伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2022年9月7日: フェースブックに書いた近況 T.G.

 ここしばらく日誌を書いていない。GP生君は帯状疱疹の後遺症に苦しみながらちゃんと書いているのに、自分はサボっている。これではいけないと気を取り直し書こうとしたが、テーマを思いつかない。友人に勧められて、最近フェースブックを始めた。思いついたことを脈絡もなく投稿している。それを幾つか並べて日誌原稿にする。

 大学からZoom同窓会の案内が届いたので、思い立って参加した。数学科の同窓会である。当日、会場のリアルな参加者を含めて約40人が参加していたが、幹事を含めその中で当方が最高齢だった。さもありなん。若い人に交じって、自己紹介などやらされた。はじめに幹事から大学の近況の紹介があり、あれこれ写真付きで説明してくれた。立派な施設や建物が建ち並ぶ青葉山のキャンパスは、古色蒼然とした片平丁の風景とは様変わりである。話の中で気になったことが二つある。一つは教養部が廃止されたこと、もう一つは大学院生対象の父母の会についてである。

 教養部の廃止とはいかがなものか。教養部が廃止されたら、以前なら3年生になって受講するようになる専門課程の講座を、入学したての1年生からいきなり受講することになるのだろうか。ドイツ語など語学や、幅広い知識に触れさせる教養課程はすべて廃止されているのだろうか。大学は専門学校や職業訓練校ではない。教養部の2年間で幅広い知識に触れ、いろいろな分野の友人達と交流し、教養度を高め、人間性をを育んだ上で、専門分野に特化した教育を施す場所ではなかったのか。効率重視の教養部廃止は、いかにも大学教育を矮小化していて、大いに疑問である。

 大学院生の父母の会である。幹事の説明によると、最近話題になっているポスドク問題で、修士課程卒業者の就職先を気にかけている父母に寄り添うのが目的だそうだ。まるで大学院のPTAである。大学院生と言えばもう立派な大人だ。その大人を大学や父母がそろって子供扱いしている。こんなひ弱な大学院生で日本の将来は大丈夫かと、心配になった。以前も、大学の入学試験に親が付いてくることがニュースになり、そのことを日誌に書いたことがあるが、これと同種の心配である。

 岸田首相は安倍元首相の国葬について、国民の納得を得るために、閉会中審査の国会でテレビを入れて説明すると言う。彼はなぜ過半の国民が国葬に反対しているのか分かっていない。彼らが気にする費用や警備の問題ではない。国民は元首相の死後、彼と彼の部下達が異国のカルト宗教とズブズブで、その広告塔になっていたことをはじめて知り、そんな不実な男に国葬なんてとんでもないと思っているのだ。彼の不実不道徳さ、政治家としての倫理観の欠如が、彼の内政外交の功績をすべて帳消しにしてしまったのだ。このスキャンダルの醜悪さは、彼が生前攻撃を受けていた森友、加計、桜を見る会とは比べものにならない。この状況で、岸田が国葬の意義をいくら説明しても。国民は納得しないだろう。無理に強行すれば支持率が大幅低下すること間違いなしだ。

 日本人、特に政治家やマスコミは認めたがらないが、山上某の放った一発は実に強烈なものだった。その後遺症で今や自民党が大混乱。と言うことは日本の政治が大混乱に陥っている。この破壊力はかってのリクルート事件や森友加計とは比較にならない超大型爆弾である。これほどの騒ぎになるとは、留置場の下手人、山上某も想像していなかったに違いない。テレビ新聞は統一教会報道に明け暮れている。統一教会の悪辣さが多くの国民に知れ渡り、不快感が頂点に足している。山上某は当初教祖の韓鶴子を狙ったが、警備が厳しいのでターゲットを安倍元に切り替えたと言っている。仮に本命の韓鶴子が暗殺されていたとしても、これほどの騒ぎにはならなかっただろう。単なるカルト教の内紛、スキャンダルで終わっただろう。韓鶴子はさぞホッとしているだろうが、広告塔にしていた安倍の暗殺は、統一教会にとって大打撃だったに違いない。

 AERA.dot紙に哲学者の内田樹氏が次のように書いている。
「毎日新聞が8月20日に行った世論調査では、岸田内閣の支持率は前回の52%から16ポイント下落して36%、内閣成立後最低を記録した。理由は明らかだろう。旧統一教会と自民党の癒着という「現代政治史の闇」を解明する気がない、腰の引けた姿勢に有権者たちが強い不信の念を抱いたからである。多くの自民党議員が旧統一教会がどういう活動をしているか知らなかったと言い逃れしている。国会議員が「自分は世情に疎い」ということを弁疏に用いている。そのような世情に疎い人間に、はたして国政を議す資格があるのか。国会議員がその知性・特性において国民の平均を上回ることがない政体を「衆愚政治」と呼ぶ。今や日本はそこに向かおうとしている。」
 まさに問題の本質を突いた鋭い指摘である。岸田をはじめ、多くの自民党議員はこの憂いにどう答えれらるのだろうか。有権者の不信を招いた日本の政党政治が危機に瀕している。

 「静寂の北アルプスを歩く、真夏の水平歩道と裏剱」というYoutubeを見た。若い女性が黒部のトロッコ電車で欅平まで入り、水平歩道から仙人峠を越えて、池ノ平、二股、剱沢雪渓を辿り、剱沢小屋に至る3泊4日の山行である。水平歩道部分を除いて、60年前、大学2年の時にGP生君等と歩いたルートとほぼ同じなので、懐かしく見ていたのだが、景色がまったく違う。北アルプスの秘境と言える地域で、当時は山小屋がほとんどなかったが、今は山小屋だらけである。2、3時間おきに山小屋が出てくる。ルートも昔はなかった鎖、ロープ、手摺り、階段、遊歩道のオンパレード。安心とは言え、まるでおんぶに抱っこの安全登山である。途中地図ではなく、GPSスマホでルートをたどりながら歩いている。最も印象が違ったのは、残雪の少なさだ。昔は稜線に近い剱沢小屋から下はすべて広大な雪渓だったのが、今は雪渓はわずかしかない。温暖化の影響だろうが、見ているうちにだんだん懐かしさが薄れてきた。

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