伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2016年11月10日: めでたし、トランプ大統領誕生 T.G.

 嫌われ者のトランプが大統領になった。アメリカという国の近年にない大変化である。大いに歓迎したい。マスコミが言うような僅差の激戦ではなく、ある意味ぶっちぎりである。開票速報では常にヒラリーを上回っていた。事前にアメリカのマスコミは大方がヒラリー大統領を予想していた。支配階級寄りのCNNやニューヨークタイムス、ワシントンポストはまるでヒラリー応援団に成り下がっていて、トランプに投票するななどと書いた新聞もあった。無定見な日本のマスコミもそれに引きずられてヒラリー一色。読売にいたっては、新刊書「ヒラリー、女性大統領の登場」の発売広告まで出していたと言うから、オッチョコチョイにも程がある。

 8年前のオバマ大統領誕生を伝蔵荘日誌に書いたが、なぜか日本人は共和党嫌いで民主党の大統領が大好きである。オバマが当選したときは、マスコミも国民も躍り上がって喜んだ。朝日新聞は「オバマ氏当選―米国刷新への熱い期待。米国を変えたい。刷新したい。米国民のこうした思いが、一気に噴き出したような選挙だった。」と顔を赤らめるような提灯持ち記事を書いた。まるで野太鼓、赤シャツの太鼓持ち。一国のフラグシップペーパーとして(朝日はそう思っている)恥ずかしくないのか。今回のトランプはどう書くのだろうと、10日付けの社説を読むと、「トランプ氏は世界にとって取り返しのつかないリスク」だと。8年前とはまるで正反対。朝日にとってトランプはよほどショックだったらしい。

 その朝日の8年前のオバマ賛美について、伝蔵荘日誌では次のように書いている。
「バッカじゃなかろか。 脳天気もいい加減にせい!少し考えれば分かることだが、日本の国益にとっては控えめに見ても共和党マケインの方が“ベター”に決まっている。オバマになってがっかりすることはあっても、躍り上がって喜ぶことではない。歴代民主党政権は実に日本に冷たかった。クリントンの8年間、経済摩擦や日本バッシングでさんざん虐められてことを日本人は忘れたのだろうか。確かにブッシュは無能でいい加減な大統領ではあったが、それはアメリカ国民にとっての話。日本にとっては間違いなく“良い大統領”だった。クリントンのような陰湿な日本虐めはしなかった。アメリカ国民はともかく、日本にとってブッシュ時代の日米関係は、総じて幸いな8年間だったと言ってよい。民主党リベラル極左派のオバマは、より中国寄りに傾いて、日本に冷たくなるだろう。」

 我ながら卓見である。書いたとおり、オバマの8年間は民主党伝統の日本虐めの8年間だった。中国に肩入れして、南シナ海でのやりたい放題を見て見ぬふり。日本訪問はとんぼ返りなのに、北京には家族連れで1週間も滞在して、習近平と太平洋を二分するG2談合をした。朴槿恵のご機嫌を取るために、嫌がる安倍に無理やり従軍慰安婦合意をさせた。日本を恫喝してやる気もないTPP交渉に引きずり込んだ。ヒラリーはオバマ以上の中国寄りである。中国ロビーストに政治献金まで貰っている。彼女だったらさぞかしひどいことになっただろう。そうならなくてつくづく良かった。

 歴代民主党大統領は例外なく日本に冷たかった。極めつけはルーズベルトとトルーマンである。ヤクザまがいのハルノートで日本を脅して戦争に引きずり込み、挙げ句に広島長崎に原爆を落とした。オバマはその広島にやってきて、謝りもせず、愚にもつかぬ核兵器廃絶演説で誤魔化した。愚かにも誤魔化された側の日本は大喜びで、拍手喝采。お人好しにも程がある。出来もしないきれい事を並べるのはこの大統領の悪い癖である。もうしばらくこの不作為の偽善に振り回されていたら、日本はおかしくなっただろう。中国との泥仕合に引きずり込まれただろう。ヒラリーでなくてつくづく良かった。

 「どの大統領が良かったの」と家人が聞くので、躊躇なくブッシュと答えた。ブッシュは知性と教養の欠けた大統領だったが、日本にとっては親切でいい大統領だった。教養のなさはトランプも似ている。ビジネス経験しかないので、何でも金勘定でしか考えられない。安全保障のような地政学的な国家戦略は理解の外である。だから日米安保も金勘定の損得で言う。それなら金は出しますと日本が言ったらどうするつもりだろう。在日米軍が日本の傭兵に成り下がる。そう思い至らないのは知性がない証拠である。インテリのオバマやヒラリーなら口が曲がってもそういうことは言わない。黙って真綿で首を絞める。しかしながら、あのトランプ発言を「国の防衛ぐらい自分でやれよ」と言う直裁的な忠告ととらえれば、日本にとって大いに好都合だ。これを機に反省して、アメリカ属国のぬるま湯から抜け出せる。願ってもない戦後レジームからの完全脱却である。

 アメリカのインテリが軽蔑するくらいだから、トランプもおそらくブッシュ並みの無教養である。今のところハイレベルで抽象的な国家観や国際情勢認識はない。メキシコ国境に壁を作るとか、イスラム入国禁止とか、日本やドイツや韓国に金を出させるとか、即物的で分かり易いが、とても国家戦略とは言えない素人レベルである。それでもなんと言っても天下のアメリカ大統領だ。見方を変えれば、アメリカの歴代政権が練りに練って世界中に展開してきた、アメリカご都合主義の有象無象の国家戦略のかなりの部分が、無知だが行動力だけはある大統領のもとで変質し、もしくはご破算になる可能性が多分にある。たとえばロシアと対峙するNATO体制、イラン、サウジと組んだ中近東戦略、経済重視の対中国の宥和姿勢などである。日米安保もその一つだ。これが変質するのであれば、対米従属で身動きの取れない日本にとって、ある意味絶好のチャンスだろう。

 そういう稀代のアメリカ大統領と日本はどう付き合うべきか。折り合いをつけるべきか。それがこれからの日本政治のテーマである。オリンピックや豊洲やTPPなどのチマチマした話は放って置いて、国会ではもう少し骨太の議論をするべきだ。まずはトランプから問題提起された日米安保と国家安全保障問題から手をつけるべきだろう。日米安保から距離を置いた自主防衛体制について議論すれば、必然的に憲法改正にも手をつけねばならなくなる。やるべき仕事は山ほどある。与党議員も野党議員も、総理も大臣も、大忙しを覚悟すべきだ。選挙運動などやっている暇はない。

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