犬狼族には不老不死の秘宝が存在すると言う噂がある。
既にそれを耳にしていたバビロン盗賊団の長、ジェット・ザ・ホークは部下のウェーブ・ザ・スワローとストーム・ザ・アルバトロスを従えて飛行艇を進めてい た。

犬狼族は森林の奥深くで外界との交流も持たずに暮らしていた種族。
外への情報の流出が少なくそれ故、業界では生ける伝説の秘境と位置付けられていた。
それがほんの十年ばかりで秘境が廃墟と化した。どうやら外部からの侵入に抗い切ることができなかったらしい。
伝説は生命を失うもしかし地位は揺るがなかった。誰も不老不死の秘宝にありつく事が出来なかったのだ。

今になってそれを追い始めたのは、その犬狼族の生き残りがいるという情報を耳にしたからである。
生き残りが秘宝を持ちだしたと仮定すれば、誰も手にすることができなかったのも頷ける。
そして足跡を辿れば秘宝にもありつけるだろう。

そう考えて一路、エッグディスペアを追う航路に乗っている。

「犬狼族の秘宝は俺たちバビロンがいただきだぜ!」

勇躍として声を張るジェット。エッグマンの最新戦艦の中に目的の生き残りが乗っている。
行いが一つ一つ目立つ彼の性質柄、目撃情報も多く確かだ。


今は雲にまぎれながら航行している。計測機が指し示す機影とはほとんど距離が無い、もう間近にその戦艦が迫っているはずだ。
やがて雲の切れ間に差し掛かり、悠然としたその巨体が姿を現した。

「おぉ、コイツがエッグマンの新戦艦か……!」

戦艦とだけあってその装備、副砲でさえ迫力のある大きさ、この飛行船を沈める程度なら造作もないだろう。
ジェットは巨大さに感嘆するも、怯まず潜入を試みる。
船を横付けし、「碇」を戦艦へ括り付け空中に固定する。自動航行に切り替えてあるものの船が振り切られないようにするためである。

エクルトリームギアを用い飛び乗る。捻り、体を翻し、風を掴む淀みない動きを見せ、着地した。残りの二人も続き、潜入に成功だ。
秘宝とは何か、そして秘宝の在り処がどこなのか探りに入る。やはり犬狼の生き残りとの接触は欠かせないだろう。

そう思っていた矢先、向こうから姿を現した。降り立った場所のすぐ近く、ブリッジ下の甲板との出入り口からお出ましだ。


「ようこそバビロンの者たち。私の船へ何用だ」


情報通りの白狼。長い髪が強風で大きく揺れている。
迎え入れる言葉が出た辺り、レーダーで既に存在は捉えられていた様子だ。
だが話が早くて済む。盗賊団の所用など簡単に推察できることだろう。

「お前の持つ犬狼族の秘宝を頂きに来た。俺達の事を知っているなら、さっさと差し出すのが身の為だぜ?」

フン、なるほど。風に揺れるデッキにありながらも聞こえるつぶやき。嘲笑と「渡す気の無い」意思がこもっているからだ。

「そんなものは存在しない。残念だが御帰り願おう」
「ハン、隠しても無駄さぁ!バビロン盗賊団をナメて貰っちゃ困るぜ!」

あくまでシラを切るか。だが隠しているものに敏感なのは生まれ持った性分、絶対に秘宝に関わるモノは所持している。
そして目の前にして引き下がれないのも同じく生粋の盗賊故。
どうしてくれようか、少し思案している所にまたデッキへとやって来た人物がいた。

「いきなり乗り込んできて秘宝をよこせか、穏やかでないねぇ。」
「ソニック、てめぇもここに居やがったか!」

これまでも幾度となく対戦し、苦汁をなめさせられて来た相手だ。ライバル意識から熱り立った声をあげていた。
『伝説の風使い』としての誇りを取り戻す、その為に決着を付けたい。
だが本来の目的『犬狼族の秘宝』の件がある。今回は盗賊団団長として、私的感情は押し留めることにした。

