「パパ、ママ!」

少女は両親の無事な姿を見つけるや否や、父親の胸へ飛び込んだ。
親子の再会を見届けてブレイズ・ザ・キャットはそのきつく釣り上がった目の端を緩め、安堵した表情を浮かべていた。


フローライトタウンに降りかかった災害、機械兵団の襲来。
それに居合わせ救助活動を行っていた折に、ソニックが現れた。
助けとなるべく彼は乗ってきた戦艦を避難場所として提供してくれた。

しかし駆けつけてみれば、その船には大々的にヒゲと丸いサングラスの顔がペイントされていた。
避難民を連れ入れるのに躊躇したが、疑念を払ってくれたのは出迎えてくれた白狼の女性の一言。

「エッグマンマークに戸惑っているな?だがこの船は既に私の所有物となっている」

ヤツは今やただの乗組員。それを聞き、あのヒゲオヤジの悪事が及ぶ所ではないと判断できた。
ハッチが開いた時はあの高笑いが響くのかと警戒したが、取り越し苦労であった。
皆ソニックから案内されて来たのだろう、早く入るといい。狼が言った。
ソニックという単語で、避難民も幾許か緊張した面持ちが緩んだ。彼の名はこの世界中に轟き渡り、信用を得ている。
避難民を先導し、全員ゆっくりと収容されていく。

少々気になったのは、彼女の左手が淡い光を放っていた事。それは日の光の下では目立たないほど儚い程度であったが。
避難民には流石にそこまで観察する余裕はなさそうだ。きっと気付いたのは自分だけだろう。
彼女は中へ入るよう促すと、ヒトの流れに紛れ姿を消した。

避難誘導はまだ続く。何往復かして次々来る避難民を案内する。シルバーからは直接、猫の夫婦を託された。
この二人から依頼されたヒトを探す、それだけ言うとまたアルマジロがはびこる町へ駆けて行った。
正義の情熱に燃える彼なら、シンプルだが芯の強い意志を持つ彼なら心配に及ばない。
妊娠している夫人を気遣いながら道中の安全に気を使い、戦艦へ無事帰還した。

ほどなくしてシルバーが、ソニックの友人というスフィアが、それぞれセラフィムの親子の救出に成功しここへ戻ってきた。
互いの無事を確かめ合い、父は娘をもう離さないとばかりに固く抱きしめ、母はそれに寄り添った。

「お二方、本当にありがとうございました……!」
「いやいや。でも互いを想って助けを依頼しあうなんてな。」
「良い親子愛の形、見せてもらったぜ。」

良き家族の姿。アルマジロは町並みを壊しはしたが、人々の絆まで壊すことは出来なかった。
続々と住民がここへ逃げ込んで来て、人数は増す一方。
しかしおぞましいほど巨大なこの戦艦は、まだまだ人々を収容する能力を備えている。

結局町全体から見て半分、破壊された範囲程度の人が、ここまで避難して来ただろう。
無事を確かめ合う人々、家族、親族、友人に知人。大事に思い合う人がまた顔を合わせる事が出来た。
次第に逃げ遂せ落ち着きを見せた集団が、しかし段々ざわつきつつあった。
互いの無事を確かめた者たちが次に心配し始めたのは、今後のことだ。
それはセラフィムの子も同様で、物をはっきり口にする彼女は不安を父に伝えていた。

「ねぇパパ、私たちの町、これからどうなっちゃうの……?」

場にいた全員が、セラフィム氏の言葉に耳を欹て始めた。一斉に鎮まったのだ。
聞けばセラフィム氏は町の長を差し置いての権力者。彼から発せられる言葉は、住民への影響が強く、重い。
下手な発言は出来ない。ネガティヴな影響は与えてはならない、それは私も日々気を付けている事柄だ。
セラフィム氏も理解していて、今言葉を探している所だ。娘を抱きながらも眼光は鋭い。

その間に縫って入った声は注目とはまた別の者から聞こえてきた。

「大丈夫だ。俺が居た未来世界ではこの町『フローライトタウン』の名は知れ渡っていた。それはつまりこの大災害を乗り越え復興したという証。」

希望を捨てちゃいけない。シルバーの明朗な声が鉄鋼の戦艦内に響いた。
場内は暫し唖然としていた。期待したものとは別の声が上がったからだ。

緊張を強いられる場面でこうも堂々と発言するとは、ある意味シルバーには感心した。
彼は確かに自らが住んでいた時代にてこの地名を耳にしていた。だからそれを頼りにここへやってきたのだ。
存続している確信もあり、突如として住む家を失った人々を元気付ける好材料ではある。
しかし一点だけ問題がある。

「シルバー、お前が未来から来た事をどう証明するのだ?」
「え、えぇ!?」

私たちは未来からも異世界からも来た証拠を持ち合わせていない。未来なら予知、予言を、と考えられるが生憎そんな近未来ではないしな。
青い反応を見せるシルバーは動揺し、先程の威勢は何処吹く風。
好意で発言したのは良いものの、大事な部分が欠けていて役に立っていない。
シルバー、ESP能力は未来人の証明にはならないぞ。
場は騒然とした。シリアスな状況で下らない喜劇は失笑も買えなかった。

「く、ははは!面白いな!」

しかしセラフィム氏はシルバーの間抜けな発言を笑ってくれた。よもや虚言と捉えかねない言動を冗談としてくれた。
周囲も、決して悪気がない事をわかってくれた。笑い声が漏れ聞こえ、場が和んだ。

