3月7日(火)

朝起きてみると、もう完全にカゼをひいている。6時半に武昌についたが、車窓を見たりホームに出ようと言う気なんて起こらない。でも、もうすぐ見えるはずの長江は是非みたい。布団に潜りながら気力で車窓を覗いた。武昌を出て10分ほど。曇った空のもと、長江が見えた。
午前10時頃になって、ようやく起きる元気が出てきた。洗面所に歯磨き&顔洗いに行くと、ちょうど車掌さんが掃除をしていた。なかなか働き者だと思う。

朝飯のかわりにポテトチップを食べながら、車窓を見た。幾重にもつながる山々の中を、列車はどんどん走っていく。途中の村では、たくさんの人が農作業をしている。そんな風景が何度も単調に繰り返されていく。

そして気がつくと、列車は山から平野へと進んでいた。広大な平野と、ポツンと建つ煉瓦づくりの集落。それが何度も繰り返して延々と続く。煉瓦づくりの家は台湾と作りが似ていて、その入り口には台湾と同じような正月の飾りがしてあった。その飾りを見て、何とも言えないしんみりした気分になってしまった。台湾に行きたい。列車はどんどん台湾から離れていると考えると、寂しさとものすごい孤独感におそわれた。

都市に近づくと、少しは活気付いてくるが、それでも高いビルは数えるほどしかなく、汚い(ごめんなさい)レンガ作りの家から人が出入りしている。日本ではこのような場所に人が生活しているとは、考えられないだろう。テレビで見たような数十年のような世界が車窓から広がり、なんだかタイムスリップした気分になる。

車内放送で時々BGMが流れてくるが、これが中国の音楽や、NHKのシルクロードの音楽だったりして、車窓と相まってなんとも言えない雰囲気を出してくれる。よく考えてみると、昨日この列車に乗った香港の車窓は、賑やかな先端都市。しかし、一瞬にしてこのような廃墟の残る寂しい場所に移動してしまったことで、なんだか孤独感を感じたのだろう。

昼過ぎに列車は鄭州についた。もうすぐ黄河を渡るはずなので、黄河を見てから食堂車で昼食にすることにした。晴天の黄河はとても広く、これほどまで広大なのかという幅で流れていた。

食事を終えてから、車内を探検して、また部屋に戻って佩茹からもらった本を読んだ。乗客はみんな寝てしまっていた。さすがにこれだけ長い時間、列車に乗っていると、ほんとうに飽きてくる。

本を見ながら車窓を眺める。線路に沿って国道が走り、車がひっきりなしに行き来している。沿道にはポツンと寂しく、食堂が建っている。そんな風景を見ていると、本当にこの国に、写真で見たような立派なホテルがあるんだろうかと心配になってきた。

北京が近づくけれど、辺りの景色は変わる気配がない。やはり煉瓦づくりの低い建物ばかり。窓から遠くを見ても、都市らしきものは見えない。そして辺りが真っ暗になってまもなく、午後6時半、もうすぐ北京に着くという段階になって、ようやく家が増えてきた。しかし、外は真っ暗だ。闇の中で、小さな家の明かりがポツンポツンとついているだけ。

列車は午後7時、定刻で北京西駅に到着した。香港は冷房が必要なくらい暑かったのに、ここは真冬。コートが手放せない気温だ。改札を出て、早速タクシーに乗り込む。タクシーの窓からは、闇の中にそびえ立つ、とてつもなく大きな北京西駅が見えた。

タクシーに乗ってホテルに向かうときも、街灯は薄暗くて、ほんとに寂しい感じだった。しかしホテルに着いてみると、写真通り結構大きくて、立派なホテルだった。日本の衛星放送を久しぶりに見て、ようやく安心感が出てきた。


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