London (United Kingdom) Europe trip, March, 1997

(10)ミュンヘン空港
 翌朝、ロンドンに向かうべく空港行きのバスに乗ったら、しっかり雨が降ってきて、昨日はピンポイントに近いくらいのきわどい日を当てたらしいと自己満足に浸りました。ちなみに、朝のCNNの天気予報では、ウィーンは雪だと言っていました。日頃の行いのよさが証明された気分でした。
 やっとドイツ語も耳に慣れてきたし、メニュを解読する勘も戻ってきたのですが、ここはやはり英語を母国語にする国に行くにしかずと、未練もなく出発。

 前来たときとはすっかり空港の様相が違っていて、しばし戸惑ってしまいました。えらく近代的な空港に変貌しています。そういえば、最後に来たときは改装工事の最中だったと思い当たりました。おかげでDinersのラウンジの所在がわからず、時間つぶしをする場所を探すのに苦労しました。

 ここでポンドに両替(出発前に行く先の通貨に両替すれば、元の国のコインも受けつけてくれますから、荷物が軽くなります)。いい加減な見当で金額を決め、cashを持ち歩いているのですが、残りの日程も少なくなる反面、まだほとんど買い物をしていないので、一向に経費の先が読めません。(本当は、ここで昨日歩いた地域の地図を買うつもりだったのに、すっかり忘れてしまいました。翌年、仕事でドイツに出張した際に買い求めたのではありますが。)

 今回は、成田でDMのTravelers' checkを作って来たのですが、銀行で現金に換えようとすると手数料を請求されて面倒でした(これまではあまり経験のないことです)。ホテルのフロントで小刻みに現金化することで手数料を回避できるとわかり、これを毎日やっていました。

 ロンドンへはLufthansaで飛びますが、ここはUAと提携しています。私はPremierの、
同行者は入りたてのMileage plusのカードを提示してチェックインしたので、前後の間隔が普通の倍ほどもある席を割り当てるという優遇処置をとってくれました。わずかな飛行時間とは言え、ヨーロッパの飛行機は窮屈だとの先入観をしばし忘れて楽しみました。
(11)ロンドン
 やっと英語が母国語の国に辿り着き安心感が漂いますが、旅もここでおしまいです。先が見えてしまったためか、また日常に帰ることにうんざりしたのか、
同行者の元気がさほどでなくなりました(やっと緊張が解けただけか?)。気持ちはわかりますが、私の方は買い物の予定をいくつか持っているので、そうのんびりとはしていられません(それが目的でこの街に立ち寄ったとも言えるくらいなもので)。それに、ここは移動中の中継点のような扱いなので、あまり時間もないのです。

 空港から、これまた何度か泊まったことのあるホテルに向かうのですが、初めてバスを使ってみました。これまでは時間の計算ができる地下鉄を愛用していたのですが、今回は急ぐ旅ではなし、天気も妙に良好だし、二階バスなら街見物にもなるしという判断。それに、荷物の積み下しもバスの方が楽です(階段の昇降がありませんから)。 ちょうど空港ターミナルの工事に遭遇したおかげで、土地勘が戻ってこないこともあって、バス乗り場を探すのにしばし歩き回りました。それにしても、この国には粗忽な方もいるのか、「Readingへのバスはどこから乗るの?」と妙齢の女性に聞かれたりして、自分のバス乗り場を探す前にこの人の面倒を見てはどうかと思うほど。そう言えばWashington D. C.を歩いていても、しょっちゅう道を聞かれますが、首都の特徴なのかも知れませんね(よそから来て、道に迷っている人が多い?)。

 余談はともかく、やっと乗り場を発見してバスに乗り込みます。
同行者に先行させたら、運転手のところでstop。何やら聞かれているのですが、当然返事ができなくて、両者睨みあいの様相。向こうは「どこで降りたいのか」知りたがっていただけでした。ここで気づけばよかったのですが、このバスは乗客が希望する地点で停まってくれる(もちろん、どこでもとは言いませんが、かなり小刻みに停留所はあるらしい)のでした。私はてっきりいくつかの主要な停留所にしか停まらないものと決めつけていたので(古いguidebookにも、そう書いてあったし)、ホテルから近いBritishrailの駅の名前を告げました。そこからtaxiでホテルに行こうと計画していたのです(そうすれば、ロンドン名物の箱形の車にも乗れるし)。 あとでホテルを出てもよりの地下鉄の駅に歩いている途中で、さっきのバスの停留所を発見してしまい、それならここで降ろしてくれと言えばよかったのだと理解しました。逆に、これを使って空港に行けるだろうとも思ったのですが、時刻表のたぐいはなかったので、ここのやり方はわからないままです。