「町は大丈夫だ。私の命の恩人シルバーさんが仰るのだから、当然元のように、いやそれ以上に良い町になる!」

私は信じているよ。セラフィム氏の目は細くだが、強い光を宿した瞳をシルバーに向けていた。
呼応して住民達が町の復興への意気を高める。
期待とは違う反応を受けて発言した張本人は顔を赤くしていた。

「その間住む場所を追われた者たちは、ここ『クァイ・ア・クィスト』のクルーになる事を条件に住まう事を許可しよう」

さっきの白狼が現れた。腕の淡い光は消え失せ、難民を船員に取り入れようと呼び掛けを始めた。
確かにこの戦艦は町一つ規模で人を収容できるが、逆に少数では手に余る代物だ。
狡猾。彼女が提唱する内容に感じたのは狡さ。人の窮地を救うように見せ自分の利とする意図が見え透く。
彼女は信用できるのか。この船に居ると言う事はソニックの仲間に違いない、彼から直接ここを案内されたのだから確かだ。
仲間の仲間は、また仲間。私の小さい友人の理屈に添えばそうなる。しかし本当に信頼して良いものか。
銀色の髪は照明を淡く反射し、掛かる前髪が瞳の奥に覗く光を覆い隠している。

「おぉ、ありがたい……!」

彼女を頼りにしようとするセラフィム氏。
あの眼光を無視しているかと思ったが、彼の目には単なる復興を目指したものではない意図が隠れていた。
彼も彼女から純粋な援助とは違う思惑を察知していた。しかし承知の上で言葉通りの提案を受けようとしている。

「私はこちらに留まる者と共に居ようと思う。町に残り復興を目指す者たちとは、町長を中心とし私も連絡が取れる状態にしておく。」

そうすれば分断された町をまとめる事ができる。
セラフィム氏の発言とあって避難民からは特に反対の声が上がらない。住民は、二人の思惑通りに制御されている。
彼は彼で一筋縄ではいかないな。何を目指しているのか全く見当がつかないが、裏があると心に留めておいた方が良さそうだ。

「ただし危険も多く伴う。途中下船は構わないが相応リスクがあることを了承してもらおう」

何せ家無しだからな、復興がままならない内には降りられない。しかしセラフィム氏は復興とまた別の狙いがあるように見えてならない。
本当に町の復興を考えているなら、彼がこんな船に留まる理屈は通じない。
このままではダメだ。民を思うなら彼らを指導者として置いておくには耐えられない。

「その前に一つだけ問う、これをソニックは承知なのか?」

これで良いのか。窮地に追い込まれ利用される弱者達。見ていられず発言した。
ここに来たばかりで今の私には何も出来ない。だがせめて疑念を払いたい。
仮にもソニックの仲間ならば、彼が信用したのならば、私だって信用したい。
だが私の目には誰も彼も正直者には到底映らない。最悪ソニックが騙されているケースも有り得る。
シルバーは目を点にして私と彼女とを交互に見ていた。まだまだ考えが浅い証拠だ。

「……彼は私にとても協力的だ」

そして彼女から得た答えは、彼も利用しているということだった。
信頼関係で成り立った者からはとても聞かれない言葉だ。だからそう判断した。
私に、ならばあなたは彼にも協力的なのか。きっと答えはノーだ。

「話はここまで。私はこれで失礼する」
「まて!まだ終わってなどいない……!」

勝手に話を切り上げ背を向けたが、帰さない。許されざる行為だ。
少々荒っぽくて良い、ここで食い止める。去ろうとする彼女の肩を半ば強引に掴み引き戻す。
無理矢理に振り向かせこちらへ立ち直らせた。その瞬間、打撃の一つも繰り出してくるものと覚悟していた。
しかし予想に反し、彼女はそのまま崩れ落ちた。

「な……お、おい!?」

引いた勢いそのまま体重が圧し掛かる。人形が倒れるように彼女は頭からこちらの胸元に倒れ込んで来た。
完全に脱力したヒトの重さは、実は支えるのは困難だ。力ない四肢は掴み切れず、ついに共に倒れてしまった。

今の一瞬で気を失った。状況が理解できないが、彼女は尻もちをついた私に寄り掛っている。
糸が切れたようにぷっつり、意識を喪失した。私が掴みかかった事は、切っ掛けであっても直接の原因になり得るか。
急な出来事に対し出来た行動は、おい、と意識が戻るように呼び掛ける事だけだった。
退いてもらわなくては立ち上がれない、しかし頬を叩こうとも彼女は目を覚まさない。

そうこうしている内にまたハッチが開く。ソニックが現れた。ソニックが帰還したのだ。

「ヴィクトリア!」

彼女の姿を見るとすぐさま駆け寄ってきた。ブレイズ、大丈夫か、私の方は問題ない。
何があったんだ、しかし私にもわからないのだ。彼と簡単に言葉を交わす。
それを終えると彼は狼、ヴィクトリアの腕を自分の肩に回させ立ち上がり、部屋で休ませようと連れて行ってしまった。
あっという間のことで、茫然と見送った。彼は、彼女に協力的だった。
この船が彼女の所有物であることをまざまざと見せつけられた。ここに乗るものは全て彼女の支配下にあるのだ。
結局腰を抜かし立ちあがる事が出来ず、シルバーが手を貸してくれるまでそのままでいた。












































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失神。何が為何を消耗したか。
ブレイズとは同族嫌悪だと思うんだ。