「決着はいつか必ず付けさせてもらう!だがな、今回はこの犬狼族が先だ。」
「ならば両方一遍に片付く方法があるぞい?」

突如頭上から響いてきたのは、戦艦内の放送を通したエッグマンの声。

「貴様ら全員でレースをしたらいい。そして敗者は勝者の要求を飲む、さすれば無駄な言い合いすることもないじゃろう。」

悪い話ではなかろう、特に一流のギア使いにとっては。後ろに付け足した言葉が効果的にジェットの決心を促した。

「いいだろう。俺達が勝ったら大人しく秘宝を差し出すんだな!」
「私が勝ったなら言う事に従ってもらう」

今度こそ俺様がNo.1と証明してやる。ソニックを睨み言い放ち、応じて鋭い視線を受けた。

ところでソニックたちのエクストリームギアの準備はどうするのか。
大会が予定されていたわけではなく、また彼らは自分達のように持ち歩いているわけでもない。
指摘し、ギアが無ければ話にならない、と嘲笑ってやろうとした瞬間だった。

「ギアならココにあるぜぇ。」

ブリッジの影から突如現れた緑のハリネズミが、不敵な笑みと共に言葉を発した。
彼特製のギアが幾つも用意されているらしい。既に船橋に立てかけて置かれていた。
雑多な趣味を持つこのハリネズミ、スフィアはギア制作にも手を出し、今回の事をお披露目に良い機会と捉えていた。

これでレースが可能。三人は各々好みのギアを選ぶ。

「そんなシロウトが作ったギアで大丈夫かしら?」
「負けた言い訳に使われたら、たまったもんじゃないワイナ!」

ジェットは口にしなかったが目だけで同じ問いかけをソニックに送っていた。
皮肉ではなく純粋に、全力を出し切れる代物であるかどうかを確認したかったのだ。

「安心しな。コイツは生半可なことはしない。」

親指を立てた手を傾け、それでスフィアの事を指す。
不安のカケラも見せない姿勢は大したものだ。それほど信用出来る腕ということ。
これで同じくこちらの懸案も消え去った。向こうでは犬狼・ヴィクトリアとスフィアがギア選びをしていた。

「一番軽いギアを頼む」
「一番良いのを、だな。」
「軽いのと言っている」
「大丈夫だ、問題ない。」

どこかズレたやり取りに呆れ顔のヴィクトリア。彼女の顔を見て、こちらも一抹の不安を覚えた。



「よいか、コースは戦艦の第一居住区と甲板の出入り口からスタートじゃ。
 そのまま船首へストレートに走り出す。主砲の上を180度旋回し戻ってきたら甲板から途中第三副砲機械室へ降り戦艦内部へ入る。
 中は機械が複雑に絡んでいてギア操作の技術が問われるからな、まぁ砲台など外部もルートとして選択できるじゃろう。
 船尾まで到達したならばターンし、艦橋を登り詰めた所がゴール、最初に到着した者が勝者じゃ。
 周回制ではないから気を付けるんじゃぞ!」

エッグマンによるコース説明に、続き「Get Ready」の合図。
3からのカウントダウンに合わせ一人ずつライバルを睨み、0で前方を見据え

「Go!」

一斉に飛び出した。長年培った鋭敏なスタート感覚を持つジェットが頭一つ先に出た。しかし早くもダッシュを仕掛けたソニックが前へ出る。
単純なストレートスピードならソニックが誰よりも勝る。
グングン先へ行くソニックだが、ギアの勝負ではトップが生み出すエクストリームが単調な独走を阻止 する。
後続は空気の流れに乗り高速度を維持し追随する。

船首に到達しターン。ソニック、ジェット、ストーム、スフィア、ヴィクトリア、ウェーブの順で機関室へ降りる。と思いきや

「船尾にさえ着けばどこを通っても構わない、そうよね?」

ウェーブのみ外部を行くことを選択した。飛行を続ける戦艦は船首から船尾への風が強い。
空を駆ける事の出来る彼女には文字通り追い風、好条件だった。


中は狭く機械が入り組んでいてスピードが出せない。前を行く二人は衝突を避け速度を落とさざるを得なかった。
後ろから衝撃音が近付いてくる。
徐々に音量を増すそれは、ストームが機械を次々吹き飛ばしている音だった。
力任せに全てなぎ倒しひたすらに真っ直ぐ、だが 速度を緩めることなく二人へと迫ってくる。

「お頭ぁ、加勢しますぜぃ!」
「させるかよっ!」

ストームの作った道を利用し追いついたスフィアが攻撃を仕掛ける。
取っ組み合いとなり力比べの体勢に入った二人は一気にスピードが落ちた。
そして後続者は二人の間をわざと割り入る。弾かれた二人は崩された体勢を整えると同時に前を睨んだ。