 結局、一度ホテルに入った後、使い慣れた地下鉄に乗って、夕食に出かけることにしました。これで多少は土地勘が戻ることを期待したのと、何よりもこの国の料理は野菜は調理しすぎ(単に茹ですぎだったり、煮すぎだったり)で原型をとどめていないし、肉は下手にレアを頼むと生に限りなく近いものの出てくる文化ですから、なるべくなら異国の料理が好ましいと思ったためです。 今回は素直にイタリア料理屋を探索し、Sirenaという結構いい店を見つけました(何よりもおやじさんが商売熱心で、機敏に店内を動き回る人でした)。

(12)観光と買い物とオペラ
 翌朝、乗り放題の切符が買える時刻(0930より早いと、自動販売機でも切符を売ってくれないことを発見)には地下鉄の駅に現れ、一日中動き回るための乗り放題切符を確保しました。そこから一路繁華街へ。まず予定していた買い物を予定していた店ですませ、
同行者からは「これまで(出張だと言っては)こんなところで衝動買いしていたのか」と誤解されてしまいましたが、今回はそれも予定に含めていたので動じません。

 最後の散財ということでもありませんが、当夜のオペラの切符を窓口で受け取り、所望の席が取れていることを確認(日本からFAXで予約していたもの)。
 この日も快晴で、すでに桜があちこちで開花しています。休憩を兼ねて市内一周の観光バスに乗り込んだのですが、何かの手違いで日本語の解説がついていない車両だったため、居眠りでもしているつもりの通訳が大忙しになってしまいました。
あまりに天気がいいので、ハイドパークでバスを降り、そこの芝生で昼食ということに(
表題の写真はここでの撮影)。この時期のロンドンで陽光に恵まれるとは予想していなかったので、かなり驚きました。以前、花の満開の時期に滞在し、日本の薬では効かない花粉症を持ち帰ったのを思い出します。 
 こんな風にあちこち回りました。下の写真は、Londonにしては珍しくいい天気だったと言いたい一枚。
 残る買い物は娘の鋏(彼女は左利き)ですが、guide bookで確認していた住所にはからっぽの建物しかありません。ホームズさんももう引退してしまっているし、誰に相談すればいいのだろうと、お上りさんは戸惑うばかりです。ここで同行者の疲れが目立って来たので、夜ふかし(オペラ)に備えてホテルに戻って休むことに。

 部屋で一息ついたところで急にひらめき、電話帳を引っぱり出して調べたら、電話番号は変更なくリストされています。元の住所から少し離れた通りに移転しただけらしいことが判明(57 Brewer St.)。今から行ったのでは閉店時刻にかかってしまうからと、翌日回しにして、さらに休息。夕方おもむろにオペラに向かいます(この日のために古い革靴を持ち歩いていて、これが終わったら捨ててしまう予定。荷物の削減が何よりの喜びです。この靴は予定外だったウィーンのコンサートでも役立ったので、持ってきた甲斐がありました)。

 オペラは、今回の"Mozartにこだわる旅"の最後を飾るにふさわしく「フィガロの結婚」(日本からInternetで調べ、予約を入れていたもの。あいにくコヴェントガーデンの方には魅力的な出し物がなく、ENOに切換えました)。幕間の休憩を挟んで3時間半ほどの長丁場ですが、昼間の休息が奏功してか眠くなることもなく、アレンジも多少くだけたものでもあったので、大いに笑えました。ここでのオペラは作品によらず英語で上演されていますが、かえって台詞がわかりやすくて助かりました。歌になってしまうと何語であってもほとんど聞き取れませんから、今度はメロディに頭が切換り、これまた問題になりませんでした。それでも"You are my father."くらいは聴き取れて、少々違和感がありましたが。
 かなりラフな服装の観客もいましたが、ここはやはりそれなりの格好で出かける方が気分も違うと思います。
閉口したのは幕間の飲み物の調達で、人の群れをかいくぐっての難行になります。この辺りがやはり超一流の場所とは違うのかも知れません。サントリーホールと同程度の混雑と表現したらわかりますか?

