ルーリーおばさんは、きょうもだんろのまえのロッキングチェアーにこしかけて、あみものをしています。そしてルーリーおばさんの横には、ふつう一台しかない糸車がいくつもありました。
そのそばには、ふしぎな色にかがやいたマフラーやセーター、手ぶくろなどが、かごいっぱいにつまれています。
もうすぐクリスマスです。
「こんやは、お天気がよさそうだから、糸をつむぎましょう」
ルーリーおばさんは星形にあいている大きな窓から空をみあげました。ルーリーおばさんは、村の雑貨屋さんにマキや食べ物は買いにでかけますが、わたや毛糸は買ったことがありません。
やがて、お日様が西の空にかたむきはじめ、宵の明星が顔をのぞかせました。あちらの方から、こちらの方から、星もつぎつぎ見えてきました。
ルーリーおばさんは、それぞれの糸車を窓から少しはなしてみたり、ぴたりとくっつけたり、うーんと遠くにおいたりして、おおいそがしです。
そして、みんなおもいどおりのところにおきおえると、
「おねがいしますよ。糸車さん」
それだけいうと、ルーリーおばさんは夕食をすませ、さっさとべッドにもぐりこんでしまいました。
ルーリーおばさんのかわいい寝息がきこえます。
まんまるい月が、星形の窓の正面にきました。そのとき、しずかにしずかに一台の糸車がうごきだしました。
それまで、窓いっぱいにせんりょうしていた月のひかりが、ふとく一本によじれながら、うす黄色の糸になって糸車にまかれてゆきます。
それをきっかけにして、つぎつぎと速さをかえて糸車たちがまわりはじめました。ちかくの青い星からは、ちょうどいいかげんのふとさの青い光の糸が。はるか遠くにある赤い星からは、くもの糸のようにほそい赤いひかりの糸が。そして、またたく星たちは、ほそくなったりふとくなったりしながら、かってに糸車をまわします。
そのほかのひかりたちも、色とりどりに、みんな真珠の粉をふりかけたように、うすぐらい部屋でかがやきます。
糸車のまわる音も、それぞれにからみあい、ふしぎな音楽をかなでていました。そして、明けの明星が空にうかぶころ、糸車たちは、それぞれひかりの糸をすっかりまきおえていました。
朝、ルーリーおばさんは、はな唄まじりに、フリルの帽子をかぶりながら、糸車たちのいる部屋にやってきました。
そして、いっぱいに糸のまかれている糸車をうれしそうにながめて、ひとつひとつに感謝のことばをかけました。それから早口にルーリーおばさんはいいました。
「さあ、いそいでたくさん、こどもたちにあみましょう。そして早くとどけなくては。弟のサンタのところに」
ルーリーおばさんは、サンタクロースがクリスマスにくばるプレゼントつくりのおてつだいをしていたのです。
でも、ルーリーおばさんはときどき、あみものをしながら、ためいきをつきます。
「まっくらな空を、いつも明かりもなく走っていて、本当にだいじょうぶなのかしら?」
サンタクロースが、クリスマスの夜に世界中をまわるようになったはじめのころは、よくプレゼントをソリからおとしたり、まちがってとなりのエントツにとびこんだりしていたことを、ルーリーおばさんは思い出していました。
「赤鼻のトナカイがきてくれてから、すこしは安心なんだけど…」
ルーリーおばさんは、あみあげたプレゼントを白い大きなふくろつめこみました。さあ、これからソリでサンタクロースのところまでゆかなくてはなりません。
ルーリーおばさんは馬小屋から一頭の白い馬をつれてきました。馬にはつばさがありました。馬をソリにつなぐと出発です。
くらい空をずんずんのぼってゆきます。村の家がみんな小さくなってゆきます。教会のまえにかざられているクリスマスツリーも点にしか見えません。
しばらくすると、前のほうに光のカーテンが見えてきました。オーロラです。
ルーリーおばさんは、せまってくるグリーンの光のまくを思い切ってつきぬけました。こんどは黄色のまく、だいだい、ピンク、むらさき、つぎからつぎへと光のまくが目の前にあらわれます。前を走る馬の白いつばさには、いろんな色が反しゃして、ルーリーおばさんは夢を見ているようでした。
「サンタのまわる夜がいつもこんなだといいのに…」
ルーリーおばさんは、目をかがやかせながらも、つぶやいていました。
でも、ルーリーおばさんのソリのうしろでは、たいへんなことがおこっていました。あみもののつまっているふくろがやぶけていたのです。ふくろから飛び出すマフラーやセーターは、オーロラをつきぬけるたびに飛び散る光のかけらにみえていたことでしょう。
ルーリーおばさんがようやくそのことに気づいたのは、ソリがかるくなり、スピードが急にはやくなったからでした。ルーリーおばさんは、目をまんまるにして、顔もまっしろになって、大あわてです。
「なんてこと! サンタのこと言えないわ」
ソリは地上にむきをかえました。だんだん雪におおわれた大地が近づいてきました。そのなかを小さなてぶくろやマフラーがかがやきながら走ってきます。
ルーリーおばさんは目をパチクリとさせました。トナカイのこどもたちが落ちてきたものをひろいあつめて、マフラーをひるがえし、てぶくろは耳にはめ、セーターを角にひっかけたりして、ルーリーおばさんにむかって走ってくるのでした。
なかにはちゃっかり身につけているものもいます。トナカイのこどもたちのまわりは、それぞれに明るくかがやいています。
「そうだ! サンタといっしょに走ってくれるトナカイたちにもセーターやマフラーをあんであげましょう」
ルーリーおばさんは、トナカイのこどもたちにおれいを言いながら、うれしくうれしくなっていました。
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