「にゃろう、ヴィクトリア!」
「この、ムカつくんだワイナ!」

すぐ速度を上げ追う。二人はがむしゃらに機械を吹き飛ばしながら進む。
しかし彼女は体勢を上手く翻し迫りくる障害物を尽く避ける。速度を落とすことなくそ れ以上に、ギアの軌道は真っ直ぐを保ったままだ。
甲板のストレートと同じ条件で駆ける彼女はこの場で最も早く、気付けば先を行く二人をも追い抜かしてい た。

「ヒュウ、やるねぇ!」

感心するソニックと対照的に、前を行かれジェットは苛立ち小さく歯ぎしりをしていた。
彼のギア操縦術は誰にも劣らない、それは確固たる事実。最短ルートで 障害物を避ける技術は他に真似など出来ないだろう。
事実ソニックとはここだけで距離を詰め横に並ぼうとしている所だった。
だが彼女の場合、操っているのは 自らの体であり、ギアはもはや彼女の移動式舞台となっていた。
そういう観点からも彼の悔しさは相当なものだ。ギアの技術を要せずに追い抜かれたことは彼のプライドを酷く傷つけた。

船尾甲板の上部へと出た。トップで抜けたヴィクトリアだったが、その先に既にウェーブの姿があった。

「はぁい、お先に失礼。」

外の風を使い、副砲を足場に据え飛翔した彼女の方が一足早かった。後ろからはジェット、ソニック、スフィア、ストームが続く。


船尾のコーナーに入る。尾ひれのような縦の翼を起点に急旋回するのだ。
先頭を行くウェーブがカーブへの体勢に入った瞬間、ヴィクトリアは手持ちのナイフを 投げつけた。

ナイフは翼に突き刺さった。しかし突如飛んできたそれに驚いたウェーブは曲がるタイミングを失い、大きく外へ逸れた。
ナイフを投げた本人は突き刺さったそ れを利用し、取っ掛かりとして掴み鋭いUターンを成功させた。
そして同時にナイフの回収をやって退けた。

トップに立ったヴィクトリアの前に、ジェットエンジンの噴気孔が迫る。
巨大なそれはブラインドのようなシャッターがあり、閉じられている今は傾斜を持ち格 好のジャンプ台の姿をしていた。
これを利用し船橋を駆け上がる。高く飛ぶほどより早く頂点へ達する事が出来るだろう。
速度を高め跳躍の体勢を整える。

「ジェット様!」

後れを取ったウェーブが、後方より追いついたジェットへ呼びかける。応じた彼が両手を差し出し二人、手を合わせた。ドッキング。
そして間髪入れずダブルでのキックダッシュ。二倍の推進力を得た二人はあっさりヴィクトリアを追い抜いた。
更に二人協力してのシンクロトリックなら単独よりも高いジャンプが可能だろう。

先を行かれた。そして更に二人が発生させたエクストリームに乗りソニックが駆け抜けた。ヴィクトリアはそこから弾かれ、遅れを取る。


彼単体ではあの二人のドッキングに追いつけない。しかし飛び去るように前へ行ってしまわれて、チャンスを逃してしまった。
それを後方から見ていたスフィアがヴィクトリアに声を掛ける。遅れているが二人でドッキングし少しでも追いつかなくては。

「これで対抗しなきゃ勝てないぜ!」

二人の距離が徐々に縮まる。やがてドッキングに十分なほど接近したのだが、彼女は一向に手を合わせようとしない。
焦らされ苛立ち口を歪ませるスフィア。空を掴む手はワナワナと動き彼女の手を待っている。
ヴィクトリアは前を行く三人を睨んでいた。そして不意にスフィアを向くと諦めにも似た一言を放つ。

「・・・やるしかないのか」

決まっているだろと顔だけで言う彼を睨みつけ、彼女は次の瞬間

彼を蹴りだした。
スフィアを足蹴にして彼女は推進力を得、前の三人に追従する。

「キックダッシュはそうじゃねええ!ぇぇぇぇ……」

踏み台にされた彼はバランスを失うも、ついでに後続のストームを巻き添えにし散ったのだった。


「Victoria,Come On!」

ソニックは既にドッキング体勢に入っており彼女へと手を伸ばしていた。必ず追いついてくれる、信頼してこそのスムーズな動きであった。
呼応し手を差し出す。始めあれほど関わり合うのを拒んでいた彼女から、自然と距離を詰め寄せて、ついにドッキング。
ジャンプ台はもう目の前に差し迫っていた。二人はすぐ前方を見据え

