伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2018年5月22日: 石破茂とエマニュエル・トッドと兵頭二十八  T.G.

 散歩の途中で本屋に立ち寄った。買う気はなかったが文藝春秋の最新号を立ち読みしてみた。昨年来この雑誌がなにをとち狂ったのか朝日新聞に同調して、森友加計の軽薄な安倍政権攻撃を繰り返すので、馬鹿らしくてしばらく購入を控えていた。いくら何でもそろそろやめただろうと思っていたら、相変わらずの森友加計一点張りの安倍攻撃特集である。この雑誌社は病気にでもなったのか。そういえば近々社長が交代するらしい。

 その6月号である。【特集、「政と官」の劣化が止まらない」は「野党が証人喚問要求するキーマンの一問一答、今井尚哉首相秘書官独占インタビュー、「昭恵夫人が無関係とは言えない」、「官邸官僚の研究2 森友問題への関与、首相親書書き換え、総理の分身、豪腕秘書官の疑惑」、「改ざん、隠蔽が蔓延する霞が関の奈落、官僚は安倍官邸の下僕と化した 片山善博/前川喜平」と、相変わらずの安倍攻撃のてんこ盛りである。材料はガセネタの森友加計から一歩も出ていない。極めつけは「小泉元首相にあった姿勢が安倍さんにはない、安倍政権は真実を語れ」と題する石破茂氏の談話で締めくくっている。どうやら文春は次期総理を石破氏と見込んだらしい。

 その石破茂氏の談話である。長々と安倍批判をぶった後、持ち出したのは慰安婦像に関する日韓合意への批判である。彼によれば、外交手続きとしての日韓合意は尊重されるべきだが、日本は日韓併合で韓国の人たちから国を奪った過去がある。日本人は正しい歴史認識を持ち、合意履行を言い募る前に、国を奪われた韓国の人たちの恨みをもっと理解すべきだ。そうでないとこの問題は解決しないと言う。いくら何でもそれはないだろう。歴史としての日韓併合にはいろいろな見方や論点はあるが、次期首領候補と目される政治家が、現実の外交に関して女学生のようなセンチメンタルな歴史観で合意を否定するのは愚かとしか言えない。自らが属する党が現在行っている外交について、雑誌で軽口批判するのも不見識に過ぎる。仮に彼が次期首相になった場合、彼の外交はこの発言とどう折り合いを付けるつもりだろう。トランプのように日韓合意をやめるとでも言うのか。

 日韓問題に触れた後、さらに仰天するような歴史認識を語る。彼が防衛庁長官の時、シンガポールで東南アジアの安全保障に関する国際会議に出た。その際、当時のシンガポール首相リー・クアンユーに「君は戦前の日本が東南アジアで何をやったのか知っているか」と問われ、「分かりません」と答えたら、「だから日本は駄目なんだ」と一喝されたという。歴史認識について小洒落たコメントを付け加えたつもりなのだろうが、これは頂けない。いくら何でもそれはないだろう。防衛庁長官(現防衛大臣)という国家安全保障の要職を務める閣僚が、国際会議で他国の首相に歴史認識を問われ。それに答えられずにいたことを自らの国際経験として自慢げに自戒して見せる。こんな愚かで歴史観の乏しい政治家が次期首相候補とは、情けなさを通り越して悲しくなる。こんな低次元の談話を、これ見よがしに掲載する文藝春秋の見識を疑う。

 好きなテレビ番組にBSフジのプライムニュースがある。政治、経済、時事問題についてテーマを絞り、少数の有識者と2時間たっぷり語り合う。先週はフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏が出演した。ソ連の崩壊やリーマンショック、アラブの春、イギリスのEU離脱など、著書の中で数々の世界現象を予言し、的中させたことで知られ、現代の知の巨人の一人と言われる論客である。彼の著書をいくつか読んだが、いずれも知的でスリリングで面白い内容である。そのトッド氏が番組の中で現在の世界情勢について語りながら、北朝鮮問題についてとても興味深い指摘をしていることが印象に残った。

 トッド氏は、来る米朝首脳会談が喜劇になるだろうと前置きして、「トランプは高飛車に核放棄を迫るだろうが、イラン合意破棄を見ている金正恩は、保身のため核を決して手放さない。その結果アメリカが北を攻撃すれば、中国が北の支えに回るだろう。そうなると戦争だが、周りの中国、日本、韓国などが出来るだけ事を荒立てないように動くべきだ」と言う。そうなると北が核保有国になるが、その脅威に日本はどう対処すればいいかと問われると、「フランスは核を持っているが、フランス人はこれでドイツを攻めることなど毛頭考えない。核は武力ではなく、平和のための抑止力と思っている。核によってヨーロッパの平和が成り立っている。歴史的な日本人の核アレルギーは理解するが、日本もフランスと同じように核保有をすることをお奨めしたい」と答えている。トッド氏は以前から北東アジアの安定には日本の核武装が欠かせないと主張しているが、持論は変わっていないようだ。

 かねて愛読するブログ「兵頭二十八の放送形式」の執筆者で孤高の軍学者、兵頭二十八氏は、以前から北朝鮮の核は見世物の張り子の虎で、実物は未完成と言う意見である。その彼の5月19日のブログ「存在しないものは出せない」 は次のように書かれている。

「2018年05月19日 08:49、「原爆」も「水爆」もそもそも1発も存在しないのだから、米国に提出なんかできるわけがない。存在するのは、ビル1棟サイズの「核爆発装置」の残骸のみ。その実情は誰にも絶対に知られたくないので、トンネルを崩壊させて証拠をぜんぶ埋めてしまうつもり。」

 そうであることを祈るばかりである。

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