フローライトタウンは花の都。それは未来世界でも同じ通り名を持っていた。
シルバー・ザ・ヘッジホッグは話に聞く程度でしか知らなかったが、時を越えこの時代でも同じく存在していた事に、感嘆した。
名前だけでも知っている土地。右も左もわからない世界へ来て、たったそれだけでも安堵感が得られた。今はこの町に滞在している。

整然と敷き詰められたライトグレーの石畳の大通り。道端に花壇が備えられ色取り取りの花が色彩鮮やかに植わっている。
手が行き届いているのがわかる、一輪たりとも弱気な花はいない。また間隔は自由そうにまばらだが整然と三行の列を成している。
建物は白やベージュ、乳白色を基準とした柔らかな白の壁に橙の屋根ばかり。
石造りを表に出したり塗り固める等の変化を持ちつつ統一感のある景観。
4、5階建てのそれは等間隔に両開きの窓を備え、枠の色は緑が主流だ。
そこから鉢を釣り花を咲かせていて町並みは彩り豊かだ。
赤を多く取り入れたり青や黄色を織り交ぜるなど、家々がそれぞれ自分の色の花を着飾っているよう だった。

光溢れる町、太陽光を受けて燦々と輝く花々が人々にそう名付けさせたのだろう。
この輝きが自分の時代でも受け継がれているのだろうか、戻ったのならこちらと比較してみようかとシルバーは思っていた。

それが今、アルマジロのようなロボット集団の襲撃を受け、破壊されている。

「ブレイズ、そっちだ!」

パートナーのブレイズ・ザ・キャットと力を合わせ食い止めているが、多勢に無勢。
道々の花壇に植わっている花々は踏み荒らされ、家々は破壊され橙の濁った瓦礫と化している。
場所によっては火の手が上がり、黒煙が立ち込めていた。

平穏を乱す行為にシルバーは怒り心頭。得意のサイコキネシスで、瓦礫片を飛ばし応戦する。
ブレイズが囮となりスキを誘い、装甲の及ばない腹部に狙いを定め、ショット。
この連携で確実に倒して行く。しかし数では圧倒的に不利、倒しても次々湧いてくる。

「ちっ、キリがないぜ!」
「一体倒すだけで手間だ、せめて住民が避難する時間を稼がなければ……」

二人だけでは街全体まで到底手が回らず、破壊は進む一方。
大挙して押し寄せた軍団は草花に見向きなどしない。踏み荒らし、振り払い、吹き飛ばしていく。揃っていた三列の花々は乱され見る影もない。
心ない行為を目にし胸から、身体の奥から強い感情で熱くなるのがわかる。機械だから存在しないなどと言う理屈は通用しない。

許さない!

これをけしかけた人間は必ずいる、この機械どもを、その張本人を絶対に許さない。
目の前に迫るアルマジロを、ブレイズと共に連携を決めまた倒した。だがまだまだ気持ちは鎮まらない。
興奮冷めやらぬシルバーだったが、そこへ一陣の風を連れて見知った青が現れた。

「ソニック!」
「ようシルバー、久しぶりだな。ブレイズも一緒じゃないか。」

彼は口ぶりは軽いものの目に鋭い光を宿していた。オレンジルーフの上から惨状を見つめ、そして光を失った花に心を痛めている様子だ。
この世界には彼が存在する。憂いを全て吹き飛ばしてくれる風が居るからここはもっと平穏と思っていた。
だがこの有様はどうしたのだ。疑問と奮起する心が彼への問いとして飛んで行く。

「どうなっているんだ、この時代は平和じゃなかったのか!?」
「諍いってのは、何時でも大なり小なり起きるようでね。」

少し遅かったか。小さなつぶやきと同時に眼光が鋭さを増した。
彼も苦慮しているのだ。平和を乱す存在が必ずいる。それを楽しんでいる輩がいる。
だから止めなくちゃ。勝手を許してはならない、その為に自分たちが戦うのだ。

「町の裏手に戦艦が止めてある。住民をそこへ避難させるんだ。」
「なるほど、皆をそちらへ誘導すればいいのだな!?」

ブレイズが素早く返答する。民衆を案じる心は皇女の責を全うする彼女の方が数段強く抱いている。
ここは彼女の領分であろう。そう判断して、住民の避難誘導を任せることにした。
そして自分はロボのせん滅に専念する。今抱いている熱い心を奴らにぶつけるのだ。

他にも仲間がアルマジロ襲撃阻止に協力してくれている。あのエッグマンでさえ助力しているのだ。
どう言う風の吹きまわしか、しかし少しでも早く事態を沈着できるのなら誰からの支援でもありがたいものだ。

「さ、話はここまでだ。」

ソニックが睨んだ先にはアルマジロが三体。路地裏からこの大通りへそぞろ出てきた様子。
彼は建物の上からひょいっと飛び降りるとアルマジロの前に立ちはだかった。
敵と認識したのか、機械たちは三者ともソニックの「破壊」に掛かる。彼らの重い歩みに耐えきれず、石畳たちは成す術なく砕け散る。

「手を貸すか?」
「Just wait」

まぁ見てな、と言う彼はいつものように余裕のある不敵な笑みを浮かべていた。
自信に満ちているのはわかるが、敵をあなどってはならない。自分たちは二人掛かりで対応していた位、機械は強いのだ。
戦ってみた印象から力量は推し量れる。そして喩え彼と言えども同時に三体となると難しい。
そう感じて進言したのだが、断られた。一応言われた通り待機するが、ヤバくなったら行くぞ、とブレイズと目配せで打ち合わせる。