「行くぜ!せーのっ!!」

息を合わせてジャンプ。高く、そして軽く飛翔し最後の船橋登りに入る。
先を行くバビロンの二人を射程に捉えた。今のジャンプが大いに成功だった証。

「キック!」
「行かせるかよ!」

タッグを組む2対のギアが最終ストレートで競り合う。
どちらも必死にキックダッシュを繰り返す。
ソニック・ヴィクトリアはバビロンの背後に入ることにより空気抵抗を軽減させ速度を高め、差を縮め並ぶまで追いついた。
そこへレギュラースタンスで立つソニックへ、グーフィースタンスでドッキングするジェットが背中越しに口上を述べる。

「残念だったなソニック。水平な走りなら確かに翼無しで風になれても……」

体重を一層前のめりに置いた。

「飛翔には翼を持つ俺様の方が上だ!」

ジェットの方が一歩先に出た。このままでは負けてしまう、ソニックがそう思い、ジェットが勝ちを確信した時。

「ジェット、確かに今回ばかりは俺の負けだ。でも……」


ジェットの横を何かが飛翔していった。

「俺の相方はもっとスゴイぜ?」
「んな……!」

それは真っ白で風を全身で受け止め翻っていた。軽快に上昇を続けるそれを追う事が出来たのは、目のみ。
自身には翼がある。だから誰よりも高く早く飛ぶことができると自負していたが、前を行く彼女の姿はまさに


「白い翼……そのもの!」


上昇気流を掴んだそれは何者よりも早かった。
ブリッジを駆け跳び上がると彼女は二、三回転し軽妙にゴール、ブリッジの頂点に降り立った。

「これで私の勝ちだ」

ジェット、ソニック、ウェーブ、そしてスフィアにストームの順で次々とゴール。戦艦の一番高い所で一同が再度会する。
「ゴール!」一人盛り上がりを見せるエッグマンの声だけが戦艦中に響き渡った。

「畜生!まさか、風を掴む翼とは……!」

悔しさ余って足元へ拳を突き立てるジェット。これで秘宝は奪えなくなった、それよりもギアの勝負で敗れたことに熱り立っていた。
心境を察し傍に寄る団員の二人だが、更にそこへヴィクトリアが歩み寄って来る。

「始め約束した通り、今後は私の言う事に従って貰うぞ」

彼女の要求は、この船のクルーとして働いてもらう事。
ストームは間髪入れず団長を愚弄するなと怒りを露にしたのだが、ウェーブがそれを制した。

「待ちなさいストーム、決め事に従わないというのはギアに乗る者として恥ずべき事よ。それに……」

うな垂れるジェットへ密かに耳打ちをする、「近くに居られるなら秘宝を狙うチャンスは幾らでもある」と。
事をプラスに捉えた進言を受け入れ、乗組員としての乗船を甘んじて受け入れることを決め、ジェットは了承した。
ソニックとスフィアも同じことを感じていた。
同じ危険がまた及ぶのでは、ジェットの目に光を湛えた様子を見て一段と心配になった。

「ついでに教えおく」

受け入れる言葉を確認し終えてからまた、彼女は話し出す。

「私の一族にそんな秘宝などない。噂だけが独り歩きしたのだ」

大切にしてきたものはある。しかしそれが壮大な秘宝という事は決してない。
そういうカラクリ。本当に宝は無く、だから彼女の身に危険が及ぶことはない。
秘宝とは尾ひればかりのほぼ実態のないものだったのだ。

アテの外れた盗賊団三人は肩を落とした。
目当ての宝が無い事実、そして要求通りにここで働かなければならない事実に。
ジェットは一杯食わされた相手をもう一度睨んだ。彼女は紋様の描かれた自身の左腕に視線を落としていた。

「そう、こんなもの、宝と呼ぶに値しない」

彼女のつぶやきは風下にいたジェットの耳にだけ響いた。








































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オリキャラ・フリーダム・ライダーズ。
ちょうど「Free Riders」が発売された頃に作ったので、色々要素を取り入れてみた。