 キャスト:
Figaro: Peter Snipp, Susanna: Rebecca Caine, Bartolo: John Connell,
Marcellina: Anne Mason, Cherubino: Nerys Jones,
Count Almaviva: Christopher Booth-Jones, Basilio: John Graham-Hall,
Countess Almaviva: Janice Watson, Antonio: Richard Van Allan,
Don Curzio: Mark Le Brocq, Barbarina: Thora Einarsdottir 以下略
指揮:Alex Ingram, English National Opera Orchestra and chorus.
(13)最後の買い物
 翌朝、
同行者をホテルに残して左利きの店の探索に向かいます。昨日の事前調査通りの場所に店を発見し、店番の女性としばしお話をして(「左利きの人は脳の両方を使うから、並外れて賢かったり、芸術の才能があったりするんですよ」と言っていましたが、何のことはない、彼女も左利きだったのが後で判明)、鋏を無事に調達。これはスーツケースに入れて預けないと、とうてい飛行機に乗せてもらえない大きさだなと思いつつ、他の陳列品を見ていると、"I love my lefty."などというスローガン(?)を書いたバッジなどが目につきます(「左利き万歳」とでもいうところでしょうか)。左利き用の鉛筆というのがどうにも理解できませんでしたが、軸に「左利き専用」と刻印があるのだそうです。さすが、イギリスであるなあと深く納得しましたが買いませんでした。

 画面中央の白い正方形の看板が問題の店です。

 その足でApple buildingを探したのですが、該当するはずの通りは工事中の建物ばかりで、肝心のビルは見つけられませんでした(予習不足で建物が現存しているかどうかも怪しいのですが)。ここは"Let it be"の映画で、私の英語の先生たちが屋上での演奏を披露したところです。

 
やみくもにこの辺ではないかと撮影してきたのが、下の二枚。ちょっとずれていたようで、2000年に事前調査を十分にしてから再訪し、無事に建物を見つけることができました
(14)空港へ
 結局、空港への足はホテルに迎えに来てくれるリムジンを頼んでしまったので、荷物運びの心配もなく、残る仕事は昼食のみです。チェックアウト後荷物をカウンタに預け、ここでpubに行っておかないと一生後悔する(?)ということで、
同行者を説得。伝統的イギリス風昼食を取ることにします。もちろん、室温のビールは欠かせません。場所のせいかも知れませんが、女性客も多く、pubでワイングラスを傾ける光景を見ていると、どこの国にいるのかわからなくなりそうです。それでも料理の皿を見たとたん、まごうかたなきイギリスであると認識できました。メインの料理を覆いつくさんばかりのつけ合わせ(これがまた、全く味つけがされた形跡もないところが、いかにもイギリス)、フニュフニュに煮崩れた野菜とチップスと来れば、過去の出張で、こんな昼食ばかりで一週間過ごしたことがあるのが信じられなくなくなったり、一方ではしみじみなつかしくなったりして、きわめて複雑な心境になります。「ロンドンに飽きたと言うのは、人生に飽きたのと同じ」という名文句がありますが(“When a man is tired of London, he is tired of life; for there is in London all that life can afford.” Samuel Johnson)、それを唐突に思い出してしまったりもして、ますます帰りたくなくなるのは不思議なものです。

 それでも時間は非情に過ぎ、リムジンの時間が迫りました。ホテルに戻って一息ついていると、猛烈に訛った発音で名前を呼ばれて飛び上がります。予定より早めに迎えが来たよということですが、この運転手が生粋の(?)ロンドン訛で喋る人で、じっくりお話ししてみたくなったりして困りました。いくつかのホテルを巡って順次お客を拾い、最後に女性の二人連れ(たぶん母娘)を乗せたとたん、これまで乗客に"Folks!"と呼びかけていたくだんの運転手が、"Ladies and gentlemen"に変えました。これは大いに笑えたのですが、最初から乗っている
同行者は認識されていなかったのかも知れず、ここは余計な解説をしてしまったので、しばし険悪な雰囲気に。
 町中を抜けるまでは結構時間が掛かりましたが、予定時刻には余裕を持って到着。この交通手段も初めての経験でしたが、前日に予約が必要ではあるものの悪くはない選択肢だったかなと思っています。

 帰りはANAの直行便です。ジャンボなので中央の4人並びの席を狙って交渉したところ、スクリーン直下の席をもらうことができました。ここも足を伸ばすには楽なところですし、空間の半分が遮られているので、比較的静かです(どうせ映画も見ないで寝ることにしていますから、スクリーンとの距離は関係ありません)。

 かくして、「日常」が待ちかまえている日本に向けて飛び発ったのですが、いつもこの辺りから猛烈に不機嫌になってしまいます。
 
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