未来からのメッセージ

プラント 安全な原子炉

第四の部屋を出てチューブの透明な回廊を歩き出すと右奥に重なり合った二つの大きなドームが見えた。ドーム内には頑丈そうな建物が納まっているようだ。
「あの二つのドーム内にある建物はなんですか? 工場みたいに見えるけど‥らしくないな」
「ホホーウ! あれは原子炉と発電施設なんだ。小型のものだけどね」
「ええー! 原子炉! エポカでも原子炉なんか使ってるんですか!? エポカの世界では核融合とか‥もっと最先端技術のものが使われていると思っていましたけど」
「ホーウ! がっかりしたかな。そうね、エポカではどこにでもある安直な発電施設なんだ」
「どこにでもあるって、原子炉というのは事故でも起きたら大惨事になるような代物ですよね。そんなものがあちこちにあってもいいんですか?」
「ホホーウ! いーや、安全な原子炉なんだ。安全で安価、効率的で手ごろな発電施設だから心配には及ばない」
「そんな原子炉ってのは僕らの世界にはないはずだな」
「ホーウ! カズマの世界には実稼働しているものはないけれど、かなり昔から核技術関係者の間で知られているもので、燃料にウランではなく、トリウムを使用している原子炉なんだ。正確にはトリウム溶融塩炉というもので、現在の技術で十分造れるものでもある」
「安全で安価‥‥そんな良いものがあって現在でも十分造れるのなら何故世界で造られてこなかったんですかね?」
「ホーウ! そのとおりだと思うんだが‥トリウム型原子炉には当初ふたつの大きな問題があった」
「大きな問題?」
「ホーウ! ひとつには、トリウムをマッチに例えるとトリウムはマッチの軸の部分であって火種であるマッチの穂先の部分がないこと。これに対してウランの場合には火種部分と軸の両方を備えている。もうひとつは、現在稼働中の原子炉では核兵器の材料になるプルトニウムが廃棄物として製造できるんだが、トリウム型原子炉ではできないんだ」
「えー! そんなもの出来なくたっていいじゃない。むしろ核兵器のない世界平和のためにはその方が好都合なのでは?」
「ホホーウ! 今では、そう考える人が多いかもしれないが、原子力発電所が造られ始めた時代はそうではなかった。核兵器による軍拡競争の時代には、原子力による発電だけでなく、それによるプルトニウムの製造も必要だったんだ。原発の安全性よりも国家の安全性が優先されたわけだ。今でも核兵器の廃絶は遠い道のりではあるようだね」
「でも、日本のような非核三原則の国ではプルトニウムなんか必要ないですし、地震や津波などの自然災害に襲われても重大事故が絶対起きないような原子力発電所にすべきですよね」
「ホーウ! 従来型の軽水炉などの原子力発電の流れができてしまうと、なかなか流れを止められないようなんだ。そうだね、立ち話になるけれど、トリウム型溶融塩炉について簡単に説明しておこうか」
「お願いします。そんな原子炉の技術があるなんて知らなかったので」
「ホーウ! まずトリウムなんだけど、トリウムはウランよりも自然界に豊富に存在する。様々な工業製品の製造に不可欠なレアアースという希少資源の話は知っていると思うけれど、このレアアースを採掘する際の副産物としてトリウムが産出される。これはレアアース抽出の邪魔物であり環境汚染物質でもある。トリウム原子炉は、この邪魔物を有効活用できるということになる。
さきほど言ったように、このトリウムはそれ自体では核分裂を起こさない。火種となるマッチの穂先の役割をする物質がプルトニウムやウランなどになる。だから、トリウム原子炉では、プルトニウムは製造しないがプルトニウムを消費する。これは現時点では非常に好都合なことなんだ。というのは、現在稼働中の原子炉の放射性廃棄物であるプルトニウムの半減期は二万年以上で、この大量のプルトニウムの処分に往生しているわけだが、これを消滅させてくれるからだ。トリウム原子炉でも放射性廃棄物は出るが、半減期は百分の一程度で量も極めて少ない。
この原子炉が安全な理由は、次のようなことになるかな。
●一次冷却材として溶融塩(フッ素とリチウムなどの金属が結合した溶融状態の塩)を使用している。
●核分裂の減速材には黒鉛を使用している。
●原子炉の構造が単純で、長期継続運転が可能である。
●炉内の温度が上昇すると溶融塩が膨張し、核分裂反応は逆に遅くなるため、原子炉の暴走が起こりにくい。
●冷却材に水を使用しないので原子炉内は常圧であり、原子炉からの溶融塩の漏洩や設備の破壊といった高圧に伴う事故の危険性がない。
●溶融塩は化学的に安定かつ不燃性なので、火災の危険性がない。
