もうすぐ降りるバス停、というところで雨が降ってきた。しょうがない、春雨じゃ…だなあ、と思いながら歩いていると、若くてハンサムな二人連れが向こうから歩いてきた。
二人ともそれぞれに傘を持っている。行き違おうとしたら、ひとりがさわやかな笑顔で、
「あのう、よろしかったら…」
と声をかけてきた。心のなかで私は、ラッキー、とつぶやいた。
「お時間がおありでしたら、ぼくたちと幸福についてお話していただけませんか」
落ち着いた、ていねいな物言いだった。
私か、えっ、という顔をすると、
「お急ぎでしたら、あなたの幸福を祈らせていただくだけでも…」
近くに新興宗教のビルがある。そこから出てきた人たちだった。
雨は、いっそう激しくなっていた。
「いりません」
私は、その場から走っていた。
(なにがコウフクについてよ。あそこの神様の顔がみたいものだー)
彼らのおだやかな表情、ご丁寧な言葉、を思い出しては、カッカ、カッカ、頭に血がのぼっていた。私は、雨にぬれっぱなしで立っていたのだ。傘もさしかけられずに。
私は雨のなかを、神も仏もあるものか、と思いながら家路を急いだ。
しかし、ずぶぬれになっていたにもかかわらず、風も引かずに済んでしまった。
(これは、神さまのおかげかな?)
|