伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2021年9月5日: 自民党総裁選の大混乱 T.G.

 突如として菅が総裁選出馬を投げ出した。なんとも情けない自民党総裁である。こんな信念のない男に1年半日本国の首相を任せていたことに慄然とする。残り一月足らずの任期をコロナ対策に没頭したいなどと言い訳がましく言っているが、その間日本の政治外交はほったらかすつもりか。コロナだけが日本の問題ではない。国家指導者たる首相がこれでは、コロナ対策もうまく行くはずがない。世界に恥をかいたアフガン撤退も失敗に終わったはずだ。

 コロナ、五輪の失政続きで、菅政権の支持率は下がる一方。総選挙を控えて上がる気配はまったくなかった。これでは選挙に勝てないと、党内から不満が噴出していた。月末の自民党総裁選に自信たっぷり出馬を表明していた菅も、さすがに慌てだした。とかく国民に評判の良くない古手の幹事長二階の更迭など、何やら怪しげな策をあれこれ講じ始めた。そうすれば選挙を控えて少しは支持率を上げられるだろうと。こんな次元の低い見せかけの悪巧みが功を奏するはずがない。党内でも批判や不満が噴出してにっちもさっちも行かなくなった。挙げ句の総裁選出馬見送りである。総理の椅子を放り出したも同然。なんとも情けない政治家である。

 コロナは誰がやっても難しい。世界中の国がうまく行っていない。国家指導者の誰もが悪戦苦闘している。菅だけが例外ではない。仮に菅以外が首相であったとしても、結果(感染者数)は同じだっただろう。菅に足りなかったのは、危機に際して国家指導者としての覚悟とリーダシップだ。日本の感染者数、死者数は諸外国に較べてはるかに少ない。人口あたりの医療用ベッド数は世界一だ。それなのに医療逼迫を招いて国民を不安に陥れている。医療を含めた国家権力を一手に握る総理大臣として、無能、無為無策と言うしかない。

 菅の体たらくには呆れるが、過ぎたことをくよくよ言っても仕方がない。今となってはとっとと首相の首をすげ替えて、しっかりやれと尻を引っぱたくのが賢明だろう。問題は菅以上に頼りになりそうな候補者が見当たらないことである。昔は三角大福中などと言って、自薦他薦の総理候補者がたくさん居た。誰がなっても一幅の絵だったし、実際にそうなった。それが今は皆無である。隙あらばと総理の座を虎視眈々と狙う政治家がいない。菅が辞任を言い出す前、対抗馬として名乗り出たのはわずか岸田と高市早苗の二人だけ。後は知らんぷりで他人事。それが菅辞任と聞くと、にわかにあちこちから有象無象が湧き出した。砂糖にたかる蟻のようで、節操のない連中である。

 まずワクチン担当の河野が名乗り出た。この男だけは願い下げだ。こんな男を総理にしてはいけない。国が潰れる。彼は超緊縮財政が持論で、財務省の操り人形、根っからの原発反対派、太陽光など再エネ至上主義に凝り固まっている。その上女性天皇容認論者ときている。彼を首相にしたら、日本経済と産業は衰退の一途をたどり。天皇制は崩壊するだろう。日本の寄って立つ土台が脆弱化するだろう。三代目を絵に描いたような世襲政治家だが、親もじいさんも政治家としてはろくでもなかった。岸や池田と張り合った祖父の河野一郎は力はあったが、東京オリンピック、成田空港建設などとかく利権の噂もあり、総理にはなれなかった。父親の河野洋平は官房長官時代の河野談話で今の慰安婦問題を固定化させた。今でも従軍慰安婦はいたと言い張っている。

 ついで石破である。今のところ白紙などと利いた風なことを言っているが、菅がいなくなれば臆面もなく出てくるだろう。そういう節操のない男だ。石破については3年前の伝蔵荘日誌にも書いたが、歴史観と国家観を欠いた実に愚かな政治家である。こんな男がかって防衛大臣を務めていたとは信じられない。世も末である。なぜかマスコミ受けが良く、自民党の地方党員に人気があると言う。マスコミの世論調査では常に首相候補の上位に上がる。どこがいいのか、世の中分からないものだ。閣外から犬の遠吠えのように安倍政治を批判し続けていたから、首相にしたら安倍が作った卓袱台をひっくり返すだろう。こんな男に総理になってもらいたくない。

 外務大臣の茂木の名も浮上している。まだ仕事をしていた20年前、自民党の情報産業振興議員連盟の会合で彼の人となりに触れたことがある。若手議員の集まりだったが、口八丁手八丁、目から鼻に抜けるような実に頭のいい男で、会議の議論を取り仕切っていた。他の議員がちょっと間抜けな質問や意見を出すと、手厳しくとっちめていた。とっちめ方が実に鮮やかで、とっちめられた方はぐうの音も出なかった。これでは人はついていかない。人の上には立てない。頭はいいがいかにも人望に欠ける。人望は政治家として最重要な資質、必須能力である。日本国民のトップに立つ政治家としては失格だろう。

 本命の岸田である。氏育ちもよく、当選回数も多いベテラン政治家だが、どうにも政治家としての信念や国家観が感じられない。安倍政権で長年外務大臣を務めたが、彼がどういう外交をやったか記憶にない。安倍のふんどし担ぎをやっていただけで、独自の外交が出来ていない。安倍政権の最大の外交成果と言える日米豪印のクアッド構想実現にも、彼の存在感はない。総裁選に名乗りを上げた記者会見で森友の公文書改ざん問題を問われ、「調査が十分かどうかは、国民が判断する話だ。国民が足りないと言っているので、さらなる説明をしなければならない課題だ」と啖呵を切った。安倍に喧嘩を売ったわけだ。安倍の属する細田派は最大派閥である。これに喧嘩を売っては勝ち目はない。政治家として最重要の情勢判断能力に欠けている。これでは日本を引っ張っていけない。

 それ以外にも下村、野田聖子などの名も上がっているが、いずれも枯れ木も山の賑わい。総理の器ではない。その中でただ一人、高市早苗には一目置いている。当選8回のベテラン議員で、安倍内閣で総務大臣を務めた。若い頃、テレビのライブ番組で田原総一朗に「満州事変以降の戦争は、日本にとって自存自衛の戦争だったと思うか?」と問われ、「自衛のための戦争だったと思う」と答えて激論になった。そのやりとりを見て、歴史認識を持ったしっかりした政治家という印象を持った。9月号の文藝春秋誌に彼女の政権構想「日本経済強靭化計画」を載せているが、なかなかの内容である。テレビ新聞などの表マスコミには極右翼と評判が悪く、泡沫候補扱いだが、ネットでは大人気。岸田、石破を抜いてぶっちぎりの最有力候補である。岸田が本命、河野、石破を対抗馬とすれば、さしずめ高市女史は大穴だろう。低迷した政治人気を盛り上げるためにも、初の女性総理実現に大いに期待したい。

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