●溶融塩は、沸点が約1500℃と通常運転温度の約700℃に比べて十分高く、仮に温度の異常な上昇があっても、燃料の性質に大きな変化が発生せず、炉心溶融のような重大事故が起こらない。
●仮に異常が発生しても、燃料塩をドレインタンクへ排出することで、原子炉を容易に停止し無害化できる。
といったことがあげられる。原子炉を小型化することもでき、安全なので街中でも設置できる。消費地に近い場所に発電所をつくれば送電線施設や送電ロスを小さくできるメリットもある。発電所の近隣地域ではこれまで無駄に処分していた原子炉の排熱を暖房、温室栽培、温水プールなど様々な用途に利用できる。
この原子炉が安上がりなのはこのほかに、
●トリウムはウランに比べて豊富にあるので低コストで調達できる。
●軽水炉のような燃料棒などの加工費用がかからない。
●廃棄物処理コストがかからない。
●長期連続運転が可能で、運転要員も少なくて済む。
といった理由による。
ひとつ付け加えておくと、プルトニウムは今は核廃棄物で豊富にあるけれど、これがなくなれば火種になる核燃料増殖施設が必要になる。トリウム自体は火種ではないけれど、天然トリウムに中性子を吸収させることで、消費する量以上の火種になるウラン235が増殖できる。このような増殖炉をつく必要もあるんだ」
「なんで、こんなに素晴らしい原子炉が今まで造られなかったのか不思議ですね。このトリウム型の原子炉がいっぱいあれば、化石燃料などを使う必要がなくなると思うし、太陽光や風力発電を使う必要も無くなるのではないですか。‥‥そうだ、化石燃料を使った発電所が必要なくなれば、温室効果ガスとか言われているCO2による地球温暖化問題だって解決するんじゃないですかね」
「ホーウ! 確かに、太陽光や風力発電のコストは原発よりも、化石燃料よりも割高で、しかも自然現象に頼るため電力としての安定性に欠けている。現在は、政府が買い取り制度を設け電力会社にこれらを買い取らせているので、電力会社はこの料金を電気料金に上乗せし、消費者に負担させている。消費者は太陽光発電や風力発電を維持するために、高い電気料金を支払わされているわけだ。安価なトリウム原子炉で電力需要を十分賄えるならば、自然エネルギーによる発電はもっと限定的にしか利用されなくなるだろうね」
「地球温暖化問題は?」
「ホホーウ! 化石燃料を使わないので資源の節約にはなるが‥‥実は‥その問題はなんの問題もないので言わなかったんだ。正直言ってテレビや新聞で言われている『温室効果ガスによる地球温暖化』というものにそもそも問題がある。『問題が無いのに問題だ!』とされていることが問題なんだ」
「えっ! テレビや新聞では人間が使用する化石燃料で大量の炭酸ガスが放出されて、地球が温暖化していき、地球環境が大変な問題になるっていっているけれど、これが誤解なの?」
「誤解の1番目は、炭酸ガスが悪者扱いされていること、2番目は地球の温暖化の原因が化石燃料の消費にあるということ、3番目は地球が温暖化しているということ」
「フーパがそんなことを言うなんて信じられないな、本当なの?」
「ホホーウ! まあね。ここでは詳しく説明している時間がないんで、要点だけ言っておくことにするよ。最初の炭酸ガス悪玉論だけど、カズマは学校の理科の授業で植物の光合成について勉強したと思うけど。炭酸ガスがなければ植物は育たない、少なければ生育が悪くなる。つまり食料の生産量が減ることになる。地球の歴史で、地球が温暖であった時代には植物が繁茂、動物も隆盛した。逆に寒冷化しり、地球全体が雪玉のように氷ついた時代には多くの動植物が死滅したり、絶滅したりした。温暖化によって生息領域が変化する動植物もあるけれど、温暖な気候は生物にとっての楽園なんだ。地球の歴史を億年単位でみると、初めのうち炭酸ガスは金星のような濃度であったが、その殆どは石灰岩に化けてしまっている。大気の組成は窒素が78%、酸素が21%、アルゴンが1%くらいで、炭酸ガスは僅か0.03~0.04%にすぎない。炭酸ガスは数億年後には更に減って光合成が行われなくなり、植物が死滅するので動物も死滅すると言われている。だから、炭酸ガスは多少であれば増えることの方が歓迎すべきことかもしれない」
「その話はなんとなく分かるような気がするな‥そうか人間もいずれはいなくなるんだ」
