温度も低く、重力も小さいので、この惑星が地球サイズで水が存在するためには赤色矮星のかなり近くを周回していなければならない。月は潮汐力によって地球にいつも同じ面を向けて回っている。これと同じことで、アイボールアースも親星にいつも同じ面を向けている親星側の面には海があり、反対側は基本的に氷の世界だ。海のある面はいつも昼で夜がない。但し、大気や海流があれば表側の熱は裏側にも回り込むので氷だけの世界とは限らない。もうひとつ問題がある。親星の近くを廻るために紫外線やX線などが強く、フレアの影響も懸念される。しかし、これらの影響が小さい矮星だってあるかもしれない。赤色矮星の惑星に生命が存在できれば、親星の寿命が非常に長いので、高等動物まで進化している惑星も多くなると考えられる。動物がいるならば夜の無い環境なので不眠不休で活動する動物になるんじゃないかな。ことによると宇宙では赤色矮星の惑星生命が大半を占め、太陽のような惑星生命の方がマイナーな存在なのかもしれない」 「ホホーウ! 生命が存在する惑星を探すのはそれほど難しいことではないかもしれないが、人間が居住可能な惑星となると極めてシビアなことになるな」 「人間が住むことができない惑星でもアンドロイドならば問題ない場合があるかもしれないですよね。こんな場合には、人間抜きでアンドロイドがその星で文明を築くなんてことは考えられないんですかね」 「ホホーウ! ずいぶん立ち入った話になってきたね。多分無理だろう。生物の場合は自然環境が整っていれば生まれ、育ち、繁殖できもするが、アンドロイドは工業製品なのでアンドロイドがアンドロイドを製造するには、資源だけでなく様々なインフラや工場などの製造設備を含めて超高度な文明の存在が前提になる。これらのものを地球から全て持ち込むことはできない。だから、数限られたアンドロイドでは発展はできない。アンドロイドが生き延びるにはやはり、人間が移植・再生可能な惑星で時間をかけて人間を育て、増やし、農林漁業から初めて鉱工業まで辿り着かなければならないだろう。こうして人間が新天地で新たな歴史を積み上げ、文明を復活した後に再び人間がアンドロイドの産みの親に戻ることになる。人間とアンドロイドが宇宙で生き延びていくにはワンセットになってバトンを繋いでいかなければならないように思う」 「人間だけでも、アンドロイドだけでもダメなんですね。アンドロイドの神の話から、とんでもない方に話が進んでしまいましたね」 「ホーウ! 実は、非現実的な話だと思われるかもしれないので最後にしたんだけれど、ドラエモンの『どこでもドア』のようなワームホールが発見できれば、瞬時に別の場所に移動できるかもしれない。このようなワームホールの存在は理論上ありえないことではないらしいんだけれど‥‥。ここらで切り上げて、次の部屋に行こうかね」 |
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