未来からのメッセージ | |||||
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エピローグ | |||||
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フーパに案内されて、玄関のあるドームに通じる回廊を歩きながら、カズマが言った。 「ぼくの身代わりのカズマは、お父さんやお母さんにばれずにすんだかなぁ」 「ホーウ! ずーと、ご両親と一緒にいたわけではないから、たぶん大丈夫だったと思うよ」 「ことによると、ぼくの他にも身代わりになっているようなアンドロイドが外にもいるんじゃないですか?」 「ホホーウ! さあどうかな。けれども、エポカの世界のようなものの考え方をもった人達は、きっと大勢いると思うよ」 海底基地に到着した時のドームの上の部屋に来ると、マリンキャップの天井から突き出た棒の上にある椅子がカズマを待っていた。椅子に座るとエレベーターのように下がり、足が床に着くと停止した。溺れた時と同様、フーパもマリンキャップの中に飛び込んできた。 マリンキャップの天井が閉じられると、玄関の部屋に海水が流れこんできた。部屋中が海水で満たされるとドームのゲートが空き、マリンキャップが動きだした。動きだすと同時にカズマは睡魔に襲われて、眠り込んでしまった。いろんなことを見聞きしてきたので、いつもならば、頭のなかを見聞きした残像が夢になって駆け巡るはずなのだが、ただただ眠りこけた。 マリンキャップはカズマの眠りには頓着せず、元来た曲がりくねった長い洞穴を足早に進んでいき、淀んだような暗黒の海溝に出た。 海溝の底から勢いよく上昇を続けていくと、暫くしてかすかに光が感じられるようになり、次第に明るさが増し、やがて多くの魚が群れて泳ぐ姿が見られるようになってきた。 すると、フーパはおもむろに、カズマの背中をこつんこつんとつつきだした。 カズマがまぶたをこすりながら、寝ぼけ眼のままにうっすらと眼を開けると、 「ホウ、ホホーウ! いよいよお別れだね」フーパが名残惜しそうに言った。 「もう着いたの、まるで深海の奥底から海面近くまで瞬間移動したみたいだな」 「ホホーウ! そうだね、脳味噌がだいぶ疲れていたようだからすっかり寝込んでいたからね、後でまたゆっくり休むといいよ」 「うーん! けっこう面白かったから、今度はぼくが誘拐の手引きをしてもいいよ」 「ホーウ! ありがとう。それよりも、大人になったら見聞きしたことを、本にしてくれると有難いな」 「うん、ぼくに文才なんかあるとは思えないけど。気にとめておくよ」 「ホホーウ! 頑張ってね! ヒロタカズマ君」 カズマは、別れ際に初めてフルネームで呼ばれたので、違和感を覚えてドキッとした。 海面に近づくと、フーパは周辺に船や遊泳する人影がないことを確認しているようであった。 しばらくすると、マリンキャップは一挙に海水面にまで浮上した。 天井が開き、最初にフーパが飛び立っていった。すると、カズマが座っていた椅子が押し上げられ、カズマの身体は天井からポーンと外に弾き出された。カズマは、一旦水しぶきと一緒に海中に潜り、再び海面の上に顔を出すと、海水浴場の砂浜が遠くに見えた。 日没寸前であった。茜色の空と黒く見える雲が織りなしていた。海岸付近の大小さまざまな建物には既にあかりが灯っている。海岸の真ん中付近に提灯のぶら下がった櫓があって太鼓の音と盆踊りの音楽が聞こえてくる。周りには黒く小さな人影が動いている。海風の涼をとりにきたような人影も見える。まだ砂浜まで100m以上あるだろう。砂浜の左隅の方で海に向かって旗を振っている人がいる。背は大きくなさそうだ。何の旗なのか色も暗くてわからない。暫くすると、その人影は旗を砂浜に真っ直ぐに立て、衣服を脱いで海に入ってきた。泳ぎ出したようだが、波しぶきは見えない。こちらに向かってきている姿が、魚が背びれを見せて一直線に泳ぐ様に似ている。速い! 50mくらい手前で海中に潜ったようで姿が見えなくなった。暫くすると黒い影のようなものがカズマの脇をとおり過ぎ、下から何やら浮かんできた。見ると見覚えのあるカズマの海水パンツだ。するとあの黒い影がもう一人のカズマだったのか。海水パンツを取り上げ、足を延ばすと、砂浜が足裏にあった。おもむろにカズマは濡れた海水パンツにはき替え、海水をかき分け砂浜目指して歩いていった。 赤黒く見える海ふくろうがカズマを見送るように、空高く舞っている。 |
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