機械から腕を振り下ろす、叩きつけるような初撃。簡単に避けて彼もスピンアタックを返す。
軽く腕の装甲で弾かれて、別の機体からの振り払う腕をかわし、着地と同時に突き出される拳も瞬時に避けて見せた。
彼がいた石畳にはパンチ痕だけ残され、拳を押しつけたアルマジロは彼を視認する前に顔面へ強い衝撃を受けていた。

「危ない!」

頭部へキックをお見舞いしていたソニックだったが、その瞬間を捉え別のアルマジロが彼を叩き落とそうとしていた。
中空で回避も防御も、手助けも出来ない状況。二人あわてて駆け込むが、先に振り落とされた腕が彼を捉えた。

ガァン、と鉄が堅固な物体と衝突する音が鳴り響いた。耳を劈(つんざ)く嫌な音だ。それが攻撃の威力を示していた。
しかし不思議なことに、アルマジロの手は彼を叩いた高さで完全に停止していた。腕を振り切る事が出来ずに固まっていたのだ。
その間機械の動きが静止した。一方攻撃を受けたはずのソニックは無事で、それを見た瞬時にスピン状態に入った。
空中を蹴りだしたような急角度の方向転換を見せ、アルマジロのがら空きとなった胴体へアタック。
胴体へ激しく食い込み、数秒留まった後、突き抜けた。

彼はスピン状態で勢いそのままに二体目、三体目の胸元に風穴を開けて見せた。
瞬時の事、それこそ音速での出来事に対応できない機械はあっけなく倒れた。

「言っただろ、仲間が協力してくれているって。」

これが今回の俺の仲間の「力」。自由落下で着地した彼は纏うバリアを指さして言う。
仲間が護ってくれるから安心して戦える。まるで自分の事のように能力を誇る彼。

あっさりと簡単に倒したように見えるが、アタックのパワーが以前見知ったものより格段に上がっている。
鋼の鎧を纏う機械を、意図も簡単に貫いたのだ。強固な装甲を裏からでも突き破る威力を誇るからこその結果だ。
心強い味方を得た彼は伸び伸びと戦っていた。バリアによって攻撃に専念できたから、普段以上に力を出せたのかもしれない。
しかし。

「俺はこの後もまだまだアルマジロ退治を続ける。二人には避難誘導や逃げ遅れについて、頼めるか?」

この力添えがあれば怖い物などない。彼は口にしなかったが身体の端々から溢れ出るエネルギーが、感情を介し表へ現しているようだった。
彼は自覚していない。今の状態は心身共に活性化している。本人はわからずとも傍目から見れば明らかだ。

さっきのアタックの威力、普通じゃない。

シルバーは先程の考え通り避難誘導をブレイズに頼むことにした。
逃げ遅れ捜索を引き受けたのには、同時にまだアルマジロと対峙する可能性があるからだ。
まだ気持ちは鎮まってなどいないのだ。

返答を受け納得したソニックはまた別の場所へ向かった。
ブレイズは少し中心から外れた場所に行き、逃げ場に惑っている人の誘導に掛った。

さぁ自分もアルマジロ退治に行くとしよう。
逃げ遅れがいないか、そして危険な目に会っていないかと、機械勢が押し寄せる中心の広場へと向かった。


四角形で路地が広く膨らんだ、そんな印象を受けるような広場を囲う建物の一階はカフェだ。
今はオープンテラスの椅子とテーブルが散在している。ここまでも侵入されていた。

ヒトがいる。中年の、猫と思しき夫婦が一体のロボの襲撃に会っている。隅へ追いやられ逃げ場を失っていた。
男性は妻を庇いアルマジロと睨みあっている。しかし一回りも二回りも大きい相手に、見上げながら気圧された面持ち。
女性は若干お腹が膨らんでいて、追い詰められた状況に恐怖心で顔が引きつっていた。

二人が危ない。
見つけるや否や、すぐさま足元の瓦礫に触れる。三つの橙レンガ片がシルバーの周囲を浮遊する。
そして一つずつ射出する。
一つ目、振り落とそうとした腕に命中、攻撃を食い止めた。
二つ目、顔面に当てバランスを奪う。
三つ目、特大の一発をガラ空きになった胴体へお見舞いした。
強力な一撃にロボは横方向へ吹き飛び、仰向けに倒れ動かなくなった。

「おっさん、大丈夫か?」

腹部への攻撃を受けた後、ロボは四肢を完全に脱力させていた。
それを確認しつつシルバーは猫の夫婦へ駆け寄った。

「ああ、ありがとう。私らは大丈夫だ、それよりも娘と逸れてしまった、嗚呼……!」

二人の目は焦燥と困惑に揺れていた。
まだ子供なのに。二人は別のロボが暴れているのにも関わらず、今にも町の中へ探索へ飛び出しそうだった。
彼らだけでは危険なのは目に見えている。駆け出そうとする夫婦の肩を掴み留めた。
ここは一つ、自分が引き受けるべきだろう。

「わかった、娘さんは俺が探す。だからまずあんた達は安全な所へ避難するんだ。そこで待っていてくれ。」

力強い言葉と今の救出劇を省みて、夫婦はシルバーを信じる事に決めてくれた。それに応えるよう町の外まで二人を安全にガイドする。
女性の方は早く動けないから気を遣いながら。きっとこれが為に逃げ遅れてしまったのだろう。

建物の隙間から見た遠景に船の形を捉え、それがソニックの言っていた避難先と見当を付ける。
ルートは進攻とは反対側とあってアルマジロと遭遇することはなかった。町外れに出、ブレイズの姿を見つける。
この二人も避難民だ、彼女へ夫婦を預けるとすぐさま踵を返し駆け出す。
御頼みします、夫婦の言葉がシルバーを後押しする。

シルバーは今一度、まだ炎の勢い止まない町の中心へ向かう。








































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クライシス・タウン。
現実の花の都というのはまた由来が違うのね。