「ホーウ! では2番目の問題だ。地球の温暖化や寒冷化は雲の量と密接に関係している。雲の元になる水蒸気は前にいった大気組成の中には含まれないが、平均的には3%位といわれている。雲が増えれば、太陽光は宇宙に向けて反射されて地上に届かず寒冷化し、逆に少なくなれば温暖化する。この雲の量は地球に降り注ぐ宇宙線の量と密接な関係があることが分かっている。この宇宙線の量は太陽黒点の数と関係がある太陽の活発化程度に左右される。太陽活動が活発になると宇宙線を防ぐバリアーが強くなるんだ。だから太陽活動が活発になれば地球は温暖化し、弱くなれば寒冷化する。ところで、日光を宇宙空間に反射する雲なんだけれど、雲の元になっている水蒸気は最大の温室効果ガスでもある。温室効果ガスというと炭酸ガスを思う浮かべる人が多いけれど、水蒸気が温室効果の95%程度を占めている。炭酸ガスは残り5%程度の温室効果しかもっていない。人間活動による炭酸ガスの排出量はそのまた部分を占めるに過ぎない。排出された炭酸ガスの大半は何れ光合成によって植物に取り込まれてしまう。炭酸ガスが増えれば植物の量も増える。結果的に、大気中の炭酸ガスはそれほど増えないことになる。
海は炭酸ガスの貯蔵庫にもなっていて、海水温が上がれば炭酸ガスを放出し、下がれば吸収する。気候変動の要因は様々あってもっと知りたければ様々な本が出版されているし、インターネットでも調べることができるよ」
「たしかにそういう話はテレビや新聞では報道されないな」
「ホーウ! それでは最後の地球がどんどん温暖化しているという話だけれど、事実は違う。2番目の問題とも関係するんだけれど、太陽活動の周期は11年ほどで、活動が非活発な時期にかかってきていることから、地球の温暖化は進んでいないどころか今後は寒冷化していくという予想もある」
「じゃあ、テレビや新聞の報道は嘘ってわけ! 国連の機関が予測していることが嘘ってことになりますよね」
「ホーウ! 地球が人間の排出する二酸化炭素で温暖化して危機的な状態になるというのはコンピュータシミュ―レーションの結果によるものなんだけど、そもそも計算の前提条件が間違っているんだ。衛星や気球による全球的な観測データで見る限り温暖化は進行していない。予測と現実のギャップは拡大する一方だ」
「‥でもテレビなどで映し出されている温暖化のために氷河が後退したり、南の島が沈みそうになったり‥とかの話は?」
「それらの多くは初めから人間が排出する炭酸ガスが原因の温暖化だとの決めつけによるもので、原因をよく調べると人間活動による炭酸ガス排出量との関連付けに無理があるものが殆どなんだけれど、IPCCという国連の関連機関が言うことなのでだれもが信じて疑わない。なんらかの作為があるとしか考えられないんだけどね」
「よくわからないから、今はフーパのような見方もあるんだということにしておくよ。でも嘘だとしたら、いったいなんでそんな嘘をつくんだろうか‥。世界中が、みんな騙されていることになってしまう」
「ホホーウ! この嘘を告発している研究者も多数いるので勉強すれば全てわかることだよ。マスコミの圧倒的なプロパガンダの前には真実も正義も覆い隠されてしまう。テレビや新聞のニュース、解説だけ見ている人は確実に洗脳されてしまうといってもよい。本当のことを話す人は変人や異端者扱いになってしまう」
「このようなことってほかにもあるんでしょうね」
「ホーウ! いくらでもある。後で話にでてくる国の借金についての誤解もそうだし、特に甚だしいのは歴史の捏造だな。歴史の捏造問題については今回は触れないけれど、史実と異なる見解がまかり通っていて実に困ったものだ。安全な原子炉、CO2による地球温暖化、国の借金、歴史捏造問題など、どれをとっても間違った社会通念のため、間違った政策が実行され、争いが起き、多くの人、社会全体、世界が不幸になっている。このような間違った事実認識は、多くの場合イデオロギーや利害に起因するものが多いので始末が悪い。これらの間違いや捏造は政治を真逆の方向に舵を切り、問題を悪化させてしまう。『未来からのメッセージ』はこれらのプロパガンダや誤解の幾つかを解くことにあると言っても良い」
「洗脳されないようにするには?」
「ホーウ! イデオロギーや利害、一般社会通念や先入観に捕らわれないような心構えでいることと『誘拐される資格』で言ったように、受け身で情報を見聞きするのではなく、少しでも疑問に思うことがあれば、自ら積極的に調べて廻ることだね。インターネットなどで調べれば同じような疑問を持つ人も大勢いるし、本当の解答が用意されていることも多い。探せば本もあるはずだ。‥‥立ち話はこのくらいにして次の部屋に行こうかな」

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